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嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~

真曽木トウル

【第8話 北の隣国 ノールト】(1)

(1)明け方の国王


   ◇ ◇ ◇


「どちらにいらっしゃってたんですか?」


 日の出の前。
 王城の馬屋に、愛馬ポダルゴスをこっそり戻したところで、うしろから心配げな少女の声がかけられた。

 しまった、と思って振り向く。

 国王親衛隊所属の17歳の女兵士、レマがいた。
 肩までの長さの、茶色のふわふわの髪。
 蜂蜜色の瞳が、レイナートを見上げ、顔色と様子をうかがってくる。


「なんで、こんな時間に?」

「は、はい!
 イヅル総長から、陛下のお戻りを待ってお伝えをするようにと指示があり、待機していました」

「……伝言?」

「ネフェル様と南の帝国の使者の皆様が、予定より2日早く、本日王都に着かれるとのことです。
 枢密会議はイヅル総長の判断で延期のご連絡をしました。
 ですので、お帰りになりましたら、きっかり午後1時まではお眠りください、と」

「……わかった。
 オクタヴィアと、宰相もそのことを?」

「はい。
 オクタヴィア王女様は、陛下が起きられたら15分ほど事前お打ち合わせのお時間がほしいとおっしゃいました。
 アースガルズ宰相にもご連絡をしています」


 言われ、うなずく。

 ……それにしても、レマにひとり深夜から朝まで待たせたのか。
 罪悪感が半端ない。
 いや、指示したのイヅルだけど。


 そう考えていると、レマが、小さな手をレイナートに向けて差し出してきた。


「?」
「お荷物、お持ちします」
「あー…大丈夫だから、おまえも早く寝ろ」
「いま、陛下は疲れをとることがお仕事です」


 レマは兵士であって、侍女ではないのだが、笑顔のまま、一歩も退かず引かない。……ので、レイナートは素直にマントと負っていた荷物を渡した。


 王城のなかの自室まで歩き出すレイナートの後ろを、レマが荷物を抱えてついてくる。


「今日は、どちらにいらっしゃったのですか?」

「西北西の辺境、カニスだ。
 私腹を肥やしていた役人とその周りの面々をちょっとシメて、解任して、裁判のため王都に送るよう手配してきた」

「お、お疲れ様です。
 ……みなさまご存命でした?」

「聞くとこ間違ってるからな?」


 ちゃんと裁判受けられる程度に手加減してます。
 今回は十数人素手でKOした程度だし魔法も使ってない。
 むしろ誘眠魔法なんかを使った方が相手の負傷は少なく済んだ気もあとからしたが、デスクワークが続くとたまには身体を動かしたいし、どうか多目に見て欲しい。


「……あの。
 ベルセルカ様が謹慎でいらっしゃらない間は、おひとりで各地を回られるのですか?」


 後ろのレマが、声をかける。


「それが?」

「私か、親衛隊の誰かがついていくわけには」

「いらない」

「でも、おひとりだと、御身が危ないですよ?」

「…………問題ない」


 頭は眠くてふらふらだ。
 余計なことを言ってしまいそうになるのをこらえながら、
「必要な時があれば声をかける」と、レイナートは続けた。


 ベルセルカに代わりはいない。
 確かに彼女ほどではなくても、親衛隊の兵士だってそれぞれ強いのだ。
 それはわかるのだけど……。

 それでも、自分の隣にいるのは、未踏の地を最初に一緒に訪れるのは、ベルセルカとがいい。
 単なるわがままかもしれないが。


「………………」


 そのまま、レマとの会話は絶えたと思った。

 しかし、ふいにレマは、レイナートの横までたたっと駆け寄ってくると、レイナートの脇の下に細い肩を入れる。


「……何をしている?」
「お疲れのご様子なので、お支えします」


 レマはベルセルカよりも小柄だ。

 身長差がだいぶあるので、レマはかなり背伸びをして、レイナートの脇を支えられるかどうか。
 いや、ほぼ接触していない。


「―――あんまり意味がないからやめろ?」

「でも、陛下の歩き方がさっきよりまっすぐになりました」

「チェックが細かい!」

「それに」

「それに?」


 先を言わず、えへへ、と微笑むレマ。
 
 カバルス軍は4割が女で、幹部でいえば男女はほぼ同数。
 自分が女慣れしていないとは思わないのだけど、それでも時々、女はよくわからないときがある。

 聞いてもはぐらかされることも多いので、そういうときは、あまり細かく突っ込まないほうがいいのかなと考えていた。

 ただ、汗と土ほこりだらけのシャツにくっつくのは正直衛生上よくないような気もする。


 ………そんな下らないことを考えているうちに、レイナートは自室まで着いていた。


「お着替えを用意いたします。
 それと、お水を用意してお体をお拭きしますね」

「や、さすがにそれはひとりでする」

「え、でも」

「水だけ頼めるか」


 それに、さすがにレマももう眠った方がいい。


 水桶に汲んできてもらった水を、受けとる。
 部屋の中で裸になり、冷たい水にたっぷりと濡らして絞った布で、身体を端からぬぐった。
 知らぬまに火照ほてっていた肌が締まるように冷える。
 汗。土。それから血。
 汚れを落としてから着替えると、ぱったりとベッドに倒れこむ。


 あれから、ベルセルカはきちんと食べて寝ているだろうか?

 毎日、どう過ごしているのだろうか。

 まだ、謹慎期間は終わらない。


 ……早く帰ってきてほしい。


 


「――――ネフェルたちが少し早く着くのは、不幸中の幸いだったな」


 レイナートはひとり、つぶやいた。

 ベルセルカの代わりを務められる、数少ない人物が、今日の午後、到着する。
 その存在感を以て、態勢を立て直そう。


 まぶたを閉じると、急速に眠気がレイナートの思考を覆っていった。



   ◇ ◇ ◇

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