予備心装士の復讐譚 ~我が行くは修羅と恩讐の彼方なりて~

平御塩

第3章8話「迷宮探索に向けての説明」



数日後の昼休み。オレたち1年生組は一度、作戦会議室に集まったのだった。先輩たちは別件の仕事があるらしく来ない。


「……崇村ー。生きているかー?」


「勝手に殺すな。もう一夜明けているんだぞ。どっちかと言うと、お前らの方が死に体状態だ。……強いて言うなら、首が地味に痛むぐらいか」


「もう一日経っているのにまだ体中があちこち痛いんですけど……。本当に、骨が折れるかと思いました……」


「全くだわ。容赦なさすぎるわよ、あの人たち」


ズキズキと痛む首をさすりながら言った。牛嶋や八重垣はぐったりとしており、皆月もやや顔色が悪そうにしている。


課外授業までの間、オレたちは峯藤先輩の厳しいスパルタな鍛錬をすることになり、ここ数日間、毎日のように峯藤先輩と原科先輩の扱きを受けている。


二人の強さは間違いなく、何度も実戦経験を経て獲得した実戦的な強さだった。色々と制約を自分に課しているとは言え、純粋な武術だけでも完全に攻めきれず、魔術も7割ぐらいしか効果がないほどに追い込まれた。つい、昨日に至っては首元に峯藤先輩の薙刀の柄が見事にクリティカルヒットし、闘技場の地面に沈んでしまった。


そのおかげか、いくらダメージを修復することが出来るとは言え、痛みが未だに残っている。普通の人間だったら骨折していてもおかしくないし、まあ牛嶋や八重垣がこれを受けたら、間違いなく骨折をしてしまっているに違いない。わかってやっているのかわからないが。


原科先輩に至ってはもう完璧と言ってもいいぐらいのサポートだった。屍霊魔術ネクロマンシーによる精神的なダメージに加え、霊媒魔術による先読みからの魔術行使、おまけに幻術まで使うことが出来るときた。正直な所、オレの苦手な類だ。というか、こういう時のために幻術も使うことが出来ることを隠していたなんて、何だか色々と性格が悪い。あのオカマ先輩。


原科先輩の妨害に当たった八重垣や皆月なんて手玉に取られてまともな戦いにならなかった。刀や矢が当たらないのはもちろんの事だが、幻術であっちやらこっちやらと訳の分からない所に攻撃して、オレらの方に被害が出るという散々な結果に終わった。


初日の鍛錬が終わった後、峯藤先輩はこう言った。


『相手の特性を理解し、自分たちの連携がまだ取れていない!課外授業までこれからもみっちりと叩き込んでやるから覚悟するがいい!』


と、スパルタ教育宣言。最初からぶっちぎりのフルスロットルだった。


それからは連携を取るための鍛錬など、霊装体の変身なしでの戦闘を中心とした訓練を行った。最初から変身してから戦うと、長期戦になった場合の消耗が激しいので、まずは人間の姿での戦闘に慣れないといけないという理由で変身はしなかった。


オレと皆月はともかく、八重垣や牛嶋が一番大変だった。霊装体の変身をあまりしていなかったとは言え、戦闘に関する経験はオレと皆月より少ないため、ついてくるのに必死だった。


「私の神通力もほとんど通じませんでしたし、何よりも容赦がないです……。怪魔と戦うには、これぐらいの鍛錬を積まないといけないのですね……」


ぐったりとテーブルに突っ伏しながら、八重垣はうなだれた。


彼女は根性でついてきたが、ほとんど手加減をしない峯藤先輩に追い詰められ、キッチリと叩きのめされてしまった。神通力がほとんど通用せず、あの見事な薙刀術で沈められ続けて、彼女曰く「お日様が!お日様が見えたサン・シャイーン!」っと、もう周りが暗い放課後の時間帯なのに、そんな頓珍漢で意味不明な事を口走っていた。一瞬正気を疑ってしまったが、一応問題はないようだ。多分。


「いやいや。八重垣はまだいいだろ。俺っちに至っては、ルーン魔術をぶっ放されるわ、杖でボコボコにされるわ、幻術でてんやわんやと弄ばれるわって散々な目に遭ったんだぞ!マジで死ぬかと思った……!」


「そうか。ならまだ大丈夫だ。生きていれば、何とかなるだろう」


「そういう問題じゃねえから!マジで命がいくつあっても足りないから!課外授業で渋谷の『迷宮』に行く前に死ぬわ!」


まあ、確かにあの二人のコンビは厄介だし、下手をすると死にかねない。オレは死ねないけど。


「別に殺されるわけじゃないから、大丈夫でしょ。先輩ほどの腕を持つ人は、その辺の手加減はしているはずだから。勝てないのなら、私たちが強くなればいいだけの話じゃない?」


「アレで手加減をしているとか冗談じゃないんだけど!正直、霊装体に変身しても勝てる気がしねえよ。というか、本当に俺っちらあの2人と組んで大丈夫なのか?別にいらないんじゃね?」


