無窮の刃 第1部「Sevens.Of.Stella」
第10話「第一の鎖・上」
ムキュウ・オンラインで「軍団戦」とは、RTSの要素を持った集団戦闘と思ってくれればいい。
「集団を相手に無双する爽快感」をコンセプトにしているため、兵士として召喚されるNPCたちは基本的にはプレイヤーより弱く設定されており、決定打に欠ける。だが、彼らの強みはその膨大な兵力で質より量でプレイヤーたちを苦しめてくる。
例え弱く設定されているとは言え、兵士たちの中で指揮能力をプログラミングされている者もいるし、上位個体なども存在するため、油断すれば負けることだってある。プログラム能力やツールを用いたデザイン能力に優れた者がいれば、特別個体として創造し、自身の拠点に配置するなどと言ったことも可能である。
ムキュウ・オンラインの「初期勢」と言われる、サービス配信当初からゲームをやっているプレイヤーたちの中には本物のイラストレーターや漫画家、ゲームクリエイターなどと言ったその手の業界の人間も含まれており、そこにゲームを得意とする者たちの力も加わったりして、後から始めた多くのプレイヤーたちからは「運営公認プレイヤー」或いは「運営公認ギルド」などと呼ばれたりもしていた。真偽はともかく、それらは「七天の剣」より強く勝ち目がないと言われるほどの強さを持っているとされている。
とは言え、様々な条件が重なったりすれば、格下の相手にも負けるなんてケースは十分にあるわけであって、1から10まで勝ち目がないなんてわけでもない。
しかし、今のヤトたちはゲームの中の人間ではなく、一人の人間たちとして成立している生命だ。現実世界と同様に殺されてしまえば普通に死ぬし、攻撃を食らったりすれば痛覚も十分にくる。
例え今のこの状況の状況がゲームのようであっても、最早それは遊びなどではないのだ。
「支配呪印の感じはどうなんだ?」
レジスタンスの拠点の中の空いているテントの中にヤトたちはいた。
支配呪印の起動テストを行うために広場に集まり、本来のフロアマスターであるマカミがちゃんと使えるのかどうかを確かめるために来たのだ。実戦で使えなくて全滅とかなったら色々と洒落にならないからである。
「んー……、やっぱりゲーム時代と感覚が微妙に違うって所かなぁ……。だが、わかるのは何か欠けているって感じはするって所か」
上腕二頭筋の部分に刻印された支配呪印を見ながら言った。
光ってはいるが、どこかその輝きは鈍く活気がなく頼りないように見える。
『そりゃ、機能を八割も奪われているわけですからしょうがありませんね。その感覚はわたしにはよくわかりませんが、マカミさんが言うのならそうなのかもしれないでしょうけど』
立体ホログラムのサクラが言った。流石に個人のことまでは把握は出来ないのだろう。
「問題は今のその二割しか機能していない状態で使えるのかどうかだ。マカミ、『兵士召喚』は出来そうか?」
アオイが言った。
ものがあってもそれが機能出来なければ意味はない。基本的な機能である「兵士召喚」が出来なければ、まともに軍団戦を仕掛けることも不可能だ。
「今メニュー画面を開いて見ているが、それしか出来ねえなぁ。それと基本的なシステムの内容はゲーム時代と同じだなぁ。一つ使うのに魔力を結構消費するぞ。全力で使い続けるなら、せめて魔力が最低でもAランク以上じゃないと厳しいなぁ」
支配呪印による兵士召喚、正確には兵舎システムの使用には行使するプレイヤーの魔力を消費する。使うことが出来るものによって魔力消費量が異なり、そのぶん強力な兵士を召喚することが出来る。
『……あれ?おかしいですね。ゲーム時代はそれほどに魔力消費はなかったはずなのですが。少し解析します』
マカミが見ている魔力の消費数値がおかしいことに気づき、サクラは解析を始める。
「ゲーム時代の魔力消費量ってどれぐらいするんだったか?」
アオイが言った。
「確か、初心者でも使えるようにという理由で『魔力』がEランクのプレイヤーでも使えたはずだけど。『兵士召喚』ぐらいなら、そこまで負担はなかったと思う」
ムキュウ・オンラインの「兵舎システム」は条件を満たすことで使うことが出来るようになるのだが、条件は単純にチュートリアルをクリアするだけで必要最低限の魔力さえあれば初心者プレイヤーでも使うことが出来る仕組みになっている。
支配呪印はこの兵舎システムを基礎に作られたもの。各領域の支配権をフロアマスターが独自に持つ権限という形でプログラミングをしてカタチとしたものだ。それを使用することが出来るのは、各フロアのフロアマスターのみで他のフロアマスターが使うことは出来ないし、ある例外を除けば……ギルドマスターであるヤトであっても干渉することが出来ないもの。そのことはマカミを含めた他のフロアマスターたちも理解していることだ。
「オレもあんまり兵舎システムは使っていなかったがよぉ。そこまで魔力消費はなかったはずだぜぇ。大抵の侵入者はオレとかソウジとかでぶっ飛ばしていたしなぁ」
