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嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~

真曽木トウル

【第4話 東南東の秘境ドラコ】(18)

(18)聖騎士団長の一矢


「どういうことだ!?
 予定よりも1時間も早いなんて……」


 ドレイクが困惑の声をあげる。


「……おそらくは、モンスターとの攻防を見て、こっちがある程度の情報を把握していると踏んだのよ。
 だから逆に情報が洩れている前提で、1時間予定よりも早める指示を出したんだわ」


 メサイアが剣を抜きながら、ため息とともに推測を吐く。


「……あの“聖女”は来ているのかしら?
 それとも……」


 マーティア・ホプキンズの正体はいまだわからない。
 イヅル・トマホークの言った、突然変異で強力な魔力を持って生まれた令嬢なのか。

 レイナートと結婚させられそうになり、それが断られたのは何か影響しているのか。
 しかし、所詮は政略結婚なのだから、そんなことで私怨などあり得ない気もする。


「ドレイク!!
 ベルセルカを追って!!」

「え?」

「まだ移動中で指示が出せないベルセルカを、誰かが狙ってくるかもしれない。
 私よりも、あんたのほうが強い。
 誰か、ドレイクに馬を貸して!!!」

「いや、でも、ここの守りが薄く……」

「逆に考えて!
 もしベルセルカが殺されれば、つぎにみんなが殺される。
 だって聖女が警戒すべき最大の相手がいなくなるのよ。
 レイナートがここにいるならまだしも、あの子はいま王都でしょう?」

「…………!!!」

「逆に言えば、あの子が無事なら、その存在がみんなを守るわ。
 行って!!」


 うなずくと、ドレイクは、ドラコ兵が差し出した馬にのり、駆け出した。


(たとえ万が一、“聖女”が直々にベルセルカの命を狙ってきたとしても。
 ドレイクがいれば、きっと)


 あくまでも万が一、だ。
 これまでの聖騎士団がやってきたことからあの女の性格を考えれば、おそらくベルセルカと直接ぶつかりはしないだろう。
 むしろ、仲間を狙う。
 それも、よわいところから、いたぶるように殺していくだろう。
 精神的なダメージを与えるために。

 ……自分はなんてこどもだったのだろう、とメサイアは最近しばしば思う。
 自分より年下のレイナートとベルセルカは、子供の頃からこんな命のやりとりに身を投じているのに。
 せめて、みんなの士気をあげたい。


「さぁ、みんな、ここを踏ん張れば防衛成功よ!!
 ベルセルカは決して仲間を見捨てたりしない!(と思う!)
 腹をくくって、生き残るわよ!!!」


   ◇ ◇ ◇


「……すっかり、わたくしのプランを崩してしまったものね、デメトリオ・エセキエル……!!!」 


 しかしメサイアの予想に反して、怒りを口にしながら、“聖女”マーティアは、飛んでいた。
 飛行魔法のような難易度の高い魔法がつかえるわけじゃない。
 そもそも王国で飛行魔法をつかえるのはユリウス王子ぐらいだと聞いている。

 マーティアを乗せているのは、国教会で大切に飼育されている、神からつかわされたと信じられている生物、翼のある白馬、ペガサス。
 その背に乗って、いやその首にしがみついて、空から、憎むべき相手を、いや征東大将軍を捜していた。

 本当なら、先ほど報告者に話したように、カバルス軍やドラコ軍を先に自分の魔法で壊滅させておきたかったのだ。
 仲間を殺し、絶望させてから、ベルセルカをじっくりと殺す。
 そうしたかったのに、なのに、それができなくなってしまったことを、鏡を見た瞬間さとった。
 ドレスは着替え。ヴェールをかぶり、身支度を整え、化粧をした。それでも。 

 夜の闇のなか見つけ出すのは困難ながら、少数のお付きのものが松明を掲げている一行が目にとまる。
 馬に乗っているのは、鮮やかな赤髪の娘だ。


(先日、あの場で殺しておけばよかったのかもしれない。いえ、もっと早く)


 なぜかあの場では気圧されてしまったのだけど、憎むべき彼女の名前はずっと知っていた。
 こどものころ、カバルス公から結婚を断られた直後から、噂は耳には入っていたのだ。


