鬼成少女

ちぃ。

第六話 出発

爽やかな風が千影の頬を撫ぜていく。薄らと瞼を開けると、木漏れ日がきらきらと降り注いでいる。

「やっと目ぇ覚ましたか。えらい長い間寝とったなぁ」

まだ頭の中に霞がかかったようにぼやぁっとしている千影を覗き込む様にしながら、酒呑が声を掛けてきた。
酒呑の顔を間近に見て、一気に目が覚めた千影が勢いよく起き上がる。額と額がぶつかる音と二人の悲鳴が辺りに響き渡った。

「あいたたた……」

「何しとるんや!! 急に起き上がる奴がおるかいな……」

額を抑えながら千影を睨みつける酒呑に、ぺこぺこと頭を下げている千影。二人の額が赤くなっている。

「まぁ、ええわ。ほな、今から主をわしん根城に連れていくさかい、ちょいと一言言うとくで」

「はい」

そう言うと酒呑は、改めて千影の前に座りなおし先程の瓢箪に口につけぐびりと中の液体を流し込んだ。酒の匂いがしてくる。そして、口を拭った酒呑がぐいっと千影へと顔を近づけてきた。

「わしらは主の知ってる通り鬼や。あんたら人間達から嫌われてる鬼や。そやさかいあんたの父もわしを斬りにきた。まぁ、そらええさ、はるか昔からようある事やさかい」

「……」

「あんたら人間がわしら鬼を忌み嫌う様に、わしら鬼ん中にも人間を嫌う憎む鬼もおる。鬼にも親兄弟はおるんや。その親兄弟を人間に殺された鬼の子らや」

「……」

「千影、あんたが今から行くとこは、そないなとこやで。生半可な覚悟ではあかんえ。ほんでうちはあんたの全てを庇うつもりはあらへん」

「はい」

真剣な眼差しで酒呑の目を真っ直ぐに見つめる千影に、ふふんっと笑って見つめ返す酒呑はまた瓢箪に口をつけて酒を飲んだ。

「あんたの父の話しを少ししたろうか。いや、父と母やな。あんたの父と母とは、まぁ切っても切れへん関係やったんやで」

「あたしの両親と?」

「そや。あんた、両親から妖魔の事を聞いた事はあるか」

「うんにゃ……姉ちゃんは鬼丸家ん跡継ぎとして良う両親から呼ばれ何やら話しばしとったが、あたしは跡継ぎでもなんでんなかけん、剣ん修行はつけて貰うとったが……」

酒呑の問いに首を横に振りながら答える千影は、どこか寂しそうにも見えた。

「まぁ、四家は跡継ぎ以外には冷たいところがあるさかいな。長女になんかあらへん限り、長女の護衛か身代わりとなるだけや。妖魔の話しを聞いてへんのもしゃあないな」

「四家……?」

「なんや、それも知らへんのか?……しゃあないな。まぁ、まずは妖魔の事から教えるさかい。妖魔言うのんはな、強い思いや恨みの類を残して死んでしもうた人間の魂が、あの世に行けんとこの世に残って人を襲うようになった者達の事やで」

「幽霊?」

「ちゃうで、幽霊とは別物や。妖魔は人を襲うてその魂を食べる。魂を食べた妖魔はさらに強うおっきな妖魔となる。人だけちゃうか……私ら鬼や妖怪の類い……否、妖魔同士喰らう事もある。まぁ、一番喰われとるのんはやっぱし人間やけどなぁ」

「……」

「人間一番弱いさかいね、喰われて当然や。やけど、そないなの許せる訳はあらへんし、黙っとける程人間は阿呆ちゃう」

少し風が強くなってきた。淵の近くと言うこともあり、風がひんやりとしている。冷えたのか酒呑がぶるりと身震いをした。

「なんか冷えてきたなぁ。ここで長話しをするのもなんやさかい、続きはうちん根城に帰ってからしよか?」

酒呑はそう言うと千影を促し立ち上がる。

「今から鬼の住処へ行くさかい緊張するのも分かる、けどな、ここまで来たらあとは千影次第やで。あんたが強なりたいちゅうその気持ち次第や。生半可な気持ちちゃう事を分かって貰う、ほんなら自然と鬼らもあんたを認めるさ」

千影は酒呑の言葉に黙って頷いた。それを確認した酒呑はにやりと笑うと、さぁ行こかと千影の肩をぽんっと叩き、山の奥へと歩き始めた。

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