無窮の刃 第1部「Sevens.Of.Stella」 

平御塩

第9話「目標」

テントの外に出ると、そこはキャンプ場だった。


いや、全体的に見ると現実世界におけるレジャースポット的な意味でのキャンプではなく、軍隊などでよく見る野営地という意味のキャンプだった。物々しい雰囲気に包まれており、和やかな雰囲気はどこにもない。


「よ。ようやく起きたか、マスター」


テントを出てお迎えに来たのはアオイだった。


「アオイ!お前も無事だったのか?」


「ああ。この通りな。呪いを受けていなかったぶん、治るのは早かったんだ」


アオイのほうは特に重傷を負っていたわけではないらしく、体の傷も見当たらないほどに完治していた。


「お目覚めになりましたか!ヤト様!」


目の前に、鎧に身を包んだ男がヤトたちに寄ってきた。見るからに武人と言った風貌で獣を想起させる威圧感を持っていた。強いて言うならマカミに雰囲気が似ている。


「お前は……、あの時俺たちを助けに来た……」


「はい。あのアルターエゴに襲撃を受けていたヤト様たちを助けに来ていた者です。申し遅れました。我が名はソウジと申します。反アルターエゴレジスタンスのリーダーを務めています」


「レジスタンス……」


反アルターエゴレジスタンス。


サクラからはそのような情報は何もなかったが、彼等のような存在が残っているなんて到底思わなかった。


「俺たちを助けたのもコイツらだ。もし助けがなかったら、今頃俺たちは死んでいただろうよ」


アオイが言った。つまり、彼らに助けられなかったら、今頃ヤトたちはバカラコスモスに皆殺しにされていたのかもしれない。


『レジスタンスのリーダーと合流しましたね?両者共に大丈夫のようでよかったです』


すると、今度はヤトたちの目の前にホログラムとしてサクラが出現した。


「え、こんな通信方法あったの?こっちのほうが何か最先端感すごいんだけど」


さっきまで念話で会話していたのに、急に目の前でホログラムによる通信方法を見てヤトは驚いた。


『そこはしょうがありません。今ヤトさんたちがいる場所の存在状態が実数値にあるから空間が安定しているからなのです。そうでなければこのような通信方法は不可能なのです』


「ということは、ここは変異領域じゃないのか?」


『いいえ、厳密には違います。以前も言いましたように、虚数空間はあらゆる物質が存在することを許さない異空間にして一つの世界。わたしたちだけにあらず、あらゆる物質が“在る”ことを許される正常な状態を示す数値を『実数値』と言い、そのマイナスを表す数値が「虚数値」と呼ばれるものなのです。ですが、その座標はわずかながらギリギリの所で実数値を保ち、存在状態を正常状態にしています』


「つまり、今この場所はまだ変異領域に侵蝕されていない、元の領域ということなのか?」


『そういうことですね。ですが、こちらから観測した数値を見るに、あまり長くは持ちそうにないですね。このままでは変異領域の侵蝕を受けてしまい、その座標は元の領域のカタチを保つことが出来ず、変異領域となってしまうでしょう』


「……マジでか」


「嘘じゃねぇよぉ。……一通り確認したが、確かにここは元の領域にあった場所だ」


サクラの嘘偽りない言葉に衝撃を受けるヤトにフォローを入れるマカミ。


今自分たちがいる場所はかつてマカミがフロアマスターとして治めていた頃の面影を残す場所ということだ。そして現在は虚数空間の侵蝕を受け続け、いずれは完全に消えてしまう場所。


もう二度と見ることの出来ないとされていた、過去の残滓。いずれは消えてしまう、泡沫の夢。


まさか、このような形で元の領域の面影を見ることになるとは夢にも思わなかった。それだけに、この変異領域に突入した時の光景と改めて照らし合わせてみると余計にその衝撃が重くやってくる。


