嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~
【第1話 奴隷の烙印を押された王】(5)
(5)血の結婚式
◇ ◇ ◇
そして日没後。
「……で? 良いものとは何なんだ?」
短時間ながら眠って少し回復したレイナートは、皆と一緒に夕食を取りながら、隣のベルセルカに話しかけた。
行軍中なので、寝台と同じく簡易な椅子とテーブル。それでも、地面に座って食べている者も多い中、十分な贅沢と言えるだろう。
予定より少し早い戦勝の祝いということで、いつもよりも豪勢な夕食だ。
保存食の豚のかたまり肉を、濃厚な旨味のあふれる腸詰めや、周辺の村で購入した多種多様な野菜とともに、ワインと貴重なスパイスでこってりと煮込んである。
肉はとろとろに柔らかく大変美味で、戦勝の祝いにふさわしい食事だったが、レイナートの関心はそことは少し違ったらしい。
「ああ、ほら。今日でしょう? オクタヴィア王女の婚礼」
「…………そうだったかな」
「そうですよ!
王族も侯爵家も、夫妻に子女も含めて招待されているのに、レイナート様と私だけ、嫌がらせのようにこんな辺境の戦線に追いやられた、その結婚式です!」
まぁなぁと言いながら、レイナートは笑う。
周囲に座っていた兵や隊長たちは、笑うに笑えず困惑の顔を浮かべる。
特に眉をひそめたのは、先ほど後方で傭兵たちを叱咤した、剣闘騎兵隊の隊長グラディオ・ディアマンテ。通称グラッドだった。
「ほんとひどいですよね! それで私、出立前に、何か良い魔法がないか、色々と研究しまして……新しい魔法をつくりました」
ベルセルカは自分の首筋に手をやる。
どうやら鎧の下に、ネックレスのように、なにかを首からぶら下げていたらしい。
引っ張り出されたものは、てのひらに乗る、小さな丸い鏡だった。
ベルセルカの汗で少し濡れている。
「見てください―――中級光魔法、<見える鏡>」
鏡から、フワッと光が湧く。
湧いた光は、人の背丈ほどの高さに立ちのぼり、その中に、ぼんやりと人の姿が浮かび上がった。
次第に輪郭をはっきりさせたそれに、レイナートは紫の目を見開く。
「オクタヴィア……?」
婚礼のドレスに身を包んだ女性の名を、思わず呼んだ。
輝く金の髪。長いまつげ。菫青石のような深い青の瞳。花びらを思わせる唇。
王国全土でその美しさをたたえられる、王女オクタヴィアの名を。
「すごいでしょう? 王城と大聖堂の何か所かにこっそりと、同じ鏡を仕込んできたんです。
あと少しで、ちょうど婚礼の式が始まるはず。私たちもオクタヴィア様の新しい門出をお見送りいたしましょう」
「……大丈夫なのか? 勝手に見ているのがバレたら」
「大丈夫です。オクタヴィア様に許可をいただきましたから! 何かあったら王女殿下のお名前をタテにします!」
「………………」
悪名高きアースガルズ宰相の妹で、王族に継ぐ戦闘魔術使い、16歳にして“千人殺し”の名をもつベルセルカ。さすがは、腹の据わり具合も伊達じゃない。
◇ ◇ ◇
2人の会話に耳をそばだてていた者が、自分たちも見たいと名乗り出て、食事が終わる頃には、噂が噂を呼んで、数十人の兵たちがレイナートとベルセルカの周りに集まっていた。
空は満月。日は沈んでも、わずかな灯火で話ができるほど明るい。
魔法とは、ただ呪文を唱えれば使えるというものではない。人間、あるいは亜人が持つ魔力を応用し生み出される。いろいろな学問や原理を学び、理解し、それをもとに魔力を様々なかたちに構築することで、魔法は複雑かつ強力なものになっていく。
――――その筆頭がレイナート・バシレウスであり、一番弟子に近い立場のベルセルカもまた、必要な魔法はとりあえず開発してみるというスタンスを貫いている。
「では、始めますよー。見えない人はいませんかー? 大丈夫ですかー?」
ベルセルカは兵たちに声かけをしたあと、手を伸ばし、鏡面を上に向けるように掲げた。
「<見える鏡>」
ほわりと、光の煙が立ちのぼる。
