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嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~

真曽木トウル

【第3話 北の農耕地帯ラットゥス】(2)

(2)異世界武術つかいの教育係


   ◇ ◇ ◇


 カバルス軍簡易兵舎の、総長室にて、レイナート国王とベルセルカは、イヅル・トマホークに丁寧にさとされていた。


「魔法を使わない人間であっても、コンディションが悪ければどんなに気合いと根性でがんばってもパフォーマンスが落ちるんですよ。何度も言ったでしょう? 魔法は、それ以上に露骨に体調の影響を受ける。
 陛下がいま優先すべきは、おのれの体調管理。お体を良い状態に保つことです。
 良く寝て栄養のあるものを食べて、ストレスは溜めず過労はせずに、ほどよく鍛練で体をしごいてください。せめて抜き打ちで確認しても魔力残量8割をずっとキープするぐらいには」


 豊かな胸を持つ女の姿に、低くはない女の声だが、軍と変わらずピシピシと指導してくるイヅルは何とも言えぬ威圧感がある。

 まったくもって正論だが、国王という仕事においては難しいことばかりなのだが。


「……領主を失った領地の仕事が」

「最優先で一刻も早くレイナート様の代わりにご判断できる方を置いてください。カバルスはそのように組織を作っていったでしょう?」

「一朝一夕にそんなもんおけるか!?」

「ではカバルスから派遣させましょう、早急に」

「ぐ……それは助かる……」


 完全に封じられた。

 先代カバルス公に保護された元奴隷のイヅルは、赤ん坊の頃からレイナートの面倒を見ることになり、付き合いも早18年。

 異世界ではこどもに武術を教えていたそうで、その経験とあちらで得た知識をもってレイナートの成長を支えた。

 一方、女の体に生まれてしまったハンデはありながらも、イヅルは戦闘技術と魔法スキルを磨いてきた。その力を買い、昨年カバルス軍の総長にレイナートが任命したのである。
 いまは基本的には『レイナートのいないところ』で仕事をする人間なのだが、それでも変わらずイヅルはあるじにたいして過保護かつスパルタである。

 加えて、前世40年今世26年の人生経験。
 すなわち、だいたい主は言い負かされる。


「それと、戦闘になる可能性があるならば、言ってくださればそれなりの兵をつけます。少数で不用意な行動は、やめていただきたく」

「……軍勢率いて城を囲めと? 公爵家を継いでくれないかという話をしに行くのに?」

「陛下。人間は、自分より弱く見える相手は常になめてかかるものです」


 一気にイヅルの話がなんだか卑近になった。


「数が少ないことが、相手から見れば屈服させやすそうに感じることもある。たとえ実際には強かろうと、要らぬ戦いを招いてしまう。
 いざというとき自分が戦えばいい、そんなお考えは捨ててください」

「………おまえが言いたいことはわかった。善処する。でも、一人であってもリスクをおかしても『その時』に動かなければいけないときもあるだろう?
 少なくとも、あの“血の結婚式”の夜は」

「………………それは、陛下のおっしゃるとおりです。ただ」


 もちろん、体調管理についてはイヅルの言うとおり。
 レイナートが状態を良くして魔力をキープしていれば、あの夜だって、もっとたくさんの人をたすけられただろう。


「自分を良い状態に保つ闘いを含めて、人事を尽くすと呼ぶのです」

「……悪かった」


 ここ最近は各地から来る書類仕事にかまけすぎていた。反省しなければ……。
 と、言いながら、タイミングが悪い、ともレイナートは考えていた。


「……お説教はおわりにしましょうか。では、おふたりのお部屋にご案内いたします」

   ◇ ◇ ◇

「おおおっ!! いい感じに清潔感のあるお部屋ですね!!」

「ベルセルカ様から見れば、粗末で狭いかもしれませんが」

「いえ全然!」


 カバルス軍兵舎の中の部屋、ではなく、すぐ近くに買い上げた建物が、幹部陣の部屋のある棟になっていた。その中でも恐らくは二番目に良いのだろう部屋に、ベルセルカは通された。

 イヅルは狭いと言ったが、綺麗なベッドに、書き物机。
 ベルセルカの荷物を運び込むにも十分なスペースがある。
 先ほど脱いだ甲冑も、誰かがきれいに手入れしてくれていて、部屋に置いてある。

