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嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~

真曽木トウル

【第8話 北の隣国 ノールト】(3)

(3)隣国の政変

   ◇ ◇ ◇



 長く断絶していた征魔大王国レグヌムとローレンシウス帝国との国交は、15年前に再開した。

 きっかけは、カバルスの奴隷制度撤廃である。


   ◇ ◇ ◇


 古来、どこの国の人間も、ごく当たり前のように誰かの自由を奪い奴隷としてきた。
 人間は悪どい知恵を働かせるものだ。
 たとえばさらってきたこどもを、そのままその村のなかで奴隷として使う、ということはしない。
 当然、奪われた側が、奪い返しに来るからだ。

 人間たちは、奪い返されないように、奴隷にする人間を選んできた。

 たとえば、転生者のように“罪をおかした”として大義名分をつけられる相手。

 そうでなければ、身寄りがなく取り返しに来る人間がいない、あるいは、物理的に遠くて、取り返しにくるのが困難である、そういう弱者を狙って奴隷としていくのだ。


 ――――それがなにを生むかというと。
 互いに国をまたいで外国の民を拉致し、奴隷とし始めるのだ。

 例にとれば、ローレンシウス帝国の人間がレグヌムで奴隷にされ、レグヌムの人間が帝国で奴隷にされる、というように。


   ◇ ◇ ◇


 15年前。
 先代カバルス公爵でありレイナートの父である、先代カバルス公爵バルバロス・マスフォルテ・バシレウスは、転生者法の改正とともに、カバルス領内でのあらゆる奴隷保有を禁止した。

 その際、外国人の奴隷たちが多数保護された。
 なかでも多かったのは、ローレンシウス帝国で自由民だったがレグヌムの者に誘拐されて奴隷にされた、という者たちだった。


 バルバロスは、保護された彼らの話を聞き、そしてこう決めた。


『――――うむ、帰すか』


 バルバロスはその時、単にお人好しでそうしたわけではなかった。

 帝国とてその当時、多少の数のさらわれた人間たちを帰されても、逆に手間をかけさせられると鬱陶うっとうしく思ったところだろう。
 ところがバルバロスは以下のような手紙を添えて、まずは奴隷たちの半分を送り出した。

   ✕ ✕ ✕

『我が国の悪人たちが、敬すべき隣人たるローレンシウス帝国の民をさらい奴隷としていた。
 許すことのできない罪である。
 犯人は確実に探しだし厳重に罰する所存である。
 ただ、カバルス民の中でも、海賊に襲われたように船ごと行方不明になる事例がある。
 ローレンシウスの民にもしレグヌムと同じ不心得者がいるならば、どうか同じように罰し、同じように我が国の民を返していただけないか』

   ✕ ✕ ✕

 バルバロスの読みどおり、先代のローレンシウス皇帝は歓喜し、この申し出を受け入れた。

 レグヌムの人間をさらい、帝国に売り飛ばしていたのは、帝国側に根拠地を置く、海賊たちだったのだ。
 皇帝にとっては、略奪行為でふところうるおし、強い軍事力を備え始めた海賊たちを討伐する、格好の口実になった。


 ――――帝国出身の奴隷たちが帝国に帰された3か月後、帝国から、カバルスの民を含む、レグヌム国民たちが船で丁重に帰された。
 最初にこちらから帰した奴隷を遥かに越える数であり、バルバロスは即、残りの帝国民を返したのだった。


 それからバルバロスのもくろみどおり、ローレンシウス帝国と、レグヌムの、否、正確にはカバルスとの国交が始まった。

 帝国との貿易は、カバルスに大きな利益を産んだ。
 また、その後も互いに保護した奴隷の交換を続け、また同時に、暗躍する奴隷狩りの海賊たちを討伐した。


 そんな中で、ローレンシウス帝国から、カバルス陣営に提案があった。

 カバルスでは領主を支える騎士階級が不足している。内政を回すにも苦労するだろう。

 それゆえ、定期的に決まった人数を、家臣に準じる立場としてカバルス公爵のもとに送ろう、と。
 そのかわりローレンシウス帝国からいくつかの要求もあったのだが、それはまた別の話。


 ここで重要なのは、14年前にそうして『カバルス公爵に仕える騎士』としてやってきたのが、当時の皇帝の妹ネフェルであるということ。

 ……そしてそのネフェルが、ほどなくして、カバルス軍幹部となっていた元奴隷の男、グラディオ・ディアマンテと電撃的に結婚したということである。


   ◇ ◇ ◇



「――――ユリウス王子が敵に?
 それは……ご逝去されていたよりも、マズい事態ですわね」


 今でも隣国の中枢にがっつり絡んでおり、どこまで話すか扱いの難しい立場のネフェルに、レイナートは、“血の結婚式”の話をした。

 ネフェルは昨年の末から帝国に里帰りして3人めの子を出産し、産褥期はそのまま“実家”で身体を休めていたので、この間不在だったのだ。

 ちなみに赤ん坊は、同行してきた乳母に預けている。


「とはいえ、オクタヴィア王女の結婚式以降は、表だってこちらに攻撃してくることはない。
 悪魔たちと、よくわからない試みを繰り返していて、正直狙いも読めない」


 一方で、魔力の強い人間が死ぬと心臓に“魔核”という結晶ができることや、その“魔核”を目的とした虐殺だったのではないか、という仮説は、ネフェルには、いったん伏せることにした。
 これはオクタヴィアとの合意だ。


「そういった、人員も不足し先が読めない中、ネフェルには、つい先日までベルセルカに担ってもらっていたのと同じく“大将軍”の地位についてほしい。
 身分と戦果、そして戦闘力を考えれば、反対は出ないだろう」

「光栄ですわ。
 東西南北、いずれを守ればよろしいのです?」

「北を」

「ノールトを警戒されているのですか?」

「北はずっと悩ましいな。
 何せ、俺の即位の情報が入り次第、強欲な王配おうはい殿下は、レグヌムの王位は自分にこそあるという書状を送りつけてきた」

「……私にはしつこい恋文を。
 あの人は、あいかわらずなのだわ。
 自分が王なのではなくて、妻が女王だということを忘れているのかしら?」


 オクタヴィアも、ため息をつく。あらあら、と、ネフェルは口許を手で押さえる。



 ――――と。
 急に城内が騒がしくなって、衛兵が駆け込んできた。


「恐れながら国王陛下!!
 カバルス軍剣闘騎兵隊長殿が、先ほど城内へ!」

「……グラッドが?
 なんだ、予定より早……」


 レイナートの言葉をさえぎるように、

「聞いてくれ、若!!!
 一大事だぜ!!!」


 叫びながら駆け込んできたのは、たくましい身体のひげ面の男だった。


「おお!! っと、ネフェル!!
 帰ってきていたのかよ!!!」


 そのまま抱擁する勢いだった夫を、ネフェルは軽く手で制止する。


「――――ディアマンテ隊長。
 国王陛下と王女殿下の御前よ?」

「お、王女様!?
 失礼いたしました、お初にお目にかかります、グラディオ・ディアマンテと申します!!」


 深々と王女にのみ頭を下げる、グラッド。
 幼い頃から王城に出入りしていたイヅルと違い、どうにも色々と王城に慣れていない。


「妙に動揺しているな。
 何があった?」

「ああ、その、それが………聞いてくれ、陛下」


 レイナートに向き直り、グラッドは続ける。



「……北の国境で、ノールトの女王を捕虜にした。
 王配テセウスの野郎に、追放されたんだと」



   ◇ ◇ ◇

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