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嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~

真曽木トウル

【第2話 北東の牧畜地帯タウルス】(3)

(3)神と闘った父親の物語

   ◇ ◇ ◇


「やったー!
 久しぶりにレイナートさまの手料理ですね!?」

「手料理ってほどじゃないけどな。
 串焼きにするだけだから」


 調理場にて。
 さきほど、感謝感激した村人たちから、

『ぜひ、お礼に受け取ってほしい!』

と言われ土産にもらったタウルス牛の赤身肉を、レイナートは、一口大よりだいぶ大ぶりに、手際よく切り分けていく。

 そんなに機会があるわけじゃないが、夜営での料理には慣れている。
 常備携行じょうびけいこうしている乾燥した香草、輸入物の香辛料、岩塩、貴重品のコショウを砕いたものを肉にかけ、もみこむ。

 その上で、長い鉄串に、丁寧に刺していく。

 3人分、ひとり2本ずつ。それからナルキッソスの分1本(こちらはやや塩を振っただけ。本人いわく、猫の身体にはあまり刺激的なものはよくないとか)。計7本。
 あとは、これを、こんがりと焼くだけだ。

 人にふるまうなら本当は副菜とスープとパンもそろえたいところだが、おなかが減っている人間には極力早く食べさせるのが良いだろう。


「さっき、お肉もらっておいてよかったですねー!!」

「残りは持ってかえってすぐ、ワインで煮込もうか」

「やった!」


 レイナートの手元を嬉々として見つめるベルセルカ。

 涙のあとが残る顔で、それでも興味深そうにのぞきこんでいるカルネ。
 すっかり、しゃべる猫ナルキッソスが気に入ったようで、ずっと抱き上げつづけている。


 彼らはのんきに料理などしているわけだが、少し離れたところでは、この城の料理番たちが、

「あれ、国王陛下…なの? 本当に?」
「国王陛下が、なんだって料理なんかするんだよ!?」
「さぁ……?」
「うちのかまどの火でやけどでもしたら、俺たち、縛り首になったり…」
「ま、まさか!?」

などと、戦々恐々と騒いでいた。


 タウルス牛の肉は、炭火でじっくり、十分な焼き色がつくまであぶり、頃合いを見て、鉄皿に6本、盛った。ナルキッソスの分はしっかり火を通した上で、皿に入れる。

 焦げ目から香ばしいにおいが立ちのぼる。
 香草の香りと相まって、ひどく食欲をそそる。
 台所の一角に使用人たちが使う椅子とテーブルがあったので、レイナートたちはそこで串焼きを口にした。


「おいしいっ!!」


 少女が思い切り叫ぶ。

 かぶりつけば、肉汁と弾む歯ごたえ。
 香草の香り。
 脂はやや控えめであるが肉は柔らかく、繊維の一本一本が躍るようだ。
 そして広がる濃厚なうまみが、岩塩と香辛料で引き立てられている。