「……わかりやすく言うと、今ここの元の正常な場所がいずれは侵蝕されて上書きされてしまうという認識でいいんだな?」


『はい。キレイな細胞ががん細胞によって侵蝕されてしまうのと同じですね。恐らくあのアルターエゴは、まだこの領域を完全に支配しきれていない可能性があります』


この正常な領域が存在するということは、あのアルターエゴ・バカラコスモスが完全に支配しきれていないことの証だ。それは反撃のチャンスはまだあるということ。


『そして、そこにいるソウジさんはかつて廃棄されていたマカミさんの副官AIです!現実化した時に実体化して、変異領域に侵蝕されていない場所でレジスタンス活動をしていた人物です!』


「え、マジ?」


突然のカミングアウトにヤトはあんぐりとする。


「いや、ちょっと待て、サクラ。ソウジが、AI?オレの知っているソウジはNPCだったはずだぞぉ?」


マカミも動揺してサクラに聞いた。


『あ、それにつきましては問題ありません。アオイさんと同じく、廃棄されたデータをサルベージした時、ステータスが高かったので強制的にAIに昇格させましたー♪』


「もう何でもありかよぉ……」


サクラのメチャクチャぶりにげんなりとするマカミ。


アオイと同じ手法で、元々がNPCであったものを上位存在であるAIに昇格させるなんて、最早それはチートどころではない。そもそもチートは違法行為そのものでそんなことが運営側に発覚してしまえば、ナゴヤコードに違反するとしてアカウントの永久凍結・現実世界で現行犯逮捕されるなんてこともありうることだ。


しかし彼女は運営側の管理AIでありおまけにここは現実化したムキュウ・オンライン。電脳法則が通じる異世界なのだ。そのような世界においてサクラは間違いなく上位の存在。今更ながらツッコミを入れるのも野暮である。


「ご心配なく、マカミ様。現在のオレはAIに昇格したことで、臨時的にフロアマスターの権限を有しています」


「はぁ?それって、あのアルターエゴって野郎が手に入れたんじゃねえのかよぉ?」


マカミの言う通り、フロアマスターの証である「支配呪印ルーラーギアス」はこの変異領域に君臨するバカラコスモスが持っている。それがある限り、彼は絶対的な支配者として在り続け、無限に兵力を生み出すことが可能だ。


「管理AIサクラがオレをAIに昇格させた際、あのアルターエゴはまだ支配呪印ルーラーギアスをまだ手に入れていなかったのです。なので彼女の協力を得て、支配呪印ルーラーギアスの二割のみを奪うことに成功しました」


そう言って、ソウジは水晶玉のようなものを取り出した。そこには支配呪印ルーラーギアスの刻印が水泡の中に浮かぶようにそこにあった。


「嘘だろぉ!?何でそれがあるんだぁ!?」


まさかの支配呪印ルーラーギアスにマカミは驚きの声を上げた。ヤトは驚きすぎてもう何が起きても驚かないと言った感じで、死んだ魚みたいな目をしている。


『わたしが葦原城運営用の魔力リソースギリギリの所まで使って制作した『魔封の水晶玉』です!これ作るのに以外と時間も魔力リソースもかかったのですよ?ぶっちゃけ、私の自信作ですね!』


「やっぱりオマエの仕業かい!」


制作者は案の定、サクラだった。


「フロアマスター権限を象徴するこの支配呪印ルーラーギアスを手に入れない限り、アルターエゴは完全にこの領域を支配することは出来ません。同時に、本来のフロアマスターでもなくただのAIでしかないオレでは、この支配呪印ルーラーギアスの機能を十分に発揮することは出来ません」


つまり、NPCからAIに昇格しただけの者では支配呪印ルーラーギアスを使うことは出来ないということ。もしかするとサクラでもこの支配呪印ルーラーギアスの力を自らのものにすることは出来ないのかもしれない。


「つまり、その支配呪印ルーラーギアスはこの領域の本来のフロアマスターであるマカミでなければ機能しないということか」


『そういうことです。これは、この変異領域に限らず、他の領域においても共通の常識です。というかヤトさん。このシステムの根本的な設定は貴方が考えたのではなかったのですか?』