『幼少ながら美少女と名高いアースガルズ家のご令嬢を、こともあろうに首筋に奴隷の烙印を押された例の王族レイナート様がつかまえてしまった』

『アースガルズ家のベルセルカ殿ときたら、王国最高の美貌をお持ちでありながら、レイナート様の騎士を気取っている』

『数多の求婚者の方々もお心を射止めようと奮闘していらっしゃるのに、全員を袖にして、なんと戦場にまでついていくのだ。幼なじみだからというが、やりすぎではないか』


 手元で魔力を強めていく。
 憎きベルセルカ・アースガルズ。
 自分が死んだことにも気づかないまま、ちりも残さず消えればいい。


「〈大炎神フラマ・デイ・マグヌス〉!!!」

「――――〈反射鏡レフレクタ〉」


 信じられないことに、放った特大の火球が、倍のスピードで打ち返されてきた。
 その炎にまかれ、ペガサスが悲鳴を上げ、落ちていく。

 ペガサスはそのまま、地面にたたきつけられ―――るかに見えたが、その寸前でふわりと何者かに支えられるように一瞬、浮いて、ゆっくりと地についた。
 馬上からベルセルカがこちらに手を伸ばし、何かの魔法を使っている。


「ぎりぎり間に合ってよかった!
 ペガサスとはいえ馬を殺してしまったら、カバルス軍が全員激怒しますからね」

「…………のんきなことを」


 先日とはまるで口調の違う、憎むべき相手を見据え、マーティアは地面に降り立った。弱ったペガサスは、もう馬としては役に立たないだろう。
 ベルセルカも下馬する。
 おつきの者たちは、何か指示がすでにあったのか、すでに遠くまで逃げている背中だけが見えた。


「しばらくぶりですね、マーティアさん!」

「わたくしが貴女のもとに来ることを見越していたとおっしゃるの?」

「私、国教会支部にちょっと、状況がわかる自分の私物を置いていたので!」


 マーティアは知る由もないことだが、ベルセルカは〈見える鏡ミラレ〉という光魔法を使えた。
 非常に離れた場所の状況を見るとき、その場所に魔道具の鏡を置く。
 そちらの鏡に映ったものは、手元の鏡で自由に見ることができるのだ。
 黒猫ナルキッソスがこっそりと、国教会に数か所鏡をしかけていた


「――――貴女、わたくしが何者か、ご存じですの?」

「……なんか魔力がすごい人ですっけ?」

「そう、ならば、教えて差し上げますわ。わたくしは―――」


 マーティアが何か言おうとしたとき、一瞬で距離を詰めたベルセルカが、すでに目の前にいた。
 剣先で、ヴェールが払われ、マーティアが隠していた額から目元、そして頬があらわになる。


「……ずいぶん、ひどいやけどを負いましたね」
「!!!!」
「さっきの爆炎のせいですか?」


 マーティアは、デメトリオの魔法によって、美しい顔の一部を焼かれていた。
 濃く塗った化粧でも隠せないほどに。


「やけどそのものは、〈治癒サナーレ〉系の治癒魔法で治せます。
 でも、やけどのあとまで治すのは、レイナートさまが開発した〈再生治療クラティオ・レゲネラチオ〉じゃないと。
 だから、人前に出たくなかったから、私のほうに来たんですか?」

「…………」


 あれもこれも、元団長の不届きな炎魔法のせいだ。
 プランは何重にも組んでいたのに、すべてがめちゃくちゃになり、マーティア自身も冷静な判断ができなくなってしまった。
 死んでまで邪魔をするなんて……。


「――――マーティアさん。降伏しませんか?」

「…………?」

「あなたよりも魔力が弱い私が言うのはおかしいと思われるかもしれませんが。
 その火傷、レイナートさまなら、治してくださいますよ?」


 マーティアは混乱した。
 目の前の女が何を言っているのかわからなかったのだ。
 しかし、『憐れみをかけられた』のだと解釈したマーティアは、激高する。

 その手のひらに、再び魔力を集めていく。



「―――――――ドラゴンが!! ドラゴンが出たぞおおおお!!!」


 遠くで誰かが叫び、さらに、その次の声にマーティアはハッとした。


「――――国王陛下だ!!
 国王陛下が、ドラゴンに乗って、王都から我々を助けに来てくださった!!!」


   ◇ ◇ ◇

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