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嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~

真曽木トウル

【第1話 奴隷の烙印を押された王】(2)

(2)最強の異端者と無敵のカバルス軍

   ◇ ◇ ◇



 ―――時をさかのぼり、その日の、夜明けの頃。


 征魔大王国せいまだいおうこくレグヌムの北の国境線。
 8年前に奪われた国土を取り戻すという名目で、隣国ノールトとの戦闘が始まろうとしていた。


 左右を黒い森に挟まれながら広がった、草地の平原。
 その先に敵であるノールト軍、およそ4000。
 こちらのレグヌム軍は2500、うち、指揮する征北将軍せいほくしょうぐんの領地であるカバルスの正規兵1500、のこりが副将軍の手勢てぜいである。


 ノールト側にはどこか余裕が見られる。

 噂によると、数で圧倒的に勝っていること、さらに、文字どおり『ドラゴン』が守護神としてついているのが自信の源なのだという。
 しかしその『ドラゴン』とやらの姿は戦場には見えなかった。


 ――――朝日がのぼりきった。


「進めぇっ!!!」


 号令ととも両軍は進軍していく。

 進みながら、互いに矢を交わす。
 最前線の兵がその身に矢を受けては、わずかな断末魔だんまつまの声をあげて倒れる。
 じわじわと数を減らしながら、たがいに慎重に会敵かいてきしようとしている―――かに見えた。


「!?」
「なんだ…どうした!?」


 ノールト軍に混乱が走る。

 レグヌム軍の前線が急激に変形した。
 左右に騎兵を置きながら、さらに中央にも騎兵を厚く配置している。

 まるで三叉槍トライデントを突き出すような陣形で、レグヌム軍は突進する。

 直後、さらなる異変は起きた。


「な。なんなんだ、ありゃぁ……!!」


 レグヌム軍、陣頭。


 輝く白金のよろいをまとった赤髪の少女が、馬にまたがり、返り血を浴びながら、ザクザクとノールト兵を斬り飛ばしている。
 奇妙な長柄の武器を振るい、美しい顔を血に染め、血飛沫ちしぶきのなかで魅惑的な肢体したいを躍らせて、心底楽しそうに少女は笑い、叫ぶ。


「ねぇねぇどこですか、ノールト軍の強い人ぉー!
 私、けっこういいお値段の首してますよぉー!」


 美少女のはく侮辱に、激昂げっこうした者は
「ふざけるな、この恥知らずの小娘がぁっ!!」
などと斬りかかり、端から斬られていく。


 彼女が持つのは大槍だ。
 十分な刃渡りを持った剣の穂先に加え、不気味な曲線を描く側刃がついている。
 敵騎兵たちの持つ突撃槍ランスとは明らかに違う。

 金属のよろいでかためた身体は、切るのも刺すのも困難だ。普通は、鎧ごと砕き殺す殴り殺すということしかできない。
 しかし、彼女の槍は違う。ポリッジ麦がゆにスプーンを差し入れるようにサックリと金属の鎧を貫く。くるりと返せば、側刃がまたサックリと首を絡めとり、飛ばすのだ。

 武器自体の強さに加え、それは明らかに魔力を帯びていた。


「ほらほら、副将軍ここですよー!
 我こそはという猛者、いませんかー?」


 気が抜けるようなセリフとともに、宙を血がおどる。
 れすぎた果実のように、ぼとっ、ぼとっ、と、敵の男たちの首が落ちていく。


 ―――征北副将軍、ベルセルカ・アースガルズ准将じゅんしょう、16歳。

 次第に、この娘の異質さが、ノールト軍に伝わり、恐怖が伝播でんぱする。


「……ひ、人じゃねぇ、化け物だ……」
「まて、あれは、単なる魔法だ!!
 物理作用強化の……」


 何か言いかけた指揮官らしい男の武器が、つづいてその首も、投石器の石のごとく飛ばされた。

 もちろん戦争とは、1人でするものではなく集団でするもの。
 ベルセルカの武器が届かない場所で、他の兵たちを殺し、減らそうとする兵たちも当然いた。しかし。


「こいつら……歩兵まで魔法を使ってやがる……!!」


 武器を合わせても、切り結んだらノールト側の武器が必ず折れ、まずありえない力勝負で押し負ける。そして武器を失ったところを、左右から騎兵に蹂躙じゅうりんされていく。
 ノールト側が混乱におちいり、ボロボロと崩れる中に、追い討ちをかけるように再び矢が飛んできた。