「……」


サクラの指摘にヤトは冷や汗をかく。


「……ヤト?」


それにマカミもヤトをじーっと見る。


「忘れてた」


その一言に、周囲が思いっきりズッコケた。


「そんな大事なことを忘れていたって本末転倒だろぉ!!何で忘れていたんだぁ!?」


マカミはヤトにツッコミを入れる。


「あー、えっと確か、案を出したのは俺だけど、その後のことはほぼ全部他のフロアマスターたちにお任せしていたっていうか……」


「……そう言えば、そんな感じで決めていたよなぁ。それでトントン拍子に話が進んでいって、結局システムが完成したんだった」


「雑すぎる……」


2人の会話にアオイは呆れた。


『結局マカミさんも同じ穴のムジナってヤツですね!あはは』


ぐだぐだな決め方であったことに乾いた笑いを出すサクラ。


「コホン。と、とにかく。支配呪印ルーラーギアスがここにあるということは、奴らはまだ完全にこの領域を支配しきれていないという認識でいいんだよな?」


咳払いをしてヤトはサクラに聞いた。


『はい。元々はマカミさんがフロアマスターだったのですから、それが元の所有者に戻るのは必然的です。かなり小規模ですが、これならある程度フロアマスター権限を行使することも出来ますし、反撃の足掛かりにすることだって出来ますよ!』


「なら、この支配呪印ルーラーギアスをオレに移植すればいいんだろぉ?やり方を教えろよぉ」


そうとわかれば、後はこの水晶玉の中にある支配呪印ルーラーギアスをマカミに移植してしまえば、フロアマスター権限を部分的に使うことが出来るということだ。


『わかりました。行きますよー、そーれ♪』


ホログラムのサクラの指先が光ると、ソウジの掌の上にある水晶玉が突然光に包まれた。光に包まれたそれは、しばらくすると徐々に小さくなっていく。


「……何コレ」


「アメ玉だな」


目の前で起きた意味不明・理解不能な現実にヤトは目を丸くして言った。それにアオイはフォローをするように言った。


マカミやソウジも同じく、目の前で起きた事に呆然とする。


『何って、支配呪印ルーラーギアス仕込みの特製アメ玉ですよ?後はそれをマカミさんがパクっと口の中に放り込んでしまえば、支配呪印ルーラーギアスの移植が完了するという計算なのです!』


「いやいやちょっと待て。ものすごく嫌な予感しかしねぇんだけど。こんなもの、口の中に入れたらヒドイ目に遭いそうでスゲェ嫌なんだけどぉ」


小さなアメ玉と化した支配呪印ルーラーギアス入りの水晶玉を見て、冷や汗を大量にかくマカミ。この先の運命が、誰がどう考えてもそっちに転がり込んでしまいそうなことは容易く想像出来てしまっているため、結果が想像できない。


