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嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~

真曽木トウル

【第6話 東北東の混乱地帯ティグリス】(6)

(6)城を奪う者たち


「俺たちがここにいることが、なにかでバレた?
 しかし、


 そうレイナートが言う間に、ベルセルカはシャツのボタンを上までとめてしまう。

 男としても長身なレイナートと、女としてはやや背が高い、ぐらいのベルセルカ。
 2人の体格差はわりとあるので、まるで毛布にくるまるこどものように、レイナートのシャツにぶかぶかと細身の身体がうまっている。

 それでも先ほど見た、つやつやとして薄闇のなかでも光るような乙女の肌は、脳裏に刻まれていた。
 くっきりとしたくびれと、鍛え締まった腰から脚。ちらりと見えたへそ。もやもや思い返しているおのれ煩悩ぼんのうに、18歳童貞は無理矢理ふたをした。
 ベルセルカはあくまで冷静なので恥ずかしい。


「気づかれないように暗殺するならともかく。
 1800では、訓練を受けた正規兵でもレイナートさま相手には少なすぎます。
 ……と、言うことを単純に知らないのかもしれませんけど」

「状況が良くわからん。
 悪いが、どのような者が集まっているか、もう一度遠隔透視してみてくれ」

「はい!
 ――――〈遠隔透視イクス・イルミナス・ロングス〉」


 ホゥッ、とベルセルカの大きな目の周りに光る魔法陣が浮き上がり、美しいエメラルドの瞳は、鮮血の赤に染まる。


「……やはり軍勢ではなく、農民でもなく、町衆です。
 鎧などはなく、武器はそれぞれで剣やなたを持参。誰かの声かけにのった武装蜂起じみた遊戯のように見えます」

「老若男女や職業でいうと?」

「主に若い男たち。
 女や、幼子を抱えた者やこどもがいないことから、飢えや病気で切羽詰まってということではなさそうに思います。
 聖職者、国教会関係者も見当たりません。
 それから、どうやら奴隷も」

「殺しあいを本気でするつもりなら、肉の壁にするための人間も、連れてきそうなものだが……。
 本当に素人の集団くさいな」

「ええ――――」


 ぱち、と、ベルセルカの目もとの魔法陣が弾ける。
 とたんに、赤く染まっていた瞳から光が消える。もう限界だったか。

「ベル!」

 力をごっそり使ったせいが、上体のバランスがくずれ倒れる彼女の身体を、レイナートは受け止めた。


「あ、ごめ、なさ……」


 言いながらベルセルカは、レイナートの腕のなかで右目を押さえる。
 睡眠不足で上級魔法を使ったのはキツかっただろう。少し彼女をやすませなければ。


「しかし、このタイミングということは」 

「あ、あの……
 昨日、レイナートさまの悪口を言っていた男たちもいました。
 すごくげっそりした顔で……」

「じゃあ、あの連中の仲間なのか。
 ――――ナルキッソス」


 主から声をかけられると、同じベッドで眠りについていた黒猫は、伸びをしながら「にゅぅぅぅぅ」と不機嫌な声を出した。
 そして、猫の大きな目を、わずかに開く。


「むむう。若があまりにテンパってたからタヌキ寝入りしてあげてたのににゃ」

「そんな気づかいはいらん!
 それより領主代行を起こしてきてくれ」

「戦闘にゃ?」

「少しな。あとは、アリアドネも。
 可能な限り、ひとりも殺さないで済ましたい」


 指の間をするすると流れる絹のような赤髪。
 ベルセルカの小さな頭を手でつつみ、身体を抱きあげながら、レイナートは吐息をもらした。


   ◇ ◇ ◇


 そして、夜明けの頃。


 ティグリス城の周りにたどり着いた約1800人の民衆は、ぐるりと、城壁の外を取り囲んだ。

 しかし1800人という数。
 実際に城を囲んでみると、どうしても少なさが否めない。
 二重三重に囲むどころか、一重でギリギリというところだ。
 やむなく、2つの門に人員を集中させることとなった。