皆月の言っていることも一理あるし、牛嶋の言っていることも、あながち間違いではない。


彼女たちほどの実力と精神を持つ者は、どれぐらいの力で相手を殺さずに無力化させることが出来るのかを熟知している。オレは基本的に敵対者を戦闘不能にさせて動けなくすることが大前提だが、彼女たちのように最低限の負傷で済ませるなんて器用な事は出来ない。そういう意味では、オレもお手上げだ。


勝てないなら自分たちが強くなればいいという意見には、オレも賛同するが、その辺はやはり個人で積み重ねないといけないだろう。「魔術士としての強さ」と「心装士としての強さ」は同じようで違うのだから、かなり個人差が出る。


そういう意味では、峯藤先輩と原科先輩は1年オレたちより先に在学しているのにも関わらずあの強さだ。きっと、血の滲むような努力を重ねたのだろう。牛嶋の言う通り、2人だけでいいんじゃないかと思うぐらい。


「それは無理だよ、牛嶋くん。パーティーを組んでの課外授業は、一番の単位所得チャンスだって前も授業で言っていたでしょ?先輩たちも卒業がかかっているし、良い成績を修めたいんだからに決まっているじゃない」


卒業するには当然単位が必要だ。特に、課外授業は最も単位を所得することが出来る授業であり、噂によると課外授業で単位を稼ごうとして授業を手抜きする輩もいるらしい。


「だがよ。そもそも俺っちらを勧誘した時さ、峯藤先輩は目的があるとか何とか言っていたしさ。気にならない?」


「それはそうだけど……」


「食堂で言っていたヤツか」


食堂でオレたちを勧誘する時に、峯藤先輩は「私にも目的があって入学した」と言っていた。今考えると、あの人は何の目的があってオレを勧誘したのだろうか。利用するためか。それとも単純にオレを戦力として勧誘したかっただけなのか。


答えは、恐らく両方。何故ならそっちの方がいいからだ。オレにとっても、彼女にとっても。


「それは、いくら私たちが気にしてもしょうがないと思うわ。コイツの目的は既に知れ渡っているわけだし、何たって十二師家相手に宣戦布告なんて普通はありえないコトをしちゃっているのだもの」


皆月はオレに指さして言った。呪いガンドでもかけるのかと思って、つい身構えてしまいそうになった。


「確かに。俺っちらからしたら、正気の沙汰じゃないもんなぁ。俺っちだったらすぐに逃げ出しているぜ……」


牛嶋はため息交じりにそう言った。


「オレからすれば、いい機会にはなったけどな。連中は警戒するだろうが、対策を取っておかないとオレに潰されるというだけの話だ」


「どっからそんな自信が沸くのかしらね……」


呆れるように皆月は言った。


工藤との一戦は、ある意味宣戦布告も含めたついでのようなものだったし、オレがこの学園にいる時点であちらは何故戻ってきたのかを察しているだろうから、それなりにいい機会になった。あれからオレに対する襲撃は無くなってはいないものの、そういう連中には遅延型の呪いを仕込んだりもしているし、しばらくすれば何もしなくなるだろう。


普通の人間からすれば、十二師家の一角に宣戦布告するとは狂気の沙汰でしかない。だけど、オレはそうしなければならないし、オレの目的が復讐である以上、必ずしないといけない。特に、在学中で尚且つ確実に潰すとすれば、それしか方法がない。力づくで潰すことが出来るのなら既にしている。


「崇村さん、貴方は……。その……」


「ん?」


八重垣が何か言いかけている。彼女に振り向いた。


その表情はどこか不安を顔に描いているようで、じっとオレを見つめていた。まるで、痛々しいものを見るかのような。何とも言えない表情だ。


……おかしなことを言ったつもりはないし、彼女を不安にさせるような事を言ったつもりもない。だから、そんな表情でこちらを見られる理由がわからなかった。


「……やっぱり、何でもありません」


「?」


そう言い、彼女はオレから目を背けた。言いたいことがあれば言えばいいのに。


「……朴念仁」


「何だって?」


「何もないわ。それと、これからどうするの?課外授業まで休日を含めて後3日。この間に必要なものを準備したり色々としないといけないわよ」


皆月が何かさっき言った気がするが、上手く聞き取れなかった。


カレンダーを改めて確認すると、3日後の週明けの月曜日は当面の目標である課外授業当日だ。今日には詳細な説明が行われ、準備期間が設けられる。


「準備ねぇ。回復用のアイテムとか、その他色々と準備をしないといけないとかだろ?」


牛嶋が言った。


「準備と言っても大掛かりだわよ。貴方と日那は迷宮探索の経験がないからわからないでしょうけど、『迷宮探索』の準備は貴方が思っている以上に大変なのよ」


「そんなにか?回復アイテムとか、補助用の魔導器とかで十分じゃないのか?」


「……アンタ、私とコイツと組んでよかったわね。そうじゃなかったら、貴方は今頃怪魔たちに殺されているわよ。ちょうどいい機会だし、普通の怪魔討伐とは異なる、『迷宮探索』についてある程度説明するわ」


