聖剣が扱えないと魔界に追放されし者、暗黒騎士となりやがて最強の魔王になる

つくも

第3話

そして、入学から一ヶ月の時が経つ。新入生歓迎の交流戦が行われる日取りになった。
戦場となるのは魔王学院から北方にいった森だった。ここら辺一帯は学院の所有地である。 森は視界が不良であり、また身を隠す上で便利になる。円形闘技場(コロセウム)より、より実戦的なフィールドマップであると言えよう。
交流戦が始まるより前にリーダーであるラグナは作戦及び諸々の連絡事項を伝える。
「まずルールの説明をしよう。リーダーを戦闘不能にした方の勝ちだ。ここら辺はチェスやなんやらと変わりはない」
ラグナは説明する。キングを取った方の勝ちだ。
「だが当然のようにキングは前に出てこないし、敵も取らせないようにしようとする。ロイヤルガードがクイーンのようなものだ。キングを守護する。守衛の要。及び後衛に魔術師(キャスター)が一人。前衛(フロント)二人。これが五人の場合のオーソドックスな編成だ。その役割は以前説明した通りだ」
ロイヤル(リーダー)ラグナ。ロイヤルガード、ライネス。後衛(ディフェンダー)カレン 前衛(アタッカー)リリス及びアモン。という配役だった。
「敵の情報はロイヤルが生徒会長であるセラフィムだという事くらいだ。配役や人員についての情報は与えられていない。まあ、進軍して最初に当たるのが前衛(アタッカー)でやってるうちに大体の役割くらい把握できるだろう」
そう、ラグナは説明した。
「作戦は?」
「しばらく様子見だ。前衛を捨て駒に様子を見る。前衛はチェスでいうならポーンだ。取られるのも仕事のうちだ。適当に闘わせているうちに相手の陣形及び作戦を把握する」
「わかったわ。癪だけど」
リリスは言った。
「それでは各自位置につけ」
前衛の二人は前に向かって歩き始める。ロイヤル及びロイヤルガード及び後衛の三人はあまり動かない。動く必要がない。
しばらく時間が経過する。
「それでは定刻になりましたので交流戦を始めます。よーいドン!」
拡声器のようなもので少女の声が拡散される。場違いな程脳天気なスタートの合図だった。 銃声のようなものが鳴らされる。空薬莢の銃か何かだろう。
こうして交流戦が始まった。

「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
ラグナ軍(レギオン)その前衛に対して、木々による死角を利用して、一人の剣士が襲いかかってきた。
前衛二人に対して、相手も前衛二人。単純な接近攻撃タイプ。ただ一人が大剣の使い手である事に対して、もう一人が投擲鎌とでもいうのか、投擲できるタイプも鎌であり、リーチの長い暗器のような武器をしていた。三年生の男子生徒二人だ。
リーチの異なる前衛二人にリリスとアモンは苦戦しているようだ。森という地形特性も不慣れであるならば尚更の苦戦の材料になる。

ラグナはその様子をゴーグルで観ていた。魔物イビルアイの視野を転移させるゴーグルだ。イビルアイはもっとも高い木の頂上に配置されている。故に平地で観るよりも視界は良好である。
「前衛二人が戦闘に入った。相手二人の方が手慣れている。苦戦は必須、というよりも負けるのは時間の問題だろうな。経験(キャリア)が違う。相手に自信があるのもうなずけるな」
より実戦に近い森という地形特性も新入生にとっては不利でも上級生にとっては慣れた地形でしかない。不利な要素にはなりえない。
「ふーん。それでどうするんだい? ラグナ君。いえ、なんというべきかな。ロイヤルというべきか」
「動くか」
「普通はロイヤル及びロイヤルガードは動かないのが定石じゃないのかい?」
「それは前衛が五分以上の場合だ。前衛二人を失って、3対5で攻め込まれるのが最悪だ。前衛が弱い方が先に動かざるを得ない。勿論相手はそれが読めている分こっちが不利になる」
「了解」
「勝機があるとすれば前衛二人が取られるより前の段階だろう」
イビルアイの広角な視野を頼りに前まで進む。恐らくはその行動は相手にも筒抜けだろう。使っている装備は実際の戦場ならよく使われる程度の装備であるし。特別入手に手間取るわけではない。

