嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~
【第6話 東北東の混乱地帯ティグリス】(7)
(7)告白
「「「なん、だよ!!
この、糸は!!」」」
城門の前にいた男たち約900人は、みるみる糸に絡めとられ拘束され、バタバタと倒れていく。
仲間たちとともに糸を切ろうと奮闘するが切れず、無限のような長さの糸は、男たちにぐるぐると巻きつき続ける。
「――――ま、剣士や兵士がいなければ、こんなものかね」
いつの間に現れたのか。
城壁の上に1人、ハニーブロンドの、この世のものとも思えないほど妖艶で美しい女が、黒髪の男と並んで立っている。
彼女は、手のひらのうえに白い糸玉を置いて、逆の手で何らかの魔法をかけている。
男たちを拘束している糸は、どうやらそこから延びているのだ。
「なんだ、おまえは……!」
「こ、国王の愛人か!?」
誰かがそう叫んだのに対し、女はイラリと舌打ちをする。
「ふざけんな誰が!
裏門のほうは先にかたづけたよ」
「ひっ……」
「……ちくしょう!!」
男たちが叫ぶ。
「誰か!!
誰か魔法使える奴いただろう、ほら!!」
「え、あ、そうだ、セ、セヌスだ!
セヌスが使えた!
あいつならこの魔法に対抗……」
「い、いねぇぞ!!
あいつ、いったいどこだ!?」
ざわつく男たち。
黒髪の男は、美しい女と顔を見合わせた。
◇ ◇ ◇
……外が騒がしい。
いったいどうなっているのか。
侵入者は、状況が読めず、首をかしげていた。
まさか、国王がここに来ているとは思わなかった。
といっても、国王の顔は誰も見たことがないのだから、単に同じ黒髪を持っているというだけの影武者かもしれないが。
(そういえば昨日の酒場で、オレたちに話しかけてきたのも黒髪の男だった)
黒髪は珍しいが、いないわけではないのだ。
しかし、もし本物の国王だったとしたら、伝え聞くとおりの最強の人物なら、1800人の町衆など、あっさりと皆殺しにされるだろう。
つまり、これから自分が使える時間は非常に短いことになる。
(――――予想どおり、城のなかの人間はすくない)
城のなかの構造を知るために、念のため外からも何度も〈透視〉していた。
まず間違いなく、“あいつ”のところにはたどりつける。
どうやら、あろうことか国王に外を任せ、“あいつ”は自分の部屋にこもっているようだ。
特に障害もなく侵入者は、“あいつ”の部屋までたどりついた。
物陰から確認する。
警護の人間らしき衛兵が、部屋の外に立っていた。
長身だが細身の衛兵は、顔の上半分を覆う金属のヘルムと鎧で武装している。
しかし、首や喉は、わずかに空いていた。
(かわいそうだが、こいつも殺す)
相手は背が高く手が届きづらかったが、死角から背中側に迫り、短剣でどうにか喉を掻き切った。
壁を背に、声もなく倒れる男。
その死は妙に静かすぎてあっけない。
そうして。
“あいつ”の部屋の、ドアを開ける。
「な、……何者だ?」
“あいつ”は、―――ティグリスの領主代行は、机に座ったまま、腹立たしいほどに怯えた目をこちらに向けた。
おまえに被害者面する資格があると思うのか?
そう吐き捨ててやりたかったが、それはしない。
最強だという国王と自分が闘ったら、当然勝ち目などないのだ。確実に殺される。
だから、この領主代行を、殺すだけ殺して、さっさとここから去らなければ。
短剣を、うしろに振りかぶった。
しかしその手が、何者かに掴まれた。
次の瞬間、侵入者は強烈な脚払いを食らい、転がされる。
なんだ、いったい何が起きている?
ここにいるのは、領主代行と自分と死体だけ。
死体?
そういえば、さっき掻き切った喉には。
(――――転生奴隷の烙印が、あった?)
そしてヘルムの下からわずかにはみ出していた髪、何色だった? 漆黒だ。
(!!!!)
