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予備心装士の復讐譚 ~我が行くは修羅と恩讐の彼方なりて~

平御塩

第2話「憂鬱と憂さ晴らしと」



早速だが、オレ、崇村柊也は入学式をサボタージュすることにした。


何故なら、あまりにも十二師家の連中の密度が濃すぎること。そして入学式会場には基本的に見たくない連中の顔ぶれが多く存在していること。ちなみに面子はパンフレットにびっしりと書かれていたので、すぐにわかった。


別に入学式に参加しなくても特に困ることはない。新入生代表の挨拶を聞いても、聞こえの良いだけの薄っぺらい文章を長々と聞いていくつもりなんか毛頭ないし、何よりも耳障りにしかならない。


椿さんから聞いたことだが、入学式で新入生の名前を読み上げたりするのは、成績優秀の上位者のみ。つまり入学式に参加しないといけない面子は基本的に決められており、そうでない人間は別に参加しなくてもいい。


「……面倒くさい」


本音で口に出し、大きなため息をつく。ため息をつくと幸せが逃げるとかいう人がいるそうだが、別にオレには関係のないことだ。


入学式の後の予定は、校内についてのガイダンス、その後はクラス分けを行うための最終的な試験が行われる。それに合格すれば無事に入学することが出来るのだ。


学園に入学するには、まずは学園が主催している学力テストを受けなければならない。その学力試験に無事に合格することが出来れば、学園への入学資格の第一段階を突破することが出来る。魔力検査も行われるが、これは別に入学に影響することはない。


入学式に参加後(サボタージュ可能)がいよいよ本番ということだ。ここで自らの実力を示すことが出来れば、無事に入学することが出来る。正直な所、この実技試験などで示すのは、ある程度の能力だけでいい。つまりは形式的なものでしかないという。


実技試験はあくまでクラス分けなどをより効率的にするための篩でしかなく、学園が素質を事前に知るという意味合いの方が強いのだ。


「……本当に参加しないでよかった。もしあそこで鉢合わせとかしたら、血を見る予感しかしない気がする」


恐らくあのまま入学式に参加していたら、色々と面倒なことになっていたのかもしれない。自分の選択は正しかったと改めて安堵した。


入学する生徒の名前は成績優秀者しか公表されないため、それ以外の生徒たちの名前は正式に入学してからでなければ公表されないというのがこの学園でのルールだ。だから学力試験ではわざと手抜きをして、成績優秀者の枠に入らないようにした。


今年の入学生の数は300名。数年前に学園長が交代してからは、少しでも心装士及び魔術師の素質がある子供であれば、入学出来るようにしたこともあって、例年入学者は増えているという。今年は例年と比べると少ないほうらしいが、オレには興味のないことだ。


「入学式が終わった後は実技試験……。学園長への挨拶はその後しかないな」


この時間帯だと既に入学式は始まっている。当然ながら学園長や教師と言った面子は出席しているだろうし、何よりも早く済ませたかった学園長への挨拶は当分出来ない。出来るとしても、ほぼ間違いなく実技試験後になってしまうだろう。実技試験の段階で恐らくオレのことは知られてしまうだろうし、隠すことはもう出来ない。そこからが本番だ。


入学式前に挨拶はやめたほうがいいと思ったから行かなかったし、行ったとしても逆に忙しくて取り付く島もない事だって十分にあり得る。


結局、学園長への挨拶は面倒な実技試験でしか出来ないというわけだった。


「パンフレットを見て、色々と見て回るしかないか」


実技試験まではかなり時間がある。それまでに学園内をある程度散策しようと思った。


人気は少ないが、成績優秀者は強制参加という入学式なこともあって、一部の新入生は学園内を歩いている。中には持参したと思われる魔導書を開いて予習をしている者がいる。


時間の潰し方は多種多様ではあるが、オレはまだ手の内を明かさないためにそのようなことはしない。というより、魔導書や参考書を開いてもあまり意味がないからだ。それもこれも、オレの体質、性質と言っていいかもしれないが。


「……やあ、お嬢さん?こんな所で何をしているんだい?」


廊下を歩いていると、妙な声色が耳に入った。少し聞き耳を立てる。


「あの……、私、今から待機室に行かないといけないのです。実技試験のための予習をしないといけなくて……」


もう一つは女性のものだった。


聞き耳を立てながら近づいていくと、廊下から少し外れた一目のつきにくい所で三人の男子生徒と思わしき連中が、一人の女子生徒を囲んでいた。


「まぁまぁ、そう言わずにさ。俺たちとちょっと付き合ってくれない?付き合ってくれたらさ、ちょっと便宜を図ってくれるように言ってやるからよ」


「べ、別に私はそういうのは興味がなくて……。それに、便宜って何ですか?」


「実技試験を受けるんだろ?ちょっとだけ、先公に耳打ちをして合格できるようにしてもらえるように言っておくからさ」


「それは……」


会話の内容からすると、あの男子生徒たちは恐らくだが上級生だ。数は四人で胸の制服をよく見ると、二年生の証である桜と羽が二つというデザインのワッペンをつけていた。パンフレットにもあるが、このワッペンの羽が一つなら一年生、二つなら二年生、三つなら三年生という決まりがある。