三年生軍ロイヤル、セラフィムもまた広角化ゴーグルを身につけていた。その視野の広さにより、敵軍の動きはすぐに知る事ができた。
「一年生軍(レギオン)が動き出した」
ロイヤル及びロイヤルガード、後衛の魔術師(キャスター)は皆、三年生の女子だった。ロイヤルガードは副生徒会長である。銀髪をした男性的な魅力のある少女だ。
「いかがしますか? セラフィム様」
「魔術式を展開させろ」
「はい」
後衛役魔術師(キャスター)は魔術式を展開させる。基本的に魔術は発動まで時間のかかるもの程威力が上がり、または効果範囲が広くなり大規模なものになる。その点、消費MPも増えるが。基本的には発動時間の長さと威力は正比例する関係にあると考えればいい。
それは魔術行使の基本原則(セオリー)である。
「マジックレイン(魔力の雨)」
長い時間、とはいえ数分程度をかけて魔術式を描いた末に発動させた魔術はベーシックな魔術。マジックアロー(魔力の矢)の発展系呪文だった。
天高く打ち上げられた魔力の塊をまるで花火のように炸裂させる。その結果、大量のマジックアロー(魔力の矢)が雨のように降り注ぐ。
広範囲である為に避けるのは困難な呪文だった。

「来るぞ!」
ラグナは言った。後出しの相手に対して先出しのこっち(一年生軍)は当然のように不利になる。
カレンは魔術式を展開させた。だがその展開にかけられる時間はせいぜい数秒程度。相手は数分程度の時間を費やしている。槍の強度に対して盾の強度が著しく劣る。
「マジックシールド(魔力の盾)」
それは例えるならナイフの雨を傘で防ごうとしているような行為だった。脆弱な盾は気休め程度の意味合いにしかならない。
被弾は避けられなかった。
ラグナはダメージを差ほど負わなかったが、ライネスとカレンは被弾をした。些か以上のダメージは受けただろう。
「いやー。やられたね」
「悪い知らせがもうひとつある」
「なんだい? 大体予想がつくけど」
「前衛(アタッカー)の二人(リリスとアモン)がやられた」
「あちゃー。それはあまり聞きたくなかったね」
時間が立てば自軍に加勢に来るだろう。そうなれば相手は数的優位を得る事になり、自軍は数的不利を被る事となる。要するに時間が立てば不利になるわけだから、撤退して耐性を整える事などできない。
「どうする?」
「突っ込んでロイヤル(大将)を取る」
「そうなるよね」
前衛二人を失い、そしてロイヤルガード及び後衛魔術師(カードキャスター)は被ダメージを負った上で無謀な特攻をせざるを得ない状況になった。
チェスで言うならチェックメイトというところだった。
こうして交流戦は最終局面を迎える事となる。

手負いの後衛魔術師(ガードキャスター)、カレン・ローズベルト。HPは三割減といったところか。ロイヤルガードのライネスも同様である。
この二人はそれぞれ同じクラスを相手にする事になる。
「僕の相手は副生徒会長だね」
ライネスは言った。銀髪の麗人。確か名はロベリア・テスタロッサと言ったか。
「俺が生徒会長を相手にする」
目の前にいるのは気品があるが、そうであるが故に高圧的な印象を受ける少女だ。恐らくは高貴な家柄なのだろう。彼女もまた貴族の家系らしい。魔王直属の七大悪魔。七つの大罪を両親として持つものの一人。
「貴様が件の人間か」
「ん? 人間だが何だ?」
「人間ごとに遅れを取るとは、他の魔族共よ。恥を知れ」
セラフィスはそう言う。憤っている様子だ。
「相手の実力も知らないのに他の魔族を卑下する事はないんじゃないか」
「そうだな。その通りだ。だったら実力で貴様をねじ伏せ、その上で我々上級生の威厳を見せつけてやろうじゃないか」
セラフィスは笑みを浮かべた。

