聖剣が扱えないと魔界に追放されし者、暗黒騎士となりやがて最強の魔王になる

つくも

第8話

「……嘘。ラグナが」
黒の魔王城でリリスはその報告を受けた。リリスは作戦には参加していなかった。
兵士の一人から報告を受ける。
「本当です。恐らくは蒼の魔王国からの攻撃を受けたラグナ大隊長は敵聖騎士と姿を消しました」
「……嘘。嘘。嘘」
現実を受け止めきれないリリスは壊れた機械のよう呟く。
「今はまだ現実を受け止めきれない気持ちはわかります。皆同じです」
兵士は言ってその場を去った。
優しく抱き留めるべき相手はこの世を去った。自分にでき事など何一つとしてない。それが彼にはわかっていた。

宿舎に戻ったアリスは泣き崩れた。
「う、嘘だよね……リュート君。嘘」
戦場であの輝きを見ていたアリスはそれでも尚、リュートの死を信じ切れなかった。
宿舎のベッドに蹲り、ひたすらに現実を否定し続けていた。
「せ、せっかく。せっかくリュート君と恋人になれたと思ったのに」
これが現実なのか。現実はかくも残酷なのか。
アリスはその残酷な現実を受け止めきれずにいた。

両軍にとってもショックは大きいようだ。多くの兵士を失ったが、両軍にとってエース格といって良い二人の騎士の喪失はあまりに大きく、しばらく戦闘を行うのは困難だった。

蒼の魔王国。そこは竜気砲(ドラゴニックカノン)のコントローラーパネルであった。それは竜気砲(ドラゴニックカノン)の発射から数分から数十分程度が経過した時の事だった。
「いやぁ。素晴らしい! これは実に素晴らしい結果ですよ! ええ!」
「なんという事だ」
魔王ベルゼブブはそのあまりの破壊力に被害を受けたのが敵にもかかわらず、同情せざるを得なかった。それに加え、この横槍は両勢力の反感を買わざるを得ないだろう。両勢力を敵に回す事は防げそうにもなかった。もはや止めようもないのだ。この流れは。
「……いやー。しかしおかしいですね。竜気砲(ドラゴニックカノン)は山をも砕く威力を持っているのに、着弾ポイントで消失しているではないですか」
「え?」
ハイド博士は怪訝そうに言った。
「これはなぜでしょうかねぇ」
「何かあったのですか?」
「さあ、私にもわかりまかねます」
ハイド博士は言った。

それは竜気砲(ドラゴニックカノン)が着弾する直前の事だった。
「うああああああああああああああああああああああああああああ!」
リュートは叫んだ。これは悲鳴ではない。咄嗟に避けられないと判断したリュートが騎士として本能的に聖剣の力を全開にしたのである。
白き聖なる気を全開にし、突如襲いかかってきた竜気砲(ドラゴニックカノン)に抵抗しようとしたのだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ラグナも同じだった。叫ぶ。同じように黒き魔剣の気を全開にして、竜気砲(ドラゴニックカノン)に抵抗する。
双子らしく息の合った行動だった。
強烈なエネルギーとエネルギーの衝突は突如時空の狭間に断裂を齎す。
切れ目が出来た。二人はそこに吸い込まれていく。
それは地獄への入り口だった。

「……兄さん、兄さん」
「ううっ……」
リュートの声でラグナは目を覚ます。
「……ここは」
目を覚ました時。目の前には真っ暗な空間が広がっていた。
「ここは、どこだ」
その時だった。魔剣及び聖剣が変化をする。それはあの時と同じである。二度目の登場だった。魔剣及び聖剣がエネルギーがなくなった時にする姿だった。
突如、褐色の美女と金髪で色白の美女が現れる。
「お前達は……」
「久しぶりだな。実に久方ぶりの登場」
そう、クーニャは言う。魔剣カラドボルグの精霊だった。
「君は」
「お久しぶりです。リュート様」
そう言って姿を現したのはソーニャは言う。聖剣デュランダルの精霊である。
「お、お前はソーニャ」
「そういう、あなたはクーニャ」
クーニャとソーニャはお互いをみとめ驚いていた。
「二人とも、知り合いなのか?」
ラグナは聞いた。
「はい。知り合いも何も。私たちは姉妹です」
「神話の時代。魔族や人間が生まれるよりも前に神々により作られたのが私達、聖剣デュランダルと魔剣カラドボルグです」
「……はぁ。そうなのか」
姉妹の剣を兄弟で使役しているのか。なんというか運命めいたものを感じる。
「それでここはどこだ? 俺達は死んだのか?」
ラグナは聞く。
「いや。そうではないだろう。ここは恐らくは地獄だ」
「地獄?」
「地獄。冥界とも言いますね。死んだというよりも迷い込んだというのが正解でしょう。猛烈なエネルギーの衝突で時空に歪みが生じたのです。その歪みに私たちは迷い込んだのです」
「そうか……」
なんだかわからないままここまできてしまい、理解が及ばなかった。最後の衝突、あのエネルギー体は一体何だったのだろうか。
蒼の魔王国に囚われていた竜人の姫と関係があったのだろうか。
「ソーニャ。僕たちは元の世界に戻れるの?」
「わかりません。ここは冥界です。冥王ハーデスに聞いてみない事には」
「そうか。冥王ハーデスに会ってみるしかないか。一体どこにいるんだろう」
「冥界はいくつもの層に分かれているんです。その層を下にいってみるより他にありません。最下層に冥界の王ハーデスがいるはずです」
「そうだね。とにかくここに居てもしょうがない。下へ向かってみよう」
「はい」
ソーニャは答えた。
「…………」
ラグナは押し黙る。
「どうした?」
「いや、何でもない」
出来るだけ触れないようにしてきた話題ではあるが、二人は全裸であった。若い美女二人が全裸である。歩く度にぷるぷると乳を揺らしている。男の本能として思わず目で追ってしまう。恋人がいる以上、そういった行動は浮気となるのか。いや、しかしその他全ての女性に欲情しないというのも無理があるだろう。
「もしかして私たちが裸という事を気にしているんでしょうか?」
ソーニャは聞いた。
「そうだとしても……服を着てくれという注文は無理だろう」
ラグナとリュートは二人とも甲冑を着ている。手ぶらだ。戦闘中に突然冥界(地獄)まで飛ばされたのである。
「ええ。服がない以上仕方ありません」
「そうだ」
「気にしないでください。人間も服を脱げば皆裸ですから。皆一緒です」
ソーニャは言う。服を脱げば皆裸。当たり前のようだが名言のように感じる。
いっその事男の俺達も裸になれば同じではないか。
いやわざわざ裸になる意味などないだろう。ヌーディスト(全裸主義者)でもあるまい。
気にしていても仕方がない。
四人は冥王ハーデスに会いに行った。

          

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