チートクラスによる異世界攻略

水色の山葵

召喚される15名



「お父様。本当によろしいのですね?」


 西洋系の顔立ちに、姫のような衣服の美しい女は、玉座と思わしき場所に腰を落とす、白髪のまるで王のような衣服の老人に、そう問いかけた。


「今ならまだ止められる、か?」


「はい。本当に私達の我儘に彼ら彼女らを巻き込むおつもりなのですか?」


 薄暗い部屋には玉座に座る老人を中心に、10名の人間が立っている。
 1人は王。
 1人は最後の確認と思わしき会話を行っている姫。
 2人は如何にも手練れそうな騎士。
 4人は礼服を纏う使用人。
 残り2人は門番と思わしき鎧の騎士。


「ならば、お前は他に如何様な方法を思いつく?」


 ここまで、疑問文による会話しか交差していない事を想いだし、姫は王もまた決めかねているのだと悟った。
 そして、今まで失敗に終わり幾つもの血を無駄に流した事実を思い出す。


「いいえ。私も願う以外に思いつく事は出来ません」


「であるか……」


 2人の間に長い沈黙が続く。
 この国の最高責任者たる王がそう決めたのだ。
 この国で一番多くの情報を持つ王がそう決めたのだ。
 この国を一番愛する王がそう決めたのだ。
 姫は善意を捨てた。


「私には逆らう意思はございません」


「頼む」


 短い言葉で姫は何を頼まれているのかを理解する。


 そして、王座の間の中心に人が50人は入れそうな魔法陣が出現した。
 炎 水 風 土 氷 雷 闇 光、この世界の人間が生まれた瞬間から2、3種類持つ基本属性。
 そのどれにも属さない隠し属性『空間』『時間』を併せ持ち、それを同時に一人で発動する事で展開される魔法、『異世界人召喚』。
 そして何より、この世界で理論的最高値が100の魔力値限界値が彼女は90を誇っている。
 それを限界まで修行で増やし、更に魔力上昇の魔道具を大量に身に着けている。
 彼女は完璧に魔法を発動させた。


『我の世界に介入しようとするか』


 おぞましい程の、全ての物がひれ伏すほどの絶望、それを声で100%現したかのような、そんな声が聞こえる。
 彼女はそれを知っている。それは所謂世界の意思、その物だ。
 世界は外敵を嫌う。それは、どの世界とて同じ事。
 異世界人を誘拐しようとしている彼女に牙を剥かない理由が無い。


「申し訳ありません。ですが私は、それでも英雄に頼る他ないのです」


 その声に、心臓を握りつぶされそうな声に、彼女は必死に抵抗した。
 姫は自らの望みを言う。


『ならば対価を提示しろ。我では無く、召喚される者達にだ』


「私が出来る事なら何でも」


 自分に出来る最大限の対価を提示した。
 だが、それに応援を入れる者が一人。


「儂もだ! 儂が持ちうる全てを捧げよう、生殺の権利も含めて」


 これでダメだったら、この国に出せる物はもはや何もない。
 この場の10人は祈りながら返事を待った。


『良かろう。だが、私の世界に現在英雄と呼ばれる存在は生きていない。我が世界の出せる者は英雄の卵程度な物だ。それで良いのか?』


 姫は王に視線を移す。
 王はそれに答えるかのように頷いた。


「了承します!」


 姫のその声に王も続く。


「じゃが、先に渡すのは対価の半分のみじゃ。残りは、儂らの願いを叶えてからじゃ」


 絶対者たる世界の意思に対する王の物申しに、この場の全員は心臓が止まる思いだったが、それでこそ王と感心する物が殆どだった。
 その絶対的な信頼こそが、王たる由縁なのかもしれない。


『良かろう。生活の約束、3ヶ月の生命の保証、可能な限りの情報の秘蔵。願いに関わらずこれは守ってもらう』


「無論」


 即答する王。
 その答えに満足したように、声は最後の言葉を残し掻き消える。




『もしも、約束を違えたなら、貴様ら全員の一番大切な物を貰い受ける』










 声が完全に聞こえなくなったころ、魔法陣が強く発光し始めた。


「来ます!」


 姫が叫ぶ。
 1人の騎士が王の前に出る。
 もう1人の騎士は姫の護衛につく。
 使用人は壁際まで下がり、門番は腰の剣に手を掛けた。
 ここが重要なのだ、召喚される者の性能。それによって国の生死が決まる。


























 光が収まってくる頃、そこには男女違いに灰色の同じ服を身に纏う少年少女15名が居た。


「え?」「うおー」「マジか」「キタコレ」「やばい」「まじで言ってんのかよ」「うわ、王様だ」「王女様も居るよ」「てか、写メ取っていいかな?」「いやダメだろ」「そもそも写メとか知らなそうだし、確認の取りようが」「ファンタジーっすわー」「なあ、これどうやって纏める?」「いつも通り、皆で決める」「了解」


「なあ皆、俺が代表って事でいいか?」


『異議なーし』


 全員に賛成を貰ったので、出しゃばる事にしよう。


「そこに居るのは王様と姫様とお見受けする。敬語は必要か?」


 どうやら王との会話に出しゃばって来るような人間はいないらしい。
 他の騎士や使用人は、傍観の構え。
 玉座らしき椅子に座る王様っぽい人と、召喚を行ったであろう姫っぽい人に確認を取ってみる。


「左様、儂が国王の、ザンギルセン・メドラ・ハーメストじゃ。敬語は不要。そなたが一団の代表か?」


 どうやら会話が出来ない、なんてことはなさそうだ。


「違う。俺の名前は小波さざなみぎん。俺達に代表は居ない。皆が個人的に考えを持つ対等な人間だ。役割や立場の差も存在しない。個人を贔屓なんて真似はしない方が賢明だ」


 まずは、国が要らないお節介をしないように、クラスの分裂なんて物を考えなくて済むように釘を刺す。
 とは言っても、クラスの分裂なんて心配はなさそうだが。
 横目で見ると、クラスメイト達は楽しそうに今後について考えている。
 皆が居れば皆は頑張れる。もしクラスが割れるとすれば、それは死者が出た場合だ。


「承知した。では、そなた達が何を何処まで知っているか問うても良いだろうか」


「勿論。俺達は世界の意思から貴方方と世界の意思との会話を見せて貰い聞かせて貰っている。以上だ。他は元の世界の事しか知らない」


「そうか。では、まずは何からするべきだと其方は考える?」


「そうだな、少し時間を貰ってもいいか?」


「構わない」


 汗が手に滲む時間がやっとひと段落だ。
 どんだけプレッシャーはなって来るんだよ、あの王様は。
 まあいいか。


「じゃあ全員集合だ。作戦会議すっぞー」


「やっとかよ。待ちくたびれたぜ吟」


「悪いな忠人。それより皆に意見を聞きたいんだが」


 なんか自然と陣になったが、割と何時もの事なので気にしない。


「じゃあこれから何をしたらいいか意見のある奴挙手」




 俺達の異世界生活はここから始まる。



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