「しょうがない。これも、この領域奪還のため。ギルドのため。ソウジ、アオイ。マカミ君を押さえつけなさい」


「おう。任せろ」


「……了解です。マカミ様、すみません」


「はぁ!?嫌だぞぉ!オレは絶対に嫌だぞぉ!?おい、サクラぁ!もっといい方法があるんだろぉ?なぁ?ホントに嫌な予感しかしねえって!」


無理やりアメ玉を食わされそうにされ、マカミはホログラムのサクラに懇願する。目は涙目になっていて、本気で嫌そうにしている。


『はい!残念ながらありませーん!残念でしたー!観念して、とっととその支配呪印ルーラーギアスを飲み込んでくださいね!』


しかし彼女から告げられたのはその女神悪魔のような無慈悲な死刑宣告だった。


「嫌だぁぁぁ!もっとマシな方法でしてくれぇぇぇ!虫歯の治療なんかより嫌だぁぁぁ!」


マカミは色々な恐怖に襲われ、一目散にその場から逃げようとする。


「縮地!」


しかし、スキルの「縮地」でヤトは目に留まらぬ速さでマカミの背後に移動し、羽交い絞めにする。


「げぇ!?スキルの無駄遣いだろ、それはぁ!?」


「スキルの有効活用と言ってほしい!さあ、観念して何か怪しいアメ玉、じゃなくて支配呪印ルーラーギアスを食べなさい!」


ヤトの筋力はA。対してマカミはB。


そしてそれに追い打ちをかけるように逃げられないようにするソウジ。


もう敗北は確定的である。


「それじゃ、逝くぞ。あーん」


アオイは手にアメ玉をつまんで、マカミの口に押し込もうと近づく。コメントのニュアンスがあまりにも不吉すぎるのはスルーして。


「ま、待ってくれ!嫌だ、それだけは嫌、ぎゃあああああぁぁぁ!!」


周囲に、マカミの悲痛な絶叫が響き渡ったのだった。


『うふふ。ヤトさんって以外とドSだったみたいですねー♪』


……その悲惨な状況を見てほほ笑む女神悪魔だった。










(チーン)←気絶中。


マカミはそのまま地面に突っ伏して気絶していた。


どうやらあのアメ玉はかなり刺激的な過激的な味(どのような内容だったのかは以下省略とする)だったらしく、食べた瞬間に口から戦闘機のジェット噴射の如く吹き出し、何やら形容しがたき奇声を発した後、気絶してしまった。頭部の獣耳は完全に垂れ下がり、顔面も蒼白としてしまっている。恐らく、精神的ダメージも尋常じゃないじゃないはずだ。


「で、これで本当に支配呪印ルーラーギアスはマカミに移植されたのか?」


背後で気絶するマカミを後目にサクラに聞くヤト。


『理論上、これで問題はないはずです。目覚めれば支配呪印ルーラーギアスはちゃんとマカミさんに移植されているはずですし。いやー、あれを作るのに色々な魔女術ウィッチクラフトのデータを探して調合した甲斐がありました!』


「悪魔だな、お前は」


魔女術ウィッチクラフトの調合方法の時点でもうヤバイとしか言いようがなく、アオイはあきれ顔で言った。


魔女術ウィッチクラフトはその性質上、神秘のゲテモノと称されるような薬の調合方法を持っており、その材料は主に生物を利用したものが多い。更に採取は地獄だが、成功して調合すれば素晴らしい薬になると言われている。ムキュウ・オンラインにおいては魔術師メイガスでスキルとして魔女術ウィッチクラフトを習得すれば、クラス特性に「魔女ウィッチ」が追加される。


