Crazy Prince ハーレムの王子は鉄槌を下す
(3)誰も見破れない魔女
「なんだ!?」「おい!!」「コイツ…!?」
男たちの持ってきた照明のおかげで、充分周囲は把握した。
後ろにいた男を滑りざま蹴りつきはなし、転がる回転で立ち上がる。
「ぎゃあっ!?」
一瞬遅れて、“彼女”に蹴り飛ばされた男が周囲の女性たちにぶつかる音がした。
「!?…ぐおふっ!?」
3人目を回し蹴り、4人目を上段後ろ回し蹴りと、回りながら立て続けに蹴り倒す。
体格に劣る者から確実に仕留める。
コンテナ内の女性たちは声も上げられないながら、それでも遠巻きに遠巻きにと動いているのがわかる。
「こ、いつ…」
さっき“彼女”に顔面に一撃をくらった主犯格らしき男が、うめきながら立ち上がろうとする。
体が大きい。
―――――真っ向勝負じゃ体格的に到底無理。
立たせる前に“彼女”は高く高く跳躍した。
「…ごおわっ…!?」
やや回転しながらも、それは後ろ回し蹴りではない。
体重と尻の筋肉、そして体のばねを柔らかくフルに使った直線の蹴りで。
まっっすぐ、男の顔を蹴り飛ばす。
顔を狙ったのは、テコの原理である。
ピンポイントでいい力点を突かれ、足場がしっかりしていなかった男の体は後ろにふっとんで、コンテナの壁に派手な音を立てて激突した。
………反撃開始からこの間、ジャスト10秒。
まるで時計の秒針がこちこちと2に合うのを待っていたかのように、コンテナのドアが破られた。
「………警察だ!」
「警視庁の者だ。
監禁の現行犯、ならびに連続誘拐事件の被疑者として身柄を拘束する!」
強力なライトとともに、防弾ベストにヘルメット、銃を構えた警官らが続々と入ってくる。
地面に転がって呆気にとられる男たちのもとに、続々と警官たちが確保に走り、元々決して広くはないコンテナの中は人でいっぱいになった。
「なんだ、お前ら…ぁ…?」
「警察だといっただろう。そとの連中や、輸送船でこの港まできた奴らもまとめて拘束した」
「……はぁぁ!?」
「ほら、来い!!」
警官たちは男たちを確保し、連行しようとする。
同時に女性たちに声をかけ、入口に近い衰弱している様子の者から優先して、外に連れていく。
「……牧ノ瀬 警視、ご苦労様です!」
駆け寄った制服の男性警官に声をかけられ、うなずく“彼女”。
「このコンテナって、蓋みたいにかぱって開いたりするの?」
「ええ、ドア側の壁が一面蓋になっているようです。いま、そこを開けようと」
警官の言葉が終わるか終わらないかというところで、ゆっくりとドア側の壁が倒れていき、外が見えてきた。
十数台のパトカーが待機し、何人も連行されていくのが見える。
協力した所轄の刑事たちも、外にいた人身売買業者たちと拉致の実行部隊を、確保できたようだ。
「……けい…し…?」
主犯格の男が、警官二人がかりで押さえ込まれながらうめく。
「…そうか、仲間内で聞いたことがあるぞ。
警視庁の準キャリ女刑事。
最近、すげぇ勢いで『仕入れ業者』仲間を捕まえて回ってるから気を付けろって…」
床に押さえつけられたまま手錠をかけられ、舌打ちしながら睨む男に対して、“彼女”は一瞥くれる。
「ぱっと見どう見ても20歳ぐらいにしか見えないから、みんな騙されるって……そう、確か、名前は……」
「アニキの組を潰したのはてめえか、牧ノ瀬、覇華ぁぁっっ」
誘拐犯仲間の他の男が警官の手を振りほどき、おおぶりのサバイバルナイフをかざして走ってきた。
…刃渡り20センチはあろうかという刃が“彼女”の体に到達し、そのまま体に沈みこむかに見えた一瞬、そのナイフの刃が、止まった。
「!?」
服は切り裂いたが、そのしたに着込んでいた黒い防刃ウェアに防がれたのだ。
“彼女”、牧ノ瀬覇華にとってはその一瞬があれば充分すぎた。
右足でナイフを人のいない方に蹴り飛ばし、その反動で左足を振り上げて、脳天からかかと落としを食らわせる。
……すとっ、と静かに覇華が着地すると同時に、声もなく、男は崩れ落ちた。
演武のようにあまりに美しいKOに、捕まっている者たちでさえ、一瞬心を奪われた。
「……大丈夫ですか!? 覇華さん!?」
警視庁捜査一課・牧ノ瀬班の部下の女性刑事が覇華に声をかける。
「うん、平気平気。とりあえず、彼ら連れてってくれる?」
「そうですよね、他の仲間もいつ暴れるかわからないし……」
「あー。えっとねえ、じゃなくて……」
「え?」