フロアの特性は各フロアマスターが一番理解しており、ギルドマスターであるヤトもある程度理解している。その全貌を把握しているとは言い難いが、その知識も完全に変質しきってしまっているこの変異領域では、そのような知識も常識も何もかも通じない。
元々のマカミの領域は入り組んでいるタイプでトラップなどを仕掛けて崩れた所を一気に襲撃をかけて殲滅するというゲリラ戦法を使って戦うことが多かった。そのため、兵舎システムを使うことはあんまりなかった。
『解析完了しました!どうやら、魔力の調整機能が停止してしまっているようで、こちらの負担が倍増してしまうようです。現段階では、あまり使わないほうがよさそうですね』
「何、その嫌がらせじみた制約!?アルターエゴってそんな地味な嫌がらせが出来るのかぁ!?」
サクラの解析結果に思わずツッコミを入れるマカミ。確かにどう考えても嫌がらせにもほどがある。
『わかりませんが、恐らくわたしの管理者権限を利用して支配呪印をハッキングして改竄した可能性がありますね。わたしの管理者権限はこのギルドホームの中では支配呪印以上の強力な権限を持っていますから、それぐらいの改竄は不可能ではないのかもしれません』
「……ホントに何でもありだな。連中は」
呆れるようにアオイは言った。正直、ここまで来てしまうと何でもアリのように感じてしまう。
「だけど、どのみちやるしかないじゃないか。もうそろそろソウジが戻ってくるはずだけど……」
「戻りました、ヤト様」
そう言った時、ソウジがちょうどいいタイミングで戻ってきた。彼の背後には武装したNPC、ソウジが言っていた「指揮可能なNPC」たちなのだろう。
「来てくれたみたいだなぁ。じゃ、早速会議を始めようぜぇ」
『それではそれに相応しいものを今から出しますね』
サクラはそう言うと、何かモニターを操作し始めた。
すると、ヤトたちの目の前に会議室などでよく見られる長テーブルが現れた。
「まずは現在の状況を教えてくれ、ソウジ」
「はい。我々レジスタンスは現在劣勢にあります。変異領域からの虚数の侵蝕が進んでいることもありますが、決定的なのはやはり支配呪印による兵舎システムの存在です」
「やっぱり、支配呪印が最大の原因か……」
『兵力を魔力が続く限り無限に生み出すことが出来ますからね。確かにあちらに支配呪印を八割有しているのでは決定的にこちらが不利です』
ヤトが想定していた通り、バカラコスモスは変異領域の支配者の権限である支配呪印を手に入れたことで兵力を無限に増員させることが出来る。いくらアルターエゴ側の兵力を削ってもバカラコスモスが一度「兵力召喚」を行ってしまえば、再び兵力を増員させてしまう。
逆にレジスタンス側は完全に消耗戦。いくらソウジが支配呪印を一時的に所有していたとは言え、正規のフロアマスターではないことや二割しか保持していないことで十分に兵力を補充することが出来ない。個人の戦闘能力も低く、そういう意味ではアルターエゴ側の方が総合戦闘能力は上だ。
「だからこそ、さっきサクラが言っていた『ロゴスジェネレーター』という施設を破壊する必要があるってことなのか。そこを破壊すれば、支配呪印も正規のフロアマスターであるマカミに戻るということか」
『そういうことです。それに、『ロゴスジェネレーター』はバカラコスモスの心象防御の発生源でもありますから、必然的に攻略しなければなりません。ここを破壊せずにして、変異領域の攻略は不可能です』
そう。
マカミがこの領域における兵舎システムの完全起動、それによる兵力の増員、そしてアルターエゴへの本格的な攻撃には支配呪印であり、バカラコスモスを守る概念結界、心象防御を解除するために「ロゴスジェネレーター」を破壊しなければならない。それが最低限の目標となる。
「結論、『ロゴスジェネレーター』を破壊しなければあのムカつくアルターエゴをぶっ飛ばすことは出来ねえってことだろぉ。だったら、とっとと攻めて反撃させてもらおうじゃねえかぁ」
「そうだな。ソウジ、俺たちを合わせた今の戦力で近くの『ロゴスジェネレーター』を攻撃できそうか?」
ヤトは率直にソウジに聞いた。
「……確かに、お二人を合わせた戦力なら、今確認されている近くの『ロゴスジェネレーター』を攻略することは可能でしょう。ですが、入念に準備をしなければ返り討ちにされてしまう可能性があります」
「よし。なら決まりだな!サクラ、この近くの『ロゴスジェネレーター』とその周辺のマップの解析をしてくれ」
『わかりました。すぐに解析をしますので、お待ちくださいね』
ヤトの指示を受けたサクラは即座に解析を始める。
「マカミは、今出来る限りの魔力を使って兵力を増員させてほしい。具体的には、攻城戦を視野に入れた形で」
「お、おう。だがよぉ、現在の機能じゃそんなことが出来るほどの戦力は作れないぞぉ?」
現在、マカミの持っている支配呪印は2割。恐らくだが、攻城戦を視野に入れて全力の戦闘を行うのは力不足と言ってもいいだろう。
