チートクラスによる異世界攻略

水色の山葵

権利の条件



 静寂に包まれる教室。
 夕焼けに染まる空。
 着席した15名の少年少女。


 教卓に立つ空白の人マネキンは語る。


 英雄に選ばれし人類、小波さざなみ ぎんを異世界に召喚する。


 それを許さない声が14つ。
 静寂は破られ、連れて行くなら自分たちもと叫んだ。


 承諾した空白の人はその全員を別世界に送った。
 その覚悟が本物ならきっと、君達は救世主になれるだろう。






























 俺達は国王に謁見すると共に、忠人の案を嘘偽りなく話した。
 騎士の件で得た権利を行使すると言えば王は了承するしかなく、それに必要な物資の提供も行って貰える事になった。
 ただし、国王から二つの条件を付けられた。


「儂は世界の意思と君達を3ヶ月死なせないと契約している。だからもし押し切ると言うのならこの国に残った最高の騎士、この2人を倒せるだけの力を証明してからにして貰おう」


 摸擬戦は玉座でこのタイミングで行われている。
 相手は王直属の護衛と姫直属の護衛。


「私はこの国で最強の騎士です。貴方方が英雄であろうと、召喚されて間もない貴方方に負ける積りは毛頭ない!」


 キッパリ言い放つ騎士に俺達は威圧された。
 それに感銘を受けたのか、鉄が言った。


「皆、まずは俺にやらせてくれ」


 15vs2の有利を捨て、自分だけで戦うと鉄は言う。
 前から武人みたいな男だとは思っていたが、ここまでとは。
 だが、誰もそれに異を唱える事はしない。


 鉄が一歩前に出るのと同様に、他の皆が引いた。
 それに合わせて姫護衛の騎士も下がる。
 王護衛の騎士と鉄との1対1の戦いだ。


「参る!」


「勝負!」


 鉄が飛び出る。
 鉄の手には木片から作られた剣が握られている。
 スキル【剣になる物ソードメタモル】は全ての物質を思い描く剣の形に変形させる物だ。
 それを使えば、持っていた木片から木刀を作り出すことが出来る。
 当然、変形前と変形後で質量が変化しているのだが、原理は謎だ。


 振りかぶる木刀。
 騎士の方も摸擬戦用の木刀を一振り持っており、それを使って鉄の木刀を弾き飛ばした。
 たった一撃で敵の武器を奪い去る手並みは、最強の騎士と名乗るだけある。


 だが鉄の【剣になる物ソードメタモル】の前では武器を弾き飛ばしても無意味。
 すぐにポケットから変わりの木片を取り出し木刀を形成する。
 その隙を逃す事なく騎士は木刀を鉄に振り下ろすが、もう一つのスキルである【全てを護れる盾オールガード】を使用した鉄は青く輝く半透明な盾を出現させ、それを防御した。


 手に持った木刀を投げつけた鉄は一度後方に下がる。
 投げつけられた木刀は騎士によって叩き落された。


 静寂が支配する玉座。
 先に動いたのは騎士の方だった。


「貴方方が持つスキルは全て固有スキル。この世界の人間からすれば喉から手が出る程欲しい力です。ですがどんなに絶大な能力でも経験が無ければそれは子供が持つ刃物程度の代物でしかない!」


 横に一閃。
 振るわれる木刀を、かろうじて【全てを護れる盾オールガード】を発動させ防ぐ。


「貴方のスキルは自分を守る為だけの物では無い。貴方が守りたい物は自分だけですか!?」


「そんな訳はない。俺はこの能力を仲間を救う為に使う!」


「そう、それでいいのです。【瞬間加速】!」


 次撃も通常の一振りだった。
 鉄は当然それに合わせるように盾を張る。
 完璧にガード出来るタイミングだった、その剣が急激に加速するまでは。
 急激に加速した剣撃はその軌道を変化させ、一瞬ののち盾の無い箇所に移動した。


 その剣を首に受けた鉄そのまま気絶するしかない。


「鉄殿!」


 叫んだあと鳶が消えた。
 スキルを使って高速で鉄を運んでくる。


「治療を頼むでござる」


 鳶の言葉に答えたのは雅音だった。


「任せて【掻き消える傷ダメージデリート】」


 雅音が鉄の身体に触れると鉄が目覚めた。


「そうか。俺は負けたのか」


 自覚するように、自分に言うように鉄は言う。


「次は拙者がやるでござる」


 鳶のやる気は十分だ。
 だけど、それに異を唱える人物が一人。糸羽だ。


「もういいですから。危ない事はしないで下さい!」


 彼女は何時も優しい。
 彼女が本気で怒るのは決まって人の事を思っている時。だが、鳶にも譲れないものはある。


「それは聞けないでござる。拙者は糸羽殿のも百花殿のも涙を見ているでござる。それを許容する事は拙者には出来ないでござる」


 糸羽の言葉に反して鳶が止まる事は無かった。


「大丈夫よ糸羽ちゃん。鳶君を信じましょ」


 沙耶姉が宥めるも、糸羽は苦痛の表情を浮かべている。


「【空を飛びたいハイムーブ】……」


 鳶のそんな声が聞こえたと思った瞬間、鳶が騎士に向かって走り出し、そのまま姿が掻き消えた。
 次に鳶が現れたのは騎士を通り越している場面である。


「【一撃の極みクリティカルヒット】……」


 またもボソっとそんな声が聞こえた。
 鳶は騎士に手刀を決めようとしている。
 だが、騎士への攻撃の為必然的にブレーキをかけた鳶を待ってやるほど騎士も甘くなかった。


「【瞬間加速】」


 今度はそのスキルを回避に使用している。
 頭を狙っている手刀を避ける為に、首を捻り、腰を回し、足を動かす。


「それはさっき見たでござる【空を飛びたいハイムーブ】!」


 鳶は空ぶる事の確定した手刀を高速で空振り、そのまま一気に移動する。
 移動先はさっきとは反対側、左側の側面。
 騎士の回避地点を見極めそこを攻撃する。


「さっきの能力は連続使用できるでござるか!?」


「出来ません。ですが、詰めが甘い。スキルを発動させなさい! でなければ大した威力にはなりません」


 首を狙った手刀をわざと騎士は自分の兜に当てた。
 それによってダメージは半減。
 【空を飛びたいハイムーブ】によって加速した一撃であっても高校生の体重しか乗っていない一撃の殺傷性は高くない。


 予想外の防ぎ方に戸惑いを隠せない鳶。
 それを逃すようでは最強の騎士を名乗る事は出来ないだろう。


「【瞬間加速】!」


 急激に加速した剣術に鳶は反応出来ない。
 鳶はその木刀を胴体にもろに食らった。
 だが、胴体への打撃で気絶する事はない。
 鳶はそのまま木刀に抱き着いた。


「拙者たちの意思は本物でござる!!【一撃の極みクリティカルヒット】!」


 そのまま鳶は騎士の腕を殴った。
 【一撃の極みクリティカルヒット】は攻撃を成功させた対象を一撃で無力化させる効果を持つ。
 それは騎士にも通用するようで騎士の男は気絶した。


「見事……」


「お主の助言、感謝するでござるよ。しかし、勝ちは勝ちでござる」


 そう言うと鳶も意識を失った。

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