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予備心装士の復讐譚 ~我が行くは修羅と恩讐の彼方なりて~

平御塩

第5話「唐突なる宣戦布告」

実技試験。帝都百華学園に正式入学する上での、最後の試練にして登竜門。


ここに来るまでの学力試験と魔力検査は前座であり、本格的な試練は実技試験と言えるほどに重要である。


学力試験と魔力検査は一人一人の生徒を見定めるための基準でしかない。学力試験と魔力検査の結果を基に、実技試験での結果を合わせて入学に相応しいかどうかを決めるのだ。


実技試験の内容は生徒同士の一対一の戦闘による完全実力勝負である。それまでに自らが積み上げてきた魔術の成果をぶつけ合い、自分たちの欠点を見つけ、後学のために活かすということがこの実技試験の趣旨である。勝敗は多少の影響はあるが、その結果と学力試験と魔力検査の結果を合わせ、総合的な結果で入学出来るかどうかが決まる。


「オレは……、ここか」


オレ、崇村柊也は指定された試験会場に到着した。


ケダモノどもを叩きのめした後、オレは適当に校内をうろつき、入学式がそろそろ終わる頃合いを見計らって試験会場へと向かった。こっそり自分がいるべき待機室の生徒たちの列に紛れての移動だったが、周囲の影響を考えて「気配」を上手く抑え込んで移動した。


実技試験会場は、この学園に複数ある闘技場の一つが使われる。スタジアムとも言うが、闘技場はより実戦的な対戦を行うために最適な環境システムを有しているためスポーツ的な意味合いでのスタジアムではない。


「ただいまより、試験番号の書かれたカードをお配りします。カードを配られた生徒の皆様はそのまま待機してください」


運営スタッフと思わしき教員がそう言った。列の奥をよく見ると、教員たちがカードを生徒たちに配っていた。


順番が来て、カードを受け取る。カードには教員の言った通り、数字が書かれていて、これがオレの実技試験での受験番号だ。番号は51番。単純にオレが51番目の列にいたからだ。


カードを受け取って、教員からの指示を待つ。待っている間は退屈だが、実技試験までの時間までそこまでかからない。すぐに時間が経つだろうと思い、オレは特に何も考えずに壁にもたれかかる。


「それではこれより、実技試験での対戦表を掲示します。自分の受験番号を要確認して、時間までに各自の会場に来てください。なお、時間内に来ずに遅刻した場合は失格と見なし、退学処分を命じますのでご注意ください」


しばらく待っていて、全ての受験番号を配布し終わったからか、教員から新たな指示が出た。どうやら対戦相手との対戦表が掲示されるようだ。その相手と実際に戦うことになる。それに送れたりすれば、問答無用で退学処分のようだ。流石にこんな所で遅刻をする人間はよっぽど時間にルーズなヤツでなければいないだろう。


受験番号の書かれたカードに目を通しながら、自分たちの受験番号を探している。この学園には対戦形式の訓練を充実させるためにいくつもの闘技場を設置している。パンフレットで見る限り、この学園には七か所闘技場があり、その内二つは地下にあるらしい。何故地下に作っているのかは知らないが。


掲示板は大きなディスプレイだった。オレは視力を強化して、自分の番号を探す。そうしてしまえばあっという間に自分の受験番号を見つけられる。対戦時間までしっかりと番号の下に書かれていて、確認が出来るようになっている。


「私の番号は……。あ、あったわ。ふうん……、51番の人とやるのね……。手ごたえがある相手だといいんだけど」


オレの隣に、受験番号カードを持って番号を探していた一人の少女が言った。


……――――――――あれ、もしかしてこの人が対戦相手?


「……51番はオレだが」


何となく、オレは名乗り出るように言った。何故そうしたのかは、正直よくわからない。


「あら、あなたが?……本当だ。確かに51番ね」


「ああ、そうだが」


目の前の神秘的な少女はオレの顔を見ながら言った。それに対して答えを返す。


周囲が急にざわつき始める。何故だろう?