「それはわかっている。だが、あの時のバカラコスモスたちの配下の武装を見る限り、近代戦に近い戦闘になるのかもしれない。そうなれば、一方的に潰されるのがオチだ。だからこそ、こっちも武装を考慮した編成を行うし、今持っている力を尽くして攻略するしかない」
バカラコスモスが従えているNPCたちの武装は、その大部分が近代兵器だ。可能性があるとするなら、機動力も相当に高い。いくらスキルの「縮地」を持っているヤトでもその全てを捌ききれるわけではないし、マカミの俊敏さを活かした機動力もたった一人ではいずれ数の力に潰されてしまう可能性もある。
現時点でマカミの持つ支配呪印で召喚出来る兵力は少ないし、武装も刀剣系、弓系、槍系、そしてフリントロック式の銃、こちらで言えば火縄銃しかNPCに武装させることが出来ない。
そして、何よりも情報が少ない。現時点で無策で「ロゴスジェネレーター」を攻略することは自殺行為に等しい。
それでも現状の戦力増加の見込みがほとんどない以上、無謀であってもやるしかない。
「……クソが。オレはここのフロアマスターだったはずなのに情けねえ。せめて支配呪印とスキルの解除が出来ればいいんだが」
確かに、マカミの封印されている二つのスキルの封印が解除されればそれだけで十分な戦力になる。ヤト自身もハッキリと思い出せないが、封印されているそのスキルはどれも強力なものだったと覚えている。
「スキルの封印解除も必須になってくるだろうね。これからの戦いに必ず必要になってくると思うし」
アルターエゴはバカラコスモス一人だけではない。
彼らは各領域に一人いるということは、全部で七人いるということ。一番初めのバカラコスモス一人だけでもあの高い戦闘能力を持っているのだ。他のアルターエゴも同様、或いはそれ以上の戦闘能力を持っていると十分に考えられるし、何よりもヤトたちは弱体化してしまっている。このままでは途中で潰されてしまう可能性だってあり得ない話じゃない。
『スキルの封印を解除するにはアカウントデータを取り戻す必要があります。そのためにも今回の戦闘は避けられません。今後の作戦方針の一つとして設定する必要があります』
サクラが言った。
作戦方針として必要になるのは必然だ。言った通り、アルターエゴはバカラコスモスを含めて七人存在するし、これからの戦いのために必要になってくる。それにアルターエゴの正体もわからない。
サクラの言葉が正しければ、スキルを解除するにはどこかにあるヤトたちのアカウントデータを取り戻す必要がある。そうでなければいつまでもヤトたちは弱いままになってしまい、対抗が出来ない。
「無論、そのつもりさ。もしかすると、『ロゴスジェネレーター』と一緒に封印しているってこともあるかもしれないし」
「どうだろうなぁ。そこはやっぱり攻略しないとわからねえ。何よりも情報が少なすぎる。確証が出来れば文句はないんだがなぁ」
今のレジスタンス側の持つ情報では決定打に欠けてしまうかもしれない。漠然とした情報では無謀だ。
そのため、レジスタンスの情報源は多少なりと領域内に干渉することが出来るサクラのみとなっている。足を使って偵察をすることが出来ればいいのだが、サクラの管理者権限が弱ってしまっている以上は不足の事態に対応することが出来ない可能性もある。それに偵察に関係するスキルを二人は持ち合わせていない。
ヤトは十分な戦力を手に入れるまで、単独での偵察すらも危険と判断したのだ。その上で「ロゴスジェネレーター」の破壊を最優先することにした。
マカミは今、自身の支配呪印を用いて魔力を「兵士召喚」を行使するために注いでいる。目の前にディスプレイを出して細かく操作をしている。
「兵士召喚」を行使するには、事前に召喚するNPCたちのクラスなどをあらかじめ決めておいてからでなければ使うことは出来ない。特に今回はわずかな兵力しか召喚出来ないため、しっかりと設定をしておかなければならないのだ。
『ヤトさん!近くの『ロゴスジェネレーター』の周辺地理の解析を完了しました!』
ホログラムのサクラが元気よくそう言った。
「本当か!じゃあ、早速見せてくれ!」
『わかりました。では早速……』
サクラはそう言うと、すぐにヤトたちの目の前に3Dマップが投影された。
その3Dマップはかなり精密で、複雑怪奇な構造をしている変異領域の地形などがわかりやすくまとめられていた。
改めて見ると、やはり変異領域はかなり特殊だった。
現実世界にある高速道路を無理やり歪めているようで、道路ならともかく一つの道がまるで公園のようになっていたり、サービスエリアの一部が歪んで一つの大型建造物の様相をしているなど、とても現実とは思えない光景だ。
ダンジョンと呼ぶにはあまりにも異質すぎるそれ。
「……改めて見ると、ホントにヤバイな。それで、このおかしな建物が『ロゴスジェネレーター』なのか?」
