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嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~

真曽木トウル

【第3話 北の農耕地帯ラットゥス】(3)

(3)突然の濡れ衣


   ◇ ◇ ◇

「一見すると、良さそうな町なんですけどねー」
「ん?」


 ラットゥスの町の、路傍ろぼうの一角。
 石造いしづくりの井戸のふちに腰かけて、ベルセルカとレイナートは町並みを見つめている。

 袋の中の焼き栗を、交互につまむ。
 つるつるした固い殻の中に、また薄い皮があって、その中に美味しい実が入っている。ほかほかとした温かさが、指先で口の中で、すぐに冷えていってしまうのが惜しい。

 優しい甘さを舌で探るように、ベルセルカは一つ一つ、丁寧に食べている。


「私たち、視察しにきたわけですけど、町の皆さん穏やかで親切で、治安もよい印象でしょう?」

「そうだな、見た限りは」

「でも、考えちゃうんですよね。
 この人たちも、レイナートさまやイヅルの烙印を見たら、態度が変わるのかなぁ、とか」

「カバルスも、奴隷廃止と、元奴隷の溶け込みと教育のために、相当時間をかけたんだ。もし俺たちが明日法律を変えられたとしても、すぐには人の意識は変わらない」

「それはわかるのですが」


 無理矢理にでも法さえ変えてしまえば、できることも増えるのではないだろうか?と、ベルセルカは思う。

 『転生者は生まれながらに大罪人』だなんて嘘ばかりだ。
 イヅルにも詳しく話を聞いた。彼が前世で死を迎えたあとの次の記憶は、この国に生まれ物心ついた時のことだという。
 転生者であることを隠し、普通の女の子として生きていたイヅル。
 けれど、7歳の頃、近所の年上のこどもに性的悪戯をされそうになり、抵抗して前世の格闘技を使ってしまった。
 その結果、嫌がらせのように教会に『密告』をされ、烙印を押されて奴隷にされたのだと。

 国教会が主張するような『女神から二度目の生を得た』と称する転生者には、ベルセルカは会ったことがない。
 それに『この世界にあってはならない力』を持っていたり『存在するだけで世界を乱す』なんて転生者も、ひとりも見たことがない。

 国教会の主張する『転生者』像は、ほんものの転生者と話したことも触れ合ったこともない人間が、頭の中だけでつくりあげた現実と乖離かいりした仮想敵を喧伝けんでんしているだけではないのか?
 そもそも転生者たちだって、運命のままにこの国に生まれ落ちてしまったのなら、それは本当は神が与えた生なのではないか?

 いま、転生者かそうでないかを見分けるのは本人の記憶のみ。
 だけど時には、その前世の記憶すら、失っていることもあるのだという。

 ……それでも、ただ転生者であるという生まれだけでひとくくりにされて、人として当たり前に生きることを、奪われ続けなければならない?

 ただただ、理不尽だ。

 戦場で数えきれないほど無差別に人を殺したベルセルカが、人の尊厳などと考えるのは、まぁ誰が聞いても『お前が言うな』案件だろうけど。


 いや――――そもそもこの国では、殺人はさほど悪ではないのだけど。


「そんな顔するなよ、ベル。
 俺はあきらめていない。
 新しいものは受け入れてもらうまでに時間がかかるというだけだ」

(受け入れてもらう、ではなく、受け入れさせる、ではだめなのでしょうか?)


 転生者に関して間違っているのは、この国と国教会、そして国民だ。絶対に。
 この瞬間にも、転生奴隷が虐待で殺されているかもしれない。
 理不尽な暴力に対し、譲歩する理由などあるだろうか?


(必要があれば、私が、この手で)


 ――――自然と、抵抗勢力を殺すことを考えていたベルセルカは、ふと、我に返った。
 すでに自分自身が、この世界の暴力の一部だ。
 それも、かなり理不尽な側の。

 うん、話をかえよう。


「亡きラットゥス公のお兄様、爵位継承と領主の地位をご承諾くださるでしょうか?」

「断固として受けないようなら、別に領主を立てるしかないけどな」

「もしすぐに決められないとしたら、私たち、この土地には何ができるでしょう?」

「んー……」

「みなさんに困ってることを聞き取りします?」

「最近では、いつまでカバルス軍が駐留しているのか、という不安があると聞いている」

「カバルス軍はかなり規律がしっかりしていますよね。それが駐留して不安だなんて」

「……そうだな」


 転生者が多いとされるカバルス軍への偏見のせいであってほしくないな、とベルセルカが思っていると、栗は最後のひとつになっていた。
 引っ込めるベルセルカの手に、レイナートが最後のひとつを握らせる。

 皮をむき、ぱく、と、もうすっかり冷えた焼き栗を口に入れた。その時。


「――――いやがった!!
 あそこだ!!!」


 妙に殺気立った声が聞こえたかと思うと、レイナートとベルセルカの2人を、瞬く間に数人の男たちが囲んだ。

 身なりからすると、町の人間ではなく、近くの農民らしい。

 しかし、先のとがった農具を武器のようにかまえている。


「いったいどうした?」
「てめぇら、人さらいの仲間だな!?」
「…………は?」


 ひいふうみい、男たちは5人いる。


「カバルス軍でもない、見慣れねぇヨソ者ども。
 しかも妙にこぎれいな服を着やがって」


(え、そんな理由!?)


「しかも、2人そろって、首を隠してやがる!
 男のほうは、さっき首巻から烙印が見えた。
 薄ぎたねぇ、転生者どもめ…!!!」


 ベルセルカは舌打ちをした。

 この国の民は、矛盾した思考回路を持っている。
 転生者をさげすみ、売買し、都合よく奴隷として使い、人が嫌がる仕事を押しつけているくせに、何か悪いことが起きれば転生者のせいにし、憎悪し、恐れる―――まるで転生者が、神をも脅かす力を持った悪かのように。

 なにより、レイナートを侮辱ぶじょくするなど、万死ばんしあたいする。

(うん、とりあえずるか)と立ち上がりかけたベルセルカを、レイナートが手で制止した。 


「人さらいがいるのか?」

「何をとぼけやがって」

「誰がさらわれた? さらった先は? 人買いとつながってるのか? 誰が買ってる?」


 ベルセルカが一瞬呆けるぐらい、むしろ先程のイヅルより厳しい口調で、何よりいつもより恐いぐらい低い声で、レイナートが彼らに詰問する。


「は………!?」
「なん……え!?」


 遅ればせながら、ベルセルカは気づいた。
 レイナートが、その場にいる全員、拘束魔法で動きを止めているのだ。いつのまに。

 そしてその横顔は、静かな怒りで満ちている。


「……動けねぇ!」「なんだよこれは!!」気づいた男たちが、騒ぎ始める。


 脂汗あぶらあせをだらだらかきながら、恐怖に震え始める男たちに、もう一度レイナートは尋ねた。


「もう一度聞く。いったい、誰がさらわれた?」

「………こ、このっ!!」

(!!)


 レイナートが動きを止めていた者たち以外にも仲間がいたらしい――2人の女が、先のとがった農具を振り回してこちらにかかってきた。

 ベルセルカは農具を、武具魔法〈スクートゥム〉で止める。耳障みみざわりな金属音が響くなか、1人の足元に滑りこんで、地面すれすれを回転しながらかかとで足を払い転倒させる。
 さらに転がる勢いで立ち上がりながらもう1人の懐に入り込み、その顔面に掌底を叩き込んで、気絶させた。


 レイナートが立ち上がりながら、ため息をつく。


「兵舎で、話を伺いましょう」


   ◇ ◇ ◇

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