聖剣が扱えないと魔界に追放されし者、暗黒騎士となりやがて最強の魔王になる

つくも

 夜の事だった。そこはエルフの国から最も近い位置にある人間の街だった。
 多くの人影が徘徊する。
「……なんだ?」
 突如街の入り口から現れたのは無数の人影だった。
 しかしそれは人影ではあるが人ではない。人間ではなく、人間であった者。
 それがもっとも正確な表現であった。
 人影の正体は不死者(アンデッド)である。生きる屍(ゾンビ)ともいう。不死者(アンデッド)の中でも最下層の存在ではあるが、数が多く、物理攻撃に対する耐性が高い為に、一般市民では太刀打ちできない凶悪なモンスターたり得た。
「ゾンビだ! ゾンビが出たぞ!」 
 恐怖はすぐに伝わる。街中はパニックになっていた。

 エルフの国王は兵士を率い、その国の攻略戦を行っていた。その国は不死者の国。アンデッド達の王国である。しかし、到るところからゾンビが溢れかえり、中々に侵攻に手こずっていた。
 エルフの国王精悍な顔つきの男ではあるが、齢は既に100歳を超えている。エルフ故になし得た長命であった。
「国王陛下」
「なんだ?」
「エレノア姫から伝令です。黒の魔王国との同盟を得たと。援軍を送ってくれるらしいです」
「そうか。それは何よりだ。魔族とはいえ、不死者(アンデッド)達よりは聞き分けがよいであろう」
 ゾンビ達は見境なく肉を求め攻撃を繰り返すだけである。あれに対話は通用しない。
「はっ。左様であります」
「皆のものに伝えよ。一時撤退だ。援軍の到着を待つとしよう」
 エルフの国王はそう言った。

 エレノア姫とリズとリナはエルフ国からの使者という事で黒の魔王国まで同行して貰う事となった。
 黒の魔王国での事だ。魔王城。魔王サタンの根城である。
「エルフの国の方々。私は黒の魔王国の魔王サタンである」
 魔王サタンは言った。
「エルフの国の姫であるエレノアと申します。この度は同盟関係を結んで頂き、エルフ国としても感謝しております」
「良い。お互いの利害が一致したという事。それは非常に好ましく思う。聞いたところによれば、エルフの国はアンデッドの軍団に悩まされているのであろう?」
「はっ。その通りです」
「こちらから戦力を派遣しよう。我々は貴国の他にも蒼の魔王国と竜人とも同盟関係にある」
「それは非常に心強いです」
「数日以内には援軍の手はずができる事だろう」
 魔王サタンは言う。

「これからどうされるのです?」
 エレノア姫は言った。魔王城の近くにホテルはある。宿泊施設としてはそこが宛がわれている。
 特別今後の予定に義務的な予定はなかった。つまりは自由時間であり、何をしてもいい時間であった。
 ただラグナには予定があった。流石に一旦、リリスに顔を会わせないわけにもいかないだろう。
「私は予定があります。三名はホテルが宛がわれておりますが故に。私の部下に案内させましょう」
 ラグナは言う。

 そこはアンデッドの王国であった。
 一人の男がいた。骸骨のような男。死霊使い、ネクロマンサーである。
 男はアンデッドの国の王だった。
 そしてその忠実なる僕が三人。
 一人は吸血鬼の女。
 もう一人は大男だった。
 そして最後の一人は人型ではなかった。竜の形ではあったが、それでも純粋な竜ではない。 竜のアンデッド。所謂ドラゴンゾンビだった。
「いかがされましょうか? アルベド様」
 ネクロマンサーの名はアルベドという。
「エルフの国が魔族と手を組んだようです」
「良い。同じ事だ」
 アンデッドの王国は自分達にとって住みやすい世界にすべく日夜邁進している。その理念は単純だった。生きるもののいない世界。死の世界。
 それがアンデッド達にとっての理想郷(ユートピア)だった。
「全ての存在に安らかな死を。それが私達アンデッドの理想」
 生きているから人は悩む。生きているから人は老いる。これは人間に限らない。エルフだってそうである。生きているから老いるし、病むし、傷つくのである。生きる事は苦痛の連続である。死は終わりではない。新たな始まりである。
 かつては何かしらの生物であった不死者(アンデッド)とて、生きている時はあった。故に生きているという苦しみは理解できた。
「我々が全ての生きし者に安らかな終わりを齎すのだ」
 そう、アルベドは言った。

