聖剣が扱えないと魔界に追放されし者、暗黒騎士となりやがて最強の魔王になる

つくも

第10話

冥界の最下層の扉が開かれる。
そこにいたのは見目麗しい女性だった。女性は女性であり、人間の形をしていたが、どこか色白い顔は生気というものを感じなかった。
まるで死体のようだった。死に化粧が施されているような色白の肌だった。
「……なんじゃ。貴様等は」
「冥王ハーデス」
クーニャは言った。
「いかにも私が冥王ハーデスだ。冥界の王だ」
ハーデスは言った。
「なんじゃお前等。裸の女を引き連れて、露出プレイが好みなのかや」
ハーデスは目を細めていった。
「い、今まで気にしないようにしていた事を」
ラグナは溜息を吐いた。
「服の事は忘れてください。人間でも魔族でも、服を脱げば皆裸なんです」
リュートは言った。
「そ、そうか。まあ、ヌーディストという人種もおるな。裸で何が悪い! といった事か。何も悪くない。動物は皆裸じゃ。人間も一枚剥けば裸。そうだ! 私も脱いだ方がいいのかや?」
ハーデスは言った。
「い、いえ。脱がないでください!」
「そうか。脱がないでいいか。しかし皆裸なのに私だけ裸にならないのは少し空気が読めてない気もせんかや?」
「ぼ、僕たちは服を着てますから」
リュートは言った。
「もういい。服とか裸とか、頼むからその話題は放っておいてくれ」
なぜ自分達の生存がかかっている時にそんな裸がどうだとか、そういう低俗な話題を延々しなければならない。
「冥王ハーデス。私達は誤ってこの世界に紛れ込んでしまったのです。本当は死んでなんかいないんです。どうか私達を元の世界に戻してください!」
ソーニャは言った。
「そうか……貴様等を元の世界。つまりは現世に戻すという事か」
「はい! 可能でしょうか?」
「ああ。可能だ。勿論、できる。だがそれには条件がある」
「条件?」
「そこの男達、服を脱がぬか」
「え?」
「なんだと……」
「どうした? 現世に戻りたくはないのか?」
冥王ハーデスは言った。
「鎧は脱ぐの面倒くさいんだよな」
ラグナは言った。
「兄さん。面倒くさがっている場合ではないよ」
「ああ」
二人は鎧を脱ぎ始めた。
「え、えっと。どこまで脱ぐんでしょう?」
平服になったリュートは言う。
「何を言っている、無論全部じゃ」
冥王ハーデスは言った。
「はい」
渋々二人は全裸になる。しかし、いじましく下のモノだけは両手で隠す。
「隠すでない。手をおろせ」
「くっ」
「はい」
二人は手を降ろす。
「ほう。なかなかに見事なモノをしているのぉ」
冥王ハーデスは言った。
「……クーニャ、ガン見してるんじゃない」
ラグナは言った。
「主様、立派なモノをしているな」
「ソーニャ……見ないで」
リュートは言った。
「ええ……ご立派ですよ」
ソーニャは笑った。
「立派だとか……そういう事じゃない。恥ずかしいんだ」
「ええ。ずっと私たち裸ですし、別に」
「……はあ。これで私以外全裸になったのう」
冥王ハーデスは巫女服のような衣装を着ている。
「これは私が脱がないというのも変な話じゃなかろうか」
「いや、そもそもなんで俺達は全裸になった!」
ラグナは言った。
「いや。この場面だと何でも私の言う事聞くかと思っての」
「裸になった事と現実世界に帰る事は何か関係があるんですか?」
「ないの」
「ないのかよ!」
「あるといえばある」
「どっちなんだ」
「ここは冥界じゃ。ここの王は私じゃ。故に全ては私の思い通りという事。私の機嫌を損ねん事じゃ」
ハーデスは言った。
「くっ」
悔しいがその通りだった。
「そうだ。そこの色男二人、私を抱いてくれぬか?」
「なっ!?」
「え? それは」
「抱くというのは勿論性行為の事だぞ。どうだ? 現実世界に帰れるとするならばするしかあるまい」
「……し、しかし。それは」
二人とも恋人がいるのに浮気になりかねない。
「それが必要となればせざるをえませんが」
背に腹は変えれない。
「勿論、これは別に元の世界に帰る為に必要な行為ではない。ただ帰すのも面白みがないなので、そう言ってみただけじゃ。さっきのも別に裸になる必要はなかったのだぞ」
「なんなんだ、じゃあなんで俺達は裸になったんだ」
ラグナは言う。
「色々考えてみたが面白い条件は何もなかった。一体どこに帰せばいいかね」
「帰してくれるならどこでもいいです」
「どこでもいいという事はなかろう。お前達にも都合がある。お前達の想い人のところに帰るべきだ。そう思わないか」
「はい。そうですね。その通りです」
「お前達を最も強く想っている者達のところへ帰そう」
冥王ハーデスは何らかのエネルギーを集中し始める。どうやら現世に帰れそうだった。
「兄さん。今度会う時はもっとちゃんと手合わせをしたいね」
リュートは言った。
「俺もだ。その時までせいぜい腕を磨いておけよ」
「うん。そうするよ」
兄弟の短い会話は終わる。
「では、そろそろいいかの。はあああーーーーーーーーーーーーーー!」
冥王ハーデスはエネルギー体を投げた。
異界への門。現世へと繋がる扉が開く。
こうして二人は現世へと帰ったのである。

夜の事だった。リリスは自室で黄昏れていた。夜景を窓越しに見る。
きっとあいつ(ラグナ)は生きている。それは現実逃避なんかではない。きっと生きている。感じんだ。魂の鼓動を。
リリスはそう思っていた。
ーーと、その時だった。
時空の歪みがうまれる。空間に亀裂が走った。
ぽとり、と二人の人物が落ちてきた。
「い、いてぇ……」
「ラグナ! って、あんた」
「久しいな。小娘」
ラグナとクーニャが現れた。
「な、なんで二人して裸なのよ!」
リリスは叫んだ。
「それは俺が聞きたいくらいだ。なんでこうなったんだ」
感動の再会にはほど遠かった。
「……けどいいの」
リリスは涙を流す。ラグナの胸板に顔を埋めた。
「帰ってきてくれたから、それだけでいい」
「ああ。ただいま。リリス」
「……それより」
クーニャは言った。
「早く何か服をくれぬか。寒い。風邪を引く」
「は、はい」
リリスは答えた。

同様の事はリュートの側でも起こっていた。
「リュート君……なんで裸なの?」
アリスは再会に喜ぶよりもまず裸である事に突っ込んだ。
「言わないでくれアリス。それは僕が聞きたいくらいなんだ」
「気にしないでください。人間服を脱げば皆裸。どちらが普通でどちらか異常かなどその時々で変わります。アリスさんはなぜ服を着ているのですか?」
ソーニャは聞いた。
「そ、そう言われれば。何で私は服を着ているんだろ。二人とも裸なのに。私の方がおかしいの? 私、脱がなきゃ?」
「おかしくない。脱がなくて良い。それより何か服をくれないか? 寒くて」
リュートは言った。

          

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