嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~
【第2話 北東の牧畜地帯タウルス】(6)
(6)かくなるうえは、陛下の首を
ベルセルカの頭をつかんだ、と思った、その骨だらけの大きな手は一瞬で断じられて、床に落ちてばらばらと砕けて消えた。
「レイナートさま!?」
「妙な魔法だな」
「すみませんありがとうございます!」
突然転移してベルセルカの前に現れた主君が、その剣で骸骨の腕を両断したのだ。
そのままレイナートが横に剣を一閃。
骸骨の首が刎ねられた。
ベルセルカの倍も速い太刀筋で、魔力を剣から注ぎ込みながら斬った。
なるほど、実体のない体を魔力で強制的に物質化させて切り裂いたのか、とようやくベルセルカは悟った。
「魔法? この餓者髑髏を魔法だと?」
フン、と鼻で笑ったアステリオスは、新たに現れた男にも動じていない。
首だけになった骸骨が、ガバリと口を開け、レイナートを食いちぎろうと迫る。
レイナートは左にベルセルカは右に、避ける。
壁を蹴って跳んだレイナートは、自分を追ってこちらに顔を向けた骸骨に向けて、今度は真正面からタテに剣を振り下ろした。
脳天唐竹割にぶった切られた巨大頭蓋骨は、砂嵐のようにぐしゃぐしゃに砕けて、消えた。
血のりもまったくついていない剣だが、そこにまとわせた魔力を振るって飛ばし、さやに剣をおさめながらレイナートが言う。
「『召喚魔法』だろう?」
「…………!」
「悪魔やモンスターと取引をした者が使うと聞いている。
普通は複雑な魔法陣を描き、いけにえを捧げ、詠唱のもとに呼び出すものだが、短い詠唱程度で呼び出すとは。
その杖、魔道具か?
それに貴女も、かなりの魔力の持ち主だ」
レイナートの言葉に返さず、アステリオスは目の前の黒髪の若者の姿を、じっと見る。
白金の鎧を着ているので、首筋の烙印は隠れている。
しかし、彼の体のある一点に、アステリオスは目を見開く。
「紫。禁色の瞳―――――。
これはこれは国王陛下。
このような辺境の粗末な家にご訪問いただき、おそれおおくも光栄至極に存じますわ」
そして急に、しゃべりかたが変わった。
しかし、露骨に媚びているわけではない。
「………俺の即位を知っているのか?」
「もちろんにございます、陛下」
一転。優雅なしぐさでお辞儀をするアステリオス。
しかし、その眼の敵意は消えていない。
むしろ先ほど以上に……
「タウルスの民の訴えで、屋敷を調査に来た。
借金返済をたてに不当な要求があると」
「あら、こんな狭い屋敷をお調べに? なにか出てきますかしら?」
先ほどアステリオスは、明らかにベルセルカの命を奪いにきた。
だがそれは反射的なものだっただろう。
しかし、レイナートが現れてからのアステリオスの目には、なぜか明確な“憎悪”が見える。
不安になり、思わず主君の前に出ようとするベルセルカを、レイナートは目で制止してきた。
「書斎の書類を確認させてもらった。
貴女が借金を買い取ったタウルス領の小規模牧畜農家115家。
今日までにそのうち23家、245頭の牛を借金のかたと称して奪った。
さらに、牛を奪われたら生活維持ができなくなるもとの持ち主の一家を、飼育のためにほぼ食料のみの報酬で雇用。実質的な奴隷として」
あ、人だけじゃなく牛だけじゃなく、両方を自分のモノにするのが目的だったのか、とベルセルカは内心納得した。
「ええ、そうですわね?
でも、借金の利息の明確な上限は我が国では決められておりませんし、タウルス法では、奴隷の個人所有は合法でございましょう?