もしかして、サクラは色々なクラス特性を有しているのだろうか?と考えられてもしょうがない。


『とは言いましても、この方法だと結構しんどいということが証明されましたので、次は負担がない方法を模索しようと思います。いい実験結果が得られましたね!』


「おまけにコイツは実験体扱いだったのか。つくづくヒドイな、お前」


最初からマカミは実験体扱いだったことをもろに暴露するサクラ。それにツッコミを入れるアオイ。


「うーん……」


どうやらマカミは目を覚ましたらしい。


「あ、成功している……。マジで移植成功しちゃったよ」


マカミの上腕二頭筋の部分を見ると、支配呪印ルーラーギアスが無事に移植されているのがよく見えた。


『目が覚めましたか?それでは、この変異領域の攻略方法を説明しますから、シャキッとしてください』


「鬼かぁ!うー……、ヤトぉ!恨むぞぉ……!」


「まぁまぁ。移植出来たんだから、結果オーライってことでいいじゃない」


「そういう問題かぁ!死ぬかと思ったぞぉ!!」


涙目になりながらヤトに言うマカミ。どうやらよっぽどアメ玉の効果(味?)がすごかったようだ。


『それではまず、アルターエゴについてです。ぶっちゃけ言いますと、今の皆さんとわたしの力ではあのアルターエゴに勝ち目はありません』


「ホントにぶっちゃけたな。それじゃあ、どうやってアイツらに勝つんだ?」


サクラの発言にアオイが聞いた。今の自分たちの状況ではアルターエゴに勝つことすら不可能だということ。


サクラの管理者権限による力が通じるのは、管理者権限を有するフロアのみ。それ以外だとチートレベルの力を行使することは不可能であり、支配権と同時に各フロアの管理者権限を奪われてしまっている以上、彼女は直接変異領域に介入することは出来ない。虚数空間に汚染されている変異領域でヤトたちの存在状態を保たせる役目もある以上、葦原城から動くことも出来ないのだ。


『勝ち目がないなら勝てるようにすればいいのです。まずは、アルターエゴに奪われたフロアマスター権限を取り戻す必要があります。それを取り返すことが出来れば、彼らに対抗することは可能と思われます』


「つまりは、軍事力の差ってヤツなのか?アカウントデータが不完全だからなのか?」


現在のヤトとマカミのアカウントデータは未だに不完全で一部のスキルが使用できない状態にある。そのため、現在の戦闘能力はゲーム時代の全盛期と比べると大幅にダウンしてしまっている状態で今全力を出しても勝てるのかどうかもわからない。


フロアマスター権限を象徴する支配呪印ルーラーギアスを今マカミが持っているとは言え、機能の8割を奪われてしまっているうえ、その力を全力で使うことが出来ない状態にある。これでは仮に軍団戦を仕掛けても圧倒的な数の差で敗れてしまうことは確実だ。それでは意味がない。


『どちらもです。更に、アルターエゴは特殊な防御結界をまとっており、これらを消去しなければ致命傷を与えることは出来ません』


「特殊な防御結界?」


『はい。こちらで観測した所、アルターエゴは『心象防御ペルソナプロテクト』と呼ばれる強力な概念結界をまとっています。これを解除しなければ、生半可な攻撃は一切通用しません』


心象防御ペルソナプロテクト……。聞いたことないぞ、そんなスキル。ムキュウ・オンラインにそんなスキルは存在しないんじゃないの?」


聞いたことのないスキルにヤトは目を細める。


『こちらからアルターエゴ・バカラコスモスを分析・解析をしてみた所、そのようなスキル。番外中の番外。ムキュウ・オンラインのデータベースにも存在しないスキルです。そして、これは単純な魔術などによる防御ではなく、概念レベルの防御。その強度はギリシャの鍛治神が鍛造した、トロイア戦争の大英雄であるアキレウスの持つ世界の盾以上です』


「はぁ?アキレウスの世界の盾以上ぅ!?それって、実質突破が出来ないだろぉ!今のオレたちのスキルでも装備でも、突破することが出来ないってコトじゃねえかぁ!!」


サクラから発せられた事実に、マカミは顔を青ざめさせて言った。


大英雄アキレウスの持つ、世界の盾。それはムキュウ・オンラインにおいてEXランクの強さを持つ最上級の防具。伝承において、ギリシャ神話のオリンポス十二神の一柱、鍛治神ヘパイストスが鍛造した盾である。


その盾に施された彫刻は「世界」そのものを表しており、これを相手にすることは一つの世界と戦うことを意味する。これを破るとなるなら、「世界」そのもので対抗するということ。


しかし、そのようなスキルも装備も、今の「七天の剣」にはない。もし世界そのものを相手にして、それを超えることが出来るものがあるとすれば、それは―――――――――――。


『その通り。現在の「七天の剣」が今のアルターエゴに勝てる勝算はないに等しいです。ですが、攻略の手立てはあります』


「本当か?本当に、その方法はあるのか?」


ヤトはサクラに言った。ここで攻略方法がなかったら、間違いなくここで詰んでしまっていた。


心象防御ペルソナプロテクトは、いわば心の力。本来ならその心に綻びが生まれてしまえば壊れる仕組み。つまりは単純に相手の心を読み解くことです。本人が最もトラウマとするもの。隠したいもの。暴かれたくないもの。人間誰しもが持ちうるこの要素を物理的に攻略することに成功すれば、彼らは本来のステータスに戻るはずです。その時こそ、アルターエゴを倒す絶好のチャンスなのです』


