話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~

真曽木トウル

【第8話 北の隣国 ノールト】(5)

(5)追放された女王


「このたびは、なぜ女王陛下がレグヌム兵に捕らえられるような事態になったのか、お話をおうかがいしたく、まかりこしました。
 色々と伺わせていただきますが、よろしくお願い申し上げます」


 うなずく女王。


「貴殿、歳は?」

「私の歳ですか? 19となりますが」


 なぜ聞かれたのかわからなかったが、レイナートはとっさに、歳をひとつ上にごまかして言う。18歳というのはノールトにも知られているかもしれなかったので、念には念をいれて、だ。

 しかし、ふと、フィリ女王の口もとが、少し緩んだ気がした。


「私と同じ歳なのか」

「そうなのですか?」

「11歳の時に、テセウス・プリームスと結婚した。私も今19歳だ。
 ――どうした? 急に恐い顔をして」

「…………いえ」


 考えがたいほど、幼い年齢での結婚だった。
 先代王はそれで良かったのか?
 自分の子をそんな歳で結婚させるなど。


「イヅルもまだ26歳だと言っていたな。
 レグヌムは若くても重要な仕事をまかされるのだな」


 レイナートの隣に座ったイヅルが会釈する。
 この様子を見るに、真面目なイヅルは、短い間にもすでに女王の信頼を得たらしい。


「話をもとに戻させていただけますか。
 いったい、何が起こったのですか?」

「王位の簒奪だ」


 歴史書でしか触れたことのない言葉に、レイナートは思わず息を飲む。


「夫とは長く別に住んでいた。
 突然呼び出されたと思ったら、身に覚えのない罪状を夫から突きつけられ、重臣らから糾弾され、その場で追放が決定された」


 女王は、まるで他人事かのように淡々と語る。

 といって本当に何も思っていないわけではないのは、震える唇と、時折強く握られる膝の上の拳が物語っていた。


「身に覚えのない罪?」

「公金の横領、侍女の殺害、王宮の中での衛兵等への無体な殺戮、おそらくは……すべて夫がしたことだと思われるが」

「追放に反対する者はいなかったのですか?」

「誰も。
 夫が、事前に緻密に懐柔していたのだろう。
 夫は政略結婚以来、対外戦争に積極的で強かったので、亡き父からも気に入られ、重臣や民からも人気があった。
 私を追放したところで、大義名分がしっかりとしていれば王権は揺るがぬであろうな」

「失礼ですが、お二人の間にお子は」

「いない。
 私とは母がちがう妹を、夫は愛人にしていたので、おそらく妹を王妃とするのだろう」


 それで、ノールト王家の血をつなぐという体面も保てるということか。
 それにしても、なんとも節操のない男である。


「陛下は、どちらに向かうおつもりだったのです?」

「勝手ながら、レグヌム国王への謁見を求めるつもりであった」

「つまり、我らが国王陛下に、王位を取り戻すために協力してほしいと求めるつもりだったのですか?」

「いや……臣たちの心を掴めなかった私に、国王たる資格はない。
 しかし、レグヌムを憎む夫が国王になったら、必ずや戦争を仕掛けてくるであろう。
 だが、ドラゴンが選んだ王に勝てるはずもない。
 来るべき戦争を、極力死者なく早く終息させられるよう、相談をしたいのだ」


 それに、と、言葉を一度切って、ため息をつく。

「レグヌム国王は戦争で極力死者を出さぬよう務めると聞く。
 一方で“千人殺し”の恐ろしい将軍を重用しているとも。
 これから先、どれだけ死ぬかはレグヌム国王の胸三寸。そうだな、機嫌をとっておきたい――というのが近いかもしれぬな」


 ずいぶんとフィリ女王はレイナートのことをおそれている。いや、カバルス軍を、か。


「若く、戦に強い国王であるというから、領土拡大の野望もあろう。
 やはりノールトを侵略し完全に支配下に置きたいと考えるようであれば、私からレグヌム国王に結婚を申し込もうと」


「――――お断りします」


「え?」

「……いえ、国王は結婚する女性をすでに決めているので、お断りになられるかと思います」


 ……危ない。
 ベルセルカ謹慎以降、四方八方から結婚の圧力が強まっているせいで、反射的に答えてしまった。
 イヅルがこちらに顔を向けないまま含み笑いしているのが微妙に腹立つ。


「そ、そうなのか?
 しかし、レグヌム国王の立場であれば、近隣の国との政略結婚は不可避ではないか」

「政略結婚など、どれほどの意味があるでしょうか。
 何せ我々は、政略結婚の無意味さを味わわされた側ですから」

「!!
 そうだったな……
 8年前は、まことに、申し訳ないことを」


 政略結婚というものについて、レイナートは無意味だと公言している。結局は人と人、裏切るときは血縁など関係ないと。
 ただ、彼の実際の考えとしては、結婚を巧妙に使うことも可能だとは思う。

 たとえばネフェルとグラッドの電撃婚について。
 これは恋愛結婚ではあったが、同時に大きなメッセージを王都に与えるものでもあった。
 すなわちローレンシウス帝国はレグヌムとの縁ではなく、カバルスとの縁を望んでいる、のだと。
 レイナートが貴族たちの間で嫌われ蔑まれながらも、失脚を画策されるまでには至らなかったのも、帝国の影を貴族たちが恐れてのことだったろう。

 それでも、レイナート自身は、政略結婚をする気はない。

 ベルセルカ以外の女を、妻に迎える気はない。


「――――そうか。
 そういう方なのだな」

「そういう方ですので、おそらく王城内で口にされるだけでも(重臣たちにうっかり聞かれたりするとまた大変なことになるので)お怒りになると存じます。ゆめゆめ口になさいませんよう……」

「!?
 わ、わかった」

「それでは………陛下?」


 急な変化だった。
 フィリの顔が、妙に熱っぽく赤く染まったかと思うと、椅子から崩れ落ちていく。


「陛下!?」


 フィリの額から、黒い魔法陣が浮き上がった。



   ◇ ◇ ◇



 時を同じくして、ノールト王宮。

 昼間から酒と女にかまけていたテセウスは、携えていた黒い剣の柄に魔法陣がふわりと浮かび上がったのを認め、


「フフフ……」不気味な笑みを浮かべた。


「思ったより早く、国王(笑)に手紙ラブレターが届いたな。フフフフ……」


   ◇ ◇ ◇

「嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く