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予備心装士の復讐譚 ~我が行くは修羅と恩讐の彼方なりて~

平御塩

第11話「試験後の所感」

「何だったの、アレ」


全ての実技試験を終えた後、俺、牛嶋蓮は教員の指示に従って指定された教室にいた。


俺は、観客席の中のギャラリーの一人として、崇村柊也と皆月輝夜の実技試験の様子を一部始終見ていた。


うん、正直、俺の目の前で起きた状況に、頭の中が情報過多で追い付かないし、信じられない。


自分の実技試験が早めに(厳密にはほぼ瞬殺に近い状況で)終わって、ちょうど崇村と皆月の実技試験が見られそうだということで、あまり人混みの少ない観客席で見ようと来ていた所で実技試験がスタートした。


崇村の相手は成績優秀者3位の入る強者。そこそこ名の知れた相手だし、入学以前から少し話題になっていた女だ。


もしかすると、崇村は手も足も出ないで負けるんじゃないか?なんて不謹慎なことを考えたりもした。まぁ、そんなことはないとも思っていたけど、相手が相手だからそんなことを考えたりするのもしょうがないというわけで。


……でもさ、現実でこうして見るとさ、やっぱり信じられないと思うワケ。


初っ端から皆月は心装を使いだしたけど、その矢をただの魔力障壁で防いだ。一瞬だったので、正直結界魔術のどっちかなのかはわからなかったけど、とにかく心装による攻撃を普通に涼しげな顔で防ぐなんてどうかと思う。


と思ったら、見たことのない魔術を使った後、今度はすぐに法術でまた皆月の放った矢を防御した。九字護身法による法術だったが、あの印の結ぶスピードマジで速かった。真っ当な術者でもあそこまで速く結べるヤツは少ないんじゃないか?


それに、今度は魔法陣からガンドの嵐。しかも全部が物理的な威力を持った魔弾という形でガトリングガンみたいに撃ちまくっていた。ありえねえ。


しかも、皆月の必殺技をまた心装なしの魔術だけで防いだ。ありえねえ。


ダメージを負ったと思ったらほとんどダメージを負っていないし、武術で皆月を地面に沈めたりしていた。ありえねえ。


最後の最後には、皆月が闘技場ごとぶっ飛ばすようなデカイ魔弾を地上に放って、崇村がそれを大魔術か何かでぶっ飛ばして、戦闘不能にしていた。マッジありえねえ。


「あの二人のどちらかが実技試験の相手だったら、俺マジで死んでいたかもしれん」


ありえねえ事だらけで意味がわからないし、もう何が何だかわからない惨状だよ、アレ。仮に俺が崇村とぶつかったら、マジで勝てる気がしない。それ以前に原型を留めているのかわからないけど。


おまけに今度は霊装体に変身した。皆月の方の霊装体も中々すごいけど、崇村の方はどちらかと言うと、何と言うか、不完全性を感じるような姿をしているな。何か、もう一段階変身を残しているって感じの。


とにかく今までの実技試験で霊装体に変身してやっていたなんて聞いたことなかったし、あれほどのガチバトルで闘技場をボッコボコにするヤツは聞いたことない。おかげで次の実技試験が大幅に遅れたりしていたらしいし。まぁ、実技試験が中止になるなんてことはなかったけど。


「というか、あの実力って成績優秀者と余裕でタイマン晴れるだろ……。なのに何でアイツは入っていないんだ?というか、既にSNSとかでも話題になっているし……」


俺はそう言うと、(国指定の)スマホでSNSを見た。


SNSには「#百華実技試験」のトレンドで、崇村と皆月の実技試験の様子を見た呟きが数多く投稿されていた。


実技試験は毎年恒例のようにテレビ局が生放送をしている。それはこの国の力たる十二師家の連中の宣伝みたいな面もあり、そして壁外都市出身者の実力者を映し出すことで、この国の将来性を誇示するという趣旨が存在する。


