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嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~

真曽木トウル

【第7話 悪魔に魅入られた地 シーミア】(1)

(1)王子と悪魔と国王と家出少年


   ◇ ◇ ◇


 時間が止まったような空間のなか。
 大きな円形の、漆黒のベッドが浮き上がっている。

 その枕元には、人の頭ほどの大きさの水晶玉。

 銀髪の、この世のものとも思えない美青年が裸で寝そべりながら、その水晶玉を眺めていた。


 ―――そこには、彼が王位を継ぐはずだった国の人々の様子が映し出されている。



『きけよ!!
 ラットゥスとアペルで、奴隷の回収が始まったってよ!!』

『山賊が、自由民のこどもをニセ転生者に仕立てて売ってたって話でしょう?
 一度全員確認するからと、領主が……』

『いまの国王って、本当は奴隷になるはずだった転生者の子なんだろう?
 そのまま、奴隷を解放するなんてことは……』

『まさか!!
 奴隷をなくしたら、商売あがったりだよ!』



 騒ぐ人々の様子を、征魔大王国レグヌムの王子ユリウスは、眺めていた。


 そばで眠りに落ちていた女悪魔が、ふと、目を覚ます。


 彼女は“血の結婚式”の夜、レイナートを殺しかけた悪魔だ。
 あの夜よりはかわいらしくも見える美貌。
 肌に扇情的に入った模様。
 背中に黒い翼、尻に尾。

 女悪魔はユリウスにすり寄ると、その顔をじっと見つめた。

 王子は笑むでもなく無表情、に見えたが、女悪魔はそれでもそのわずかな変化を見てとったらしい。
 とんとん、と鋭い爪の先で、水晶玉をつつく。



「どうして直接レイナートを見ないのかって?」


 女悪魔は裸の胸を擦りつけるが、それに対してユリウスは反応を示さない。
 といって、おそらく無感情ではないのだ。
 どちらかというと、女悪魔の鋭利な爪の方を愛おしげに愛撫し、くちづけながら、ユリウスは続ける。


「向こうから〈透視〉に対して防御魔法プロテクトかけられちゃってるんだよね。
 ふふ。こどものころから」


 何か魔法が完成したら一番に味わってほしくて、レイナートに長年不意討ちを食らわせ続けた結果だ。

 ちなみに〈転移魔法〉も、レイナートの近くでは使えない。


 さらに言えば、結婚式の夜以来、姉オクタヴィアの身辺にも厳重な結界が張られているので、この数か月ユリウスは、オクタヴィアに手を出すこともできないでいる。


 彼の言葉を、一言一句聞き漏らさないように見つめてくる女悪魔の髪を、撫でる。

 きれいな黒髪だ。


「そんなに気になるのかって?
 僕のは、よくがんばっているから」


 そう、彼は本当によくがんばった。
 今もがんばっている。


 こんなにも苦戦する相手だ。
 運良く殺しかけたけど、運良く殺さずにすんで、よかった。


 再び戦える日が、楽しみでたまらない。
 誰の邪魔も入らないところで、早く戦いたい。



「――――さて、ティグリスの彼女は失敗だったようだけど、次のはうまくいくかな?」



 水晶玉の中の光景はぐるりぐるりと変化して、やがて、青く長い髪の、一人の少女を映し出す。

 レイナートやユリウスたちと同じ歳ぐらいに見えるその整った顔。
 歳は違えど、レイナートの武芸の側近でありカバルス軍の総長でもある、イヅル・トマホークに酷似して見えた。


   ◇ ◇ ◇


 ――――レグヌム王都。
 王城、枢密会議。

 国王レイナート。
 宰相グリトニル・アースガルズ。
 財務大臣ヒッピアス・オストラコン。
 その他、王国の政治を担う重臣たちが定期開催する会議である。

 ティグリスからの帰還から間もないベルセルカも、ドレス姿で出席していた。

 季節的には暑い時期に入っていたが、場が場なので、今日は、詰襟の軍服風ドレスだ。

 大きな宝石のついた髪留めで、長く艶やかな赤髪をまとめている。


 一方、レイナートもまたこの暑いのに、黒と深紫で染められた国王仕様の上着を着て臨んでいる。

 レイナートの瞳と同じ紫にあわせたというわけではない。
 レグヌムにおいて服飾の紫は、国王と王家だけが使える『禁色きんじき』だからだ。



 その場で、話されていたのは。


「……王佐公十三家について、王室法にのっとって爵位の継承を決めた場合。
 継承者は以下になります。
 問題は、ただ血筋の問題だけで、低位の貴族や貴族ですらなかった者たちを以後王族と見なしてよいのか……です」