そのマップの地形の中で五角形の形をした建造物が歪な地形の中でポツンと存在していた。周辺が歪な地形と建造物がひしめいている中、それだけは規則正しくしっかりとそこに存在していた。
『分析の結果、この建造物だけ高い魔力反応が検出されました。その特異性を含めて、恐らくこの建造物が我々の目標である『ロゴスジェネレーター』と思われます。この建造物に敵兵力は一定の数が集中していますが、ここから一番近い『ロゴスジェネレーター』の兵力はそこまで高くはありません。ここなら現在のレジスタンスの兵力でも十分に攻略をすることは可能と思われます』
サクラは解析結果を基に説明をしながら、ここから一番近いとされている「ロゴスジェネレーター」の位置を映し出す。
今ヤトたちがいる場所から、近くの「ロゴスジェネレーター」の兵力は他の「ロゴスジェネレーター」の兵力より少なかった。
「これなら、今の俺たちでも攻略することは出来るんじゃないのか?」
『理論上は可能かと思われます。今こちらにいる戦力とこちらの『ロゴスジェネレーター』の戦力を見て検証してみた結果、勝率はわずかではありますがわたしたちが勝てる確率は高いと思われます』
それはつまり今の戦力でもこの「ロゴスジェネレーター」を攻略することは可能だということ。
「なら、とっとと攻めてやろうぜぇ!『ロゴスジェネレーター』をぶっ壊して、オレたちのアカウントデータも取り戻して、あのムカつくアルターエゴをぶっ飛ばしてやろうぜぇ!!」
勝算があると言われてマカミは勢いに乗って言う。
彼の場合は、今この領域は自分が担当していた領域だから尚更なのだろう。一刻も早く取り戻したいという気持ちは、人一倍強い。
『お気持ちはわかりますが、もう少しお待ちください。ただ兵を作り出してカチコミに行ったって返り討ちにされる可能性だって十分にあるのですよ?』
「う……。そ、それはそうだがよぉ……」
『ダ・メ・で・す!』
「お、おう……」
反論しようとしたマカミはサクラの剣幕に押されてそこで押し黙った。
『この「ロゴスジェネレーター」の守りは以外と手薄です。ですので、奇襲作戦によって襲撃をかけることを推奨します』
「奇襲作戦?具体的にはどのような?」
アオイは首をひねって言った。
『この警備が手薄な時間帯があることを確認しました。この時間帯の時は警備を行っている敵NPCは少なく、少し近づく程度なら全く問題はありません。二手に分かれて、わたしの合図で攻撃をすればきっとすぐに落とすことは可能かと』
「なるほどな。それなら、敵の意表をついて襲撃をすることは出来る。だが、アルターエゴがこの『ロゴスジェネレーター』にいる可能性はないのか?」
アオイは自らの疑問を投げかけた。
ロゴスジェネレーター」はアルターエゴ側にとっては重要な施設。可能性だが、彼らにとって「ロゴスジェネレーター」は一種の基地だ。拠点としても使用することが出来るだろう。それらの理由から、指揮官でこの領域の支配者であるバカラコスモスが訪れてくる可能性も十分にあり得ると思ったからだ。
『現時点ではアルターエゴ・バカラコスモスの存在は確認されていません。これもまだ推測の段階ではありますが、バカラコスモスは恐らくこの『ロゴスジェネレーター』には来ないと思われます。ここの『ロゴスジェネレーター』は、他二つのものより魔力反応が低く、優先順位も低いと見なして判断しました』
「なるほど。奴らにとって、それほど重要ではないということか。だとすると、本場はその次の『ロゴスジェネレーター』ということになるな」
サクラの説明にアオイは納得する。
一番近い「ロゴスジェネレーター」はバカラコスモスにとってさほど重要な拠点ではないと思われ、ここに来ることはないとのこと。もう一つ来ない理由としては現在のレジスタンスとアルターエゴとの間で総合戦闘能力が優勢にあることからと考えられる。
しかしそれは逆説的に他の「ロゴスジェネレーター」の方が彼らにとって本番であるということ。ここで近くの「ロゴスジェネレーター」を攻略したからと言って簡単にアルターエゴらとの戦力差を簡単に埋められるものではない。
「そういうことです。ですから、当面は近くの『ロゴスジェネレーター』を攻略し、少しでもこちらの戦力を拡大する必要がありますね。マカミさん、NPC設定は出来ましたか?」
「急かすなよぉ。ゲーム時代と微妙に違って大変なんだ。だが、今日中には終わるぜぇ。後は細かい設定調整をすれば、上手くいくんだがなぁ」
マカミは目の前のディスプレイを操作しながら言った。普段あまりやらないことに少しぎこちなくしていたが、何とか上手くやっているようだ。
「なら、作戦方針は決まりだな。サクラの提案を基に改めて作戦を練り直す。後は決行まで入念入りに準備を進め、最初の『ロゴスジェネレーター』攻略を目指す。これは、俺たちが生き残るための戦いだ。気を引き締めて取り掛かるぞ!」
「ハッ!!」
ヤトの一言にソウジたちNPCたちは大きく返事をした。