コイツとはまぁオレの事だろうな。確かに牛嶋の言っていることは完全に素人の考え方だ。


普通の怪魔討伐とは準備の度合いは全然違う。怪魔討伐は討伐すれば終わりかもしれないが、迷宮探索は一度中に入ってしまえば、簡単に帰還することは出来ないし、多くの新人の心装士たちは迷宮探索で命を落とすことの方が多い。


「『迷宮探索』は、授業などでも言っていた通り、私たち心装士が怪魔の発生源と言われている『迷宮』の核を破壊するための段階である『探索任務』よ。これはわかっているわね?」


「もちろんだ。それを破壊して、『迷宮』を消滅させるのが俺っちらの使命なんだろ?」


「迷宮」という名の異界を維持し続ける中枢、通称「コア」こそ、各地で出現している「迷宮」の心臓部である。これを破壊することで「迷宮」を消滅させることができ、「迷宮」から怪魔が出現することを防ぐことが出来る。


心装士及び魔術師にとって基礎中の基礎とも言える知識だ。その気になれば、一般人でもその事を知ることが出来る。知ろうとすればの話ではあるが、壁外都市の連中は基本的にそれを必要不可欠の知識として誰もが知っている。ロゴスウォールに守られていない壁外都市では、常に怪魔との戦いがあるのだから。


「『迷宮探索』は、『迷宮攻略』とは異なり、情報収集がメインの任務よ。過去にあった話だと、異界深度が上昇して内部構造が変化すると言った場合もあり、長い時期をかけて攻略できるかどうかの判断も必要となってくる。そのために迷宮の内部を調査、探索を行い、それらを基にした情報をかき集めて、初めて『迷宮攻略』、つまり『コア』の破壊をするという流れよ」


「迷宮」の全容は、出現してから500年経った今もその全容は明らかにされていない。異界深度が上昇したりする原理もよくわかっていないし、実を言えば、わからない事だらけなのだ。


過去に、いくつかの「迷宮」が攻略されて消滅させているが、それでもその全容が明らかにされていない。そのため、常に「迷宮攻略」をする前の段階である「迷宮探索」は念入りに行わなければならない。そうでなければ、無駄に犠牲が出てしまうからだ。


「異界深度ってどのような状況で上昇したりするのです?そういう評価をしたりしているのは、やっぱり陰陽庁の人たちとかですか?」


「最終的に決定を下すのは陰陽庁よ。警察、軍、政府機関のお偉いさんと会議をした上で、正式に認められた場合、軍や心装士を使って周囲を封鎖する。探索を行うのはその後ね」


陰陽庁。この国における、魔術士や心装士を管理・統括をする国家機関。海外では、アメリカやイギリスは「魔導省」と言う機関がこれに当たるが、この国の場合はかつて存在したとされている国家機関になぞらえて、あえて陰陽庁と呼称される。


出現した「迷宮」の脅威性、この場合は異界深度としてランク付けを行い、最終的に封鎖などの決定権を下すことが出来る組織で、魔導関連の権力は強い。国政などに関わることの出来ない十二師家では当然関与することも出来ないほどで、この国を守護するもう一つの組織とも言える。


「理解していると思うけど、私たちのやることは『迷宮探索』であって、『迷宮攻略』ではないわ。どれぐらい探索をするかはまだ知らされていないけれど、そこはまた後で言われるかもしれないから。私たちは、あちらの指示で動けばいい。余計な事をすると、後々面倒な事になるかもしれないから」


「まぁ、単位を落とされるなんて事はありえそうだよね……」


そう言いながら、八重垣は苦笑いをした。確かに、勝手な行動をしたらしたでまた別の面倒事が起きそうではあるな。


「つまり、俺っちらは先公らの指示に従って動けばいいって事だろ?」


「そういう事。あ、アイテム関係についてはまた別で教えるわ。放課後に集まった時に、休日のプランを考えましょう」


休日は休日で「迷宮探索」に向けた準備期間であることに変わりはない。


「賛成ー。あーあ、さっさと授業終わらないかなー」


「……ちゃんと聞いておけよ。テストで赤点を取っても知らないぞ」


「はいわかりましたお願いだから後ろから物理的に釘を突きつけないでください」


授業をサボるという愚行を犯そうとする牛嶋に、文字通り釘を刺す。赤点を取るという行為は自ら地獄へ行くのと同義だと教えてもらった。一応、パーティーメンバーにそんなことをしてもらいたくないので、お節介ながらもこうして釘を刺しておく。


「崇村さん」


「ん、何だ?」


作戦会議室から出る時、八重垣に声をかけられた。


「もしよろしければ、明日一緒に休日お出かけをしませんか?」


「――――――――――えっ?」


――――――――――その一言に、オレは得体の知れない感情と衝撃を受けるのだった。



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