確かに目の前の美少女は一言で言えば、目立つ。


艶のある漆黒の、月の輝く夜を形にしたようなセミロングの黒髪で、意思の強さを露わにしているようにも見える目つき、細身ながら全体的に力強さがあった。佇まいだけでこの存在感を出せる人間と言えば、もしかして―――――――。


「へぇ……。見たことのない顔をしているわね、アナタ。どことなく奇妙な雰囲気をしているけど、こうして見てみるとそれなりに鍛えていそうね」


そうやって彼女はじっとオレを見てくる。


……不愉快だ。そのように物珍しそうに見る、この目は不愉快だ。


「あら、失礼。初対面の相手をいきなりじろじろと見るのははしたないわね。ごめんなさい。貴方、名前はなんて言うのかしら?同じ対戦相手同士。名前ぐらい、知っていてもいいと思うのだけど」


どうやら、彼女はそれなりに常識を弁えているようだ。それに、次は名前を聞いてきた。


「悪いが、ここで名前を明かすつもりはない。対戦の時に嫌でも聞くことになると思うが?」


恐らくだが、彼女は十二師家の縁者だろう。このような所で、それも対戦前に名前を明かすということは、正直したくない。何かしらの事がないなんて言えない。


「ふーん、アナタ以外と大胆なのね。それとも、私の事を知らないとか?まぁ、それを抜きにして別に名前を知るぐらいいいんじゃないかしら」


それは別だ。牛嶋は壁外都市出身であることを本人の口から喋ったことや、十二師家の関係者・縁者ではないことを確信したから、名前を教えただけ。それも気まぐれではあるが、名前を周囲に教えない口約束をした。簡易契約セルフギアスをしても構わなかったが、信頼できる。勘だが。


「お前の事など知らん。そもそも初対面だ。聞きたいのなら、そっちの名前を教えるのが筋だろう」


オレがそう言うと、再び周囲がザワつき始めた


「おい、嘘だろ。アイツ……」


「十二師家にケンカを売りやがったぞ……!」


「死ぬんじゃないのか……!?」


やっぱり、この少女は十二師家の縁者だったようだ。少なくとも、崇村家の奴らではなさそうだが。


「――――――――――アナタ。中々言うわね。なるほど、ある程度私がどういう人間なのかを理解した上でその態度、面白いわ。いいわ、答えてあげましょう」


少女は、そう言うと目が黄色く輝いて、オレを眼前に射抜いた。


その瞬間に、体に軽い重圧のようなものを感じ、オレは片膝をつく。肉体にというより、呪詛的な干渉のようなものだ。さっきまでは特に何も感じなかったが、この重圧は自然と起きるものではない。


――――――――――魔眼持ちか。


オレはそう理解し、彼女への認識を改める。


この少女はかなりのやり手に違いないと。


「私の名前は皆月家令嬢、皆月輝夜。私にケンカを吹っ掛けたことを後悔することになるわよ。さあ、アナタの名前を教えなさい?」


皆月輝夜。やはり十二師家・関東六家の一つ、皆月の縁者か。


関東六家の中でも、多くの人脈と権力を有すると言われている皆月家。苗字の通り、月に由来する魔術を得意としていることで有名な話で、それを知らない者はいない。


「……チッ」


オレは思わず舌打ちをする。魔眼持ちでありながら、魔眼隠しをしていない魔術師でもあるということは、かなりの実力者だ。この魔眼から発せられる重圧が概念的なものでないだけでもいい。


それはともかく、この状況を作り出して無理にでも名前を聞こうとしているのはかなり面倒な事になった。それに彼女は名乗っているし、魔眼の重圧は脱出しようと思えば出来なくはない。最悪呪詛返しをすればいいのだが、それだとかえって実技試験前に目をつけられる。結局は実技試験始まった時に名乗らなければならないし、どのみち目をつけられるが、それを早めるのは得策ではない。


自分でもどれだけ面倒くさいことをしているのかを理解している。だが、オレの存在はそれだけ面倒なことなのだ。実技試験まで連中にバレて何かしらの工作をされるなんて事は避けたかった。


オレは体内で術式を起動させ、今オレにかけられている重圧を周囲に気づかれない程度に弾こうとする。


「待って!輝夜!」


その時、どこかで聞き覚えのある少女の声が響いた。


「あら、日那さん。どうしたのかしら?」


「その人から目を外してください。その人は、悪人ではありません!」


そこに現れたのは、あの時ケダモノたちに絡まれていた少女だった。走って来ていたのか、息を切らしている。


それに、彼女は、オレのことを何と言ったのだ?


“悪人ではない”なんて、そんなことを言われる資格は、オレには――――――――――。


「そう。まぁ、いいわ。貴女がそう言うのなら、いいでしょう」


――――――だが、そうする前に皆月輝夜が魔眼の発動をやめた。同時に彼女の両目が輝きを無くし、元の黒目に戻る。


あっさりと止めたのは以外だった。何故なんだろうか。


「名乗りたくないのならいいわ。それと、自分の発言には責任を持つことよ。私以外だったら、アナタ殺されているから。忠告ということで、頭の片隅にでも置いておきなさい」


「……忠告どうも。てっきり、この場で潰されるものかと思っていたが」


彼女の実力なら、そこら辺の生徒たちを倒すことは出来るだろう。これもまた勘ではあるが、この魔眼が呪詛的なものではなく、概念的な干渉であったのなら、本当にヤバかったかもしれない。


