予備心装士の復讐譚 ~我が行くは修羅と恩讐の彼方なりて~

平御塩

第4話「権謀術数渦巻く入学式」



帝都百華学園の入学式ではマスコミや記者と言ったメディア関係者が来たり、政府関係者が訪れるため、毎年凄まじい人が来る。そこに保護者とかその縁者が来れば、更にすごいことになる。


心装士・魔術師候補生というだけで世間の注目を集めやすいこのご時世において、俺たち生徒は常に社会的責任を負う。魔力を持ち、それを使う炉心を有しているだけで最低限でも魔術師になる宿命を持つ人間は、いずれこの学園に入学することになる。それは壁外都市出身でも同様だ。


「やってられないなぁ……」


俺、牛嶋蓮はハァとため息をついた。


この世界、いやこの国の都市は三種類存在する。


一つはその地域における行政府、立法府、司法府の三権を有する中心地「県庁都市」。


一つは俺たちがこれから在籍する心装士・魔術師を養成する巨大国立教育機関である「学園」を中心に街が広がっている「学園都市」。


一つは二つの都市とは異なり、怪魔除けの「壁」がなく自警団などに守られている「壁外都市」。


これら三つの仕組みの異なる都市が、この国には存在する。


最大の違いは、壁外都市はその名の通り、怪魔除けの特殊な壁「ロゴスウォール」がない都市のことだ。「旧世界」の都市のように整備された道路から普通に入ることが出来、県庁都市と学園都市と比べると行き来が自由な場所であり、「旧世界」との違いは怪魔や無法者を街に入れないための「検問所」が置かれているぐらいか。逆に学園都市や県庁都市は厳重なセキュリティシステムを持ち、行政機関が発行した許可証などがないと入れない。


俺はその壁外都市出身で色々と込み入った事情もあるが、心装士として働くためにこの学園に入学した。母さんもそれを応援してくれているし、やるからには頂点を目指すつもりじゃないといけないという意気込みで来た。


「(それにしても、どいつもこいつも話が長い……。やっぱ入学式出なければよかったかなぁ……)」


周りの人間にバレないように欠伸をしつつ、俺は内心ぼやいた。


難しい話は苦手だし、あまり考え事は得意ではないが、それ以上に長話は好きじゃない。


学園長や理事長の訓示や多少の話ならいいが、理事長のこの国の歴史語りや功績とか、魔術師と心装士の使命だとか、ハッキリ言って俺にとってはメチャクチャどうでもいい話だし、興味ない。興味ない話を延々と聞かされる身としては、ただの拷問でしかない。聞きたくもない。それも時間が許されるギリギリの所までやっているのだから質が悪い。


今更ながら入学式に出たことを軽く後悔している。そう言えば、あの柊也のヤツはどこにも見ないけど、多分サボったに違いない。……まぁ、さっきのあの感じからすると何か事情があるのだろう。探られたくないと言った感じが露骨だったし。気にしてもしょうがない。


「それではこれより、成績優秀者上位十人を発表したいと思います。発表された生徒は特別席に」


ようやく長ったらしい無駄話が終わったようだ。そして次は、どこのメディアも注目する成績優秀者の発表。


成績優秀者は入学前に行われる学力試験とそれと同時に行われる魔力検査などで決められる。この魔力検査は実力を試すなどではなく、平均的魔力量、プネウマ因子の量、修めている魔術の力量の科学的計算とその他適性の有無と言ったものだ。これらの成績を踏まえてこのように成績優秀者として名前が挙がる。


……まぁ、風の噂やら何とやらで、どういう人間が成績優秀者になるのかはほぼわかりきっていることなのだが。


学園長が成績優秀者を読み上げていく。十位から七位までは壁外都市出身で六位は十二師家の一人であったが、特にこれと言って有名な名前は聞いた事はなかった。まぁ、入学前に「迷宮」探索の経験がある人間でもない限り壁外都市出身者の名前は知られないだろう。過去には優秀な成果を有していたために入学時にはかなり話題にもなった壁外出身もいたらしいけど。


「五位、逢坂菊哉おうさか きくや


「はい」


名前を読み上げられ、一人の男が席を立った。


逢坂菊哉……。聞いたことがない名前だ。十二師家の縁者か誰かなのだろうか?


白銀のくせ毛で柊也と同じぐらいの身長がある。柊也がどこか童顔に見える顔つきなのに対し、こいつは爽やかという言葉が合う顔立ちだった。体つきも細身ではあるが、どこか芯が通っているような印象があった。


上位五位の発表にメディアのカメラがフラッシュをし始める。目に痛くなりそうだ、アレ。


「四位、皆月輝夜みなづき かぐや


「はい!」


はっきりとした声色で返事をし、呼ばれた黒髪セミロングの美少女が立った。同時にカメラのフラッシュが更に勢いを増す。


十二師家は、この国で最も強い権力を有する心装士及び魔術師の名家たちだ。この国でその存在を知らない人間はいないし、むしろ知らないのは異常と言えるぐらいでこの国が長年怪魔の手から守られているのも、彼らの成果が大きいと言える。関東六家はその十二ある家の内の関東側の六つの家のことであり、皆月家もその内の一つ。というか、柊也の所の崇村を始め、この学園には少なくとも関東六家の関係者は全員いるし。


