ホワイトクリスマス

七星奈星

第1話

朝起きると外では10年ぶりに雪が降っていた

それもクリスマスの日に

こんな奇跡的な日に僕の特別な日が重なることを少し嬉しく思った。

僕が家を出る頃には雪は止んでいた

それでも夜通し振り続けていたから雪は
かなり積もっていた

僕はコートも手袋も身につけず
かなり薄着で外に出た

それから目的地である公園に着く

この公園はディズニーランドと同じ大きさだと言われていて

園内には図書館も設置されている。

その図書館の裏、ほとんど誰も足を踏み入れることの無い場所、

ここで僕は今日を終える。

まだ誰の足跡もついていない雪の絨毯、

僕は背中から後ろに倒れる

柔らかい雪に僕の体が沈んでいく。

薄着で来たせいか、柔らかかった雪が
体に刺さっているかのような痛みを感じる。

顔では特に敏感に…

高校生にもなって将来の夢ややりたいことも見つけることが出来ず、

優しさも情熱もない"乾いた人間"……

クラスのみんなは僕をそう呼ぶ

とても息がしづらい。

だから今日、全てを終わらせようと思った。

覚悟は決めてきたはずなのに、
徐々に体温を奪われ、
命の灯が消えていくことに恐怖を感じていた。

そのせいか力強く目を閉じていた。

目を閉じるのに疲れてゆっくり力を抜いて、
それから初めて空を見た。

雪に飛び込んでから初めて。

太陽が高く昇っている

こんなに照りつけて雪が溶けてしまわないだろうか

今日を特別な日にすることは無理なんだろう、
なんだかそんな気がしてきた

あの覚悟も必要なかったんだ……

そんなことを思いながら

空を仰いでただ呆然としていた

それでも命の灯が小さくなっている気がした

照りつける太陽と僕の間に耳あてをした女の子が入ってきた。

あっ………

クラスメイトの倉島 美月、

呆気に取られ次に夢だと錯覚した。

こんなことあるはずがない。

だって僕の好きな人が目の前に現れたのだから

どうしてこんな所に?

僕が尋ねる前に、彼女の口が開く。

「こんな所で何してるの?」

僕は死のうと思ってたなんて言える訳もなく、

「まだ誰も雪の上を歩いてなかったから飛び込みたくなったんだ…」

まあ、嘘じゃないよな。
好きな人に嘘はつきたくないし。

それから彼女は笑いながら

「乾いた人間のくせに…
子供っぽいところもあるんだね。」

他の人にこんなこと言われたら
僕は気を悪くしてしまうかもしれない、

でも、彼女から貰ったこの言葉は

凍えていた僕を一瞬で温めてくれた。

この世のどんなコートよりも暖かくて柔らかくて優しい彼女。

愛も情熱もない乾いた僕に彼女は
全てを注いでくれる。

彼女と結ばれたいだなんておこがましくて
思ってこれなかった僕が、
彼女に愛を伝えたい
それから彼女に愛されたいと

そんな情熱的な願いすら抱いてしまった。

僕は恋を求める低俗な一般高校生に
成り下がってしまったのかもしれない

認めたくない。

1人心の中で思いをめぐらせていると

彼女が手を差し伸べてくる、
「起きて。」

申し訳なさげに僕は彼女の手を握る。

僕が立ち上がってもまだ手は繋がれたまま

彼女の上目遣いに心がまた温かくなる。

それから彼女は急に心配そうな顔をする。

まさか死のうとしてたことがバレたのか…

「両手出して。」

言われた通り僕は両手のひらを上に向け彼女の前に差し出す。

バッグをあさりながら僕を見た彼女が
「甲だよ、手の甲。」

またまた言われた通り両手をひっくり返す。


「はい。」そう言ってハンドクリーム
を僕の両手の甲に出してくれた。

かじかんだ手で不振な動きをする僕の手を彼女が握る。

「しょうがないな、塗ってあげる。」

お言葉に甘え僕は手を大人しくさせる

彼女の小さくて白くて暖かい手が

僕の両手を潤していく。

「はい、できたよ。」

それから彼女は耳あてを外しそれで

僕の両耳を覆った。

僕の両耳を覆う耳あてを手で押えながら

彼女は口を動かした。

なんと言っているのか聞こえない

僕は耳あてを外そうと手を耳元へやる

彼女は首を振る。

大人しく手を下げると彼女はまた口を動かす。

俯きがちに口を動かす彼女を見て、

今度はなんと言ったのか分かった気がした。



僕の覚悟は無駄なんかじゃなかった。


          

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