ライネスは剣隙を奏でた。体力がフルの状態で五分、といったところか。切り札を発動すれば戦況を何とかできるかもしれないが、何もそこまでする事もない。交流戦である以上、出し惜しみよりも出し切る事を恐れるべきだ。
ロザリアの剣は自身に肉薄したものがある。つまりはこのままいけば押し切られる事だろう。それはカレンにも同じ事が言えた。同程度以上の魔術師(キャスター)を相手にして、敗北を喫するのは時間の問題だろう。先制攻撃でHPが削られたのが痛いところだった。
時間が立てば援軍も到達するだろう。援軍とは勿論、前衛(アタッカー)二人の事だ。時間の経過がどちらに有利するかは明白だった。
つまりはもはやロイヤル(大将)にロイヤル(大将)を討ち取って貰う以外に勝機はあり得ないのだ。
(頼んだよ、ラグナ君)
ライネスはもはやロイヤル頼みだった。神に祈るようだ。ただただ今は目の前の相手を相手にするだけだった。

「選ばせてやる。魔術戦と剣術戦。どちらが得意だ?」
セラフィムは言った。
「選ばせてくれるのか。時間を稼げば三年軍(レギオン)に有利なのは明白だろう」
「最善の選択肢を選ばせた上で叩き潰すのが上級生の務めだろう」
余裕か。負けるはずがないという絶対的な自身。
「剣術戦だ」
選択は当然のように剣術戦だった。魔術戦は通常の場合時間がかかる。魔術式の展開に時間がかかるし、遠距離からぷちぷち撃ち合うような展開になる。実際はぷちぷちなんて可愛らしい表現ではないが。遠距離だと命中率が低くなるし、致命傷を与え辛くなる。故にラグナは当然のように至近距離で闘う事になる剣術戦を選んだ。
「そうか。わかった。いでよ。ダーインスレイブ」
異界より将来された剣は真っ赤な剣だった。その剣はレーヴァテインのような炎の赤さではなかった。血の赤さだ。その魔剣は相手の血を求める魔剣である。数多の血を吸った結果、本来の鋼の色ではなく、真っ赤な血の色に染まったのである。
「吸血剣ダーインスレイブ」
ダーインスレイブは血を吸う魔剣であり、与えたダメージの何割か、それほど大きな割合ではないがHP回復をするスキルを持った魔剣である。
「こい。魔剣カラドボルグ」
ラグナもまた異界より魔剣を引き抜く。
「ほう。魔剣カラドボルグか。その剣を引き抜きしものは魔王になりし宿命を背負うという。まさか人間を選ぶとはな」
セラフィムは言った。
「人間、人間うるさいな。そんな事関係ないだろうが。強いか、弱いか、戦場(いくさば)にそれ以外の価値観を持ち込むな」
「それもそうだな。参る」
魔剣と魔剣がぶつかり合い、けたたましいまでの音を奏でた。

「「はぁ……」」
木に寄り添うようにしてリリスとアモンはうなだれた。敗北はしたが、この戦闘は実際の戦争ではない。模擬戦である。故にある程度のダメージを負った場合、心配によるTKO(テクニカルノックアウト)とされ、戦闘が止められる。通常は。
TKOされた選手はそれ以降の戦闘行為を禁じられる。
「負けた」
「ああ……」
「大丈夫かしら。あいつら」
「わからん。だがもはや俺達に出来る事はない。祈るだけだ」
「そうね」
その時だった。激しい衝突音が聞こえてくる。爆発音も。
「なに、この衝撃」
「おそらくは魔剣と魔剣の衝突だろう」
終局は近い。どちらの勝利になるか、敗北になるかは知れないが。
「一応、向かいましょうか」
「ああ」
戦闘は禁じられているが、別に移動は禁じられていない。様子を見に行く程度は構わないだろう。