「いいえ、ここで潰さないわ。私は私のやり方でアナタを潰す。この後の実技試験で、徹底的にね。私、一度目をつけた相手を見逃すなんてことはしない主義だから。今の所はここで勘弁してあげるけれど、彼女に感謝しなさい。覚悟しておくことね」


そう言うと、皆月輝夜は去っていった。恐らく先に闘技場に向かったのだろう。


「アイツ、殺されてねえぞ……」


「どのみち死ぬぜ、アイツ」


「ヤバくない?輝夜さんにああやって口答えをするなんて、ありえないんだけど」


どうやら、それなりに有名人なヤツを敵に回したそうだ。周りの連中はオレを蔑むような不愉快な目を向けながら、口々に物を言い始めた。


軽蔑、侮蔑、侮辱。


あらゆる不愉快な要素が詰め込まれた内容の暴言が、オレに向けられていた。


「そこ!何をしている!」


教員の一人がこの状況を見て怒鳴り声を上げた。恐らく皆月輝夜がオレに重圧をかけていたことに気づかなかったのかもしれない。見つかるよりかはいいが、何より周りの連中を黙らせるにはちょうどよかった。


教員の怒鳴り声に周りの連中はささっと自分の受験番号を探し始め、それぞれ待機するなどを始める。


騒動の原因は、オレにも原因があるとは言え、静かになるのはいいことだ。


「大丈夫ですか?」


彼女、日那と呼ばれた少女がオレに近づいてくる。


「大丈夫だ。あれぐらいの呪いなら、何度か受けたことがある。気にしないでくれ」


「え?何度も?」


主に、師匠の椿さんからだが。


「……借りが出来てしまったが、礼を言うよ。すまない、そろそろ行かせてもらう」


「あ、あの!待ってください!」


その場を早く離れようとするが、呼び止められた。何故そこまでするのか、理解が出来なかった。


「せめて、お名前だけでもよろしいでしょうか?」


「―――――――――」


彼女はオレを見上げるように言った。純粋な瞳でそう言われ、オレはどうしたらいいのかがわからない。


そんな目で見られるなんて、初めてだったから。どうしても反応に困る。


「……何故そこまで名前を聞こうとするんだ」


予想はつくが、恐らくオレが彼女に近づいてきたケダモノを撃退したことに対する返礼のつもりなのだろう。だが礼なら、あの時に言われたし、これ以上彼女にしてやれることはない。


あくまで、彼女が助かったのは結果論だ。ただあのケダモノどもが気に食わなかったから叩き潰しただけ。助けるためでもなかった。


なのに。


「えっと、だって、さっきわたしを助けてくれたのですし、せめて名前だけでも知っておきたいと思って……」


なのに、そんな純粋な瞳で礼を改めて言われるのは、心苦しすぎる。


「それはあくまで結果論だ。君に対して名乗る名は、特にない」


ただ単純に、彼女をこれ以上厄介ごとに巻き込みたくないだけだ。今さっきので彼女も周りの連中に目をつけられるかもしれない。それはオレにとって本意じゃない。


「……でも」


「もうすぐ、実技試験であの女と戦うことになる。その時にオレの名前ぐらい知ることになるぞ」


どのみち、オレの名前は実技試験の時にわかることだ。今ここで名前を名乗らなくてもいずれ知ることになる。


「――――――わかりました。では、貴方の実技試験の様子を直接見学させていただきます!」


「――――――――――はい?」


何でそうなったんだ……!?


「えっと……、それは何で?君も実技試験があるんじゃ……」


「はい。わたしの順番、実は貴方の次なんです!ですから、待機時間の時に見学しようと思いまして!」


「……マジで?というか、何でオレの次ってわかるんだ?」


「たまたま後ろにいた時に番号が見えましたので、それと自分の順番を探していたら、貴方の次だったのです」


「えぇ……」


うわぁ……。偶然にも程がある……。ここまで偶然過ぎたりすると、逆に何か嫌な予感がするというか、何と言うか……。形容しがたい気分になるというか。


オレの次、ということは実技試験会場の闘技場も同じということ。だから、そこで実技試験を受ける他の生徒たちも見学することはあるってことだろう


「……わかった。好きにしてくれ」


オレは白旗を上げる気分で言った。何となく、ここで理屈をこねて言っても仕方ないという、投げやり的な感じだ。


「ありがとうございます。では、行きましょう!」


「お、おいおい……」


能天気なのか、ただ何も考えていないのか……。大胆すぎるを通り越しているような気がするが……。


これ以上目立つことを避けるため、すぐに闘技場へと向かうことにした。



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