 門は、表と裏の2つ。
 いずれもしっかりと閉じられており、その前にさらに太い格子が下りている。


「門をどうやって破る?」

「すぐには破らなくていい。
 俺たちに囲まれているまま動けずにいる。
 まずは、それをティグリスの者たちに見せて、恥をかかせるのさ」

「中に軍勢とか……」

「いるわけがないだろう!
 ティグリスの騎士団だって、もはや領地は返上して、家柄だけで定額の金をもらいながら商売してるんだぜ」

「食料が尽きれば、警護の兵が必ず門を開ける。
 そこであの領主代行を引きずり出して、城を俺たちが奪い取っちまうんだ!!」


「――――ざつな作戦だな」


 好き勝手言う烏合うごうの衆たちの頭上から、響く声が降ってきた。


「……な、なんだよ?」


 城壁の上にひとりの男が座り、見下ろしていた。この国では珍しい黒髪の、長身の男だ。
 長い足の片膝折って座り、その膝に頬杖をついている。
 つまり、相当見下しているポーズだ。


「楽しいか?
 祭り気分の蜂起ほうきは」

「く、黒髪!?」
「国王なのか!?」
「………こ、公爵さまの、俺たちの主の、仇だ!!」

「公爵のあとつぎのことは、もういいのか?」

「う、……うるさい! 領主さまの、仇だ!」
「矢を持ってる奴は射て!!
 それ以外の奴は石を投げろ!!!」
「このまま、国王に全部もっていかれてたまるかぁ!!!」


 黒髪の男に向けて、矢がつがえられ、石が投げられる。
 しかし彼は軽く払うように「〈スクートゥム〉!」と魔法の防御楯ですべてを払いのける。
 統制がとれない集団の、不規則な攻撃はすぐに途絶え、黒髪の男は再び彼らに声をかける。


「法律改正は検討されているが、今のままの法でも、7代前の領主の腹違いの弟の子孫に、爵位と領地は継承されるぞ。
 男爵として、ここからかなり離れた土地の領主をしているけどな」

「知ってんだよ!!!」


 叫んだ男が、石を思いきり投げつけてきた。


「なんだよ。
 男爵って、貴族で一番下じゃねぇか!!
 もっと高い身分の家で、どこか、あんだろ!?
 そうじゃなかったら……」

「男だったらいいんじゃねぇのかよ。
 もっと近い親戚も探せねぇのか!!!」


 石を投げながら、わめきたてる男たち。

 彼らは知らない。ティグリス公にはもっと近い、爵位を継げる親戚もいたが、それも“血の結婚式”で死んだことを。ティグリス公だけではない。王家・公爵家・侯爵家が、高い身分同士で結婚しあった結果、“血の結婚式”で当主とあとつぎを失った公爵家・侯爵家の親戚もまた、多くが公爵家か侯爵家だったのである。

 彼らは爵位継承のルールもよくわかっていない。ただ、王都にいる『偉い』『賢い』人間たちが、何か自分たちにわからないやり方で、自分たちを閉め出し、自分たちを馬鹿にしながら、すべて決めていくように感じられていた。

 一方で、彼らの胸には権力者への反感ばかりではなく、この地を治める家が王佐公爵家第四位たる家であることへの誇りもある。

 その家が大切にされていない、軽く扱われているようにも感じ、いきどっていたのだ。


 だったら、この地を俺たちの手に取り戻すべきだ。それを誰が言い出したのか、彼らはもう記憶していない。衝動に身を任せながらやってきたのだから。


「……で。
 おまえたちの用は、それだけか?」


 黒髪の男に問われ、答えにつまる男たち。


「―――だったら、ここで終わっておけ」

「だ、黙………」


 反論しかけた彼らは、その時ようやく気づいた。
 いつのまにか目の前に、白い糸のようなものが何重にも流れていることに。


「な、……糸?」
「なんだ、これ??」


 首をかしげた者がパラパラと出だした、次の瞬間。
 まるで蜘蛛の糸のようにその糸が彼らに襲いかかり、ねばねばと絡め取った。

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