「すごーい!
 こんなにおいしいもの食べたことない!?」

「でしょう?
 美味しいですよね~さすがレイナートさま!」


 なぜベルセルカが自慢げなのか。


「うにゃ~!
 ステーキは死んで以来初ですにゃ~!!
 うま~!」


 ナルキッソス死んで以来て。


 カルネはおなかがすいていたのか、夢中になって串焼きを食べている。
 小さな口で大きな肉のかたまりにかぶりついては、肉の繊維を味わい咀嚼そしゃくしている。

 あまりに勢いよく食べるので、レイナートは自分のぶんを1本やったほどだ。


「はーっ。おいしかった!」
「ごちそうさまでした」


 6本の空の串が再び鉄皿に置かれた時、少女の顔は満面の笑みだった。


「ありがとう!!
 美味しかったわ」


 かぶったままだった、大きな毛皮の帽子を、かぽっ、と少女は外し、胸元に抱えた。
 彼女なりに礼を尽くす態度なのだろう。


「私、カルネ。
 あちこち旅をしながら狩人ハンター兼便利屋をして暮らしてるの」

「そんなに小さいのにですか?」

「小さくないわよ!
 もう11歳だし」


 レイナートの初陣ういじんが12歳。
 ベルセルカが13歳。
 確かにそんなに違う歳ではない。


「それにしても……ねぇ、奴隷なのに、どうしてモンスター狩りしてたの?」


 頭をかたむけて、レイナートの顔を覗き込む。
 そして、よろいを着ていた時は隠れていた、いまはあらわになっている、彼の首の烙印らくいんを指さした。


「首にその印があるっていうことは、転生者で、奴隷なのよね? 料理もできるし。
 どうして、貴族みたいなよろい着てたの?
 ベルセルカがあなたとナルキッソスのご主人様なのよね?」

「ああ、えーと……
 俺は奴隷じゃなくて、転生者でもない、母が転生者だった。父の身分が高かったので奴隷にならなかった。料理は行軍に必要だから覚えた。以上」

「いえ、でも……その印を押された人は、身分、関係なくなるでしょ?」


 カルネはまだ納得していない様子だ。


「レイナートさまー。
 ざっくり説明しすぎですよ」


 ベルセルカに横から突っ込まれる。
 こほん、と、レイナートは咳ばらいをした。


「たしかに。
 転生者および転生者から生まれた者は、カバルス以外の地では原則、戸籍・財産ほか、すべてを持つ権利を奪われるな」

「ん?
 うん、そうよね?」


 この国では、転生者は神の禁を犯した罪深い存在として忌まれている。

 では、『転生者』をどうやって判定するのか?
 各地の領地にいるレグヌム国教会の司教たちが、容疑がかかった者を“神判”する。

 『転生者である』と結論が出れば、国教会領では即、火刑。
 そうでない土地では、その首筋に烙印が刻まれる。
 転生者の女が出産した子も同じ扱いである。

 そうして烙印を押された者たちは、領主所有の奴隷として領地単位で管理されるか、国教会から人買いに売り渡されるのだ。


 売られた奴隷の行く先は、個人所有の奴隷となるか、大規模農園か、娼館しょうかんか。飢餓きがの時には真っ先に殺され食われることさえある。


「正確に言えば、俺も、そうなっていてもおかしくなかった」

「じゃあレイナートは、どうして奴隷にならなかったの?」

「ああ。それはうちの父が―――」


 レイナートは微妙に口ごもる。
 ここから先の話を言うのがちょっと恥ずかしいから、できれば省略したかったのだが。


「……俺が産まれたとき、連れていこうとした国教会の聖職者たちを、素手すでで殴り倒して、追いだしたんだ」

「えっ!!??」

「そのあと家の存続をタテに、王家と国教会と大喧嘩して、王国軍をひとりで追い払い―――」

「え、ええ、え!?? 嘘、嘘よね!??」

「残念ながら全部実話だ。
 3年粘って、実力行使と交渉を駆使して、法を改正してカバルス領では転生者法を適用しないとし、俺を跡継ぎとして認めさせた。
 まぁ、父が平民だったなら、戦いようもなかっただろうけどな」


 カルネは一瞬ぽかんとして。
 そうしてすぐ、目をキラキラ輝かせた。


「すごい!!
 おとぎ話の勇者さまみたいだわ!!
 強くてカッコいいお父さんね!!」

「どうです?
 レイナートさまのお父さま、すごいでしょう?」


 繰り返すが、なぜベルセルカが自慢げなのか。


「うん! すごい!!
 じゃ、じゃあ、レイナートのお母さんは?
 奴隷なのに、えらいひとの奥様になったの?」


 期待をこめて、カルネがレイナートを見つめる。
 幸せなおとぎ話の終わりを、期待しているのだろうか。
 だったら、それは申し訳ない。


「―――母は、俺を産んだ後、すぐに亡くなった。
 顔も、肖像画でしか知らない」

「そう、なの……ごめんね」


 カルネは、目を伏せた。


「俺の話はともかく。
 カルネの話を聞かせてくれ。
 いま、味方が必要なんだろう?」

「う、うん……」

「友達の身代金を要求している悪い奴らっていうのは、何者なんだ?」


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