王城の一角、職人が魂を込めた金装飾で彩られた、最も豪奢かつ荘厳な場所が、その中に浮かび上がった。
「うわぁ、綺麗―――――」
女兵の一人が感嘆の声をあげた。
肩までの長さの栗色のふわりとした髪は、この国の女としては珍しい(たいてい皆長い)。
魔弓騎兵隊に所属する17歳の少女で、レマという。年下のベルセルカよりも一回り小柄で、細い。騎兵隊の装備の、魔道具の首巻をまいている。
「大聖堂です。王家の婚姻式はここで行われるんですよ」
ベルセルカが説明する。
光のもやは、広い大聖堂全体を真後ろから映し出していた。
建物の中に列席するのは、国王、王佐公十三家、そして侯爵家。
小さく映るが、前の方に、先ほどの婚礼衣装の女性―――オクタヴィア王女がいる。
本来ならば王妃も出席するところだが、こちらは昨年病死していた。
「開始はこれからですね。国王陛下の立ち会いのもとで、オクタヴィア王女と、王佐公第4位ティグリス公の婚姻式が始まります」
つぎに、ベルセルカの鏡は、ひとりひとりの顔を映し出す。
レイナートが口を開いた。
「こちらにおわすのがオクタヴィア王女、ご尊顔を知る者もいるだろう。つぎに、こちらがティグリス公。それから列席しているのが……」
王侯貴族の顔を知らない兵たちに説明していく。
皆、ほほぉ、とか、ははぁ、と、うなずきながら、自分たちの知らない世界に興味津々のようだ。
結婚式後は、そのまま晩餐会、あとは朝まで祝賀パーティーとなる。
王佐公爵家・侯爵家は結婚式に同席するが、それ以下の、伯爵家・子爵家・男爵家も、おそらく当主が王城に招かれているはずだ。
それにしても、とベルセルカは首をかしげた。
「ユリウス殿下が、いらっしゃいませんね?」
「ああ」
応じたレイナートに、「ユリウス殿下というのは?」と、男兵の一人が声をかけた。
「バッカ、おまえ、この国の王子様だよ。知らねーのか」先輩兵が、たしなめる。
「まぁ、そうそう王家の人間は城から出てこないから知らないよな。
ユリウス・テュランヌス王太子殿下。
俺と同じ18歳で、次期国王陛下だ」
「オクタヴィア王女の弟君であらせられますよ……レマ?」
王女のドレス姿を「すてき……」と目を輝かせて惚けて見入っているレマの肩を、ベルセルカが空いている手でとんとんと叩いた。
「ええと。レマー?
耳としっぽ出てますよ?」
「………え、ふ、えええ!?
恥ずかしぃいつのまにっ!」
そう、いつの間にかレマの頭にもふもふした三角耳がぴんと立ち上がり、ズボンのお尻側からは、ふさふさとしたしっぽがはみ出している。気が付き、慌てて彼女は引っ込める。その手も若干もふもふ毛が生え始めていたが、一瞬で、びゅっと消えた。
「もぉ恥ずかしい……。
満月の日って、油断すると魔法使ってないのにもどっちゃうんです……」
「……人狼みたいな体質ですね。
あ、ようやくいらっしゃいましたよ、ユリウス様が。大遅刻ですね」
鏡の上に浮かぶ映像の角度が変わる。
大聖堂の後ろの入り口から、ふわりとした銀色の髪の男が入ってきた。
レイナートよりやや背は低いが、均整の取れた体つきに、姉の面影が少しある白皙の美形。
征魔大王国レグヌム建国以来の美貌王となるだろうと噂されている。
そして、レイナートは正直あまり好きではない相手。
王子は、無表情に、なにも言わず歩く…。
「ん?」
違和感を覚えたレイナートは、おもわず、声を漏らした。
「どうされました?」
「いや……」
様子がおかしい。
それを口にしていいものか、迷う。
迷いながら、ユリウスの速足にますます不安を覚え、レイナートは、口を開く。
「――――あれは。開戦前の神事の正装だ。慶事のじゃない」
そう呟いた時。
光のもやのなかで、王子が腰の剣を抜く。
抜き、目にもとまらぬ速さで祭壇へ駆け、オクタヴィアの隣にいたティグリス公を刺しつらぬいた。
「……!!??」
そのまま、列席者らを両断し、いかにも効率的に踊るように殺していく。
同席していた聖職者や王佐公の夫人や、子女までも。
「なんだよ、これ……」
「王子さまが、貴族たちを殺してる…?」
――――――乱心?