国法にもタウルス法にも反していない以上、わたくしに何かおっしゃるのは、国王陛下と言えど、無理筋でございますわね?」
「利息の上限金額の項目はないが、
『利息の額は、借り手貸し手の合意のもと定める』
とレグヌム金融法第1条にある。
同じく第2条『領主の許可なく、借金の譲渡をしてはならない』、
第3条は、『領主の許可なく、借金の回収に暴行脅迫の手段を用いてはならない』」
アステリオスは眉をひそめた。
レイナートが、国法全文丸暗記しているとは思っていなかったらしい。
「あら……それは不勉強にして存じ上げませんでしたわ」
「知らずに金貸しをしていたと?」
「何せ、田舎ものゆえ。金に目がくらみ、知らぬうちに、法を犯してしまっていたのでございますね。では領主様にご相談申し上げて、そのご判断とご命令に従いますわ。国王陛下」
殊勝な表情をつくり、深々と頭を下げてみせるアステリオス。しかし。
「そうか。ならば俺も立ち会う。
領主代行の管理不足に指導不行き届き、過失を追求せねばならん」
レイナートが続けて言った言葉に、一転、彼女は、悪鬼のような形相でにらむ。
「どうした? 領主代行のことは貴女には関係ないだろう?」
「……しらじらしい」
舌打ちをしたアステリオス。
「―――――野郎ども、くせ者だ、今すぐ広間に下りてきな!!!!」
ドレスをひるがえし、彼女は天井に向けて大声で怒鳴った。
間もなく、新たな子分たちが……筋骨隆々の荒くれ者たちが、四方八方から姿を現してきた。様々な刃を抜いた、その数、数十人。
アステリオスが杖を振る。
出現した小さな刃が走り、レイナートの鎧の首の防御を切り裂いた。
首筋にわずかに血がにじみ、烙印があらわにされる。
その烙印を、アステリオスが指さした。
「奴隷の分際で、おそれおおくも国王陛下の名を騙る痴れ者だよ。
斬れ……斬り捨てちまえ!!!」
◇ ◇ ◇
「ベルセルカ、大丈夫かしら……レイナートもいるのかしら?」
迷宮のような屋敷の中で右往左往していたカルネは、なぜか突然、気が付いたら屋敷の外にいた。
はじめは、何が自分の身に起きたのかわからず、おたおたした。
だが、見覚えのある馬たちが屋敷の外で待っているのをみつけたので、彼らのそばで待つことにした。大きくて強そうで頼れそうで、横にいると安心感がある。
猫のナルキッソスはいないけど。
屋敷のまわりには高い塀があって、その塀は(周りに住んでいる人は困るんじゃないかしら……)というぐらいずっと続いている。
「本当に大きいお屋敷……。
どれだけ人がいるのか……。
本当に、大丈夫なのかしら―――」
そう、おろおろと待つカルネだったが。
いきなり、耳の奥が破裂しそうな音にカルネは襲われ、一瞬遅れて、塀の中から煙が立ち上る。
(―――中で、いったい何が起きてるの!?)
◇ ◇ ◇
ベルセルカの頭をつかんだ、と思った、その骨だらけの大きな手は一瞬で断じられて、床に落ちてばらばらと砕けて消えた。
「レイナートさま!?」
「妙な魔法だな」
「すみませんありがとうございます!」
突然転移してベルセルカの前に現れた主君が、その剣で骸骨の腕を両断したのだ。
そのままレイナートが横に剣を一閃。
骸骨の首が刎ねられた。
ベルセルカの倍も速い太刀筋で、魔力を剣から注ぎ込みながら斬った。
なるほど、実体のない体を魔力で強制的に物質化させて切り裂いたのか、とようやくベルセルカは悟った。
「魔法? この餓者髑髏を魔法だと?」
フン、と鼻で笑ったアステリオスは、新たに現れた男にも動じていない。
首だけになった骸骨が、ガバリと口を開け、レイナートを食いちぎろうと迫る。
レイナートは左にベルセルカは右に、避ける。
壁を蹴って跳んだレイナートは、自分を追ってこちらに顔を向けた骸骨に向けて、今度は真正面からタテに剣を振り下ろした。
脳天唐竹割にぶった切られた巨大頭蓋骨は、砂嵐のようにぐしゃぐしゃに砕けて、消えた。
血のりもまったくついていない剣だが、そこにまとわせた魔力を振るって飛ばし、さやに剣をおさめながらレイナートが言う。
「『召喚魔法』だろう?」
「…………!」
「悪魔やモンスターと取引をした者が使うと聞いている。
普通は複雑な魔法陣を描き、いけにえを捧げ、詠唱のもとに呼び出すものだが、短い詠唱程度で呼び出すとは。
その杖、魔道具か?