彼らの戦いは、ようやくここから始まるのだ。
「集団を相手に無双する爽快感」をコンセプトにしているため、兵士として召喚されるNPCたちは基本的にはプレイヤーより弱く設定されており、決定打に欠ける。だが、彼らの強みはその膨大な兵力で質より量でプレイヤーたちを苦しめてくる。
例え弱く設定されているとは言え、兵士たちの中で指揮能力をプログラミングされている者もいるし、上位個体なども存在するため、油断すれば負けることだってある。プログラム能力やツールを用いたデザイン能力に優れた者がいれば、特別個体として創造し、自身の拠点に配置するなどと言ったことも可能である。
ムキュウ・オンラインの「初期勢」と言われる、サービス配信当初からゲームをやっているプレイヤーたちの中には本物のイラストレーターや漫画家、ゲームクリエイターなどと言ったその手の業界の人間も含まれており、そこにゲームを得意とする者たちの力も加わったりして、後から始めた多くのプレイヤーたちからは「運営公認プレイヤー」或いは「運営公認ギルド」などと呼ばれたりもしていた。真偽はともかく、それらは「七天の剣」より強く勝ち目がないと言われるほどの強さを持っているとされている。
とは言え、様々な条件が重なったりすれば、格下の相手にも負けるなんてケースは十分にあるわけであって、1から10まで勝ち目がないなんてわけでもない。
しかし、今のヤトたちはゲームの中の人間ではなく、一人の人間たちとして成立している生命だ。現実世界と同様に殺されてしまえば普通に死ぬし、攻撃を食らったりすれば痛覚も十分にくる。
例え今のこの状況の状況がゲームのようであっても、最早それは遊びなどではないのだ。
「支配呪印の感じはどうなんだ?」
レジスタンスの拠点の中の空いているテントの中にヤトたちはいた。
支配呪印の起動テストを行うために広場に集まり、本来のフロアマスターであるマカミがちゃんと使えるのかどうかを確かめるために来たのだ。実戦で使えなくて全滅とかなったら色々と洒落にならないからである。
「んー……、やっぱりゲーム時代と感覚が微妙に違うって所かなぁ……。だが、わかるのは何か欠けているって感じはするって所か」
上腕二頭筋の部分に刻印された支配呪印を見ながら言った。
光ってはいるが、どこかその輝きは鈍く活気がなく頼りないように見える。
『そりゃ、機能を八割も奪われているわけですからしょうがありませんね。その感覚はわたしにはよくわかりませんが、マカミさんが言うのならそうなのかもしれないでしょうけど』
立体ホログラムのサクラが言った。流石に個人のことまでは把握は出来ないのだろう。
「問題は今のその二割しか機能していない状態で使えるのかどうかだ。マカミ、『兵士召喚』は出来そうか?」
アオイが言った。
ものがあってもそれが機能出来なければ意味はない。基本的な機能である「兵士召喚」が出来なければ、まともに軍団戦を仕掛けることも不可能だ。
「今メニュー画面を開いて見ているが、それしか出来ねえなぁ。それと基本的なシステムの内容はゲーム時代と同じだなぁ。一つ使うのに魔力を結構消費するぞ。全力で使い続けるなら、せめて魔力が最低でもAランク以上じゃないと厳しいなぁ」
支配呪印による兵士召喚、正確には兵舎システムの使用には行使するプレイヤーの魔力を消費する。使うことが出来るものによって魔力消費量が異なり、そのぶん強力な兵士を召喚することが出来る。
『……あれ?おかしいですね。ゲーム時代はそれほどに魔力消費はなかったはずなのですが。少し解析します』
マカミが見ている魔力の消費数値がおかしいことに気づき、サクラは解析を始める。
「ゲーム時代の魔力消費量ってどれぐらいするんだったか?」
アオイが言った。
「確か、初心者でも使えるようにという理由で『魔力』がEランクのプレイヤーでも使えたはずだけど。『兵士召喚』ぐらいなら、そこまで負担はなかったと思う」
ムキュウ・オンラインの「兵舎システム」は条件を満たすことで使うことが出来るようになるのだが、条件は単純にチュートリアルをクリアするだけで必要最低限の魔力さえあれば初心者プレイヤーでも使うことが出来る仕組みになっている。
支配呪印はこの兵舎システムを基礎に作られたもの。各領域の支配権をフロアマスターが独自に持つ権限という形でプログラミングをしてカタチとしたものだ。それを使用することが出来るのは、各フロアのフロアマスターのみで他のフロアマスターが使うことは出来ないし、ある例外を除けば……ギルドマスターであるヤトであっても干渉することが出来ないもの。そのことはマカミを含めた他のフロアマスターたちも理解していることだ。
「オレもあんまり兵舎システムは使っていなかったがよぉ。そこまで魔力消費はなかったはずだぜぇ。大抵の侵入者はオレとかソウジとかでぶっ飛ばしていたしなぁ」