 その後の事だった。蒼の魔王国からの増軍。それから竜人四人娘(エレメンツドラゴン)。
 等が一同に集まり、エルフ国の戦線まで移動する手はずであった。
「……ラーグナ!」
 人目も憚らず、一人の少女が抱きついてきた。
「って、お前は」
「来ちゃった(ハートマーク)」
 そんな押しかけ女房のように言われてもな、という感じではあった。
 父であるベルゼブブから蒼の魔王の座を引き継いだアスタロトである。
「や、やめろよ。リリスがいるし」
 後ろにいるリリス(嫁)からの視線が痛い。むしろ、いるからわざとこういう事をしてきたのではないかと思う節すらあった。
「んっ、べー!」
 わざとらしくリリスにアスタロトはあっかんべーをする。
 とても蒼の国の魔王とは思えない態度だ。
「国の方はいいのか?」
「ベアルに任せてある」
 アスタロトは言う。ベアルが今アスタロトの補佐をしているらしい。いつも隣に控えていた執事である。
「まあ、その方が安心かもしれないが」
「んー! なにそれひっどい!」
 アスタロトはふてくされた。
「冗談だ。いいからそろそろ離れろ」
 仕方なくラグナから離れるアスタロト。
「アスタロト、蒼の魔王国と黒の魔王国の同盟をもっと強くする方法を考えたの」
「なんだ?」
「ラグナが魔王になって、アスタロトと結婚するの」
 通常市民は一夫一妻制ではあるが一部権力者、ましてや権力の最高位についている魔王に限ってはその限りではない。故に既に一人と結婚していたとしても障害たりうる事はなかった。
 別にそれが他国の魔王と結婚しようとしても、前例はないができないという決まり事もなかった。
「ば、馬鹿。何言ってるんだ」
 リリス(嫁)の目の前でなんという事を。
「そこの垂れ乳は側室に置いて置いて、アスタロトを正室にするの。そうすればもう蒼の魔王国は合併されたようなもの。ひとつの国になるの」
「だ、誰が垂れ乳よ!」
 リリスは怒る。
「んっ、べー!」
 またあっかんべーをするアスタロト。
「ま、魔王のくせにあっかんべーはよしなさい。子供でもあるまいし」
 リリスは戦く。
「まあ、お前と結婚するとかそういう話はおいておこう。まだ俺は魔王ですらない」
 ラグナは言う。
「うん。わかっている。今はその状況ではない位。最終的にはあの人間達を攻めるんだよね?」
 アスタロトは言った。あの人間達。それはつまり空中浮遊都市『エデン』を持つ人間達。自分たちを天上人と自称する人間達だ。
 アスタロトにとっては因縁のある相手だった。
「ああ。そうなるな」
「アスタロトにとってもあいつ等は敵。だから協力するのは当然」
「そうだな」
 広間に移動する。
 そのうちに竜人達も集まってくる。
「あーっ、だるいなぁー。もっとご飯食べてたかった」
 ヴィーラが言う。
「こら。ヴィーラ。それだけをしていると私達、ただの大飯食らいです」
 アクアは言った。
「まあ、それもそうか」
「お仕事、お仕事。ノエル達も役に立つところを見せる」
 そう、ノエルは言った。
 複数のコンテナが用意されている。紐付きである。竜化した竜人四人娘(エレメンツドラゴン)にコンテナの輸送を頼む手筈となっていた。
「皆の者、よくぞ集まってくれた」
 魔王サタンは言う。
「敵は不死者の軍勢だ。これよりエルフの国により形成されている前線まで輸送する」
 そう、魔王サタンは言う。
「諸君等の健闘を祈る」
 魔王サタンは締めくくった。リリスもこの場に残る。妊婦である為、もはやリリスが戦場に立つ事は少なくとも出産まではなかった。
 コンテナに詰められる戦力達。
 突如現れた四体の竜により持ち上げられ、天高く舞っていった。