一瞬の間に考えがめぐったのち、床に背中を叩きつけられる。
肺を強打し、吐き気と痛みに思わず口を開いた。
そこから見上げた相手は、ついさきほど喉を掻き切ったはずの警備兵だった。
「――――うまく煽動したものだな」
相手は、ヘルムを外す。
細身の長身の男。髪は漆黒。
首もとの、大量の血を吹き出し致命傷になったはずの傷口は、驚くべきことにふさがっていた。
「嘘、だ……あんなに切ったら、死なないはずがない」
「最初だけ少し血を噴出させたが、すぐに血管をふさいだ。
だいぶ血は抜けたけどな」
瞳は、言うまでもなく紫。
おそらくこの国でただひとりしかいない、紫水晶の瞳。
「町の人間たちを、自分が首謀者というかたちには見えないようにうまく煽動して城を囲ませた上で、そのどさくさに紛れて領主代行を暗殺しようとしたのか。
それから、男装に上げ底の靴」
「お、まえ!! 国王か!!!」
―――跳ね起きる。
女と、バレただと!?
今まで決してバレなかったのに!?
彼女は―――町衆と同じような服装に、髪を短く刈り上げた少女は、目を剥いた。
「そ、そとにいるのは、誰だ!!
ど、どうして、わかった!!??」
「ちょっと男装のクオリティが低かったですね」
机の陰から、赤髪の女がぴょこんと顔を出した。大層な美人で、軍装。
覚えている、この美女は。
酒場で、自分たちをひどく煽り倒した。
これが、かの有名な女騎士、ベルセルカ・アースガルズだろうか。
「この国では異性装をする女性がほぼいないので、老けた化粧をして髪まで短くしていると、普通は見破られません。
ですが、カバルスには女兵が多いので、レイナート様も私も、男装の女性は見慣れているのですよ」
「――――隠し子騒動をあおり、騒ぎを起こしたのも、すべて領主代行の暗殺のためか」
彼女は床を転がり、壁に飾られていた剣を握った。
「……し、し、しし、死ね!!!」
領主代行に向けて斬りかかるが、ベルセルカに腕を蹴りあげられ剣を取り落とす。
「―――――――あなたは」
領主代行が、胸のまえで祈るように手を組みながら、言った。
懺悔のような仕草。ほんとうに、どこまでも腹の立つ男だ。
「そう、あなた、思い出しました。
お母さんにそっくりで……」
「い、いまさら!!!
なんだよ!!!」
ゆっくりとちからなく膝を折り、吐き出すように、領主代行は言葉を漏らした。
「14年前。
――――公爵からの指示で私が“殺した”赤ん坊が、あなたなのですね」
◇ ◇ ◇
「「「なん、だよ!!
この、糸は!!」」」
城門の前にいた男たち約900人は、みるみる糸に絡めとられ拘束され、バタバタと倒れていく。
仲間たちとともに糸を切ろうと奮闘するが切れず、無限のような長さの糸は、男たちにぐるぐると巻きつき続ける。
「――――ま、剣士や兵士がいなければ、こんなものかね」
いつの間に現れたのか。
城壁の上に1人、ハニーブロンドの、この世のものとも思えないほど妖艶で美しい女が、黒髪の男と並んで立っている。
彼女は、手のひらのうえに白い糸玉を置いて、逆の手で何らかの魔法をかけている。
男たちを拘束している糸は、どうやらそこから延びているのだ。
「なんだ、おまえは……!」
「こ、国王の愛人か!?」
誰かがそう叫んだのに対し、女はイラリと舌打ちをする。
「ふざけんな誰が!
裏門のほうは先にかたづけたよ」
「ひっ……」
「……ちくしょう!!」
男たちが叫ぶ。
「誰か!!
誰か魔法使える奴いただろう、ほら!!」
「え、あ、そうだ、セ、セヌスだ!
セヌスが使えた!
あいつならこの魔法に対抗……」
「い、いねぇぞ!!