覇華は人差し指を立てて、ちょい、ちょいと自分の頭をつついて見せた。
「頭への衝撃は怖いんだよね。
その時気づけばいいんだけど、知らないうちに脳出血起こしてることもあるし。
様子がおかしいようならすぐに病院に連れていって欲しいんだ。お願い」
「あ、はい……?」
じゃあ何でわざわざ頭蹴った、という表情を一瞬女性警官は見せたが、覇華はそれに気づく様子なく続けた。
「もちろん、拉致されてきた女性もね。
さらわれるときに昏倒させられてるかもしれないから、慎重に様子を見てあげて。
様子がおかしかったら知らせて」
「……はい!!」
今度こそ女性警官は力強くうなずいて、走っていった。
覇華は、さらわれていた女性の人数の多さを目で数える。
軽く目まいを覚えるほどの数だ。
たくさん救えてよかった?
そんな風に明るくは考えられない。
一人一人の事情に思いをはせるだけで、くらくらする。
覇華が、誘拐された女性たちの行方を目で追おうとしたとき…。
継続的な爆音と強風が、コンテナの中に吹き込んできた。
バババババババババババ……
それがプロペラの音だとようやくわかったのは、地面に降りてきたヘリコプターが視界に入ってきた時だった。
「え、何、あれ…」
強いライトを投げかけているのは、一目で最新鋭のモノとわかるヘリコプター。
さては犯人グループの仲間かと、覇華はコンテナの外に駆け出る。
潜入のために拳銃はいま持っていない。
ウェアも防刃だが防弾ではない。
客観的に見れば危険極まりない行動だ。
それでもヘリに駆け寄り、素性を見極めようとする。
爆音と激しい風をまき散らしながら、着地をしたその機体。
顔に浴びせられる風を腕でよけながら、覇華が近寄ろうとした、その時。
(…………?)
……そのヘリから、すとっ、と降りたのは、すらりとした肢体の若い男だった。
ライトに照らされると夜目にもまぶしい白シャツにセミフォーマルなベスト。
つやのある黒髪に金色の瞳。
埃と血しぶきと怒号が舞うこの場にそぐわないメンズモデルのような格好。
年はせいぜい、18か、いっていても20歳、というところに見える。
さっきまで転がりながら戦闘し、髪の先まで土と埃にまみれた覇華は、異星人でも目にしたように、立ちすくんでしまった。
覇華とは対照的に、少年は悠然と歩き出す。
所轄の刑事が何人か彼に気づき、
(…………え?)
深く腰を折って、挨拶した。
なに、この子。
整った顔立ちではあるが、美少年と呼ぶには切れ長な目の光が鋭すぎて……
……ライトに照らされた唇が、妙に色っぽくて、ぞくりとする。
「……どなたですか?」
少年に会釈していた所轄の刑事に駆け寄り、ちらりと確認する覇華。
刑事は首を横にふり。
「情報提供に協力してくれた一般人ですよ」
「一般人?ヘリでここに乗り付けておいて?」
「さぁ、それ以上は…」
刑事は、変なうすら笑いを浮かべる。
知っていて答える気がないな、と、覇華は見た。
立場が下になった年上の男性は、時々覇華に対してわかりやすく不親切なのだ。
覇華自身はそこまでは深く気にしていない。
ただ、自分のプライドをもっと大切にすればいいのに、とは時々思うけど。
まあいい。確かに自分にはまだ役目がある。
拉致された女性たちの心身の手当てをし、さらに、回復した女性から順次住まいに送っていかなくては。
乱入者一人に関わり合っている暇は……。
「……!」
女性たちを警察車両のワゴンに案内しようとしていた覇華は、ふと、視界の端に妙なものを見た。
あの少年に促され、ヘリに、乗り込む女性がいたのだ。
二十代前半ぐらい、『商品』としてコンテナに押し込められていた女性の一人である。
衰弱している様子で、病院に早く連れていかなくてはと思っていたのに。
「…ちょっと失礼。代わってもらえますか?」
近くの所轄の女性刑事に声をかけて、覇華は走り出した。
男たちの持ってきた照明のおかげで、充分周囲は把握した。
後ろにいた男を滑りざま蹴りつきはなし、転がる回転で立ち上がる。
「ぎゃあっ!?」
一瞬遅れて、“彼女”に蹴り飛ばされた男が周囲の女性たちにぶつかる音がした。
「!?…ぐおふっ!?」
3人目を回し蹴り、4人目を上段後ろ回し蹴りと、回りながら立て続けに蹴り倒す。
体格に劣る者から確実に仕留める。
コンテナ内の女性たちは声も上げられないながら、それでも遠巻きに遠巻きにと動いているのがわかる。
「こ、いつ…」
さっき“彼女”に顔面に一撃をくらった主犯格らしき男が、うめきながら立ち上がろうとする。