「ちっ」
ダーインスレイブにはHP吸収効果がある。そうであるが故にダメージを与えさせるのは得策ではなかった。
「ふっ。どうした? 口ほどにもないな」
微笑を浮かべる。
その時。どくん、という心臓の鼓動が強く打った気がした。世界が制止をする。
『まったく、ガキのチャンバラなど下らぬ』
魔剣カラドボルグがラグナに語りかけてきた。
「なんだ?」
『その程度の相手に苦戦する道理などない。なぜなら我に選ばれし者は魔王となる運命にあるのだからな』
「何を言ってるんだ?」
『血を吸う魔剣などそこら辺の蚊蜻蛉(かとんぼ)と変わりがないではないか』
「勝てるっていうのか? あいつに?」
『蚊蜻蛉を相手に勝つとか負けるという次元は笑止に値する。蚊蜻蛉を相手にした時、普通の人間ならどうする? 潰すと相場が決まっている』
止まっていた時間が動き出した。
「どうした? さっきから避けてばかりで」
「魔剣カラドボルグ。その魔力(ちから)を示せ」
「なんだ?」
無尽蔵の闇の魔力が身体を覆い始める。鎧のように。しかし、それは鎧のように重くなく、どちらかというと剣を振るう筋肉に対して補助をしているかのようだった。
「降参しろ。今なら命の保証ができる」
「な。何を言っているんだ、貴様。脅し(ブラフ)もいい加減にしろ」
「……わかった。もう保証はできないからな」
溢れるばかりの魔力の力は天高くまで昇った。
「くっ……」
その魔力の奔流を感じただけで、セラフィスは蛇に睨まれた蛙のようになった。
「暗黒魔剣(ダークエクスカリバー)」
桁外れな魔力の振り下ろし。それは死が振ってくるようなものだ。一撃を持って生命活動を停止さらしめれば、そもそもの話、攻撃による回復など意味をなさなくなるのは自明の理である。
暗黒の魔力が倒れた搭のようになだれ込んでくる。恐怖のあまりセラフィスは動けない。
「お、お姉ちゃん!」
妹であるカレンが決死の覚悟でセラフィスを押し倒した。
倒れるように流れてきた魔力の塊。それは直進距離にして1メートルあまりの木々をなぎ倒し、消失させていった。
「ああっ……ああ」
カレンが押し倒さなければどうなっていたかは明白だった。
「……私の負けだ」
セラフィスは敗北を認めた。敵であるはずの妹、カレンに助けられていてはもはやどちらが優勢かを認めざるを得なかった。
「はい。それでは交流戦は一年生軍(レギオン)の勝利です。おめでとうございます」
実況のアナウンサーの声が聞こえてくる。
「それにしても」
困った風に続ける。
「森の地形が少しだけ変わっちゃいましたねー」
少しだけとは随分過小な表現だと大方の目撃者は感じていた。