そして、この二年生の男子生徒たちは、あろうことか新入生の女子生徒を勧誘何の勧誘かはわからないがして試験官の教師を買収しようとしている。チンピラと見紛うような態度に、自分より年上なのが無性に腹が立つ。


実にくだらない。くだらなすぎる。


「私は、そんな不正をして入学しようとなんて思っていません!自分の力で、合格して、強くなるためにここに来たのです!だから、そこをどいてください」


少女はそう目の前の先輩たちへ告げていた。彼女の方が、目の前で買収を提案している連中より遥かに立派だ。


「……へぇ。俺たちに逆らうつもりなんだ?」


「え?」


少女に言われた男子生徒の内の一人が声色を変えて言った。


「俺の家はな、崇村家と深いつながりがあるんだよ。今ここで俺たちに逆らったら、何をするかわかっているんじゃないのか?ああ?」


「え―――――」


「――――――」


その一言に少女は青ざめ、オレは目を見開いた。


――――――――――あの生徒たちは、「崇村家」の縁者なのか。


この流れは恐らく一番まずい。あの連中が「邪魔」と感じたものに対する態度は恐ろしく冷酷だ。彼女が本気で彼らに逆らうような真似をすれば、それこそ社会的に抹殺される可能性はあり得る。


そして、それ以上に、オレは恐ろしく、冷静に、静かに、頭に来ていた。


「新入生だからって下手に出ていたら調子に乗るなよ、劣等種が。お前、壁外出身なんだろ?壁外出身の分際で俺たちに逆らうことがどういうことなのか、身をもって思い知ったほうがいいんじゃねえのか?」


その単語一つ一つに、オレは殺意を覚えていた。


落ち着け、オレ。まだ、まだ出るわけにはいかない。下手をすれば実技試験前にやりかねない。


「……っ」


少女の方は目の前の先輩に対して怯え切った表情をしていた。まるで蛇に睨まれたカエルのように。


「……私は」


「あ?」


だが、少女はその怯え切った表情を必死に打ち消すように持ち直し、面と向かった。


「私は!そんな卑怯な手段で入学なんてしません!ですから、お断りさせていただきます!さよなら!」


そう言って、彼女は強引にそこから逃げようとした


――――――――――だが。


バチィ!!


周囲に木霊するような、空気を切り裂くような音。


取り囲んでいる先輩の内の一人が、少女の頬を裏拳の要領で激しくビンタをしたのだ。


「うっ……!」


少女は、それにより床に転がった。かなり一撃が強かったのか、すぐに起き上がれなかった。


「調子に乗るな!劣等種が!入学出来ただけで、俺らに楯突くなんざいい度胸していやがるじゃねえか!おい、この女連れていけ!」


「おう」


「い、いや!やめて!」


床に転がった彼女を、先輩たちが強引に立たせた。


――――――――――許さない。


「おい」


オレは姿を現した。


「あ!?何だ、テメエは!?」


「え……?」


オレに気づいて、彼女たちはこっちに振り向く。


もう我慢の限界だ。今オレの目の前で、ふざけた蛮行を繰り返す胸糞悪い奴らを見ていられなくなった。


「その子から手を離せ。そして、どっかに消えろ」


オレは怒気と「気配」を漏らしながら言った。


「な、何だ。コイツの感じ……」


「魔力をほとんど感じないのに、妙な気配だけは感じるぞ……!?」


先輩たち、いや、ケダモノたちはオレの発する気配に軽く当てられ、動揺している。


今からオレがやろうとしていることはとんでもないこと。


それをやればどうなるかはわかっている。そんなことをすれば自分の立場がどうなるのかもわかっている。


だけど、そんなことはどうでもいい。


――――――――――目の前のケダモノたちがとても許せない。


オレの思考回路は冷静に、冷徹に、冷酷に、そう告げていた。


「何だ、テメエ。正義の味方気取りか?俺たちが崇村家の人間だってわかっているんだろうなぁ?」


崇村家、か。


もうオレには縁がないと思っていたが、忌まわしい記憶と運命は残酷にこうやって唐突にやってくるものなんだと、オレは内心ため息をつく。


それに、オレが「正義の味方」だと?バカバカしい。


今からやるのは、ただの私刑リンチだ。


「そっちこそ、十二師家の名を使って新入生を慰み者にしようなんて魂胆が丸見え。虎の威を借りる狐とはよく言ったものだが、その人はアンタたちのようなケダモノが手を出していい人じゃない。さっさと蟻のように去ってくれ」


