嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~
【第5話 南の楽園カバルス~国王の帰省~】(2)
(2)残酷な仮説
「ベルセルカから聞いたわ。
あなたたちは、あの結婚式の夜、魔法を使って戦場から見ていたのよね?」
「ええ。
ユリウス王子が、まずティグリス公を刺し貫いて、それから列席者の右側に」
「そのあと、私の方に来たわ。
この『封印』のせいで、私の魔力の出力量はものすごくひどく抑えられている。
反撃も何もできなかったわ」
「……つらかったでしょう」
「ええ」
いつもの力が自分にあればむざむざと殺させはしない中で、何もできず人が殺されていく。
オクタヴィアは、どれだけつらかったことだろうか。
「ただ、そこで違和感があったのよ……。
すぐには気づかなかったけれど。
みんなの命を奪っていったユリウスだけど、私が見ている限りは、誰の心臓も貫かなかったの」
「え?」
「一番最初のティグリス公でさえ、ね。
私が意識を失うまでの間だから、もしかして正確じゃないかもしれない。
でも、心臓が損傷なければ蘇生魔法で生き返らせることができる可能性が残るでしょう?」
「ええ。
蘇生魔法を使える人間は確かに限られますが……その場にはオクタヴィアがいらしたし、王城には医師もいた。
確実に殺そうとしたわけではない?
いや、そんなことは…」
思わず考え始めたレイナートは、ふと、あることに気づく。
「そのあと、俺が王城まで戻って、ユリウス王子と闘って、そうしたらユリウス王子が悪魔を呼びました。悪魔は大聖堂の中に入って……。
ああ、そう。大聖堂の中で死んだ方は、『心臓を食われて』いました。国王陛下、王佐公、奥方、ご子息、ご令嬢……身体がえぐられて心臓がなかった。
もしかしてユリウス王子は、王族男子を皆殺しにすることが目的じゃなく、心臓を悪魔に食べさせるために……?」
「はっきりしたことは言えないけど、『心臓』がひとつのポイントだと思うわ」
「……なるほど。
ありがとうございます」
しかし。
結局食べさせるなら、傷ついていても変わらないだろう。
では、心臓を食べたと思われていたが、そうではなくて、ただ、取り出されたとしたら?
レイナートは自分の心臓をおさえ、ふと、いつか部下の元冒険者ペルセウスから聞いたことを思い出した。
『ランクの高い冒険者しか知らないことですが、魔力の強いモンスターは、倒すと、『魔核』というものが手にはいることがあります』
『生物は、血中を血液や様々な栄養分とともに魔力が循環しています。
モンスターの心臓を傷つけず命を奪った場合、全身の魔力が一気に心臓に戻ってきます。そして』
『心臓が、魔力の結晶の宝石に変わるのです』
『権力者にそれを奪われることを恐れた冒険者たちは、その存在を、自分たちのあいだでずっと秘匿してきたようです。
ですので、王族もそれをご存じないでしょう』
そう言ってペルセウスは、採取したという魔核を見せてくれた。
真円を描くその宝石は、オクタヴィアの瞳のように深い青だったが、魔核の色は種によっても異なると、そう言っていた。
(……まさか。人間も?)
魔力の強い人間も、死んだときに心臓にそれができるのだろうか?
権力者にそれを知らせなかったのは、モンスターを奪われるからじゃなく、魔核を採取するために人間が殺されるかもしれないからだったとしたら?
もしそうだとしたら、その魔核を、ユリウスはどう使うというのか?
「何か、気づいたことがあったのかしら?」
「ええ、しかしまだ不確定なので、一度確かめたいと思います。ありがとうございました」
「役立ててくれるかしら」
「必ず。
お時間をいただき、ありがとうございました。
失礼いたします」
時間が惜しいレイナートは立ち上がり、深く一礼して、そのままオクタヴィアの部屋を出ていこうとした。
「レイナート」
「はい?」
「私は私の考えがあるから貴方の陣営には入らないけれど、ときどきなら相談にのってあげてもいいわ」
「…………いいのですか?」
「要らないなら来なくていいのよ?」
「いえ、ありがたくお言葉に甘えさせていただきます」
深々ともう一度、オクタヴィアに礼をし、そしてレイナートは王女の部屋を出ていった。
(そうか、盲点だった……。
てがかりは、足元にあったんだ)
早々に軍装に着替えるべく自分の部屋に向かっていると、廊下を後ろから走ってくる、聞き覚えのある少女の足音がした。
「お疲れさまです、レイナートさま!
ベルセルカ、ただいま戻りました!」
後ろから声をかけてきたのは、今日ドラコから戻ってくる予定のベルセルカだった。
ぴったり予定どおり、滞りなく、引き継ぎは済んだらしい。
鮮やかな赤髪、美しい顔に飾らない表情。
この顔を見るとホッとする。
「良かった、お疲れさま……」
本当なら少しは休ませてやりたいところだけど、今日はそういうわけにいかない。
……というか、あっちで休んでもらおう。
「悪い、ベル。
これから少し、付き合ってくれるか」
「はい!
どちらに向かいますか?