しかし、あの実技試験という名のガチバトルが生放送で流れた挙句、実技試験を観戦していた人たちが撮影したものがSNSに流れ、色々な意味ですごい賑わいになっている。


『“皆月家の人の相手が崇村家の人ってマ?”』


『“崇村家ってあのお嬢様な姉とアレな弟だけだろ?もしかして現崇村家当主の隠し子!?”』


『“闘技場がボロボロになっている……。これ、本当に試験?”』


など、ネット上で様々なコメントが寄せられている。これは、多分色々と多方面に面倒な事になるんじゃないかな、崇村のヤツ。


堂々と崇村の苗字を名乗っていた挙句、あそこまで皆月をボッコボコにした以上はアイツも色々と覚悟をした方がいいと思うんだけどな……。


「おや、何を見ているのかね?君は」


「うわ!」


後ろから突然声をかけられて俺はびっくりした声を出してしまった。


そこにいたのは、学校指定の制服に二枚羽のワッペンを身に着けた女だった。ややつり目で眼光鋭く、髪を一本に結んだ如何にも武人然とした風貌で、何ともいえない威圧感があった。


二枚羽のワッペンを身に着けているということはこの女は2年生のようだった。


「すまない。驚かせてしまったようだな。私は峯藤冴。お見知りおきを」


「は、はぁ……。どうも」


俺は差し出された手に一応握手をする。


峯藤冴って、十二師家の一つの「峯藤家」の息女じゃん!なんだか最近、十二師家の関係者と関係を持ちすぎじゃないか?俺。いや、崇村には興味があったから話しかけただけなんだけど。


「ほう。あの実技試験の様子がネット上で結構騒がれているということか。それはそうだろうな。あれほどの実技試験は、ここ近年非常に稀に見るものだ。下手をすれば、双方どちらかが死んでいたのかもしれぬものだった」


「まぁ、確かにあれだけの戦いって、もはや試験とかそんなじゃなくて殺し合いの領域ですからね……俺だったら、間違いなく死んでいたかもしれないっすけど」


むしろどっちを相手にしても死ぬ気しかしないし。俺も一応霊装体に変身出来ないわけじゃないけど、あれだけ派手な事は出来そうにない。試したことがないから、何とも言えないけど。


「それにしても、今年の成績優秀者は中々面白そうな面子ばかりだな。関東六家はともかく、壁外都市出身者も名を連ねておる。……今年から中々に荒れた様相になりそうだ」


「何でそう思うのですか?もしかして、何か十二師家にとって何か不都合な事が起きるのでしょうか」


そう聞いて、俺は一瞬ハッとなるが、もう遅い。口に出てしまった以上、撤回は出来ない。何しろ素で聞いてしまった。


何かしら言われるかもしれない。そう覚悟した。


「中々鋭い質問だな。ああ。そうだとも。壁外都市出身者の成績優秀者が増えるということは、十二師家にとってもその地位を揺るがしかねない問題なのだ」


「え、そうなんですか」


普通に答えられた事に俺は驚く。どうやらこの人は話が出来るようだ。俺の杞憂たった。


「今まで、百華学園の成績優秀者の8割9割以上はほとんどが十二師家の関係者でね。ちなみに、この数字は分家を含めた関係者全てだ。今となっては、壁外都市出身者の割合も多くなってきている。このままでは、我々の地位も危ぶまれるな」


やや半笑いでそのような事を言った。


……このような事を自虐的に言うなんて、正直十二師家の人間とはとても思えない。それも、少し笑いながら言うとか、もし他の十二師家の人間に見られたらなんて言われるかわかったものじゃない。


とは言え、十二師家相手に聞くことが出来るのはある意味チャンスかもしれない。ちょっと深く聞いてみよう。


「ええっと、峯藤先輩は別にそれでいいと思っているのですか?壁外都市出身者が、十二師家より強いヤツが増えたら、立場が危ぶまれるって言っていましたし、ヤバイと思わないのですか?」


