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嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~

真曽木トウル

幕間3ー1 グラッド隊長の転生者研究

   ◇ ◇ ◇


「………で、イヅル? なんでこんなやつ連れてきたんだ?」


 ラットゥス領北辺の兵舎にて。
 カバルス軍、剣闘騎兵隊隊長グラッドは、年齢に似合わぬ、不満が駄々洩れた声を上げた。

 骨太で恵まれた体格を20年以上も実戦で鍛え上げ、カバルス軍の中では五本の指に入る強さを自負するこの男は、自分は少々のことでは動じないという自信も抱いている。

 だが今は、自分より10歳以上若い上司であるイヅル・トマホークが連れてきた囚人に、眉をひそめていた。


「おれから陛下に提案して、カバルス軍に譲り受けた。
 グラッドのところにどうかと」


 目の前の椅子に腰かけ、生真面目な口調、落ち着いた声音の女の声で話す26歳のイヅルは、カバルス軍の総長。『異世界人』の転生者だ。
 前世は男、今世は女の体に転生しつつも自己認識では男。かなりの長身で手足の長い、中性的な整った顔立ちで見た目は大変『良い女』なのだが、非常に腹立たしいことに、グラッドの100倍は女にモテる。爆(は)ぜればいいのに。


「そうは言っても、こいつ、こどもを誘拐して売り飛ばしていた山賊の親玉じゃねぇか。
 余罪もすげーあったんだし、普通に考えりゃ、処刑一択だろ?」


 グラッドの視線の先は、イヅルの長い長い脚の下に縛り上げられて転がされた、けむくじゃらの大男に向いていた。
 先日ラットゥスで捕まった山賊の一団の首領である。
 反省など欠片もしていないような反抗的な目を時折向けてくる。


「大体、いま剣闘騎兵隊は9割が奴隷出身なんだぜ?
 心の傷ってやつは、ほとんど一生付き合ってくしかねぇ。
 みんな定期的に、レイナート様や医師から精神治癒を受けてる。
 そんな中に、あらたな奴隷をうむ稼業をしていた奴なんざ、入れられねぇよ」

「いや、そっちじゃなくて」


 イヅルは足を組み替えた。
 革の胸当てを突き上げる大きな胸。
 いらないので取ってしまいたいとよく言うソレをつぶすように腕を組むイヅル。


「オーガからの転生者だ。この男は」
「オーガからの? そいつは珍しいが……自己申告か?」
「おれと闘った時に<前世還り>したから、間違いない」
「………って、『俺のところ』ってそういう意味かよ。転生者研究のほうね?」
「そういうこと」


 はいはい、と納得すると、

「じゃあいつまで転がしてんだ気がきかねぇなぁ。話聞かなきゃ仕方ねぇだろうが」

と、グラッドは上司に悪態をついた。

 その言葉を待っていたように周囲の剣闘騎兵たちが椅子を持ってくる。
 グラッドが剣を振るうと山賊の首領を縛っていた縄がパラリと切れた。
 イヅルに顎で促され、首領はしぶしぶの様子で椅子に腰かける。


「よう、オーガ。イヅルに殴られたんなら痛かったろ。おめぇの名は?」

「…………」

「俺は剣闘騎兵隊隊長グラディオ・ディアマンテ。
 30年前に先代カバルス公に買われ、軍に入った元奴隷だ。
 ちなみに、自分が転生者かどうかはわからねぇ」

「……わからねぇ?」

「転生者だと認定された理由は、5歳の頃に見た、自分が空を飛ぶ夢だ。
 それを、親に話したら、それは前世の記憶だ、お前は鳥かなにかの転生者だ、と言われて教会行きよ。
 まぁ口減らしだわな」

「……………………」


 山賊の首領は絶句した。


「笑っちまうだろう?
 誰でも見るような夢、前世の記憶かどうかも本人の確証が持てねぇのに、即有罪、即奴隷決定なんてよ」


 いにしえの魔女狩りと同じように、とにかく有罪ありきなのだ。


「あんまり腹立ってな。
 カバルス公に買われた時にお願いしたんだわ。
 奴隷をこれからも兵として買うんなら、俺に転生者を研究させてくださいってよ。
 調べ上げて、この制度が理不尽なものだって証明してやるってな。
 それから地味に30年間……」