という可能性に、その場の誰もが思い至ったとき。
すでに列席者の半分ちかくが、血の海に沈んでいた。
「あっ、あっ、殺される」
列席者のこどものひとりが殺されそうになるのを我慢できず、先ほど王子について尋ねた兵士が、もやに手を伸ばした。
その手はむなしくかすめる。
遠く王都のできごとだ。
目の前で人が殺されていくというのに。
「………ベルセルカ、戻るぞ」
「え、は、はい!?」
ベルセルカが鏡をしまう。
王都に戻る。
この辺境の戦線から。
「む、無茶です、王都まで、馬で3日はかかります!!」
そう、兵のひとりが進言するが。
「………俺のいまの魔力残量で〈転移〉を繰り返して王都まで戻れるとしたら、10騎までだ。
俺とベルセルカ、除いてあと8人。
馬術の腕は問わん。
個人の戦闘力の高い者から選別してくれ」
「は、はい……」
「俺の不在時の指示を。
隊長、分隊長全員をすぐにここへ!」
“王族最強”のレイナートと並ぶ、この国最高の魔法使いのひとりがユリウスだ。
そのユリウスが、国の頭脳といえる面々を虐殺している。その状況にこころが冷える。
王都に戻る精鋭を即座に選び出し、剣闘騎兵隊長グラッドと魔弓騎兵隊長サギタリアにこの場の指揮を任せたレイナートが馬に乗ったとき、急に雨が強くなった。
「―――行くぞ」
かまわず、レイナートは駆け出した。
一秒でも早く、王都に戻るために。
◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
そして日没後。
「……で? 良いものとは何なんだ?」
短時間ながら眠って少し回復したレイナートは、皆と一緒に夕食を取りながら、隣のベルセルカに話しかけた。
行軍中なので、寝台と同じく簡易な椅子とテーブル。それでも、地面に座って食べている者も多い中、十分な贅沢と言えるだろう。
予定より少し早い戦勝の祝いということで、いつもよりも豪勢な夕食だ。
保存食の豚のかたまり肉を、濃厚な旨味のあふれる腸詰めや、周辺の村で購入した多種多様な野菜とともに、ワインと貴重なスパイスでこってりと煮込んである。
肉はとろとろに柔らかく大変美味で、戦勝の祝いにふさわしい食事だったが、レイナートの関心はそことは少し違ったらしい。
「ああ、ほら。今日でしょう? オクタヴィア王女の婚礼」
「…………そうだったかな」
「そうですよ!