フロアの特性は各フロアマスターが一番理解しており、ギルドマスターであるヤトもある程度理解している。その全貌を把握しているとは言い難いが、その知識も完全に変質しきってしまっているこの変異領域では、そのような知識も常識も何もかも通じない。
元々のマカミの領域は入り組んでいるタイプでトラップなどを仕掛けて崩れた所を一気に襲撃をかけて殲滅するというゲリラ戦法を使って戦うことが多かった。そのため、兵舎システムを使うことはあんまりなかった。
『解析完了しました!どうやら、魔力の調整機能が停止してしまっているようで、こちらの負担が倍増してしまうようです。現段階では、あまり使わないほうがよさそうですね』
「何、その嫌がらせじみた制約!?アルターエゴってそんな地味な嫌がらせが出来るのかぁ!?」
サクラの解析結果に思わずツッコミを入れるマカミ。確かにどう考えても嫌がらせにもほどがある。
『わかりませんが、恐らくわたしの管理者権限を利用して支配呪印をハッキングして改竄した可能性がありますね。わたしの管理者権限はこのギルドホームの中では支配呪印以上の強力な権限を持っていますから、それぐらいの改竄は不可能ではないのかもしれません』
「……ホントに何でもありだな。連中は」
呆れるようにアオイは言った。正直、ここまで来てしまうと何でもアリのように感じてしまう。
「だけど、どのみちやるしかないじゃないか。もうそろそろソウジが戻ってくるはずだけど……」
「戻りました、ヤト様」
そう言った時、ソウジがちょうどいいタイミングで戻ってきた。彼の背後には武装したNPC、ソウジが言っていた「指揮可能なNPC」たちなのだろう。
「来てくれたみたいだなぁ。じゃ、早速会議を始めようぜぇ」
『それではそれに相応しいものを今から出しますね』
サクラはそう言うと、何かモニターを操作し始めた。
すると、ヤトたちの目の前に会議室などでよく見られる長テーブルが現れた。
「まずは現在の状況を教えてくれ、ソウジ」
「はい。我々レジスタンスは現在劣勢にあります。変異領域からの虚数の侵蝕が進んでいることもありますが、決定的なのはやはり支配呪印による兵舎システムの存在です」
「やっぱり、支配呪印が最大の原因か……」
『兵力を魔力が続く限り無限に生み出すことが出来ますからね。確かにあちらに支配呪印を八割有しているのでは決定的にこちらが不利です』
ヤトが想定していた通り、バカラコスモスは変異領域の支配者の権限である支配呪印を手に入れたことで兵力を無限に増員させることが出来る。いくらアルターエゴ側の兵力を削ってもバカラコスモスが一度「兵力召喚」を行ってしまえば、再び兵力を増員させてしまう。
逆にレジスタンス側は完全に消耗戦。いくらソウジが支配呪印を一時的に所有していたとは言え、正規のフロアマスターではないことや二割しか保持していないことで十分に兵力を補充することが出来ない。個人の戦闘能力も低く、そういう意味ではアルターエゴ側の方が総合戦闘能力は上だ。
「だからこそ、さっきサクラが言っていた『ロゴスジェネレーター』という施設を破壊する必要があるってことなのか。そこを破壊すれば、支配呪印も正規のフロアマスターであるマカミに戻るということか」
『そういうことです。それに、『ロゴスジェネレーター』はバカラコスモスの心象防御の発生源でもありますから、必然的に攻略しなければなりません。ここを破壊せずにして、変異領域の攻略は不可能です』
そう。
マカミがこの領域における兵舎システムの完全起動、それによる兵力の増員、そしてアルターエゴへの本格的な攻撃には支配呪印であり、バカラコスモスを守る概念結界、心象防御を解除するために「ロゴスジェネレーター」を破壊しなければならない。それが最低限の目標となる。
「結論、『ロゴスジェネレーター』を破壊しなければあのムカつくアルターエゴをぶっ飛ばすことは出来ねえってことだろぉ。だったら、とっとと攻めて反撃させてもらおうじゃねえかぁ」
「そうだな。ソウジ、俺たちを合わせた今の戦力で近くの『ロゴスジェネレーター』を攻撃できそうか?」
ヤトは率直にソウジに聞いた。
「……確かに、お二人を合わせた戦力なら、今確認されている近くの『ロゴスジェネレーター』を攻略することは可能でしょう。ですが、入念に準備をしなければ返り討ちにされてしまう可能性があります」
「よし。なら決まりだな!サクラ、この近くの『ロゴスジェネレーター』とその周辺のマップの解析をしてくれ」
『わかりました。すぐに解析をしますので、お待ちくださいね』
ヤトの指示を受けたサクラは即座に解析を始める。
「マカミは、今出来る限りの魔力を使って兵力を増員させてほしい。具体的には、攻城戦を視野に入れた形で」
「お、おう。だがよぉ、現在の機能じゃそんなことが出来るほどの戦力は作れないぞぉ?」
現在、マカミの持っている支配呪印は2割。恐らくだが、攻城戦を視野に入れて全力の戦闘を行うのは力不足と言ってもいいだろう。
