鬼成少女

ちぃ。

第一話 仇

「どないな気分や?姉妹二人揃うて親の仇も討てな死にゆく気持ちは?」

ぬらりと光る女の唇の端がきゅっと上がる。その冷たく、見るものを凍てつかせる様な瞳が倒れている兄妹へと向けられていた。ゆっくりとした足取りで倒れている二人へと近付く女。長い黒髪が風に吹かれ、さらりと靡いている。

「どれ程の腕前か思えば……これではあんたらの父親の方が歯応えかあった言うもんや。まぁええ。あんたらの様な親の仇じゃ何じゃ言うてくる輩も後を絶たへんさかいな……」

そう言うと女は倒れている妹の襟首を掴むと片手でむんずと持ち上げた。妹は年の頃十二歳位、片手で持ち上げられる程に軽い訳では無いのだ。しかし、女の見た目は普通のどこにでもいるような女性と同じ体格である。そのどこにその様な力が秘められているのか。

「かいらしい顔をしいやおる……ほんに殺すのが惜しゅうなる」

妹へ顔を近付けにたぁっと女は笑うと、ゆさゆさと妹を揺さぶり始めた。すると、揺さぶられ気がついたのか、妹の目が薄らと開くのが分かった。しかし、妹は自分の置かれた状況を把握するのに時間を要している様子である。

「ほうほう……なんが起こっとるんか分かっとらん様やなぁ」

さらに妹を数度揺さぶる女。妹は自分が女から襟首を捕まえられ持ち上げられている事にやっと気がついた様であった。

「離してっ!!」

女に持ち上げられたまま暴れる妹の様子を、女は楽しそうに見てけらけらと笑っている。

「嫌じゃ」

さらに高く上げる女に何とか一矢報いてやろうと妹が不安定な格好で蹴りを繰り出す。しかし、そんな蹴りなんて当たっても痛くもなんともない。逆にそんな体勢で蹴りを繰り出した事により余計にぶらんぶらんと揺れてしまっていた。

「何しとるんや……腕もそうやが、おつむの中身も鍛えなおさなあかんようやなぁ」

「殺すなら、早う殺せっ!!父ば殺したごつあたしも殺せば良かやろうっ!!」

「……?何を勘違いしとるんや。確かにあんたらの父とはやりおうたがの、わしは殺してなんかいーひん。あんたらの父の仇は別の奴やで。わしちゃう。」

その言葉に、驚いたような顔をして女を見ている妹。一瞬、呆けた様な表情をしたが、すぐに眉間に皺を寄せて女を睨みつけた。そんな言葉に騙されないぞと言わんばかりの表情であった。

「信じるも信じんも主しだいじゃしな。まぁ、わしとやった後遺症が主ら父の死ぬる原因やったのは確かや。せやけどな、あんたらの父親死んだほんまの原因はなんか分かるか?」

「……」

「弱いからや……あんたらの父親はな、弱いさかい死んだんや。強ければ死なへん、殺されへん。死にとうなければ、誰よりも強なる事や。強なるだけではあかん。強う、ほんで非情になる事や。強うしても優しすぎりゃぁ、その隙ぃ狙われ殺される。そないな奴らを嫌ちゅう程わしは見てきたさかいな。へっへっへっ」

掴んでいた妹をぽぅんと投げ捨てるように離した女は、すぐ側にある大きな石の上へと腰を下ろした。そして、偉そうに足を組み、その足の上に頬杖をつき、妹のほうをにやにやとにやけながら見ている。

「……あたは父ん仇ば知っとっと?」

「知ってんでぇ……知っとるもなんも、あんたもよう知っとる奴やで?」

「……あたしも良う知っとる人?」

「そや、よう知っとるどころやないで?」

「誰ね!! 教えてくれん!!」

縋りつかんばかりに訴えてくる妹にではなく、女の視線はその先に向けられている。先程までにやけていた表情ではなく、その目は冷たく光っている。妹は女の視線に気づき目でおった。視線の先には倒れていたはずの姉の姿がなかった。妹を庇い深い傷を負って気を失っていたはずの姉がいないのである。

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