現在の魔界の状況を語っておこう。現在の魔界は、紅、黒、蒼の魔王軍による三つ巴の状態が数百年と続けている。そのパワーバランスが取れている為に魔界は妙に秩序だっていた。ある意味平和だった。紅の魔王国、黒の魔王国、蒼の魔王国。この三つの国は戦争状態ではあるが、同時に停戦状態となっていた。攻め込む理由がないのである。今は平和と言えば平和な状態だった。
紅の魔王国・魔王ベリアル領土の事だった。魔王ベリアルの領土にも魔王学院は存在する。そして同じように蒼の魔王国にもまた存在する。
そこの生徒会長にいるのが魔王ベリアルの嫡男であるルシファーである。色白の美少年ではあるが、目に感情がない。何を考えているのか理解できなかった。
「ルシファー様」
副生徒会長の少女エキドナが言う。
「なんだ?」
「黒の魔王国サタン王の領土での事です。サタン魔王学院の交流戦で一年生が三年生に勝利したようです」
「……そうか。それがどうかしたか?」
下級生が上級戦を戦いの末に打ち負かす、それ自体は別にどうという事もない。
「いえ、それがその一年生の中核人物がどうやら人間のようで」
「人間……人間ね。あの愚かで劣等な人種か」
「侮るのはおやめになった方がよろしいかと存じます。ルシファー様。その人間、かなりの力を持っているようです」
「まあ、いいさ。いずれは力の差を知らしめる。魔王ベリアルの偉大な血を引きし、この僕の力をね」
ルシファーは笑った。
「魔王学院の対抗戦があるんだろ。そのうち」
「は、はい。そうです」
魔界は今のところ平和である。その為、学院間の対抗戦も存在する。その戦いは先ほどの一年生対三年生の戦いのように単純な1チーム対1チームの戦いにはならない。
「蒼の魔王学院の生徒会長は今はアスタロトがやっているんだよね?」
「はい。そうなります」
蒼の魔王学院生徒会長アスタロト。彼女は蒼の魔王ベルゼブブの娘である。黒、紅、蒼。三つの軍勢が入り乱れる戦闘はより複雑化し、戦略を多様化させる。闇雲に攻め出せば自軍1に対して2の軍勢で攻め込まれるという数的にも戦力的にも不利を被(こうむ)る事になるからだ。
「くっはっはっはっはっは! 楽しみだよ! 今度の対抗戦が! そんな学内でのお遊びごっこでは終わらせない! 本当の戦いって奴をみせてやるよ!」
何となくではあるが、ルシファーは予測していた。この生ぬるい状況はいずれ崩れる。力の崩壊が起こった場合、血なまぐさい戦争が始まると。
その予行演習として、対抗戦が行われるのは彼にとっては悪い事ではなかった。

優れた魔剣。さらには伝説級の聖剣、魔剣となると時と場合によってはとんでもない力を発揮する。それは単純に力が強い、とかよく斬れる、とかそういう次元の問題ではなく、異次元の能力を発揮する事がある。
これは、そんな魔剣、聖剣に伝わるもうひとつの話である。

人間界での事。リュート・デュランダルもまた、人間界で聖剣デュランダルを使役していた。
「たあああああああああああああああああああ!」
勇者学院の三年生との交流試合での事。
倒れた一年生四人を差し置いて、五人もの猛者を倒したのである。
「……すっごい! 流石剣聖の息子さんね!」
ギャラリーの女子がざわめく。その中にアリスの姿もあった。ただ彼女の場合、羨望の数が多い為、些か不安そうには見ていた。遠くにいってしまいそうで、自分には手が届かない存在になりそうで、それを恐れていた。
「ははっ。やられたよ。これじゃ、上級生も形無しだな」
三年生が敗北を認めた。
「い、いえ。そんな事はありません。勉強になりました。手ほどきありがとうございました」
「ちっ。強い上に礼儀正しいんじゃこちらとしてもケチの付け所がないね」
「ははっ……そんな事は」
リュートは苦笑をしていた。
しかし、聖剣も力を使いすぎてしまった。このままでは何かよりもどしがあるかもしれない、という事をリュートは不安視していた。