「レイナート様のお部屋は右隣です。
 お夕食は食堂にて」

「はーい。イヅルのお部屋はどこです?」

「幹部陣はこの階の部屋に交代で寝ています。ベルセルカ様のお部屋の隣には今回サギタリアが……陛下?」


 ちょうどベルセルカの部屋の扉を開けたところで、イヅルが流麗な顔の眉根を寄せる。
 廊下に出て部屋のドアをしめるやいなやイヅルに声をかけられ、ギクッ、とするレイナートがそこにいた。
 目立たない暗い色の外出着に、首もとの烙印を隠す、長い首巻をつけている。


「あれ? レイナートさま、おやすみにならないのですか?」

「夕食まで眠って睡眠不足を解消すると言ったはずでは……!」

「……いや、反省はしてるし帰ってきたら眠る。
 ただ今日のうちにどうしても町で買いたいものが」

「さっきの話のあとに、それ、やりますか!? 恐れ多くも国王陛下が、そもそもお忍びで町に出かけないでください! しかもおひとりで!!」

「…あ、じゃ私もお供します!」

「へ?」


 ベルセルカは壁にかかっていたケープを手早く羽織り、財布を入れた革のポーチを腰につける。
 そして“加護”の解除魔法をかけるやいなや、


「さぁ、レイナートさま、参りましょう!」


 と、レイナートの腕を持ってくように腕組んだ。


「…………」
「あ、ああ、ええと! 悪いイヅル、留守を頼む!」

「……すぐ戻ってくださいよ」


 レイナートの配下はみなそうだが、イヅルもまた、ベルセルカにはなぜか甘い。

 ひとりではないならギリギリセーフと判断したのだろうか、奇跡的にイヅルは、ため息をついてうなずく。
 ベルセルカがかけだし、レイナートが引きずられていく。

 あわただしいその背中を見送ったイヅルは、開けっ放しの扉を丁寧にしめた。

   ◇ ◇ ◇


「――――いい感じに活気のある町ですね!」


 宿舎から程近い町。
 ラットゥスの中心地でも、都市というほどでもないけれど、比較的栄えているところなのだろう。

 宿も食事どころも、物売りの店もたくさんある。男女ともだいたい皆身綺麗だし、町のなかは比較的清潔だ。

 そして、大きな道の端々に屋台がある。
 肉や腸詰や、魚、野菜、それにパンや、道端で食べられそうなものなど。
 加えて何か、おいしそうなにおいがする。

 歩いているだけで、楽しい。そんな町だった。

 自然と足取りも軽くなるのだが、ベルセルカにがっちり腕を取られ抱え込まれたレイナートは、さっきからあぐあぐと何かを言おうとしてはやめている。

 そんな彼が、ふと、ある屋台に目をつけた。


「あと…ああ、あった。あそこだ」
「え、レイナート様?」


 レイナートが腕をほどくと、小走りにその屋台に向かった。
 瞬く間に、何か、紙に包まれた―――紙は一部地域ではまだ貴重品であるが、この町には潤沢にあるようだ―――商品を買って戻ってくる。


「なんですか?」


 質問には答えず、口の端だけ持ち上げて笑い、紙の中に大きな手を突っ込んで器用に片手で何かパキパキとむくと、「口あけてみろ」とレイナートは言う。

 言われるままにベルセルカが口をあける。
 その中にレイナートの指が、丸い何かを押し込んだ。

 温かい。
 なつかしい、優しい甘い匂いがする。咀嚼。


「あまい!?」


 思わず口に入れたままものを言ってしまった。
 ほくりほくりとした食感と甘さ。おそらく生まれてから食べたことのない種類の甘さ、なのに何か懐かしい。なぜ?

 ベルセルカの反応を見て、レイナートが少し笑む。
 口の中の美味しいそれを、ごくんと飲み込んだ。


「なんですか、これ!? 美味しい!!」

「焼き栗だ。ラットゥスの名産だとか」

「栗って……焼き菓子とかに入っている木の実でしたっけ」

「ああ。もともと冬の名物なんだが、近頃は栗を氷室で保存して、いまの時期ぐらいまで食べられるようになったんだ。
 こどものころ、ノールトとの戦いに連れていかれた時は、いつも父が買ってくれたから……
 その、ベルセルカにも食べさせたくてな。
 どこかで座って食べよう」

「はい!!」

   ◇ ◇ ◇

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