セミロングの手入れがされている黒髪で神秘的な佇まいをしているのに、全体的に力強さを感じさせるその姿は「美しい」の一言が相応しい。


うん、個人的にすげぇタイプです。


「三位、崇村菫たかむら すみれ


「はい!」


同じくハッキリとした返事で立ち上がる、これまた美少女。カメラも以下同文と言わんばかりにフラッシュの機関銃がスタジアム内から浴びせられる。


菫色のロングヘアーに皆月輝夜よりある胸に鍛えられているとわかる体つき。細身で制服の上だからわかりにくいが、何となくわかる。鋭い目つきをしていて、他人を寄せ付けないと言った雰囲気だが、それが彼女の意思の強さを明確にしていた。


うーん、体育会系美少女ってヤツかなぁ。タイプではないね。


……それにしても、崇村ねぇ。柊也と絶対に何かしら関係あるだろ、コレ。嫌な予感しかいないんだけど。


「二位、槙谷孫一まきたに まごいち


「はい」


今度は男か。同様に席を立ち、その姿をカメラが収める。


眠たげな目つきの上にややクセのあるパーマの男だ。見るからにダウナー系と言った感じの風貌のヤツだが、その眠たげな目つきをよく見ると目が笑っていないようにも見える。


聞いたことがあるような気がするけど、あまり覚えていない。ただ射撃の名手であることだけは知っている。それはそれで、どこか妙な得体の知れなさを感じさせる目つきが、少し気になった。


「首席一位、須久根真すくね まこと


「はい!」


今度も男か。


今度は見るからに武人と言うべき精巧な顔立ちをしていて、体格で鍛え抜かれているということがわかる。十二師家の中でも根っからの武家として名高い須久根家の人間らしく、「武士」と言うべき佇まいは中々のものだった。


入学前から「迷宮」探索などで名を上げていたため、ちらほらと新聞にも載っていたので彼自信の知名度は高い。これは、中々ハードルが高い強敵だ。


今まで出た名前のほとんどは十二師家関係者ばかりだ。面子だけ見れば最早出来レースと言ってもいいぐらいではあるが、やはり十二師家なだけにメディアや政府関係者たちも注目するだろう。明日の新聞にはこの入学式の様子が大きく取り上げられるに違いない。


その中でも俺が驚いたのは、壁外都市出身者が多く上位に入ったことだ。こればかりは少し予想外で、トップ10以内に四人も入っているなんて正直信じられないと言った所で恐らく多くの学園関係者も思わなかっただろう。


とは言え、それを予期していた者たちも数多くいる。


それはここ数年、壁外都市出身の心装士・魔術師が台頭し始めてきたことだ。


心装士は素質によるが個人の努力によって大きくその能力を開花させることが出来るが、魔術師は個人の素質や才能によって大きく左右されがちの存在にして対局にある存在だ。


魔術師は血筋や血統などが重要視されており、その魔術師の家に伝わる家伝の魔術などであったり、術式などが記されている魔導書の解読などが出来るなど、とりわけ素質と才能、そして受け継がれてきた術式を起動させるために一番効率が良い要素として血筋が重要視される。そのため、本家と分家の者同士の婚約も珍しくないし、魔術の素質を持つ者を嫁、もしくは婿として結婚させるなどと言った事が多い。


逆に心装士にはそのような事は必要ない。代わりに並外れた努力を積み上げなければ、心装士としてだけの能力では弱点を突かれかねないし、魔術師のように自ら構築した魔術式を子孫に受け継がせることは難しい。


壁外都市出身者は魔術師の家ではない代わりに心装士としての能力の開花に成功させてきた者たちが近年増えてきたのだ。学園でのライバル、いや強者との壁の高さを痛感する。人生何事も上手くいかないことだらけとはいえ、ここではかなり厳しいという言葉しか出てこない。上位十人の面子を見るだけでも眩暈がしそうだ。


壁外都市出身者は魔術師の家ではない代わりに心装士としての能力の開花に成功させてきた者たちが近年増えてきたのだ。同時に自ら魔術を習得して入学前に鍛錬をしたり、「迷宮」探索に挑むなどをして事前に実戦経験を積んで入学をしようとする者たちは多い。また、十二師家はその在り方の都合上、壁外都市には住んでいない。


こういった事情から、もはや学園などで十二師家関係者だけが上位を占めるという現実は無くなってきたということだ。俺としてもそれは幸いなことだし、中には信じられないろくでなしもいるという事だから、ギャフンと言わせてやったりしてもいい。


名前を読み上げられた上位十人は、第一競技場に特設された特別席に座る。全員が座った途端にカメラのフラッシュが一斉に光り始める


こうして見るとすごいな。おまけに美男美女(全員ではないが)が揃っているという意味では絵面もいいし、学園側もそういうことを意図していたのか、照明やらなんやらとセッティングが細かく、綺麗に見えるようにしているようだ。


……改めて、この学園でのライバル、いや強者との壁の高さを痛感する。人生何事も上手くいかないことだらけとはいえ、ここではかなり厳しいという言葉しか出てこない。上位十人の面子を見るだけでも眩暈がしそうだ。


はぁ、やっぱり来るんじゃなかったな……。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く