寝起きは最悪だった。流石に交流戦で疲れた。魔力の放出量が異常な程高まった為、疲労困憊になった。だから帰宅後は泥のように眠る羽目になる。
「すー、すー、すー、すー」
なんだ。何か、柔らかい感触が走っていた。寝息が聞こえてくる。
「ラグナくーん! おーい! やっほー!」
「……なんだ? 朝から騒々しい」
交流戦の翌日は休みになっていたはずだ。だからいつまでも寝てても文句を言われる筋合いはない。ライネスの声が聞こえてくる。
「なんだよ……うるさいな。寝かせろ」
渋々、ラグナは起きた。
すると、横には見知らぬ褐色の美少女が寝ていた。それも全裸で。辛うじて手で隠れてはいるが、当然のようにその豊満な乳とか、艶めかしい尻とかは出っぱなしだ。
「いやー。ラグナ君。別に僕は校則とか風紀とかにそんなにうるさいタイプではないんだけど。それでも流石に女の子を男子寮に連れ込むのはいくら何でもやりすぎではないだろうか?」
ライネスはそう言う。
「な、なんでそうなるんだ。わからん。俺は一切この状況この状況が飲み込めていない」
ラグナは軽いパニックになった。
ともかく。当人から話を聞かざるを得ないようだった。起こす。
「うーん。眠い」
「だ、誰だ? お前は?」
「うーん。眠いと言っておろう」
目をこすりながら目を覚ます、少女。
「説明しろ! どうして俺の隣で寝ている! お前は誰だ!」
「そう急かすでない。順を追って説明しよう。私は魔剣の精霊だ。名をクーニャと言う」
「魔剣の精霊?」
「そうだ。そなたは先日魔剣の持っているエネルギーを大量に放出したであろう。それを補うべく、実体として現れたのは私というわけだ。その放出したエネルギーを回収する必要があるのだ」
魔剣の精霊クーニャはそう言った。
「その回収の方法はどうやるんだ?」
「食って遊ぶ事じゃ」
「はぁ」
「それからセッ〇スも有効じゃ」
「ぶっ!」
ラグナは吹いた。
「それでは遊びにいこうぞ。主よ」
「ま、待て。その格好はまずい」
「なぜじゃ?」
全裸で歩かれるのはあまりに倫理的にまずい。
「ともかく裸はまずいんだ。頼む。どうする、ライネス」
「リリス姫に連絡をしよう」
ライネスは携帯電話を取り出す。魔界でも今はこういう便利な通信機器が普通にあるのだ。
「頼む。リリス服を貸してくれ、それと下着も」
酷く動揺しているラグナは前置きを一切なく、ただただ必要な要求を率直に伝えてきた。
「あんた、変態になったの? それとも変態だったの?」
かなりドン引きしている様子でリリスは言ってきた。
「何に使うのよ? 自分で着るの? それともあたしがこういう下着つけてるんだ、とか匂いを嗅いで興奮するの?」
「違うんだ。えーと、俺の隣に裸の女がいてだな。そいつに服が必要で」
「変態度が余計に増してるんだけど。男子寮に女の子連れ込んだんだ。へー」
軽蔑の目が余計に強くなる。
「けど、元々着てた服があるはずでしょ。貸す理由にはならなくない?」
「違うんだ。その女の子は自然と現れたんだ。服を着ずに。ともかくいいから服を貸してくれ」
かなり説明下手だが、何とか服を借りる事に成功する。

その頃、人間界でも聖剣デュランダルを使役しているリュートの前に謎の美少女、要するに聖剣の精霊が姿を現していた。金髪碧眼で色白の美女。名をソーニャと言う。彼女もまた、聖剣の力を使いすぎた場合の回収機能として人間として実体化するという事を伝えられる。
四苦八苦したリュートもまた、何とか女子生徒から服を借りる事に成功した。女子からの好感度の高いリュートだ。かなり訝しまれたが誠実に頼めば何とか借りる事に成功した。
そして出歩きたいといソーニャの希望を叶える事になる。
しかしその時、最悪のタイミングで一人の女子と出くわした。
アリスである。
腕を組んで一人の女性と街中を歩いているところを見られた。
「えっ……あっ、その」
「リュート君……」
アリスだった。アリスとリュートは勿論、付き合ってはいない。恋人関係にはない。故にこの状況を責められる謂われは一切ない。だがリュートは明確な好意をアリスに抱いていた
そうであるが故にこの状況は非情にまずい。
「そちらの方は、リュート君の恋人?」
アリスは聞いてきた。
「ち、違うんだ。この人は」
何と説明したらいいのか。正直に説明するのは憚られた。飛び抜けていて妄言になりかねない。
「ソーニャと申します。リュートは私のご主人様でとっても可愛がって貰っています」
笑顔を持ってソーニャはそう伝える。間違ってはいない。全くもって正しい。だが、正しいが故にこの状況にはそぐわない。間違っていた。
「ご、ご主人様……リュート君って、そういう人だったんだ」
何となく、性的な意味でご主人様と受け取ったのだろう。アリスは少し引き気味だった。
そういうプレイをしていると思われている。
「い、いや。そうじゃない。合ってるんだけどそうじゃないんだ」
リュートはそう説明する。

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