異世界に召喚されたのでさっさと問題を解決してから

水色の山葵

二十八話 早く動くべし



 武闘大会の団体戦は延期になった。
 詳しい日程は、決まり次第タナカさん辺りが教えてくれるだろう。
 それと俺が貰った王様からの優勝の褒美は、男爵の爵位と大量の金だった。


 勇者の式は既に行われ非常に円満に終了した。
 勇者の方の来賓は意外と多かった。
 俺、スイナを始めに教会や王都の貴族も新郎側の来賓として招かれていて、多くの人が勇者側の来賓席に座っていた。
 けれど、御剣側の家族席は空白だった。
 当たり前と言ってしまえばそうなのだが、少しだけ感じる部分がある。


 そして現在の状況なのだが、かなり大変な事になっている。
 予想以上と言ってもいいかもしれない。
 勇者の所属が完全に決まってしまった事で各国のパワーバランスが大きく変動した。
 転生者もSランク冒険者も多く存在する世の中だったが、その中でも教会が最強と認めた勇者がアルバニアに着いた事で、教会の権威と戦力が衰退。
 王様は勇者を軍事利用しない事をすぐさま各国に宣言したが、勿論それは攻めて来なければの話である事は他国も理解している。
 だからこそ、勇者の暗殺やその情報収集に動く国は多くなって来ていた。
 そして危惧していたスイナへの風当たりも強くなった。
 俺の汚点は俺自身で解決する、そう心に誓った。






「それで、なんでデートなんだ?」


「あら、私じゃ不安なのかしら? やっぱり巫女がいいの?」


「そんな事は思ってない」


『最近若様は尻に敷かれてきました。嘆かわしい限りです』


「ねえ雫ちゃん、シルの体力ってどのぐらいあるの?」


「え、それを聞いてどうするつもりなんだよ……」


「決まってるじゃない、ギリギリを責めてあげるって言ってるの」


「若様の体力値は3052です、自己回復系のスキルも持っているので毒なんかの状態異常と拮抗させるといいと思います」


「いいアイデアね、今度シルが粗相をしたらそうしましょう」


 何勝手に決めてんですか。
 雫も完全にフィーナの味方だし。
 まあ、可愛いから許すけど。


「今でも俺、フィーナの事が一番好きだから!」


「急にどうしたのよ。そんな事知ってるに決まってるでしょ。私もなんだから」


「なあ、俺達も式とか挙げるべきなn……」


「いいえ、それはシルの両親と会えた時でいいわ」


「でもそれだといつになるか分かったもんじゃないぞ」


「いいのよ、シルは私の為に不老スキル取ってくれるでしょ?」


「ああ、約束するよ」


『お二人、ここは街中ですよ?』


「あっ」


「そうだったな」


 2人して照れながら俺達はデートを続けた。


 朝から晩まで外で同じ時間を過ごす。
 これがどれだけ幸運で幸福な時間なのか、俺は今、身をもって体験していた。
 感知スキルに引っかかる多少の悪意も関係ないとばかりに俺はフィーナの事が好きなようだ。


 それで、本題だがサーチやら感知なんかのスキルを総動員した結果、密偵と思われる反応が多く存在している事に気が付いた。
 王都一つに対してこの人数のスパイはどう考えてもやり過ぎの量だった。
 原因は勇者だろう。
 その価値を再確認させられる結果になった。
 勿論スパイ全員を感知できたわけじゃ無いから、そこを考えて計算すると少なくとも二万人は怪しい奴がいると考えていいだろう。


 この事は勇者の事も含め、レティやノル達に伝えてある。
 一応、密偵の数についてもアリルに資料作成して貰って王様と勇者には伝えて置いた。


 俺もちゃんと動く必要があるよな。
 まずは各国の現状とバランスについての情報整理。
 そこからパワーバランスを再分配するように、適切な処置を考える。
 魔王とアーカイブにちょっとばかし協力して貰う必要もありそうだよな。
 スイナはもう少し王都に滞在するようなので一先ずは置いておこう。
 問題は今すぐにでも王都に対して攻撃してきそうな国が有るのかどうかだ。


 そもそも、アルバニアの王様ってのは日本で言う大統領みたいなもんだし、民主制だから貴族とか王族とか言ってもそこまで権力高く無いんだよな。
 だから平和ってのもあるだろうけど、トップが変われば簡単に壊れそうで怖い。
 次の王が勇者を軍事利用しないとは言い切れないのだ。
 まあ、投票は50年に一度な訳だしここ何百年かは今の王族から選ばれてるって話だし関係ないか?
 いや、最悪御剣が選ばれるって選択肢もあるのか……


「フィーナ、攻めて来るならどの国が可能性高いと思う?」


「うん? そうね、やっぱり隣国の方が攻めやすいんじゃないかしら」


「ならカルムかドラインだな」


 アルバニアは海に面していて、隣にはこの二つの国が陣取っている。
 今は両国と交友的な関係を築けているが、もしも両国が同時に攻めてくるとしたら、アルバニアに逃げ道は無いだろう。



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