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嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~

真曽木トウル

【第3話 北の農耕地帯ラットゥス】(9)

(9)最強布陣をつくるのは





 一瞬で女の体に戻り、胸をおさえて着地するイヅル。同時にオーガは人間の姿に戻り始めた。

 服を確かめる。
 胸を巻き固定していた布がちぎれたぐらいで、服の方には損傷はない。

 イヅルの着ている黒いシャツの構造にも工夫がある。
 身頃が大きく重ねた前合わせになっており、変身で胴体が大きくなって力がかかれば、留め具が自然に外れるようになっているのだ。


 留め具さえ直せば、ちょっと胸がすーすーする以外は、特に問題なし。


 転生者特化型魔法〈前世還り〉を使う転生者たちにとって、服が破れないように、というのは死活問題だった。
 なにせ、イヅルが前世いた世界と異なり、服もそうそうぽんぽん買えるものではない。みんな繕いに繕いを重ねて着ているのだ。

 とはいえ、とっさの変身で服をまるごとダメにしてしまうケースもあるのだけど。


「………ちょ、うしに、のる…な…」


 オーガから、完全に素っ裸の中年男に戻った首領が、地面に伏し、ピクリとも動けないながら、うめく。
 山賊たちは、ほぼ、掃討されていた。


「ここを、ただの、穴だと、おもう、なよ……」

「知ってる。
 下級のダンジョンだろう?」

「……!? なん、で、気づいて!!」

「うちには何でもお見通しの姫君がいるからな。
 昨日、砦を見つけられた際に、その中まで透視され、確認された。
 よくこんなところを砦にしようと思ったな、おまえたちは?」


 首領の顔色がぐっと、白くなった。

 ダンジョン、とは、元は城の塔や地下室を指した言葉であると言う。
 それが転じて、悪い気が溜まった地下に自然発生する、あるいは何者かによってつくられる、霊体中心のモンスターの巣窟を指すようになった。

 ダンジョンの入り口の浅いところ、モンスターがここまではあがってこないというところまでに居住する。おそらくは奥にもうひとつの扉をつくっているのだろう。
 そして何者かの襲撃を受けた際、その扉を開放し、モンスターに襲撃者を襲わせる。
 モンスターの存在を知っている山賊たちは、その隙に逃げるという算段ではないか。
 ……と、いうのが、朝ベルセルカが述べた推論だったが、どうやら首領の顔をみる限り、合っていたようだ。


「ふ、ふ、ざけるな!!!
 少しでも刺激すれば中のモンスターたちが黙ってねぇ!!!
 おまえら、このままみんな、食われちまえ!!!」

「もうひとつ教えてやろう。
 うちにはな……」


 イヅルが何か言いかけたその時に。

 彼の足元に、ふっ、と転移魔法で現れた男、否、少年がいた。
 背中に、自分の体がすっぽり入りそうなほど大きい、ゴツイ宝箱を背負っている。


「イヅル総長!
 ただいまダンジョン、クリアいたしましたッ!」
「うむ。重畳」
「ではお約束どおり特別褒賞として、最深部のお宝、謹んで受け取らせていただきます!」


 金髪碧眼、声変わりもしていない13歳ぐらいの少年は、当たり前のように報告する。


「なんだよ、お、面白くもねぇ冗談、いいやがって……!!」
「いや、本当だ」

「こ、こんなこどもが?
 それに、あんな短時間じゃ、ダンジョンの第一層もいけねぇだろうが……!」


 しかしイヅルの言葉を証明するように、穴から続々と兵たちが無事に出てくる。

 山賊たちを連行しながら、さらわれたこどもたちをつれながら。
 モンスターは、スケルトン一匹出てくる気配がない……?

 改めて、イヅルは首領に説明する。


「彼の前世は、有史以来5人しかいない“聖王級冒険者”だ。大陸じゅうのダンジョンを300以上鏖殺クリアしている」

「なんでいきなりそんな奴が出てくるんだよ!?」


 イヅルの口上に、首領は叫び声で返した。


「ズル…い…だろ、透視でダンジョンがわかる奴といい、おまえといい、なんで、そんな奴までもが…………」


 “なんで、そんな凄い奴が、強い奴が、集まっているのか”


 言いたいところはそんなところか?
 正確に言えば、その主が一番すごくて強いのだけど、それはおいておいて。

 そんなの、答えはひとつしかないだろう?
 胸を張ってイヅルは答えた。






「うちのだけだからさ。転生者おれたちを人として愛してくれる『王』はな」


   ◇ ◇ ◇


「どや顔してるところ悪いんですけど、イヅル」

「ベ、ベルセルカさま!?」

「ちょっとそこの薄汚い方、そのまま伏せたままで良いので答えてください」


 さらわれたこどもらしい、10歳ほどの少年を連れたベルセルカは首領に寄ると、美貌に珍しくにらみつけるような表情を浮かべ、きつい口調で問いただす。


はあなた方がやったのですか?」


 少年の首筋に、生々しくも痛々しい、焼き印のあとがあった。






   ◇ ◇ ◇

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