王族も侯爵家も、夫妻に子女も含めて招待されているのに、レイナート様と私だけ、嫌がらせのようにこんな辺境の戦線に追いやられた、その結婚式です!」
まぁなぁと言いながら、レイナートは笑う。
周囲に座っていた兵や隊長たちは、笑うに笑えず困惑の顔を浮かべる。
特に眉をひそめたのは、先ほど後方で傭兵たちを叱咤した、剣闘騎兵隊の隊長グラディオ・ディアマンテ。通称グラッドだった。
「ほんとひどいですよね! それで私、出立前に、何か良い魔法がないか、色々と研究しまして……新しい魔法をつくりました」
ベルセルカは自分の首筋に手をやる。
どうやら鎧の下に、ネックレスのように、なにかを首からぶら下げていたらしい。
引っ張り出されたものは、てのひらに乗る、小さな丸い鏡だった。
ベルセルカの汗で少し濡れている。
「見てください―――中級光魔法、<見える鏡>」
鏡から、フワッと光が湧く。
湧いた光は、人の背丈ほどの高さに立ちのぼり、その中に、ぼんやりと人の姿が浮かび上がった。
次第に輪郭をはっきりさせたそれに、レイナートは紫の目を見開く。
「オクタヴィア……?」
婚礼のドレスに身を包んだ女性の名を、思わず呼んだ。
輝く金の髪。長いまつげ。菫青石のような深い青の瞳。花びらを思わせる唇。
王国全土でその美しさをたたえられる、王女オクタヴィアの名を。
「すごいでしょう? 王城と大聖堂の何か所かにこっそりと、同じ鏡を仕込んできたんです。
あと少しで、ちょうど婚礼の式が始まるはず。私たちもオクタヴィア様の新しい門出をお見送りいたしましょう」
「……大丈夫なのか? 勝手に見ているのがバレたら」
「大丈夫です。オクタヴィア様に許可をいただきましたから! 何かあったら王女殿下のお名前をタテにします!」
「………………」
悪名高きアースガルズ宰相の妹で、王族に継ぐ戦闘魔術使い、16歳にして“千人殺し”の名をもつベルセルカ。さすがは、腹の据わり具合も伊達じゃない。
◇ ◇ ◇
2人の会話に耳をそばだてていた者が、自分たちも見たいと名乗り出て、食事が終わる頃には、噂が噂を呼んで、数十人の兵たちがレイナートとベルセルカの周りに集まっていた。
空は満月。日は沈んでも、わずかな灯火で話ができるほど明るい。
魔法とは、ただ呪文を唱えれば使えるというものではない。人間、あるいは亜人が持つ魔力を応用し生み出される。いろいろな学問や原理を学び、理解し、それをもとに魔力を様々なかたちに構築することで、魔法は複雑かつ強力なものになっていく。
――――その筆頭がレイナート・バシレウスであり、一番弟子に近い立場のベルセルカもまた、必要な魔法はとりあえず開発してみるというスタンスを貫いている。
「では、始めますよー。見えない人はいませんかー? 大丈夫ですかー?」
ベルセルカは兵たちに声かけをしたあと、手を伸ばし、鏡面を上に向けるように掲げた。
「<見える鏡>」
ほわりと、光の煙が立ちのぼる。
王城の一角、職人が魂を込めた金装飾で彩られた、最も豪奢かつ荘厳な場所が、その中に浮かび上がった。
「うわぁ、綺麗―――――」
女兵の一人が感嘆の声をあげた。
肩までの長さの栗色のふわりとした髪は、この国の女としては珍しい(たいてい皆長い)。
魔弓騎兵隊に所属する17歳の少女で、レマという。年下のベルセルカよりも一回り小柄で、細い。騎兵隊の装備の、魔道具の首巻をまいている。
「大聖堂です。王家の婚姻式はここで行われるんですよ」
ベルセルカが説明する。
光のもやは、広い大聖堂全体を真後ろから映し出していた。
建物の中に列席するのは、国王、王佐公十三家、そして侯爵家。
小さく映るが、前の方に、先ほどの婚礼衣装の女性―――オクタヴィア王女がいる。
本来ならば王妃も出席するところだが、こちらは昨年病死していた。
「開始はこれからですね。国王陛下の立ち会いのもとで、オクタヴィア王女と、王佐公第4位ティグリス公の婚姻式が始まります」
つぎに、ベルセルカの鏡は、ひとりひとりの顔を映し出す。
レイナートが口を開いた。
「こちらにおわすのがオクタヴィア王女、ご尊顔を知る者もいるだろう。つぎに、こちらがティグリス公。それから列席しているのが……」
王侯貴族の顔を知らない兵たちに説明していく。
皆、ほほぉ、とか、ははぁ、と、うなずきながら、自分たちの知らない世界に興味津々のようだ。
結婚式後は、そのまま晩餐会、あとは朝まで祝賀パーティーとなる。
王佐公爵家・侯爵家は結婚式に同席するが、それ以下の、伯爵家・子爵家・男爵家も、おそらく当主が王城に招かれているはずだ。
それにしても、とベルセルカは首をかしげた。
「ユリウス殿下が、いらっしゃいませんね?」
「ああ」
応じたレイナートに、「ユリウス殿下というのは?」と、男兵の一人が声をかけた。
「バッカ、おまえ、この国の王子様だよ。知らねーのか」先輩兵が、たしなめる。
「まぁ、そうそう王家の人間は城から出てこないから知らないよな。
ユリウス・テュランヌス王太子殿下。
俺と同じ18歳で、次期国王陛下だ」
「オクタヴィア王女の弟君であらせられますよ……レマ?」
王女のドレス姿を「すてき……」と目を輝かせて惚けて見入っているレマの肩を、ベルセルカが空いている手でとんとんと叩いた。
「ええと。レマー?