 飛翔時間はそれほど長くはなかった。2時間程度のものか。しかしコンテナという密な状況。そして照明もなく暗い。さらに空を飛んでいるわけだからぶらんぶらんと揺れる。
 飛行機酔いのような感じになる。
 輸送条件は劣悪であると言えた。
 不死の国の領域に入った時の事だった。無数の蝙蝠がヴィーラに襲いかかる。
「ん? なんだ?」
 ヴィーラは言う。
「うわっ!」
 礫のように襲ってきた蝙蝠により、コンテナを落下させてしまう。森の中に落ちる。
「……ち、ちくしょう!」
 明らかに敵の攻撃だった。
「けほっ、けほっ」
 アスタロト及びライネスその他軍勢が姿を現す。
「高いところから落とされるのはよくないね。おかげでダメージを負ったよ」
 ライネスは言う。
「気高きアルベド様率いる不死者の領域に魔族が足を踏み入れるとは何事か。この不敬、死を持って償うより他にないぞ」
 月明かりの下、木の天辺に立っている人物が映し出される。美しい少女ではあったが、見た目通りの年齢ではあるまい。不死者は年を取らないのだから。
 白蝋のような白い肌。生気のない顔。黒づくめのドレスはまるで死に装束のようでもあった。高貴な雰囲気であり、可憐でもあるはずだが、それでも不気味さと恐怖の方が勝っているのは彼女がヴァンパイアだからだろう。
「ヴァンパイアか。それもかなり高位な。ロードヴァンパイアかもしれないね」
 ライネスは言った。
「我が名はカーミラ。吸血鬼カーミラ。死ぬまでの僅かな時間覚えておくがよい」
 カーミラは言った。その鋭い犬歯と赤い双眸が怪しく光った。
 ライネスとアスタロトは身構える。

 竜化したヴィーラが落とされた事は他の面々も知っていた。だが作戦の変更は今更できない。ヴィーラ達はヴィーラ達で対応してもらうより他にない。
 墓地での事だった。
 雷撃がエアロを襲う。
「うわっ!」
 エアロが墜落する。当然、コンテナもだ。
「ちっ! んだよ! 気をつけやがれ!」
 アモンが姿を現す。
「敵の攻撃のようだ」
 セラフィスが姿を現す。久々の登場のように感じる。
 現れたのは大男だった。それはフランケンシュタインと呼ばれるアンデッドだ。
 人の手により作り出された、人造人間に近い。人により作られた不死者。アンデッドである。そのアンデッドが雷撃を放ったのである。
 雷撃魔法というよりは放電現象に近いものがあった。身体から自然と発せられる自然現象だった。
「ちっ。一気にバトルモードかよ。見せてやんぜ。たまには俺のイカしたところをな」
 アモンは言った。槍を構える。
「いくぜ!」
 その次の瞬間、アモンが雷撃の直撃をくらい消し炭になった事は言うまでもなかった。

 無事戦線へと届けられたのはエアロとアクアくらいのものだった。2コンテナ分である。
「お父様」
 エレノアは父。エルフ王のところへ駆け寄る。
「おお。エレノア。それに黒の魔王国の方々ですな」
 ラグナも姿を現す。
「同盟を結んで頂き感謝します。第一大隊長のラグナ・エルフリーデと申します」
 そう、名乗る。
 ラグナが人間である事はエルフ王も感じ取っていたが、今は重要な事ではなかった。大隊長を任されているのであればその戦闘能力や実力に不足はないのだろう。それで十分であった。人間か魔族か、というのはこの場では差して問題ではない。異業種は異業種なのだ。ましてや竜人もいるのだから、混成部隊なのだろう程度の認識しかない。
「これよりは我々がアンデッドの相手をします」
 ラグナは言う。
「すまないな。アンデッドの大軍に我々は苦戦をしているのだよ。防戦が一方で侵攻を食い止めるより他にない」
 このまま防衛戦を維持できなければエルフの国にまでその被害は及ぶ事だろう。国を守る事は大変な事であった。
「こ、国王陛下。大変です」
「なんだ?」
「砂漠の真ん中に竜が現れました」
「なんだと?」
 この世界でも竜は強力なモンスターだとされている。竜人もそうである。高いHPと耐久性、高位の魔法を使役し、知能が高い事も多い。
「で、ですが普通の竜ではありません。不死者の竜であります」
 ラグナは自身の知識から対象を断定する。
「ドラゴンゾンビか」
 ドラゴンゾンビ。高い知性や高位の魔法を放棄している代わりに、アンデッド故の高い不死性と副産物を持ったドラゴンだ。
 その副産物については後に説明する。ドラゴンの特徴は失われているが、残っている部分もあり、さらにアンデッド故の強さが補強されている。
 総合的な難易度からすれば同じ程度のモンスターである。
 特別相手をするのが楽な相手というわけではない。
「攻撃がまともに通らず、また毒の霧にやられるものも多く、まともに戦闘にすらなりません」
「エルフの王。ここは私にいかせてください」
 ラグナは言う。
「しかし」
「大勢でいけば被害が増える結果となります。ドラゴンゾンビに生半可な攻撃は効きません」
 ドラゴンゾンビはある程度以下の物理攻撃を無効化する。数で攻めるという単純な物量戦法が効く相手ではなかった。
「そうか。わかった。頼んだぞ、ラグナ大隊長」
「私がドラゴンゾンビを倒した事を確認し、兵を進めてください」
 ラグナは単身、砂漠へと向かっていった。

