異世界に召喚されたのでさっさと問題を解決してから

水色の山葵

二十九話 まだ見ぬ力

 各国の考えてる事はまあ解ったし、そもそもそれは国王が考える事で俺の領分では無い。大会で貰った白金貨数十枚分の働きはしただろう。
 勿論、俺が考えなければならない事はスイナの事だ。
 俺の周りの人物の中で彼女だけだ不幸に怯えている。
 確かに俺に彼女を救う義務も責任も無い。


 だけど、違うだろう?
 俺は決めたじゃないか、したいようにするって。
 幸いと言っていいのかそれを可能にするだけの能力が俺にはある。
 悪落ちしないようにストッパーも用意した。


「酷く子供な発想だよな、こんなの」


 だけど、俺はもう後悔しない。
 フィーナが居なくなった時の気分は最悪だったんだ。
 だから考える、スイナも救えて俺の周りの奴全員が幸せになれる方法を。


 実際、俺にはたった一つの能力しかない。
 『システム』それを俺は最強の力だと考えている。
 そしてその中で最も能力の高い存在、それは雫だとも。
 だから俺はまず彼女を頼る。


「雫、俺はどうしたらいい?」


『若様の中で答えは既に出ていると思いますよ。私の知っている事はこの世界の全てと若様の事だけですから』


 雫の答えは答えと言えるのかも怪しい酷く突き放した物だった。
 だけど、雫は世界の全てと俺を分けて数えている。
 その事実が俺に幸福感を与えた。
 答えは決まった。


「はっ。そうだよな。煩わしいのは無しだ。俺は唯のガキで子供で、だから無関心で我儘で勝手にやりたい事をやる! それで誰にも文句は言わせねえ」


『はい。それでよろしいと雫は答えを出します。心配せずとも若様が道を踏み外すのならば私が元の道に戻しましょう。若様が間違えを自覚出来なければ私が間違いを指摘しましょう。ですから若様はお好きなになされば良いと雫は結論を出しましょう』


「よっしゃ、いっちょやってやるとするか!」


 覚悟は付いた、幾つか危惧するべきことはあるが、覚悟さえできればそれは危惧するべき事ではない。


「やっと決心着いたのね」


「だいぶ時間がかかったようじゃな」


「乗りかかった船ですし、私も頑張りますよ」


「ご主人、ここリビングだって解ってました?」


 考え事してる時って周り見えなくなるじゃん。
 そういう奴だよ。
 言い訳ぐらいさせてくれ。



















 さてと、自室に戻った。気を取り直して作戦実行だ。
 俺だけだが。
 みんなに手伝って貰うのは後でいいから今は俺に出来る最善手を考える。
 まず一つ、俺の能力値は現段階でそこらのSランク冒険者や転生者を軽く越える性能がある。
 だが、それでは国1つを相手取るには足りない。
 真向から総力戦を挑む気は俺も国王も無いが、それでも出来る事はやっておきたい。
 魔法スキルは大方揃えられている。だから他の技術が必要だ。
 俺の能力は手数を増やす能力と言っても過言では無いから、それも可能だと考える。


「雫、この世界で一番のテクノロジーを持つ存在を教えてくれ」


『イエス。古代アルシエムが会った土地には今でも人工知能がその機能を途切れさせる事無く継続させています。人工知能以外にも様々な魔力的、化学的な技術を用いた機器や機能が存在しています』


「なら転移だ」


 俺が目を付けたのは魔法以外の力だ。
 何時もの俺なら迷わずスキルの増加に使って居たであろう処だが、正直基本的に必要になりそうなスキルは取り終わっている。
 残っているのは中々個性的なスキルが多い。
 防御を捨てて攻撃を強化するとか、魔力を全部消費して爆発を起こすだとか、認識を極少サイズずらすとか。
 攻撃力は足りてるし、魔力を使い果たすなんて論外だし、認識は味方のもずらしてややこしい。
 だから俺は俺の知らない知識を見て、盗むところから始めようと思う。




 転移した先は海底だった。


 溺れる!


 と思ったが何やら息が出来る。水中特有の浮遊感は感じるが気体が喉を掠る感覚がある。


「なんだここ……」


『深海に沈んだ高次元都市です。現在この場所は全2648機が暮らすオートマタの都市となっております』


 雫の念話を聴きながら周りを見渡すと、そこは確かに街と言えなくもない作りになっている。
 まず売り物屋が無い。次に家が鉄製。最後にさっきから人の姿をして歩いている住人はどれも灰色の肌をしていた。
 人間には必要でもオートマタには不必要な物を取り除いた街がこの都市なのだろう。


 都市の大きさはそれほどでもないが異質過ぎる造りに見入っている間にまわりを囲まれていた。
 まあ人形だけの都市に人間が現れた時の正しい反応ですよね。


「問1 貴方は誰ですか?」


 オートマタの大群から一体の他と装いの違う者が現れて話始める。
 その声は酷く機械的だった。


「俺はシルと言う。肩書は色々出来た。異世界人、Sランク冒険者、武闘大会優勝者、富豪ってとこかな」


「理解。問2 ここへやって来た目的は?」


「回答、俺はお前らの持ってる技術を見る為に来たんだ」


「敵対行動レベル1と判断。第一武装アンチマジックフィールド展開」


 何かが身体から消える感覚。
 恐らく範囲内の魔力を消す結界のような物だろう。


「人の努力を盗むみたいであんまり使いたくなかったんだがな。天力、発動」


 瞬間。俺の身体に白い膜のような物が現れる。
 発光している気もしないでもないが、今は気にする必要も無い。


「天力の発動を検知。敵対行動の確定を申告。脅威度をレベル10と判定。全武装を展開」


 俺を囲む全てのオートマタが変形していく。
 中には身体から砲台や剣をだす物までいる。
 飛行している個体もあるが、飛行方法だけをとっても様々だ。ジェット噴射、ムササビ、翼、気球、空気の足場。
 これだけの技術を持つのならコピーは軽い。
 さて後は時間を稼ぐだけだ。


「雫、何分だ?」


「5分かかりません」


「了解」


 そもそも雫の全知の能力で30%程は解析完了している。
 後の70%はどうしても俺が直に見るか、アーカイブや大魔王のやったように直接システムを弄らせるしかないのだ。
 何故か殆どが女型のオートマタだ。好き好んで傷つける趣味も無い。
 さっさと終わらせようか。



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