 わかりやすく書けば、現在の法にのっとってそれぞれの爵位の継承者を決定すると、下記のようなかたちとなるのだ。


 第1位 フェレス公爵  継承者確認できず
 第2位 ラットゥス公爵 カロン・セネクス
 第3位 タウルス公爵  遠縁の伯爵(フェリクスの父)
 第4位 ティグリス公爵 遠縁の男爵
 第5位 クニクルス公爵 継承者確認できず
 第6位 ドラコ公爵   ドレイク・カタラクティス
 第7位 アングイス公爵 ムステーラ侯爵グリトニル・アースガルズ
 第8位 カバルス公爵  レイナート国王
 第9位 アリエス公爵  レイナート国王
 第10位 シーミア公爵  遠縁の者(騎士階級)
 第11位 ガルース公爵  遠縁の者(中産階級)
 第12位 カニス公爵   継承者確認できず
 第13位 アペル公爵   レイナート国王


「しかし、いくつかの公爵家ではご令嬢が存命です。
 ラットゥス公爵およびドラコ公爵に加えて、ご令嬢が存命である家のみ、王佐公爵家として残し、そのご令嬢がたには、継承者あるいは縁者とご結婚いただくか、将来産まれる陛下のお子を養子として継いでいただくというかたちが良いのではないでしょうか?」

「そのような恣意的な運用をするのはいかがなものかと、何度も申したが」


 ベルセルカの兄、アースガルズ宰相がいらだった声で返事をする。


「それに、千年以上の歴史を持つ王佐公爵家を、そのような理由で途絶えさせるべきではない」


 現在の法どおりの継承をすれば、4代前にアングイス公爵家から男子を迎えているアースガルズ宰相が王族の仲間入りをすることになる。

 一方、アングイス公爵家の令嬢アスクレピアは、“血の結婚式”の際ユリウス王子に殺害されたものの、レイナートが蘇生し生還した。
 現在領主代行をつとめ、レイナートを強く支持している。

 どうにかこの女性とは結婚せず、彼女を排除した上で公爵位を継ぎ王族の仲間入りをしたい、という宰相の思惑が、露骨に透けて見えていた。


「『王佐公爵家』というものを絞るべきであると、俺も思いますが」


 レイナートも口を挟む。


「前からお伝えしていたように、それだけ血が薄れるならば、存在意義は薄れるでしょう。
 ならば改めて、今の代や先代までの功績によって、数年かけて爵位を与えなおし、領地も改めて決めなおすのが公平なのではないでしょうか?
 特に不遇の、次男三男以降の男子や女子についても、きちんと功績や能力を見て」

「……何をおっしゃっているのか、まったくわかりませんな」


 ひきつり笑いで、宰相はさえぎった。


「長男と、次男から下では、人としての価値がそもそも違うのです」

「いったい何が違うのですか?」

「昔から、そう決まっているではありませんか。
 なぜ陛下はその秩序をわざわざ乱そうとするのです?」


「お二方、脱線するお時間などありますかしら?」


 女性の声が鋭く飛んできた。
 今回から枢密会議に参加している、王女オクタヴィアの突っ込みである。

 一見公平に2人をたしなめているように見えるが、これは宰相への注意である。
 宰相は怒りで顔を赤くしたが、しかし、口はつぐんだ。
 彼は、論戦でオクタヴィアに勝利したことなど一度もないのだ。


「陛下。僭越ながら、今みなさまがあげていらした案についてそれぞれの良い点と問題点を整理いたしましたわ。
 資料をお配りした上で、私の意見を申し上げてもよろしいでしょうか?」


 レイナートが、ほっとした顔でうなずく。



(こういう場では私、お役に立てないんですよねぇ……)


 ベルセルカはオクタヴィアとレイナートを交互に盗み見た。
 弁が立たないほうではない、と自負している。相手を言い負かして言葉でぼこぼこに殴るのは得意だ。
 だが、それは、政治においては何も生まない。

 自分にできるのは、ただ、ただ、攻撃だけ。



 『――――ベルセルカ!!
  ベルセルカか!?』

 末席に座るベルセルカの耳に、髪留めから聞き覚えのある声が届いた。


「え………」


 思わず立ち上がるベルセルカ。
 その場の注目を集めてしまう。


「す、すみません、所用でちょっと退出しますっ!?」


 頭を下げながらベルセルカは会議室から出ていった。


『聞け、ベルセルカ!
 今すぐシーミアに来い。
 ―――俺と、この鏡の持ち主は、反乱軍に囲まれて籠城している』

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