「……なるほど。理解した。だが、それは一体どうやってやるんだ?まさかあのアルターエゴと直接戦って暴くわけではあるまい?」


アオイの指摘の通り、仮に「心を暴く」という行為が必要とするなら再びバカラコスモスと遭遇して戦闘になる。だが彼は心象防御ペルソナプロテクトによって守られており、こっちのダメージも与えることは出来ず、更に言えば支配呪印ルーラーギアスによるフロアマスター権限の兵力召喚などがある。今の状態で万全を喫して戦っても勝てる相手ではない。


加えて、ヤトとマカミのアカウントデータも不完全だ。この状態で戦っても一方的に殴られてしまうだけで終わりだろう。


『それにつきましては問題ありません。敵はその心を形にして結晶化したものを変異領域内の施設内に保存し防御しています。その施設を破壊することに成功すれば、アルターエゴの心象防御ペルソナプロテクトを解除して撃破することが可能になります』


「心の結晶……。それを破壊すれば、心象防御ペルソナプロテクトを破壊することが出来るというのか」


『理論上は可能です。ですが、敵はそれらを「施設」として利用することで兵力を集中させやすくしたのかもしれません。上手く立ち回らないといけませんし、おまけにそこには支配呪印ルーラーギアスとわたしの管理者権限を分割融合させた強力なエネミーの存在も確認されました』


「……もう何がなんだかわからないんだけど。乗り越えないといけない壁が多すぎる……」


サクラの口から次々と漏れる障害にげんなりとするヤトたち。


「だが、それは理に適っているな。それほど重要な施設があるとするなら、番人か守護者のような存在がいたとしてもおかしくはない。支配呪印ルーラーギアスのシステムを利用すれば容易いことだからな」


『アオイさんの言う通りです。わたしたちの最優先目標はこの支配呪印ルーラーギアスとわたしの管理者権限が封印されている、心象防御ペルソナプロテクト発生施設、通称『ロゴスジェネレーター』の三基の破壊。それによる支配呪印ルーラーギアスとわたしの管理者権限の奪還。これらを全て攻略することで、初めてアルターエゴに挑むことが出来ます』


変異領域の攻略は一筋縄ではいかない。


一つは支配呪印ルーラーギアスとサクラの管理者権限が封印されている場所にして心象防御ペルソナプロテクト発生施設、通称「ロゴスジェネレーター」を三基破壊すること。だがアオイの推測通り、この施設を防衛する者は必ずいるのかもしれない。
三基破壊し、支配呪印ルーラーギアスとサクラの管理者権限を取り戻すこと。これによって、アルターエゴに挑むことが出来るということだ。


「前途多難の道のりだなぁ……。だが、そうでもしないと変異領域を取り戻す所か、アルターエゴに挑むことも出来ないってコトだろぉ?なら、やるしかねえってことだろうよぉ」


マカミは腕の骨を鳴らしながら言った。やる気満々と言った所だ。


『これはもう一つの戦争です。ここで貴方たちが頑張らなかったら、虚数空間に侵蝕されて泡みたいに消えちゃうのですから。そんなこと、わたしは許せませんから』


「わかっているよ。だったら、作戦を立てよう。サクラ、確かフィールドの解析も出来たって言っていたよな?それを見せてほしい。ソウジは、指揮が可能なNPCたちを集めて来てくれ」


「了解」


ヤトの指示でソウジはキャンプの方に走っていった。すぐにでも指揮可能なNPCたちを集めてくるだろう。


「さて、これからが大変だな……」


これからの過酷な戦いを想像し、ヤトは呟いた。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品