 ヴァンパイアの眷属は蝙蝠である、対するアスタロトの眷属は虫である。虫と言っても色々である。この場合の虫とは蚊である。蝙蝠に対して出したのは蚊の大軍である。蚊と言っても手のひらよりも大きい、蝙蝠と同サイズ程度の巨大な虫であった。
 蝙蝠と蚊がぶつかり合う。
「ゴミ虫めが。妾の眷属に刃向かうなど」
 吸血鬼カーミラは不愉快そうに吐き捨てる。
 蝙蝠のような両翼を持つ吸血鬼は通常飛翔能力を持つ。カーミラは蝙蝠のような両翼を持って、夜空を飛翔する。
「なに!?」
 キィン。音がする。カーミラの爪と硬質な剣がぶつかる音。
 アスタロトは蝶のような両翼でまた空を飛んでいた。剣を手に装着している。剣のようになる虫というのが正確な表現ではあるが。
「ちっ。ちょこざいな」
 カーミラは吐き捨てる。
 虫対蝙蝠といった手恰好だった。属性的には火竜の血を引くルシファー戦とは異なり、相性は悪くはないだろう。それなりに闘えるはずだった。

「アモン中隊長」
 セラフィスは心配そうに呟く。かっこつけて色々言った挙げ句、フランケンシュタインの放つ雷に丸焼けにされていったのだ。
「……大丈夫だろう。ゴキブリのようなしぶとさだけが彼の強みだ」
「ひ、ひでぇ。その評価はあんまりだ」
 アモンは呻く。
「的確な評価だと自負している」
 セラフィスは言う。ちなみにセラフィスも中隊長である。一応説明。
 彼女はダーインスレイブを構えた。久々の登場だった。攻撃を与えつつ回復もできるという効果のある武器だった。
 痛覚のありそうにもない、不死者にどれほど効くかもわからない。ましてやフランケンシュタインは知性というものを感じなかった。狂った機械人形(マシンドール)のようだ。
 ウヴォアアアアアアアアアアアアア! 
 フランケンシュタインは奇声を放つ。
 墓は多くの落雷で滅茶苦茶になっていった。

 ドラゴンゾンビがその場にいる事はすぐにわかった。目視するより前に空気でわかる。毒の霧(ポイズンミスト)。普通のドラゴンにはない副産物的な能力である。ドラゴンゾンビは存在をしているだけで毒を放つ。それが霧となり脆弱な存在であるならば死を齎す事となる。「……大隊長殿。いくら何でもお一人では」
 エレノア姫が心配そうに声をかけてくる。
「心配しないでください。といっても無理でしょうね」
 こちらの実力も不明なのだ。実力がありそう、程度の認識はあるかもしれないが。それでも正確なところはわからない。
 つい最近会ったばかりであり、戦闘に直接出くわした事もないのだ。
「せめて援護を」
「援護?」
「ええ」
 エレノア姫は魔法をかける。解毒魔法の一種だ。状態異常無効化。低位な状態異常であれば無効化する魔法だ。
 ラグナの身体は優しい緑色の光に包まれる。
「かたじけない」
 ラグナは言う。多少なりHPが減るだろう。恐らくは。
「いえ、当然の事をしたまでです。あなたの勝利を祈っております」
 エレノアは言った。
 ラグナは向かう。毒の霧の中を。霧の中、大きな骨が動いた。骨でできた竜。ドラゴンゾンビである。
 斬りかかる。魔剣カラドボルグを持ちて。
 甲高い音が響いた。皮膚こそないが、ドラゴンゾンビの骨の堅さはドラゴンと同等であり、痛覚がない為怯む事すらなかった。
「ちっ」
 ラグナは舌打ちをする。

