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嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~

真曽木トウル

【第6話 東北東の混乱地帯ティグリス】(1)

(1)王女の心配と贖罪中の女
   ◇ ◇ ◇


 カバルスから帰った翌日の午後、レイナートは1人でオクタヴィア王女の部屋を訪れた。

 寝室と続き部屋になっている王女専用の応接室で、レイナートと対峙したオクタヴィアは、今日は花飾りの装飾が美しい、淡い紫のドレスを身にまとっている。


禁色きんじきを着るのは珍しいですね。
 とてもお似合いです」

「あら。
 あなたも女性のドレスを褒める歳になったのね」

「……俺を何歳いくつだとお思いですか?」


 こんなやりとりができるのも、本当に久しぶりのことだ。

 輝く金の髪に、青い瞳の可憐な美貌。
 色白ながら柔らかな赤みが差し、つややかで、きめ細やかな肌。
 ドレスが美しく引き立たせる、並外れて豊かな胸を、ぐっと持ち上げるようにしっかり背筋を伸ばして座るオクタヴィア。
 引き続き、身体の具合はよさそうで、レイナートは安堵あんどした。


魔核まかく、というものの存在は、初めて知ったわ。
 冒険者たちから詳しく聞くことは可能かしら」

「俺の部下に、前世で聖王級冒険者だった者がいます。
 ドラコからになりますが、呼びますか」

「是非お願いするわ」


 ―――魔核、というものが存在すること。
 魔力が強い人間にも、死亡時に魔核ができうること。
 ユリウス王子はその魔核を目的に王族たちを殺したのではないか、という仮説。
 その3つをレイナートは話し、オクタヴィア王女は何度も相槌あいづちを打ちながら聞いた。


「………もしその仮説が正しいならば、今後も国王あなたや私の命を狙ってくるということになるわね」

「ええ。
 しかし、王子がベルセルカとメサイアのもとに現れたときには何もしなかった。
 メサイアも王族ですし、ベルセルカの戦闘魔力の強さはご存じのとおりです。
 ただの気まぐれだったのでしょうか」

「わからないわ……。
 やはり、ユリウスのあとを追わねばダメね」


 王女の不意に伏せる目に、陰がただよう。
 ただ一人残った家族である弟のことを、敵と見なし続けなければならない状況はどれだけつらいだろう。


 それからしばらく、2人は話し合った。
 結果、各々おのおのが自分の手の者をつかい、ユリウス王子の行方について、悪魔の動向について、魔核について情報を集めると決める。

 協力する方が効率がいいのは確かだ。
 だが、オクタヴィア側の配下の者たちのなかにも、転生者への蔑視や偏見や恐れがある。
 レイナート側の配下との協調は、まだ難しいだろう。


「これからは、私の部屋に来るのではなく、執務室に私を呼び出しなさい」

「良いのですか」

国王あなた王女わたしでは、本来そうしないとおかしいでしょう?
 そうね、その際には必ず、ベルセルカか親衛隊の誰かを迎えに寄越してくれるかしら」


 つまり、国王であるはずのレイナートが、オクタヴィアのもとに出向くのは、そのまま、両者の力関係と皆にうけとられ、良くないということだ。といって、国王が王女を軽視していると見えてもいけないということ。だから迎えを、と。
 こういうバランス感覚は、まだまだ自分には欠けていると、つい嘆息した。


 用件が終わったので部屋を退出しようと立ち上がりかけたところ、

「ねぇ、レイナート」とオクタヴィアに声をかけられる。


「あなた、今後も各地を回るのよね?」

「ええ、少しずつですが……」

「その対象にティグリスを加えてもらうことは可能かしら?」

「……?
 ティグリスもいずれ見に行くつもりですが」


 王都の東北東方向の国境に位置する、ティグリス。
 国境というよりも辺境というべきであろうか、ドラコと同じように、領地の外には、モンスター密集地帯の森や密林が広がっている。