「無論、思っているとも。我々十二師家は、元々は魔術師から始まった家系故、心装士としての実力は別問題さ。だが、それはあくまで修行の方向性の問題なのだから、自分に似合った修行の方法を見つけることが出来れば、誰だって強くなることも出来る。今の心装士の時代は完全実力主義だからな。弱ければ、十二師家だって負けるさ。例え、数百年以上の歴史を持っていたとしても、個人の実力だけはどうにもならない問題だ」


その言葉に納得する。


元は魔術師から始まった十二師家。それらの経緯から、どちらかと言うと十二師家は魔術師としての側面が強い。わかりやすく言えば、魔術が6割以上でプネウマ因子の操作が4割と言った具合だ。


逆に元々が魔術師の家系ではない者は、生まれつき誰もが持つ魔力とプネウマ因子を結び付ける術を身に着けることに専念する方が効率がいい。これは魔術師の価値観の観点から、家伝の魔術を身に着けることに専念するせいでプネウマ因子の操作・制御が疎かになりがちな面がある。


そのため、十二師家の関係者が例え魔術の力が強くても、プネウマ因子の制御・操作の面だけで強さが決まってしまい、十二師家でも逆転される可能性が高いのだ。


「なるほどですね……。峯藤先輩は、あの二人の戦いを見てどう思いましたか?」


さっき言ったかもしれないけど、ちょっとざっくりな感じがして、どれほど彼らの戦いを細かく分析をしているのかを聞いてみたいと思った。


「ふむ、そうだな。一言で言えば、双方ともに優れた能力を有しているが、特に皆月の方には明確な欠点があるな。それさえ何とかなれば、アレは更に優れた心装士になれるだろう」


「欠点?それはどういった所ですか?」


「それは教えられないな。この学園でその質問は時には命取りになる。ゆめゆめ忘れるな。特に、十二師家相手にはな」


「あ、ハイ」


ま、マジでか。やっぱり聞くのは普通にマズイってヤツなのか。


いや、待てよ。よくよく考えりゃ、他人に弱点を教えたりするのは野暮ってヤツだよな。うん、これから気を付けよう……。正直寿命が縮まるような気分だ……。


「崇村は……、アレは、ケタが知れぬ」


「……それには、俺も同感です。正直言って、何とも言えないというか、何と言うか……」


俺も、あの試合の様子を見て理解したわけでも納得したわけでもない。


わかるのは、アイツが強いという事だけで。崇村柊也の強さの底を感じたわけでも、何故あのような戦いが出来るのかがわからない。


「底が知れない。ああ、そうだな。ヤツは底が知れない。それが、私には――――――――、いや。やめておこう」


何か言いかけた時、峯藤先輩は言うのをやめた。


「これ以上は何とも言えないな。後は自分で考えるがいい。それと、これを渡しておく」


峯藤先輩はそう言うと、ポケットの中から何かを取り出した。


「コレって、何すか?」


「秘密のカードってヤツだ。寮に戻ってから開けてみるがいい。では」


「あ、はい。ありがとうございます」


そう言い、峯藤先輩は教室から出て行った。


「……そういや、何で峯藤先輩はわざわざ俺の所に来たんだ?なんか意味がわかんねえな……」


俺はそう考え、カードをポケットにしまった。何で彼女が見ず知らずの俺に声をかけ、こんな胡散臭そうなカードを渡してきたのかが謎だった。


ふうっとため息をつき、改めてSNSを覗く。相変わらず実技試験の話題で持ちっきりで、メディアも大騒ぎで特集にもなっている。これは明日の新聞にも載るかもしれないな。


教室から見える外の景色から、桜がたくさん舞い散っている光景が見える。


これから先、どうなることやらわからないが、今はこの桜をみっちりと堪能するとしよう。難しいことは後回しにしときたい。正直疲れた。


春の訪れと共に人生最大の波乱が待ち受けていることを予感しながら、俺は次の指示が出るまで、ネットサーフィンに興じることにしたのだった。

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