あいつ、いったいどこだ!?」
ざわつく男たち。
黒髪の男は、美しい女と顔を見合わせた。
◇ ◇ ◇
……外が騒がしい。
いったいどうなっているのか。
侵入者は、状況が読めず、首をかしげていた。
まさか、国王がここに来ているとは思わなかった。
といっても、国王の顔は誰も見たことがないのだから、単に同じ黒髪を持っているというだけの影武者かもしれないが。
(そういえば昨日の酒場で、オレたちに話しかけてきたのも黒髪の男だった)
黒髪は珍しいが、いないわけではないのだ。
しかし、もし本物の国王だったとしたら、伝え聞くとおりの最強の人物なら、1800人の町衆など、あっさりと皆殺しにされるだろう。
つまり、これから自分が使える時間は非常に短いことになる。
(――――予想どおり、城のなかの人間はすくない)
城のなかの構造を知るために、念のため外からも何度も〈透視〉していた。
まず間違いなく、“あいつ”のところにはたどりつける。
どうやら、あろうことか国王に外を任せ、“あいつ”は自分の部屋にこもっているようだ。
特に障害もなく侵入者は、“あいつ”の部屋までたどりついた。
物陰から確認する。
警護の人間らしき衛兵が、部屋の外に立っていた。
長身だが細身の衛兵は、顔の上半分を覆う金属のヘルムと鎧で武装している。
しかし、首や喉は、わずかに空いていた。
(かわいそうだが、こいつも殺す)
相手は背が高く手が届きづらかったが、死角から背中側に迫り、短剣でどうにか喉を掻き切った。
壁を背に、声もなく倒れる男。
その死は妙に静かすぎてあっけない。
そうして。
“あいつ”の部屋の、ドアを開ける。
「な、……何者だ?」
“あいつ”は、―――ティグリスの領主代行は、机に座ったまま、腹立たしいほどに怯えた目をこちらに向けた。
おまえに被害者面する資格があると思うのか?
そう吐き捨ててやりたかったが、それはしない。
最強だという国王と自分が闘ったら、当然勝ち目などないのだ。確実に殺される。
だから、この領主代行を、殺すだけ殺して、さっさとここから去らなければ。
短剣を、うしろに振りかぶった。
しかしその手が、何者かに掴まれた。
次の瞬間、侵入者は強烈な脚払いを食らい、転がされる。
なんだ、いったい何が起きている?
ここにいるのは、領主代行と自分と死体だけ。
死体?
そういえば、さっき掻き切った喉には。
(――――転生奴隷の烙印が、あった?)
そしてヘルムの下からわずかにはみ出していた髪、何色だった? 漆黒だ。
(!!!!)
一瞬の間に考えがめぐったのち、床に背中を叩きつけられる。
肺を強打し、吐き気と痛みに思わず口を開いた。
そこから見上げた相手は、ついさきほど喉を掻き切ったはずの警備兵だった。
「――――うまく煽動したものだな」
相手は、ヘルムを外す。
細身の長身の男。髪は漆黒。
首もとの、大量の血を吹き出し致命傷になったはずの傷口は、驚くべきことにふさがっていた。
「嘘、だ……あんなに切ったら、死なないはずがない」
「最初だけ少し血を噴出させたが、すぐに血管をふさいだ。
だいぶ血は抜けたけどな」
瞳は、言うまでもなく紫。
おそらくこの国でただひとりしかいない、紫水晶の瞳。
「町の人間たちを、自分が首謀者というかたちには見えないようにうまく煽動して城を囲ませた上で、そのどさくさに紛れて領主代行を暗殺しようとしたのか。
それから、男装に上げ底の靴」
「お、まえ!! 国王か!!!」
―――跳ね起きる。
女と、バレただと!?
今まで決してバレなかったのに!?
彼女は―――町衆と同じような服装に、髪を短く刈り上げた少女は、目を剥いた。
「そ、そとにいるのは、誰だ!!
ど、どうして、わかった!!??」
「ちょっと男装のクオリティが低かったですね」
机の陰から、赤髪の女がぴょこんと顔を出した。大層な美人で、軍装。
覚えている、この美女は。
酒場で、自分たちをひどく煽り倒した。
これが、かの有名な女騎士、ベルセルカ・アースガルズだろうか。
「この国では異性装をする女性がほぼいないので、老けた化粧をして髪まで短くしていると、普通は見破られません。
ですが、カバルスには女兵が多いので、レイナート様も私も、男装の女性は見慣れているのですよ」
「――――隠し子騒動をあおり、騒ぎを起こしたのも、すべて領主代行の暗殺のためか」
彼女は床を転がり、壁に飾られていた剣を握った。
「……し、し、しし、死ね!!!」
領主代行に向けて斬りかかるが、ベルセルカに腕を蹴りあげられ剣を取り落とす。
「―――――――あなたは」
領主代行が、胸のまえで祈るように手を組みながら、言った。
懺悔のような仕草。ほんとうに、どこまでも腹の立つ男だ。
「そう、あなた、思い出しました。
お母さんにそっくりで……」
「い、いまさら!!!
なんだよ!!!」
ゆっくりとちからなく膝を折り、吐き出すように、領主代行は言葉を漏らした。
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