チートクラスによる異世界攻略
三人目の挑戦者
忍は負けた。
俺の横を通り過ぎる前に「すまん」と声が聞こえた。
これで百花以外の戦闘系スキル保持者は全員が敗北した事になる。
後は後衛の支援系スキルを保有している人間だけだ。
「どうしました、これで終わりですか?」
国には俺達のスキルの事を、俺以外の全員が固有スキルを2つ以上持っていると伝えてある。
もし、これを意地でも言わなければ違う未来があったかもしれないな。
「吟、俺にやらせてくれ」
そう言ってくるのは忠人だ。
だが、忠人のスキルは【何でも入る箱】【便利さは小ささ】という如何にも近接戦闘型では無い物だ。
【便利さは小ささ】を当てれば可能性はあるかもしれないが、そもそも当てる為の技能が無い。
けれど忍も言っていた。仲間を信じる事も出来ない程俺達は弱くない。
「勝算は?」
「ある」
「なら文句なんてある訳無いだろ」
「じゃあもっと顔面考えろよ。めちゃくちゃ怖え顔してんぞ」
「あ、まじか」
「マジ。そんじゃあな」
忠人は歩いて行く。
どうやら俺は自分で思っていた以上に怒っているらしい。
誰に? 騎士に?
いいや、多分皆を巻き込んだ自分にだ。
「宣言するぜ。俺は負けない」
「それなら僕だって言わないとね。僕が勝つよ、【天之瞳】」
忠人の【何でも入る箱】は、どのスキルにも当てはまらない特殊な部分が存在している。
それは名称を呼ぶこと無くスキルを発動できるという能力だ。
異界に物を保存するというスキルなのだが、忠人は制服のポケットに常時その出入口を発現させるという方法で名称を叫ぶ工程を省いている。
忠人はポケットからグローブを取り出しそれを手にはめる。
「剣では無く拳で戦うつもりですか?」
「いやいや、流石にそこまで落胆的じゃないぜ」
そう言うと、どう考えてもポケットに収まりそうにない木刀を取り出した。
「収納系のスキルですか……」
「そうだ。恐れおののくといいぜ」
忠人は木刀を騎士に向けた。
「解除」
忠人の言葉を引き金に木刀が巨大化した。
だが騎士も甘くない、完全な不意打ちに反応した。
自らの剣を、伸びて来た剣に滑らせる形で攻撃を対処する。
「【便利さは小ささ】」
人が持てないような大きさに巨大化した木刀だったが、忠人がスキルを口にするとまた通常の大きさに戻る。
その剣を軽々と持っている事から忠人のスキルは質量さえも変化させる事ができるようだ。
「解除 【便利さは小ささ】 解除」
ポケットに手を突っ込んだまま、片手で巨大化縮小化を連続で交互に行い、高速の質量攻撃を実現している。
剣が大きすぎるあまり、突進する道が塞がれ騎士も攻めあぐねている。
ただ、そのまま手をこまねくようなら国のナンバー2は名乗れなかっただろう。
「燃ゆる心は熱と化す 《フレイム》」
重文詠唱。
レベル3の魔法だ。
木刀に向けた掌から放たれる灼熱は、当然の如く木刀を燃やしていく。
忠人は【便利さは小ささ】を使用して炎を消しに行くが、縮小した木刀は燃え続けていた。
そう言えば、いくらちゃんが言っていた気がする。
スキルは現象じゃ無くて、回答なんじゃないかって。
忠人のスキルは縮小、言葉通りに捉えるのならば当然対象に付属している炎も縮小される。
流石にそれを持ったままと言うのは常人には無理だろう。
忠人はすぐさま木刀を投げ捨てる。
手から攻撃手段が零れ落ちた。
騎士は突撃してくる、戦士の急加速に一般人が対応できるはずも無い。
やっとの思いでポケットから何かを取り出す。
「解除」
手に持っていた物体が拡張していく。
現れたのは大きな布。
それを騎士の方に放り投げた。
騎士はそれを、手に持つ木刀で薙ぎ払方と横に振るった。
だが、木刀は大きな音を立てて弾かれた。
「あれは【全てを護れる盾】か?」
一人納得するように呟くと、思わぬ返答が帰って来た。
「正解だよ。【全てを護れる盾】を糸羽ちゃんの【技は覚えさせる物】で僕が作った布に付与した物さ」
「なるほどな」
それ故の硬さか。
だがそれは布だ。
幾ら硬く出来ていても放り投げれば地面に落ちる。
落ちた布にもはや意味は無い。
足止めにしかならなかったようだ。
騎士は突進を辞めない。
だが、地面に落ちた布を踏んだ瞬間、騎士の動きが止まった。
「どうやら布と一緒に忍ちゃんの【超えられない境界線】を付与した何かを投げてたみたいだね」
【超えられない境界線】は感電の罠だったな。
それを踏んだ結果、動きが止まったわけだ。
だが、思ったよりもダメージが低いな。
糸羽のスキルは100%の性能で付与できる訳では無いのだろう。
感電から騎士が抜け出す頃にはかなりの距離を忠人は稼いでいた。
「僕たち後衛組はね、自分で戦う力が無いから少しでも皆に協力したいって想いをこう表明するしかないんだよね。
僕や糸羽ちゃんは知っている。
忠人は強いぜ?」
戦う力ね。
確か後衛組の皆は総じて魔力値と属性値が高かった気がするが、口を挟む気にはならないな。
「知ってるよ。あいつは強い」
俺はただ見守るだけだ。
コメント