やはりティグリスか、クニクルスか、東の方向でしょうか? それとも」
疲れの様子も顔に見せず、ベルセルカは笑顔で返す。
抱きしめたい衝動をこらえ、レイナートは答えた。
「カバルスだ」
◇ ◇ ◇
「ベルセルカから聞いたわ。
あなたたちは、あの結婚式の夜、魔法を使って戦場から見ていたのよね?」
「ええ。
ユリウス王子が、まずティグリス公を刺し貫いて、それから列席者の右側に」
「そのあと、私の方に来たわ。
この『封印』のせいで、私の魔力の出力量はものすごくひどく抑えられている。
反撃も何もできなかったわ」
「……つらかったでしょう」
「ええ」
いつもの力が自分にあればむざむざと殺させはしない中で、何もできず人が殺されていく。
オクタヴィアは、どれだけつらかったことだろうか。
「ただ、そこで違和感があったのよ……。
すぐには気づかなかったけれど。
みんなの命を奪っていったユリウスだけど、私が見ている限りは、誰の心臓も貫かなかったの」
「え?」
「一番最初のティグリス公でさえ、ね。
私が意識を失うまでの間だから、もしかして正確じゃないかもしれない。
でも、心臓が損傷なければ蘇生魔法で生き返らせることができる可能性が残るでしょう?」
「ええ。
蘇生魔法を使える人間は確かに限られますが……その場にはオクタヴィアがいらしたし、王城には医師もいた。
確実に殺そうとしたわけではない?
いや、そんなことは…」
思わず考え始めたレイナートは、ふと、あることに気づく。
「そのあと、俺が王城まで戻って、ユリウス王子と闘って、そうしたらユリウス王子が悪魔を呼びました。悪魔は大聖堂の中に入って……。
ああ、そう。大聖堂の中で死んだ方は、『心臓を食われて』いました。国王陛下、王佐公、奥方、ご子息、ご令嬢……身体がえぐられて心臓がなかった。
もしかしてユリウス王子は、王族男子を皆殺しにすることが目的じゃなく、心臓を悪魔に食べさせるために……?」
「はっきりしたことは言えないけど、『心臓』がひとつのポイントだと思うわ」
「……なるほど。
ありがとうございます」
しかし。
結局食べさせるなら、傷ついていても変わらないだろう。
では、心臓を食べたと思われていたが、そうではなくて、ただ、取り出されたとしたら?
レイナートは自分の心臓をおさえ、ふと、いつか部下の元冒険者ペルセウスから聞いたことを思い出した。
『ランクの高い冒険者しか知らないことですが、魔力の強いモンスターは、倒すと、『魔核』というものが手にはいることがあります』
『生物は、血中を血液や様々な栄養分とともに魔力が循環しています。
モンスターの心臓を傷つけず命を奪った場合、全身の魔力が一気に心臓に戻ってきます。そして』
『心臓が、魔力の結晶の宝石に変わるのです』
『権力者にそれを奪われることを恐れた冒険者たちは、その存在を、自分たちのあいだでずっと秘匿してきたようです。
ですので、王族もそれをご存じないでしょう』
そう言ってペルセウスは、採取したという魔核を見せてくれた。
真円を描くその宝石は、オクタヴィアの瞳のように深い青だったが、魔核の色は種によっても異なると、そう言っていた。
(……まさか。人間も?)
魔力の強い人間も、死んだときに心臓にそれができるのだろうか?
権力者にそれを知らせなかったのは、モンスターを奪われるからじゃなく、魔核を採取するために人間が殺されるかもしれないからだったとしたら?
もしそうだとしたら、その魔核を、ユリウスはどう使うというのか?
「何か、気づいたことがあったのかしら?」
「ええ、しかしまだ不確定なので、一度確かめたいと思います。ありがとうございました」
「役立ててくれるかしら」
「必ず。
お時間をいただき、ありがとうございました。
失礼いたします」
時間が惜しいレイナートは立ち上がり、深く一礼して、そのままオクタヴィアの部屋を出ていこうとした。
「レイナート」
「はい?」
「私は私の考えがあるから貴方の陣営には入らないけれど、ときどきなら相談にのってあげてもいいわ」
「…………いいのですか?」
「要らないなら来なくていいのよ?」
「いえ、ありがたくお言葉に甘えさせていただきます」
深々ともう一度、オクタヴィアに礼をし、そしてレイナートは王女の部屋を出ていった。
(そうか、盲点だった……。
てがかりは、足元にあったんだ)
早々に軍装に着替えるべく自分の部屋に向かっていると、廊下を後ろから走ってくる、聞き覚えのある少女の足音がした。
「お疲れさまです、レイナートさま!
ベルセルカ、ただいま戻りました!」
後ろから声をかけてきたのは、今日ドラコから戻ってくる予定のベルセルカだった。
ぴったり予定どおり、滞りなく、引き継ぎは済んだらしい。
鮮やかな赤髪、美しい顔に飾らない表情。
この顔を見るとホッとする。
「良かった、お疲れさま……」
本当なら少しは休ませてやりたいところだけど、今日はそういうわけにいかない。
……というか、あっちで休んでもらおう。
「悪い、ベル。
これから少し、付き合ってくれるか」
「はい!
どちらに向かいますか?
やはりティグリスか、クニクルスか、東の方向でしょうか? それとも」
疲れの様子も顔に見せず、ベルセルカは笑顔で返す。
抱きしめたい衝動をこらえ、レイナートは答えた。
「カバルスだ」
◇ ◇ ◇
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