 グラッドは立ち上がると、自分の荷物の中から、おびただしい数の本らしきものを取り出した。
 走り書きした紙の束を、紐でとじたものである。


「これはほんの一部だ。
 カバルス公に買われた奴隷すべて、15年前に領内で奴隷が禁止されてからは、解放された元奴隷たちすべてに、俺が聞き取り調査をした。
 お前がぼこぼこにやられた、そこのイヅル総長のものもあるぜ?」

「聞き取り調査だと…?」

「ああ。
 出身地。奴隷になった経緯。
 教会経由の奴隷か、そうでないか。
 烙印は本物か、そうでないか。
 転生前の記憶があるか、ないか、あいまいか。
 転生前は人間か、それともほかの生き物か、この世界からの転生か、異世界からか。
 転生者と審判された理由。
 審判した聖職者の名前。
 その他もろもろ……調べたら、いくつか面白いことがわかってなぁ。聞きたいか?」

「――――さぁ、べつに」

「まぁ、聞けや。
 俺が聞き取り調査をしたうち、本人が転生者だとして教会に烙印を押されたのは、いまのところ奴隷一万人あたりおよそ四千人。
 うちの陛下みたいに、転生者が産んだこどもだとして教会に烙印を押されたのは、一万人あたり五百人――――」

「つまり、半分以上が、おまえたちがやったように、教会以外の人間が勝手に押したニセ烙印だ」


 イヅルが突き放すように口をはさむ。


「まぁ、教会で烙印を押された奴隷の母親から産まれたが、奴隷商人や持ち主が、教会に連れて行く手間を惜しんで自分たちで押した……なんて例も確認できたがな」

「……結局、どれぐらいが偽物だったんだ」


 山賊の首領が、かすれた声で尋ねてきた。


「本当は奴隷にならずに済んだ人間が、どれぐらい……」

「そこなんだよ。いまのところ、転生者かどうかを審判するのは、ほとんど『前世の記憶をもっているのか』以外にねぇ。
 まず転生者だと本人が確証を持っていたのは、烙印を押された奴隷一万人あたり、たったの千人弱。
 俺みたいなおぼろげな、前世だか夢だかわからん記憶を持っているという奴や、子どもの頃に前世のことを語ったらしい、いまは記憶がないが…っていう奴をいれても、三千人。
 それからなぁ。うちの若(わか)みたいに、母親が奴隷だったって理由で烙印を押された奴の中で、本人が転生者だったと確証を持ってる例は、いまのところ確認されてねぇ。
 ついでに、そこのイヅルみてぇな異世界人は、烙印奴隷一万人のうち、たったの五人。超激レアだ」


 山賊の首領は思わず目を閉じ、息を漏らした。

 かつての自分の仲間たちの人生に、思いをはせているのだろうか…?


「いろいろなパターンがあるなぁ。
 転生者であることが発覚して教会で烙印を押された奴。
 転生者でもないのに、転生者だと言われて教会で烙印を押された奴。
 転生者なことをひた隠しにしていたのにそれと関係なく、誘拐されてニセ烙印を押された奴。
 転生者じゃないが、誘拐されてニセ烙印を押された奴……」

「――――ニセの烙印なら、あの“陛下”が消せるのか?」

「うちの若が消してたとこ、その目で見たんだろ?」

「教会が押した本物の烙印は?」

「あー……そこから先は、俺の調査に協力してからだ」


 凶悪な形相の男の頭を、グラッドはぽんと叩く。
 その首には、ぐるりと首巻がまかれていて、烙印の有無はすぐにはわからない。


「さっきもいったが、こいつは、この国の転生者裁判や奴隷制度がいかにめちゃくちゃかを証明するもんだ。
 俺がまとめてたこの調査が、18年前に産まれたばかりのレイナート様を国教会の魔の手から守り、15年前の転生者法改正の交渉材料につながり、カバルスじゃ奴隷制度がなくなった。
 それから15年。若干18歳の我らが御大将が、なんと信じられないことに国王陛下さまだ。
 千載一遇のチャンスだと思わねぇか?
 元奴隷の俺たちの力で、今度は国全体を変えられるかもしれねぇ」


 首領のひざの上の手が、いつの間にか握られ、震えていた。


「俺たちも数えきれねぇ数の人間たちを殺してきてる。
 罪滅ぼししろなんてしたり顔で言える立場じゃねぇが……。
 自分と同じ立場の人間を助けてみたくねぇか?」

「……質問に……」

 首領が、口を開く。「答えればいいのか?」


 グラッドが静かに微笑む。


「ああ。―――まず、おまえの名は?」 



【幕間3ー1 了】

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