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予備心装士の復讐譚 ~我が行くは修羅と恩讐の彼方なりて~

平御塩

第6話「学園長と秘書」

入学式での一仕事を終えた私、滝口皐月たきぐち さつきは学園長室に戻り、書類の整理を含めた作業を始めていた。


毎年行われる実技試験は丸1日をかけて行われる。生徒の数の多さもそうだが、それは実力の確認を手抜きなしでする必要性などと言った考えによるものであり、公正に評価をするためのものだ。


実のところ、この試験で落ちる条件はただ一つ。


それは、わざと手抜きをすること。


手抜きをするということは、心装士という役割を軽く見ているということであり、優れた心装士を生み出すという我が学園の理念を裏切ることに等しい。実力を持つ人間ほどそのような傾向があり、どれほど能力が優れていようと手抜きをするなんて事はあってはならない。


合否の仕組みは、表向きには審判役の教師たちが生徒たちの実戦を見て、その記録映像を基に合否を行うということになっているが、実際にはそれとは別に専門の心装士及び魔術師が合否を判断するという仕組みになっている。


かつての学園ではそのように手抜きをした挙句、心装士の役目を軽んじていたことが原因で起きた事件があった。それらの教訓から、この仕組みを導入した。


それに、国策で心装士を増やしているという事情から、心身ともに優れた心装士を増やすということは学園にとっても、わが国にとっても、人類にとっても有益なことだ。私はその有益を確実にするために、学園長に就任してから推し進めてきた。


学園長として、多くの改革を成し遂げること。それが、屈辱の日々を過ごした私の使命だ。


「失礼します。学園長、こちらが頼まれていた資料でございます」


学園長室のドアから、私の秘書、時裂ときさきマリが入ってきた


一目で秘書とわかるような眼鏡とポニーテールが似合う女性で、スタイルは……、忌々しいが私より上だ。清潔な黒いスーツを着ていて、如何にも仕事が出来る女と言った雰囲気を漂わせている。実際に有能で私が学園長に就任してからは色々と世話になっている。


「ありがとう。では……」


彼女から私が頼んでいた資料を受け取り、早速その中身に目を通す。


資料の中身をあらかた見た私は内容をすぐに理解し、そっと机の上に置いた。


「いかがでしょうか?お気に召されました?」


私の様子を伺うように彼女は聞いてきた。


「十分だ。彼女から話を受けた時は本気で耳を疑ったが、やってみるものだな。永田町に上手くやってくれたか?」


「はい、もちろん。これで彼は存在しない者ではなく、キチンと存在する者としてやっていけるようになりました。いやあ、大変でありましたぁ」


マリは安心したようにそう言った。


「愚か者の考えることはわからんが、あの男は一筋縄ではいかない男だ。自らの息子を、事故で死んだことにするだけではなく、戸籍も記録も全て抹消していたのだからな。これで、マスコミの連中も下手に学園を追及出来ないだろう」


私は眉間に皺を寄せ、不愉快な気分になりながら言った。


私が彼女に頼んでいたもの。それは、帝都の県庁都市の法務省で「彼」の戸籍謄本の復元等を掛け合ってもらったことだ。


彼女、椿の依頼で彼――――――、崇村柊也の抹消された戸籍と出生記録を復元するように、法務省の伝手を使って数日間かけて復元してもらったのだ。一部は椿からの依頼で一部は偽造しつつも何とか復元してもらい、入学のための必要な書類作成を行った。


何しろ、彼らの事情はあまりにも根深く、私ですら知らない事情が多い。相手が十二師家である以上、下手に出てしまえば私自身も危険に目に遭いかねない。保身のためと言ったら聞く方は胸糞悪いかもしれないが、私が出来ることは限られている。


十二師家はこの国の「力」そのもの。かつて「西暦の黙示録」を生き残るために戦った十二人の心装士たちの末裔たちであり、この国を守ってきた彼らは常に注目の的だ。記録も何もかも消されたはずの彼が舞い戻ってきてとなれば、崇村家にとって壮大なスキャンダルになりかねない。そうなった場合、崇村家は崇村柊也に刺客を送りかねない。そんな事態があってはならない。


だからこそ、私は椿の依頼を受けてからすぐに法務省にマリを派遣するなどをして復元をしてもらったのだ。その復元した記録情報を基に入学手続きを極秘に進め、現在に至る。


私の手元にあるこの資料はそのコピー。原本はマリが秘密裏に保管してあり、崇村柊也が正式に入学したのと同時に正規の方法で保管することになっている。


「これでよかったのですか?これ絶対に崇村家に目を付けられますよ?わざわざ危険な橋を渡るようなことを引き受けるなんて、ちょっとわかりませんねぇ」


マリは首を傾げながら言った。


「いや、これでいい。万が一そんなことがあれば、私は躊躇なく情報公開をするつもりだ。『関東六家・崇村家に脅迫された』とな。あの事件から影響力を取り戻しつつある奴らにとって、この件はあの事件の延長線、いや、根源というべきもの。目を付けられるかもしれないが、彼の事についてこちらが知っている以上、奴らは安易にこちらを脅迫するような真似をしない。それが明るみになれば、今度こそ奴らは終わりだ」


崇村家にとって、あの事件はまさにアキレス腱。社会的信用を無くしかけた崇村家の汚点とも言うべき事件であり、崇村柊也はその被害者だ。被害者であるはずの彼が何故崇村家を廃嫡されたばかりか、記録まで抹消されたのか。それだけはわからなかったが、追及されたくない事情があるのは間違いない。