「それはわかっている。だが、あの時のバカラコスモスたちの配下の武装を見る限り、近代戦に近い戦闘になるのかもしれない。そうなれば、一方的に潰されるのがオチだ。だからこそ、こっちも武装を考慮した編成を行うし、今持っている力を尽くして攻略するしかない」
バカラコスモスが従えているNPCたちの武装は、その大部分が近代兵器だ。可能性があるとするなら、機動力も相当に高い。いくらスキルの「縮地」を持っているヤトでもその全てを捌ききれるわけではないし、マカミの俊敏さを活かした機動力もたった一人ではいずれ数の力に潰されてしまう可能性もある。
現時点でマカミの持つ支配呪印で召喚出来る兵力は少ないし、武装も刀剣系、弓系、槍系、そしてフリントロック式の銃、こちらで言えば火縄銃しかNPCに武装させることが出来ない。
そして、何よりも情報が少ない。現時点で無策で「ロゴスジェネレーター」を攻略することは自殺行為に等しい。
それでも現状の戦力増加の見込みがほとんどない以上、無謀であってもやるしかない。
「……クソが。オレはここのフロアマスターだったはずなのに情けねえ。せめて支配呪印とスキルの解除が出来ればいいんだが」
確かに、マカミの封印されている二つのスキルの封印が解除されればそれだけで十分な戦力になる。ヤト自身もハッキリと思い出せないが、封印されているそのスキルはどれも強力なものだったと覚えている。
「スキルの封印解除も必須になってくるだろうね。これからの戦いに必ず必要になってくると思うし」
アルターエゴはバカラコスモス一人だけではない。
彼らは各領域に一人いるということは、全部で七人いるということ。一番初めのバカラコスモス一人だけでもあの高い戦闘能力を持っているのだ。他のアルターエゴも同様、或いはそれ以上の戦闘能力を持っていると十分に考えられるし、何よりもヤトたちは弱体化してしまっている。このままでは途中で潰されてしまう可能性だってあり得ない話じゃない。
『スキルの封印を解除するにはアカウントデータを取り戻す必要があります。そのためにも今回の戦闘は避けられません。今後の作戦方針の一つとして設定する必要があります』
サクラが言った。
作戦方針として必要になるのは必然だ。言った通り、アルターエゴはバカラコスモスを含めて七人存在するし、これからの戦いのために必要になってくる。それにアルターエゴの正体もわからない。
サクラの言葉が正しければ、スキルを解除するにはどこかにあるヤトたちのアカウントデータを取り戻す必要がある。そうでなければいつまでもヤトたちは弱いままになってしまい、対抗が出来ない。
「無論、そのつもりさ。もしかすると、『ロゴスジェネレーター』と一緒に封印しているってこともあるかもしれないし」
「どうだろうなぁ。そこはやっぱり攻略しないとわからねえ。何よりも情報が少なすぎる。確証が出来れば文句はないんだがなぁ」
今のレジスタンス側の持つ情報では決定打に欠けてしまうかもしれない。漠然とした情報では無謀だ。
そのため、レジスタンスの情報源は多少なりと領域内に干渉することが出来るサクラのみとなっている。足を使って偵察をすることが出来ればいいのだが、サクラの管理者権限が弱ってしまっている以上は不足の事態に対応することが出来ない可能性もある。それに偵察に関係するスキルを二人は持ち合わせていない。
ヤトは十分な戦力を手に入れるまで、単独での偵察すらも危険と判断したのだ。その上で「ロゴスジェネレーター」の破壊を最優先することにした。
マカミは今、自身の支配呪印を用いて魔力を「兵士召喚」を行使するために注いでいる。目の前にディスプレイを出して細かく操作をしている。
「兵士召喚」を行使するには、事前に召喚するNPCたちのクラスなどをあらかじめ決めておいてからでなければ使うことは出来ない。特に今回はわずかな兵力しか召喚出来ないため、しっかりと設定をしておかなければならないのだ。
『ヤトさん!近くの『ロゴスジェネレーター』の周辺地理の解析を完了しました!』
ホログラムのサクラが元気よくそう言った。
「本当か!じゃあ、早速見せてくれ!」
『わかりました。では早速……』
サクラはそう言うと、すぐにヤトたちの目の前に3Dマップが投影された。
その3Dマップはかなり精密で、複雑怪奇な構造をしている変異領域の地形などがわかりやすくまとめられていた。
改めて見ると、やはり変異領域はかなり特殊だった。
現実世界にある高速道路を無理やり歪めているようで、道路ならともかく一つの道がまるで公園のようになっていたり、サービスエリアの一部が歪んで一つの大型建造物の様相をしているなど、とても現実とは思えない光景だ。
ダンジョンと呼ぶにはあまりにも異質すぎるそれ。
「……改めて見ると、ホントにヤバイな。それで、このおかしな建物が『ロゴスジェネレーター』なのか?」
そのマップの地形の中で五角形の形をした建造物が歪な地形の中でポツンと存在していた。周辺が歪な地形と建造物がひしめいている中、それだけは規則正しくしっかりとそこに存在していた。