耳としっぽ出てますよ?」
「………え、ふ、えええ!?
恥ずかしぃいつのまにっ!」
そう、いつの間にかレマの頭にもふもふした三角耳がぴんと立ち上がり、ズボンのお尻側からは、ふさふさとしたしっぽがはみ出している。気が付き、慌てて彼女は引っ込める。その手も若干もふもふ毛が生え始めていたが、一瞬で、びゅっと消えた。
「もぉ恥ずかしい……。
満月の日って、油断すると魔法使ってないのにもどっちゃうんです……」
「……人狼みたいな体質ですね。
あ、ようやくいらっしゃいましたよ、ユリウス様が。大遅刻ですね」
鏡の上に浮かぶ映像の角度が変わる。
大聖堂の後ろの入り口から、ふわりとした銀色の髪の男が入ってきた。
レイナートよりやや背は低いが、均整の取れた体つきに、姉の面影が少しある白皙の美形。
征魔大王国レグヌム建国以来の美貌王となるだろうと噂されている。
そして、レイナートは正直あまり好きではない相手。
王子は、無表情に、なにも言わず歩く…。
「ん?」
違和感を覚えたレイナートは、おもわず、声を漏らした。
「どうされました?」
「いや……」
様子がおかしい。
それを口にしていいものか、迷う。
迷いながら、ユリウスの速足にますます不安を覚え、レイナートは、口を開く。
「――――あれは。開戦前の神事の正装だ。慶事のじゃない」
そう呟いた時。
光のもやのなかで、王子が腰の剣を抜く。
抜き、目にもとまらぬ速さで祭壇へ駆け、オクタヴィアの隣にいたティグリス公を刺しつらぬいた。
「……!!??」
そのまま、列席者らを両断し、いかにも効率的に踊るように殺していく。
同席していた聖職者や王佐公の夫人や、子女までも。
「なんだよ、これ……」
「王子さまが、貴族たちを殺してる…?」
――――――乱心?
という可能性に、その場の誰もが思い至ったとき。
すでに列席者の半分ちかくが、血の海に沈んでいた。
「あっ、あっ、殺される」
列席者のこどものひとりが殺されそうになるのを我慢できず、先ほど王子について尋ねた兵士が、もやに手を伸ばした。
その手はむなしくかすめる。
遠く王都のできごとだ。
目の前で人が殺されていくというのに。
「………ベルセルカ、戻るぞ」
「え、は、はい!?」
ベルセルカが鏡をしまう。
王都に戻る。
この辺境の戦線から。
「む、無茶です、王都まで、馬で3日はかかります!!」
そう、兵のひとりが進言するが。
「………俺のいまの魔力残量で〈転移〉を繰り返して王都まで戻れるとしたら、10騎までだ。
俺とベルセルカ、除いてあと8人。
馬術の腕は問わん。
個人の戦闘力の高い者から選別してくれ」
「は、はい……」
「俺の不在時の指示を。
隊長、分隊長全員をすぐにここへ!」
“王族最強”のレイナートと並ぶ、この国最高の魔法使いのひとりがユリウスだ。
そのユリウスが、国の頭脳といえる面々を虐殺している。その状況にこころが冷える。
王都に戻る精鋭を即座に選び出し、剣闘騎兵隊長グラッドと魔弓騎兵隊長サギタリアにこの場の指揮を任せたレイナートが馬に乗ったとき、急に雨が強くなった。
「―――行くぞ」
かまわず、レイナートは駆け出した。
一秒でも早く、王都に戻るために。
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