追及されたくない事件だからこそ、崇村家はマスコミなどと言ったメディア関係者に事件のことを探られることを拒絶するだろう。その不安定な状態から、何とか名誉回復に務めたのが、次期当主として名高い崇村菫だ。


崇村柊也はこの事件の根源、真相を知る人間だ。彼がこの学園に入学する目的と言えば、一つしかない。私が椿の依頼を受けたのも、私個人が崇村家に恨みを持っているというのが一番の理由だ。彼が何しようが私には関係のないこと。むしろ後押しをしてやってもいい。


「菫ちゃんですねぇ。あの子、私の所感ですけど、中々良さそうですねぇ。むしろ王道すぎてつまらないと言ってもいいですが、本当にあの崇村家の娘なのか怪しくなるぐらいアレですよねぇ」


「個人の感情にいちいち興味はないが、変にそういうこと言うのはやめておいた方がいいぞ。言っていることに同意はするがな。あれでも、序列3位の実力者だ。それ言ったら、須久根真もある意味では王道だ」


「うーん。彼はあまり興味ないですねぇ。特異……じゃなかった。心装士の理想に近すぎて興味がないと言った所ですねぇ。あまりそそられません」


「それはそれでいいがな。お前個人の感想は、一応参考にさせてもらうよ」


「えー。やめてくださいよー。私の感想を参考したら、またお叱りを受けるかもしれませんしー」


「だったら、変に言うのはやめておけ!」


おどけたように言うマリにツッコミを入れる。


このふざけたような態度ながらも、有能すぎてあまり強く出られないのがちょっと悔しい。だが彼女の言っていることは間違いでもないのだから、質が悪い。


それにしても、何か言いかけたような気がするが、気のせいだろうか?


「少なくとも、今年は豊作と言ってもいいだろう。将来性のある候補生たちが増えることはいいことだ」


「まぁ、4年前まではあまり良いと言えませんでしたからねぇ。関西に遅れを取るわけにもいきませんし、どんどん候補生を育て上げないと。でなければ、最近活発化している怪魔に勝てませんし」


「ああ。対策が遅れれば、壁外都市の治安の悪化を更に招くことになりかねない。そうなれば、一層彼らの学園都市や県庁都市に対する不信感を拭えない。今年の課題にも盛り込み、経験を更に積ませなければな」


ここ最近、人類の敵である怪魔の活動が活発化しているという報告が次々と上がってきている。一応、壁外都市の自警団や軍や警察から出向している心装士たちが討伐するなどをしているが、それでも追い付いていない地域が出ているとも言われている。


そこで3年前から生徒たちに月に一度の課題として、怪魔が生息している地域を制圧するという、軍隊でも行われている掃討戦を行っている。実戦経験を積ませて今後の心装士として戦うための予行練習として始めたものであり、この課題を導入したことで候補生たちの成績は向上した。それまでは「迷宮」の一部分のみ攻略しか課題としてやっていなかったため、マンネリ化していたのだ。


初めは反対が多かったが、試しにやってみた所成功したので、そのまま続けることになった。少しでも成功例として成立してしまえば、後はとんとん拍子で進んでいくので、私としては幸いだった。


「壁外都市の自警団の多くは不信感を持っている人たちが多いですからねぇ。ここで信頼関係を上げていかないと今後の課題や治安維持にも影響が出かねません」


ある事件がきっかけで壁外都市の多くは、学園都市や県庁都市に強い不信感を抱いている。それによって課題の時の協力を直前ですっぽかしたり、途中で放棄するなどと言った地域もあった。


それだけならまだいい方で、最悪の場合は壁外都市の自警団が意図的に警察の足を引っ張って妨害をするなどといった行為に走る者たちまで現れることがある。現時点では死人は出ていないとはいないが、このままでは本当に死人が出かねない。それが強力な怪魔相手が出現した時にそんなことがあっては、尚更だ。


「こればかりは、積み重ねていくしかないからな。全く、政府の連中ももうちょっと前向きに検討と対策を進めてほしいものだ」


思わず愚痴をこぼしたくなるというものだ。いくら「神」と共存するようになったとて、世の中を動かすのは主に人だ。「神」は人の手助けをし、時には厄介ごとを起こす連中もいる。今の政府の中にはそんな「神」たちに頼りっきりになる者たちもいるので、始末が悪い。


法律上、「神」はあくまで提案することしか出来ない。理由としては「神」の視点では人の価値観にそぐわないからだ。価値観がまず根源的に違うため、「神」は人の法に干渉せず、結局人が世を動かすという仕組みとなっている。


政治家でもない私にはそこら辺の深い事情をよく知らないが、それがどれだけ面倒な事なのかはわかる。何しろ、この学園にも非常に頼りになるが、どうかすれば頭を抱えたくなるような面倒事を持ってくる、気まぐれな「神」がいるのだから。


「そう言えば、そろそろ実技試験が始まる頃合いだな。君はどうなると思う?マリ」


時計を見ると、そろそろ各闘技場で実技試験が始まる時間になっていた。


その間、私はこれから転がり込んでくる仕事の始末をしなければならない。毎年この時期になると忙しくなるが、今年は特に忙しくなると予想する。何となく、直感でそう思った。


「そうですねぇ……」


マリはしばらく考え込んだ表情をし、そして口角を吊り上げ―――――。


「まぁ、死屍累々とした実技試験になるのかもしれませんねぇ?ただの勘、ですが」


ふふふと、不敵な笑みを浮かべながら言った。


……有能という理由で秘書として雇ったとはいえ、この女は何か隠している気もするな。探るだけ野暮かもしれないが。


それはそれで、彼女の言っていることは、現実になるだろうと。私はこれから舞い込んでくる報告にやや憂鬱となりながら、仕事を再開した。



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