「な……」


大抵の人間は、十二師家の名を聞いて、尚且つその縁者であるというだけで震えるというが、そんなのオレには関係がない。


――――――――――何しろ、オレがそうだったから。


ケダモノたちはその十二師家の名を恐れないオレの言い分に、顔を歪ませた。


「……自分が何を言っているのかわかっているんだおるなぁ?クソガキが」


「はて?クソガキがクソガキとは、これまた笑えない冗談を。とりあえず――――――――、少しだけ痛い目を見てください。先輩?」


「……言ってくれるじゃねえか。ぶっ殺してやるよ」


そう言って、ケダモノたちは彼女からオレに目標を定める。同時に彼らからも殺気が溢れていた。


こんな安い挑発に乗るとはあまりにも未熟すぎる。お里が知れるとはこのことだな。


「それじゃ、覚悟しや――――――――、うげぇ」


魔術を使おうと動こうとしたケダモノ一人の首に、手刀を打ち込んだ。打ち込まれた相手は悶絶し、その場で首を抑えながら床に倒れ込む。


「こ、コイツ!」


他のヤツも慌てて対処しようとしていたそうだが、今ので不意をつかれて動揺している所を見逃すオレではない。


「あがぁぁ!?」


手首をすぐにからめとり、ねじり折る。当然、手首は完全に骨折し、そいつも地面に突っ伏した。


「きゃあ!」


少女が悲鳴を上げる。それに反応して振り向くと、ケダモノの内の一人が隠し持っていたと思われる短刀を手に持ってこちらに突き出してきた。


「死ねぇ!」


勢いよくオレの腹部を狙ったつもりだろうが、遅すぎる。


「ぐえぇ」


簡単にかわし、がら空きの胴体に膝蹴りを叩き込む。それに大きく悶絶するそいつの髪の毛を無造作につかみ込み、顔面を壁に叩きつける。ぐしゃと音がしたので、多分鼻も完全に骨折しただろう。壁に血がついているし。


「ひ、ひぃぃ!」


それに、残った一人が完全に怖気づいて尻餅をついていた。逃げようとしているが、腰が抜けて虫が這いずるように、去ろうとしていた。


――――――――――逃がさない。


オレはそいつの頭をわしづかみにする。


「あ、あぁあぁぁ」


わしづかみにする指先にはかなり圧力をかけ、ケダモノの頭蓋骨がミシミシと悲鳴を上げ、ケダモノ自身も情けない声を出している。


「今ここで起きたことは絶対に他言するな。した場合は、お前は自ら喉を描き切る」


「だ、誰が……」


まぁそうだろう。十二師家の縁者であろう者が、劣等種の言葉なんて聞きたくないだろうからな。一方的に叩き潰された挙句、殺されかけたなんて口が裂けても言えないだろう。


ま、生きるも死ぬもコイツ次第だけど。


「じゃあ、ここで死ね」


そう言ってオレは無詠唱で「強化」の魔術を指先に込める。素直に自分の非を認めて言うことを聞けない人間の脳なんざいらないから。


「あぁぁぁあぁぁ!!わかった、わかりました!従います!従いますぅ!!」


咄嗟に命の危険を感じたのか、それとも本当に頭蓋骨を割られると思ったからなのか、ケダモノは命乞いをするように言った。口からよだれ、目からは苦痛の涙を流すという、情けない姿を晒していた。


「行け。今後彼女には絶対に近づくな」


オレは雑にケダモノを投げ捨て、吐き捨てるように言った。


「お、覚えてろ……!」


ケダモノどもはそんな三下みたいなセリフを吐き捨ててさっさと逃げて行った。


壁にある血を持ち合わせていた布で適当にふき取っておく。念のためにだ。


「あ、あの……。貴方は?」


ふと、少女がオレに声をかけてきた。


「――――――――――――――――――――ッッ」


彼女の顔を見た瞬間、オレは激しい頭痛のようなものを感じた。同時に、よくわからない感情が沸いてきた。


「(オレは、彼女を、知っている?)」


どこかで会ったことがあるような気がする。顔と、髪型も、声も、何故か知っている気がする。


そして、この感情は―――――――――。


「あの、どうしたのですか?顔色が、優れないようですけど……」


「あ、え、すまない。それじゃ、オレはこれで」


何とも言えない、複雑すぎる感情と胸の動悸に、オレはそこにいられなくなった。ここは変に関わりを持たない方がよさそうだ。


「ま、待ってください!あの、えっと、ありがとうございます!」


「―――――――――」


その声を聞きながら、返事をすることなく、オレは廊下を足早に歩いて行った。


……ああ。本当に、どうしようもないな。

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