体が大きい。
―――――真っ向勝負じゃ体格的に到底無理。
立たせる前に“彼女”は高く高く跳躍した。
「…ごおわっ…!?」
やや回転しながらも、それは後ろ回し蹴りではない。
体重と尻の筋肉、そして体のばねを柔らかくフルに使った直線の蹴りで。
まっっすぐ、男の顔を蹴り飛ばす。
顔を狙ったのは、テコの原理である。
ピンポイントでいい力点を突かれ、足場がしっかりしていなかった男の体は後ろにふっとんで、コンテナの壁に派手な音を立てて激突した。
………反撃開始からこの間、ジャスト10秒。
まるで時計の秒針がこちこちと2に合うのを待っていたかのように、コンテナのドアが破られた。
「………警察だ!」
「警視庁の者だ。
監禁の現行犯、ならびに連続誘拐事件の被疑者として身柄を拘束する!」
強力なライトとともに、防弾ベストにヘルメット、銃を構えた警官らが続々と入ってくる。
地面に転がって呆気にとられる男たちのもとに、続々と警官たちが確保に走り、元々決して広くはないコンテナの中は人でいっぱいになった。
「なんだ、お前ら…ぁ…?」
「警察だといっただろう。そとの連中や、輸送船でこの港まできた奴らもまとめて拘束した」
「……はぁぁ!?」
「ほら、来い!!」
警官たちは男たちを確保し、連行しようとする。
同時に女性たちに声をかけ、入口に近い衰弱している様子の者から優先して、外に連れていく。
「……牧ノ瀬 警視、ご苦労様です!」
駆け寄った制服の男性警官に声をかけられ、うなずく“彼女”。
「このコンテナって、蓋みたいにかぱって開いたりするの?」
「ええ、ドア側の壁が一面蓋になっているようです。いま、そこを開けようと」
警官の言葉が終わるか終わらないかというところで、ゆっくりとドア側の壁が倒れていき、外が見えてきた。
十数台のパトカーが待機し、何人も連行されていくのが見える。
協力した所轄の刑事たちも、外にいた人身売買業者たちと拉致の実行部隊を、確保できたようだ。
「……けい…し…?」
主犯格の男が、警官二人がかりで押さえ込まれながらうめく。
「…そうか、仲間内で聞いたことがあるぞ。
警視庁の準キャリ女刑事。
最近、すげぇ勢いで『仕入れ業者』仲間を捕まえて回ってるから気を付けろって…」
床に押さえつけられたまま手錠をかけられ、舌打ちしながら睨む男に対して、“彼女”は一瞥くれる。
「ぱっと見どう見ても20歳ぐらいにしか見えないから、みんな騙されるって……そう、確か、名前は……」
「アニキの組を潰したのはてめえか、牧ノ瀬、覇華ぁぁっっ」
誘拐犯仲間の他の男が警官の手を振りほどき、おおぶりのサバイバルナイフをかざして走ってきた。
…刃渡り20センチはあろうかという刃が“彼女”の体に到達し、そのまま体に沈みこむかに見えた一瞬、そのナイフの刃が、止まった。
「!?」
服は切り裂いたが、そのしたに着込んでいた黒い防刃ウェアに防がれたのだ。
“彼女”、牧ノ瀬覇華にとってはその一瞬があれば充分すぎた。
右足でナイフを人のいない方に蹴り飛ばし、その反動で左足を振り上げて、脳天からかかと落としを食らわせる。
……すとっ、と静かに覇華が着地すると同時に、声もなく、男は崩れ落ちた。
演武のようにあまりに美しいKOに、捕まっている者たちでさえ、一瞬心を奪われた。
「……大丈夫ですか!? 覇華さん!?」
警視庁捜査一課・牧ノ瀬班の部下の女性刑事が覇華に声をかける。
「うん、平気平気。とりあえず、彼ら連れてってくれる?」
「そうですよね、他の仲間もいつ暴れるかわからないし……」
「あー。えっとねえ、じゃなくて……」
「え?」
覇華は人差し指を立てて、ちょい、ちょいと自分の頭をつついて見せた。
「頭への衝撃は怖いんだよね。
その時気づけばいいんだけど、知らないうちに脳出血起こしてることもあるし。
様子がおかしいようならすぐに病院に連れていって欲しいんだ。お願い」
「あ、はい……?」
じゃあ何でわざわざ頭蹴った、という表情を一瞬女性警官は見せたが、覇華はそれに気づく様子なく続けた。
「もちろん、拉致されてきた女性もね。
さらわれるときに昏倒させられてるかもしれないから、慎重に様子を見てあげて。
様子がおかしかったら知らせて」
「……はい!!」
今度こそ女性警官は力強くうなずいて、走っていった。
覇華は、さらわれていた女性の人数の多さを目で数える。
軽く目まいを覚えるほどの数だ。
たくさん救えてよかった?