それに貴女も、かなりの魔力の持ち主だ」
レイナートの言葉に返さず、アステリオスは目の前の黒髪の若者の姿を、じっと見る。
白金の鎧を着ているので、首筋の烙印は隠れている。
しかし、彼の体のある一点に、アステリオスは目を見開く。
「紫。禁色の瞳―――――。
これはこれは国王陛下。
このような辺境の粗末な家にご訪問いただき、おそれおおくも光栄至極に存じますわ」
そして急に、しゃべりかたが変わった。
しかし、露骨に媚びているわけではない。
「………俺の即位を知っているのか?」
「もちろんにございます、陛下」
一転。優雅なしぐさでお辞儀をするアステリオス。
しかし、その眼の敵意は消えていない。
むしろ先ほど以上に……
「タウルスの民の訴えで、屋敷を調査に来た。
借金返済をたてに不当な要求があると」
「あら、こんな狭い屋敷をお調べに? なにか出てきますかしら?」
先ほどアステリオスは、明らかにベルセルカの命を奪いにきた。
だがそれは反射的なものだっただろう。
しかし、レイナートが現れてからのアステリオスの目には、なぜか明確な“憎悪”が見える。
不安になり、思わず主君の前に出ようとするベルセルカを、レイナートは目で制止してきた。
「書斎の書類を確認させてもらった。
貴女が借金を買い取ったタウルス領の小規模牧畜農家115家。
今日までにそのうち23家、245頭の牛を借金のかたと称して奪った。
さらに、牛を奪われたら生活維持ができなくなるもとの持ち主の一家を、飼育のためにほぼ食料のみの報酬で雇用。実質的な奴隷として」
あ、人だけじゃなく牛だけじゃなく、両方を自分のモノにするのが目的だったのか、とベルセルカは内心納得した。
「ええ、そうですわね?
でも、借金の利息の明確な上限は我が国では決められておりませんし、タウルス法では、奴隷の個人所有は合法でございましょう?
国法にもタウルス法にも反していない以上、わたくしに何かおっしゃるのは、国王陛下と言えど、無理筋でございますわね?」
「利息の上限金額の項目はないが、
『利息の額は、借り手貸し手の合意のもと定める』
とレグヌム金融法第1条にある。
同じく第2条『領主の許可なく、借金の譲渡をしてはならない』、
第3条は、『領主の許可なく、借金の回収に暴行脅迫の手段を用いてはならない』」
アステリオスは眉をひそめた。
レイナートが、国法全文丸暗記しているとは思っていなかったらしい。
「あら……それは不勉強にして存じ上げませんでしたわ」
「知らずに金貸しをしていたと?」
「何せ、田舎ものゆえ。金に目がくらみ、知らぬうちに、法を犯してしまっていたのでございますね。では領主様にご相談申し上げて、そのご判断とご命令に従いますわ。国王陛下」
殊勝な表情をつくり、深々と頭を下げてみせるアステリオス。しかし。
「そうか。ならば俺も立ち会う。
領主代行の管理不足に指導不行き届き、過失を追求せねばならん」
レイナートが続けて言った言葉に、一転、彼女は、悪鬼のような形相でにらむ。
「どうした? 領主代行のことは貴女には関係ないだろう?」
「……しらじらしい」
舌打ちをしたアステリオス。
「―――――野郎ども、くせ者だ、今すぐ広間に下りてきな!!!!」
ドレスをひるがえし、彼女は天井に向けて大声で怒鳴った。
間もなく、新たな子分たちが……筋骨隆々の荒くれ者たちが、四方八方から姿を現してきた。様々な刃を抜いた、その数、数十人。
アステリオスが杖を振る。
出現した小さな刃が走り、レイナートの鎧の首の防御を切り裂いた。
首筋にわずかに血がにじみ、烙印があらわにされる。
その烙印を、アステリオスが指さした。
「奴隷の分際で、おそれおおくも国王陛下の名を騙る痴れ者だよ。
斬れ……斬り捨てちまえ!!!」
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「ベルセルカ、大丈夫かしら……レイナートもいるのかしら?」
迷宮のような屋敷の中で右往左往していたカルネは、なぜか突然、気が付いたら屋敷の外にいた。
はじめは、何が自分の身に起きたのかわからず、おたおたした。
だが、見覚えのある馬たちが屋敷の外で待っているのをみつけたので、彼らのそばで待つことにした。大きくて強そうで頼れそうで、横にいると安心感がある。
猫のナルキッソスはいないけど。
屋敷のまわりには高い塀があって、その塀は(周りに住んでいる人は困るんじゃないかしら……)というぐらいずっと続いている。
「本当に大きいお屋敷……。
どれだけ人がいるのか……。
本当に、大丈夫なのかしら―――」
そう、おろおろと待つカルネだったが。
いきなり、耳の奥が破裂しそうな音にカルネは襲われ、一瞬遅れて、塀の中から煙が立ち上る。
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