 オクタヴィア王女は、そこを領地とするティグリス公爵と結婚するはずだった。
 政局の都合による、望まぬ降嫁。
 しかし、新郎もまたユリウス王子に惨殺された。

 ちなみに、王族すなわち王佐公十三家のうち十二家の領地は、この王国の辺境十二方位を守るように配置されている。

 ラットゥスは北の国境線、タウルスは北北東~北東、そしてタウルスの隣で北東から東北東の国境に接しているのがティグリスだ。


「あの。何か気になることが?」

「ティグリス公にはかけらも好意はなかったけど、領地のようすは気にはかけていたのよ。
 いま、かなりの混乱があると、間諜から報告をもらっているわ」

「混乱? ティグリスには領主代行がいますが、定期報告では毎回問題ないと。
 何かおきているのですか?」

「……もともと、ティグリス公はかなり女性関係が派手、というよりも見境がなくて。『お手つき』の女性がかなりの数いたとか。
 そもそも本人が婚約直後、『将来、ティグリス公の子だと称する者が現れたら対処もお願いしますね妻として』、ってにこやかな笑顔で言ってきたのだけど、頬を張り倒さないであげた私を誰か褒めてほしいと思ったものだわ」

「ひどいですね。
 生前に教えてくださっていたら爆裂魔法でもぶつけておきましたよ」

「骨も残らない完全犯罪になったわね。
 お願いしておけばよかったわ」


 冗談に返ってきた言葉が、あまり冗談に聴こえない。


「……ということは、その、隠し子であると名乗り出ている者がいるのですか?」

「ええ。その対処に追われるほどたくさん、ね。
 領主代行としても、どこからどこまで報告するか、判断に困ってるのじゃないかしら」

「しかし、ティグリス公爵位の継承者が早々に確保できるかもしれないので俺としてはありがたい話です。貴重な情報を、ありがとうございました」

「ああ、もうひとつだけ、伝えておきたいことがあるわ」

「どうしました?」

「結婚式の大惨事以来、ティグリスでは反国王の気運がすごく高まっているわ。
 もし、城だけでなく町を見るのならば、そこでは絶対に正体を明かしちゃダメよ」

「………なるほど。
 転生者への反感が強い土地なのでしょうか?」

「少し違うけど、行けばわかるわ。
 相手がユリウスでない限り、あなたの身に万一があるとは思わない。
 だけど、ばれないように対応力が高く、ばれたときのためにできるだけ戦闘力の高い子を連れていってね」

「対応力と、戦闘力……」


 ――――こうして、レイナートとベルセルカは、地方行脚の順番を少し変更し、王女が心配する地・ティグリスを訪問することになったのだった。


   ◇ ◇ ◇


「ええー……ティグリス公ってそういう人だったんですかぁ。
 そんなイメージなかったからショックです……」


 レイナートとベルセルカは、今回は珍しく馬車で移動していた。
 オクタヴィアからの話をすると、ベルセルカがすごくげんなりした表情を見せる。


「俺も知らなかった。
 まぁ、俺の場合、社交界からは完全にハブられていたからな、そんな話が入ってくるわけもなかったんだが」

「私は、夜会にも呼ばれるから、たまに出たりはしていたんですけどね」


 気軽に言っているが、ベルセルカは恐ろしいほどモテる。
 夜会の場で求婚者同士の決闘が始まったのを止めるためにレイナートが呼ばれたことも、一度や二度ではない。
 ……というのはまぁ、おいておいて。


「そのあたり、貴婦人がたにはうまくバレないようにしていたんだろう。
 男同士の遊びの場では『50まで遊んで15の嫁を迎える』と公言してたそうだ」

「そのイキりは百歩譲って許しましょう。
 ですが、愛人の後処理をオクタヴィアさまに押しつけようと考えていたとか、なめてません!? オクタヴィア王女を!! 国の、至宝を!!!」

「ベル様、いつになくお怒りにゃ」

「……まぁ、あの男がいいそうな言葉だね」


 馬車の向かい側の席に座った同行者一人と一匹が応じた。
 一匹のほうは、いわずとしれた転生黒猫ナルキッソスである。
 ……では人のほうはというと。


「ね、アリアドネさまも腹立ちませんか!?」

「『様』をつけるのを止めろと言っただろう!?」

「わかりました!
 アリアドネも腹立ちますよね?」

「…………何なの、その距離感?」


 ハーフアップにまとめたハニーブロンドの髪に派手な美貌。潤んだ赤い唇。
 誇らしげに立ち上がる山のような、豊かな胸の膨らみ。
 地味なドレスをまとっていてなお、全身からこぼれでる色気。
 

 彼女こそは、亡きタウルス公爵の娘であったが転生者とされて奴隷として娼館へと売られ、その後悪党の身代を乗っ取って逆に悪行を尽くしたものの、通りすがりの国王に悪党狩りされ現在はタウルスの領主代行のもとで労役その他で罪をつぐない中の、アリアドネ・グラであった。



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