「なんだ、こりゃぁ、射手いては、どこから……!!!」


 その矢は、先ほどとは明らかに質が異なった。
 斜めから、というよりも遥か後方の左右の森の中から、意思をもっているかのような不規則な軌道で飛び、これもまたやすやすと頭蓋骨を貫通する。
 これもなにか魔力を帯びた武器であるというのは素人目にもわかった。


「……ちょっとこいつら、強すぎる!!!」


 ノールト軍の誰かが、悲鳴のような声をあげる。


「やったぜ、あの転生奴隷の女ども!!」
「弓魔術ってやつはすげえ!!」


 一方、レグヌム側の歩兵は歓声をあげている。


「何だよ、てめえ、転生者となんて一緒に戦いたくねぇとか言ってたじゃねえかよ」
「知るかよ、さすが、“千人殺し”の姫様に、王国最強のカバルスの精鋭だ!!」


「……おいこらぁ、アホゥどもが」


 観客のような私語をしていた兵らの頭に、馬上から口の悪い叱咤しったが降ってくる。

 見るからに一級の馬にのって歩兵たちを見下ろしていたのは、40を超えるか超えないか、という年頃の男だった。

 暗いだいだい色の短髪、もみ上げとつながった同じ色のあごひげ。フルプレートではない、やや簡易な鎧を身に着けている。

 カバルス剣闘騎兵隊けんとうきへいたい隊長、グラディオ・ディアマンテ。
 鍛錬と実戦を数えきれないほど重ねただろう体は厚く、古傷だらけの顔は、淡々と低いテンションの言葉でも、有無を言わせぬ迫力を醸し出していた。


「無駄口叩いて、戦場に何しにきてんだ給料泥棒が。ちんたらしてっと、手柄をみぃんな女どもに奪い取られちまうぞ」


「あ、ああ、おう!!」傭兵たちは遅ればせながら、敵に向かって走り出す。


 世話が焼けるぜ、とつぶやいた隊長は、軍の後方へとちらりと目をやり、自らも馬を駆って前へ走る。

 はるか後方には、敵を狙う射手たちがいた。
 木々の枝にて、あるいは馬上で弓をかまえ、常人には見えるはずもない距離を狙う。

 それは、500人の軽武装の女たちで構成された部隊だった。

 カバルス魔弓騎兵まきゅうきへい隊。
 一人のエルフの女が指揮し、常人の10倍の速さで矢を放ち、疾走はしった矢は、必ず味方ではなく敵を射抜く。
 へたをすれば、彼女らの矢だけで敵を全滅させそうな勢いだった。が。


「やめ」


 黒鹿毛くろかげの馬に乗る人物が制止の声をかけた。
 今回のレグヌム側の大将、弱冠18歳の征北将軍、カバルス公爵レイナート・バシレウスだ。

 長身ではあるが、軍人にしては細身の身体。この国では大変珍しい漆黒の髪に、うまれつき小麦色の肌。
 行軍のつかれか顔色が悪く、睡眠不足なのか目の下のくまが酷い。だが。


「これ以上は殺すな」


 女たちを見上げた彼の瞳の色は、彼女たちが主君であることを忘れて一瞬目を奪われるほどに、美しい紫色だった。


 弓を指揮していたエルフの女が、木から降り、レイナートの馬の足元にひざまずく。年齢不詳、とがった耳と輝く緑色の髪の、釣り目の美女。


「では私たちは先に退却を」
「負傷者救護の支度と、念のため捕虜が出た際の準備を。
 死者は可能な限り蘇生する」
「はっ!!」


 エルフの美女……魔弓騎兵隊の隊長サギタリア・アーチャーは、うなずく。

 敵は崩れに崩れていた。
 騎兵歩兵ともザクザクと殺し続ける、最前線の少女のせいだ。

 心は、十分に折った。
 あとは総崩れになる一押しのみ。
 少年の腰には、2本の剣。
 彼は馬を走らせる。

 次の瞬間、その姿は、消えた。


   ◇ ◇ ◇


 ―――――ノールト軍、最後方。

 敵方の大将は、ヘルムまできっちりと着こんだ40歳ぐらいの男だった。

 騎兵にがっちりと守られた位置でありながら、馬上でいらだち、周囲の側近たちを叱咤しったしたり罵倒したりを繰り返す。

 そんな彼が、舌打ちし、なにか言おうと口を開きかけた。

 ところがその眼前に丸く大きな魔法陣が広がると、突然馬に乗ったひとりの少年が現れる。
 いったい何事が起きたのか。敵将がそれを知る前に、その喉を、細い剣の先が貫いていた。


「なっ……」


 言葉を失う周囲の者たち。
 一瞬遅れて、ぐらりと敵将の体が揺れ、地面に落ちた。



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