『分析の結果、この建造物だけ高い魔力反応が検出されました。その特異性を含めて、恐らくこの建造物が我々の目標である『ロゴスジェネレーター』と思われます。この建造物に敵兵力は一定の数が集中していますが、ここから一番近い『ロゴスジェネレーター』の兵力はそこまで高くはありません。ここなら現在のレジスタンスの兵力でも十分に攻略をすることは可能と思われます』
サクラは解析結果を基に説明をしながら、ここから一番近いとされている「ロゴスジェネレーター」の位置を映し出す。
今ヤトたちがいる場所から、近くの「ロゴスジェネレーター」の兵力は他の「ロゴスジェネレーター」の兵力より少なかった。
「これなら、今の俺たちでも攻略することは出来るんじゃないのか?」
『理論上は可能かと思われます。今こちらにいる戦力とこちらの『ロゴスジェネレーター』の戦力を見て検証してみた結果、勝率はわずかではありますがわたしたちが勝てる確率は高いと思われます』
それはつまり今の戦力でもこの「ロゴスジェネレーター」を攻略することは可能だということ。
「なら、とっとと攻めてやろうぜぇ!『ロゴスジェネレーター』をぶっ壊して、オレたちのアカウントデータも取り戻して、あのムカつくアルターエゴをぶっ飛ばしてやろうぜぇ!!」
勝算があると言われてマカミは勢いに乗って言う。
彼の場合は、今この領域は自分が担当していた領域だから尚更なのだろう。一刻も早く取り戻したいという気持ちは、人一倍強い。
『お気持ちはわかりますが、もう少しお待ちください。ただ兵を作り出してカチコミに行ったって返り討ちにされる可能性だって十分にあるのですよ?』
「う……。そ、それはそうだがよぉ……」
『ダ・メ・で・す!』
「お、おう……」
反論しようとしたマカミはサクラの剣幕に押されてそこで押し黙った。
『この「ロゴスジェネレーター」の守りは以外と手薄です。ですので、奇襲作戦によって襲撃をかけることを推奨します』
「奇襲作戦?具体的にはどのような?」
アオイは首をひねって言った。
『この警備が手薄な時間帯があることを確認しました。この時間帯の時は警備を行っている敵NPCは少なく、少し近づく程度なら全く問題はありません。二手に分かれて、わたしの合図で攻撃をすればきっとすぐに落とすことは可能かと』
「なるほどな。それなら、敵の意表をついて襲撃をすることは出来る。だが、アルターエゴがこの『ロゴスジェネレーター』にいる可能性はないのか?」
アオイは自らの疑問を投げかけた。
ロゴスジェネレーター」はアルターエゴ側にとっては重要な施設。可能性だが、彼らにとって「ロゴスジェネレーター」は一種の基地だ。拠点としても使用することが出来るだろう。それらの理由から、指揮官でこの領域の支配者であるバカラコスモスが訪れてくる可能性も十分にあり得ると思ったからだ。
『現時点ではアルターエゴ・バカラコスモスの存在は確認されていません。これもまだ推測の段階ではありますが、バカラコスモスは恐らくこの『ロゴスジェネレーター』には来ないと思われます。ここの『ロゴスジェネレーター』は、他二つのものより魔力反応が低く、優先順位も低いと見なして判断しました』
「なるほど。奴らにとって、それほど重要ではないということか。だとすると、本場はその次の『ロゴスジェネレーター』ということになるな」
サクラの説明にアオイは納得する。
一番近い「ロゴスジェネレーター」はバカラコスモスにとってさほど重要な拠点ではないと思われ、ここに来ることはないとのこと。もう一つ来ない理由としては現在のレジスタンスとアルターエゴとの間で総合戦闘能力が優勢にあることからと考えられる。
しかしそれは逆説的に他の「ロゴスジェネレーター」の方が彼らにとって本番であるということ。ここで近くの「ロゴスジェネレーター」を攻略したからと言って簡単にアルターエゴらとの戦力差を簡単に埋められるものではない。
「そういうことです。ですから、当面は近くの『ロゴスジェネレーター』を攻略し、少しでもこちらの戦力を拡大する必要がありますね。マカミさん、NPC設定は出来ましたか?」
「急かすなよぉ。ゲーム時代と微妙に違って大変なんだ。だが、今日中には終わるぜぇ。後は細かい設定調整をすれば、上手くいくんだがなぁ」
マカミは目の前のディスプレイを操作しながら言った。普段あまりやらないことに少しぎこちなくしていたが、何とか上手くやっているようだ。
「なら、作戦方針は決まりだな。サクラの提案を基に改めて作戦を練り直す。後は決行まで入念入りに準備を進め、最初の『ロゴスジェネレーター』攻略を目指す。これは、俺たちが生き残るための戦いだ。気を引き締めて取り掛かるぞ!」
「ハッ!!」
ヤトの一言にソウジたちNPCたちは大きく返事をした。
彼らの戦いは、ようやくここから始まるのだ。
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