そんな風に明るくは考えられない。
一人一人の事情に思いをはせるだけで、くらくらする。
覇華が、誘拐された女性たちの行方を目で追おうとしたとき…。
継続的な爆音と強風が、コンテナの中に吹き込んできた。
バババババババババババ……
それがプロペラの音だとようやくわかったのは、地面に降りてきたヘリコプターが視界に入ってきた時だった。
「え、何、あれ…」
強いライトを投げかけているのは、一目で最新鋭のモノとわかるヘリコプター。
さては犯人グループの仲間かと、覇華はコンテナの外に駆け出る。
潜入のために拳銃はいま持っていない。
ウェアも防刃だが防弾ではない。
客観的に見れば危険極まりない行動だ。
それでもヘリに駆け寄り、素性を見極めようとする。
爆音と激しい風をまき散らしながら、着地をしたその機体。
顔に浴びせられる風を腕でよけながら、覇華が近寄ろうとした、その時。
(…………?)
……そのヘリから、すとっ、と降りたのは、すらりとした肢体の若い男だった。
ライトに照らされると夜目にもまぶしい白シャツにセミフォーマルなベスト。
つやのある黒髪に金色の瞳。
埃と血しぶきと怒号が舞うこの場にそぐわないメンズモデルのような格好。
年はせいぜい、18か、いっていても20歳、というところに見える。
さっきまで転がりながら戦闘し、髪の先まで土と埃にまみれた覇華は、異星人でも目にしたように、立ちすくんでしまった。
覇華とは対照的に、少年は悠然と歩き出す。
所轄の刑事が何人か彼に気づき、
(…………え?)
深く腰を折って、挨拶した。
なに、この子。
整った顔立ちではあるが、美少年と呼ぶには切れ長な目の光が鋭すぎて……
……ライトに照らされた唇が、妙に色っぽくて、ぞくりとする。
「……どなたですか?」
少年に会釈していた所轄の刑事に駆け寄り、ちらりと確認する覇華。
刑事は首を横にふり。
「情報提供に協力してくれた一般人ですよ」
「一般人?ヘリでここに乗り付けておいて?」
「さぁ、それ以上は…」
刑事は、変なうすら笑いを浮かべる。
知っていて答える気がないな、と、覇華は見た。
立場が下になった年上の男性は、時々覇華に対してわかりやすく不親切なのだ。
覇華自身はそこまでは深く気にしていない。
ただ、自分のプライドをもっと大切にすればいいのに、とは時々思うけど。
まあいい。確かに自分にはまだ役目がある。
拉致された女性たちの心身の手当てをし、さらに、回復した女性から順次住まいに送っていかなくては。
乱入者一人に関わり合っている暇は……。
「……!」
女性たちを警察車両のワゴンに案内しようとしていた覇華は、ふと、視界の端に妙なものを見た。
あの少年に促され、ヘリに、乗り込む女性がいたのだ。
二十代前半ぐらい、『商品』としてコンテナに押し込められていた女性の一人である。
衰弱している様子で、病院に早く連れていかなくてはと思っていたのに。
「…ちょっと失礼。代わってもらえますか?」
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