「……くっ! 愚かな魔族よ! 我ら不死者(アンデッド)に抗うとは」
 吸血鬼カーミラは言う。
「我々は生きている愚かな種に静かな終わりを与えようとしているだけだというのに」
「そんな事どうでもいい。アスタロトにとっては今生きている事だけが全てなの」
 アスタロトは言う。
「魔族風情が!」
 カーミラはその形相を歪ませる。
 地中より、糸が絡みつく。
「ん?」
 カーミラの足をいくつもの糸が絡みついた。それは地表を跋扈する大蜘蛛が放ったものだった。当然のようにそれはアスタロトの使役する使い魔である。
「ちっ。虫けらが」
 大蜘蛛に足を引っ張られる。流石に翼による浮力は差ほど強くない為か、大蜘蛛に引っ張られ、カーミラは墜落する事となる。
「いやぁ。ご苦労、ご苦労。アスタロトちゃん」
 ライネスは言う。
「いや。レディとはいえ今や蒼の魔王を一介の兵士がちゃん呼ばわりするのもまずいか。今のは取り消しで。アスタロト様」
「別に良いよ。今更」
 アスタロトは言った。
「僕は君たちみたいに空を飛べるわけじゃないからね。地上に降りてきてくれると助かるよ」
 ライネスは魔剣グラムを構えた。
「ちっ。魔族風情が」
「2対1だけど、戦争なんだし。汚いとは言わないよね」
 ライネスは笑った。

「ちっ」
 セラフィスは舌打ちをした。放電現象。それは無作為な攻撃である。
 強力であるがそれは効果的な攻撃とはなっていなかった。
「アモン中隊長」
「なんですか?」
「私の前に立って攻撃を受けろ」
「何ですか人を盾みたいに」
「盾になれと言っているんだ! 君はそれくらいしか役に立たないだろうが!」
「ひ、ひでー。俺の扱い。しゃあない!」
 アモンは覚悟を決めた。雷撃が放たれる。
「ぐああああああああああああああああああ!」
 アモンは雷撃を受け止めた。
 フランケンシュタインの動きが止まる。どうやら連続して放電はできないようだった。
「はああああああああああああああああああ!」
 一瞬の隙をつき、セラフィスが斬りかかった。剣が突き刺さる。
 フランケンシュタインは呻いた。

 ドラゴンゾンビが呻く。ドラゴンゾンビに効くのは聖属性の攻撃である。リュートの聖剣ならばダメージが効くんだろうが、ラグナの魔剣は闇属性の武器であり弱点をつく事はできなかった。まあ、弱点なんて関係ないんだが。要するにダメージを2倍与えればよい。弱点を付ければ効率的ではあるが、つけない以上、ダメージを2倍与えるより他にない。ダメージ倍率を0.5倍とした場合の計算である。
 ドラゴンゾンビにガンド(呪いの魔弾)を放つ。ドラゴンゾンビは怯んだ。ポイズンブレスを放ってくるが、標準の合ってないでたらめな攻撃だ。当たるわけがない。
「終わりだ」
 脳天に魔剣を突き立てる。もっとも、そこには脳みそなどない。故に頭部が弱点箇所かと言われると、そうではない。
 突き立てる箇所はどこでもよかった。魔剣カラドボルグに秘められた闇の力を流し込む。
 ガアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
 ドラゴンゾンビは断末魔のような悲鳴をあげて果てた。
 魔剣に蓄積できるエネルギーの約半分を消失した。もはや全力での一撃は撃てないだろう。 問題なのはまだボスが控えているという事だった。
 だがまあ、チームプレイというか、他の連中の力を借りれば何とかなる。だろう、多分。そうラグナは思っていた。

「ば、馬鹿な。この妾が魔族ごときに」
 カーミラは果てた。
「チームプレイの勝利だね。アスタロトちゃん」
 ライネスはウィンクをした。
「うん。そだね」
 アスタロトは頷いた。
「じゃあ、ラグナ君のところへ向かおうか」
 アスタロトとライネス。その他兵士達は本来の合流地点に向かう。

 断末魔があがる。
 フランケンシュタインは倒れた。
「チームプレイの勝利だな。アモン中隊長」
「味方を盾にするのをチームプレイっていいます?」
 アモンは嘆いた。
「言わないかもしれないが、それでも君が役に立ったのは事実だ。もっと胸を張れ」
「いや。盾にしかなれないっていうのもねぇ。空しい」
 アモンは嘆いた。
「ともかく向かうぞ」
 セラフィスは言う。
「はーい」
 アモンは言った。

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