異世界に召喚されたのでさっさと問題を解決してから

水色の山葵

三十二話 主人公最強

「さてと、俺らの仕事遊撃らしいけどどうしたい?」


 幾つかのプランは考えている。
 まあ別にこの戦争に関しての事だけじゃ無いが。


「私はシルと一緒に行くわ」


「では私は自由に暴れさせて貰おうかの」


 正直過剰戦力だ。
 騎士団長のステータスと比べるとレティやフィーナのステータスは倍以上ある。


 例えばこの世界の魔法使い平均魔力は三百だ。
 つまり魔法使いを100人集めて同時に最高火力をぶつけたとしても俺達のHPは1減るかどうかだ。
 それは繊維を1mm削る程度のダメージでしかない。
 俺に関してはダメージ無効1000があるのでもっと少ない。


 帝国にだって最終兵器はあるだろうが、俺の手数をもってしても破れない物を持っている可能性は極めて低い。
 実際帝国の過去の戦歴を調査してもそんな記録は存在しなかった。


 常識的、一般的に考えて負けるはずがない。
 そもそも神と魔王から力を受け取っておいて経った一国軍に後れを取る訳がない。


 目で見える位置まで帝国軍が迫って来た。
 鎧を着込む物も多い。
 何人か鑑定してもステータスは300ない程度。
 この世界の村人の平均が10なのだから高い部類ではある。


「だけど、俺相手には役不足だ」


 俺が今日まで身に着けた大半のスキルは、前世のゲームなんかにおいてはパッシブスキルと呼ばれる類いの物だ。
 一撃を何処まで強化できるか。


「行くぜ。〈天力〉〈龍気〉〈セカンドパワー〉〈多重展開・三=フルエンチャント〉〈ディメンションカット〉そんじゃあ死んでくれ。〈ヘルファイヤ・クアトロス〉!!」


 爆炎、強炎、黒炎。
 どう形容するのが正しいのだろうか。
 人の言葉を使う事さえもおこがましい。
 ただ一言、言えるとするならばそこは。








 __地獄だった。






 帝国の兵士は死んだ。
 死んだ。
 焼かれた。
 燃えた。
 灰と化す。
 黒焦げに。
 爆散。
 爆撃。
 爆音。
 爆雷。
 爆震。
 なす術もなく。
 消えた。








 多分、初めてだ。
 人を殺すのは。
 俺には胆力のスキルがあった。
 だからだろうか、簡単だと思った。
 ただ俺が一言呟けば人が死ぬ。
 なんて簡単なのだろうか。
 知っている。
 今死んだのは俺と同じ生物だ。
 同種だ。
 同列なはずだ。
 なのに人を殺して最初に思った事は『思ったよりも楽だった』ということだった。
 最悪なのかもしれない。
 最低なのかもしれない。
 ここはそういう世界だ。
 別に俺がやらなければ二国が戦争になってこっちの軍まで被害が出ていた。
 そうならないためには仕方ないし、出来る人間がやらなければならない。
 そのための能力が俺にはあるのだから。
 俺がやるのが一番都合がよかった。
 最低の被害で最高の結果が出せた。
 事実、被害は草木が多少燃えた程度。
 命は1つも失われていない。
 そもそもこうするために各地を巡ったんだ。
 龍とか賢者とかオートマタに会ったのはなんでだ。
 決まっているこの地獄を生み出すためだ。
 なら俺にやったことは正しい。
 間違っていない。


 漂ってくる血の香りも。
 こっちを向く遺骨も。
 肉の焼ける黒い煙も。
 俺がやろうと思ってやった。
 人を殺す事は出来ても生き返す事は出来ない。
 手加減は出来ないと知っていた。
 そうする事が一番効率が良かった。
 そうだ、俺は利益と効率の為にこの現状を生み出した。
 唖然としていた味方の歓声が上がり始める。
 帝国の全戦力の5割を削った。
 残った戦力を見れば他の大国が好機ととらえて勝手に滅ぼしてくれる。
 問題があるとしたら注目か。


 こんなネガティブな思考に陥った時点で胆力先生は仕事してないんじゃないのかって思う。
 まあこれも人の心を奪われて無い証拠だ。
 記憶に残しておけばいい。


「もしかしたら。俺がこの世界に来なければ、こんな事にはなって無かったのかもな」


 最初は強い力に惹かれた。
 この能力だって俺は俺の事しか考えずに作った。
 事実として俺は何も苦労していない。
 ただ幸運で強い力を貰っただけ。
 そんな自然に反すことをした報いだと思う。
 死と同等な事は死しかなない。
 そう思った。


「それは違うわ」
『それは誤りです』


「少なくともこんな事にはならなかった」


「シルが居なかったら私は消えていた」
『若様が居なければ私は存在しません』


「だけど、何万人も殺しておいて救えたのは……」


「ならシルは私にその何万人の価値が無いって?」
『若様はこの国の全ての人を救っています』


「強引なんだな。曲解でこじ付けだ。事実として帝国にとって俺は悪人なんだから」


「だって私は女神だもの。強引で嫉妬深くて配慮に欠けても許されるのよ。だから言うわ、シルをこの世界に送ったのは私なんだから悪い奴がいるとしたら私よ。だからシルには私の我儘を聞いて貰わないといけないの。こんなとこでなよなよしててどうする気な訳? シルは私を愛してるんでしょ」
『そもそもなぜ悪を定める必要が有るのでしょうか。人は何時の時代も生きる為に必死なのです、そこに善悪など存在しません。問われる義務も責任も破ったから悪いなんて誰が言うでしょうか。もしそんな人物が居るのならその人こそ悪人と呼ぶにふさわしい。私は絶対に若様の味方ですから』




「それじゃあまるで、俺がいじけてるみたいじゃないか」


「私にはそう見えた」
『違うと?』


「分かったよ。俺は俺のしたいようにするぜ!」








「シールー!っと」


 レティが戻って来た。
 そういやレティの分も俺がやっちゃたのか。


「その首根っこ捕まえてるの誰よ?」


 小脇に金ぴか装備のおっさんを抱えていた。


「恐らくは敵軍の大将なのじゃ」


「あら、そう」


「そりゃナイスだ」


「貴様ら、この俺にこんな事をしてタダで済むと思っているのか!?」


「何だ貴族か?」


「そうだ、帝国の公爵家に連なる者、名をゲッ……」


「黙りなさい。貴方は聞かれた質問にだけ答えていればいいわ」


「はい……」


 フィーナの魔法か。
 多分洗脳だ。
 眼の光が完全に消えてやがる。


「なんじゃシル、煙が目にでも入ったか?」


「え?」


 今になって頬を伝う水滴に気が付いた。
 思ったより俺って泣き虫なのかもな。


「どれ、私が拭いてやろう」


「いや、そんな事……」


「抵抗するな」


 拒もうとしたが、動き出しで負ければ俺がレティに追い付けるはずも無い。


「それと、これは今回私の分を奪った報いだ」


 顔のそばまで寄って来るとレティはそんな事を呟き……俺の口に自身の唇を押し当てて来た。


「ん?」


 そんな間抜けな声と彼女が怒り出すのは同時だった。


「シルーーーーーー!!!!」


「んんん!!?」


 雷鳴が響き渡る。
 俺は死を覚悟した。


「今回は私の一人勝ちかの?」



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