異世界に召喚されたのでさっさと問題を解決してから

水色の山葵

二十四話 勇者(中)



「僕は負ける訳にはいかないんだ……彼女のために!!」


 御剣にも信念があるのだろう、だけど……


「それは俺も同じだ、よ!」


 目の前で呪い、重力、影縫いによって動きを三方向から止められた御剣に上段から剣を振り下ろす。
 手抜きは無しだ、知力斬・地爆。


 叩きつけられた剣は勇者の聖剣によって受け止められるが、知力斬による追撃で地面が爆発する。
 結界は…………無事か。
 どうやら自前の結界で守ったようだ。


 バインドはまだ切れていない。


「たたみ掛ける!」


 氷結魔法:アイスシャード
 暴風魔法:カマイタチ


 氷の飛礫は剣で弾くが、カマイタチには直感で反応は出来ても体が追い付かなかった。
 そのまま御剣が自分で張った結界ごとその体を吹っ飛ばした。
 ダメージは御剣の結界が代わりになったようだが、それでも今の攻防で自前の結界はぶっ壊れた。


「さあ。これで終わりだ!」


 俺は最後の一撃として獄炎を放つ。
 その時一つの声がした。














「負けないで亮太様!!」
 観客の声援に混ざったとても小さな声だったけど、それは確実に勇者の胸に届いていた。
















「僕は負けない!!」


 だから御剣は見つけ出した、逆転の可能性を。
 それは新たなスキルをここで習得するという離れ業。
 そしてそれは人類が起こした最初の奇跡。


 御剣はこの世界において天使だけが行使できる力を、天力という新たなステータスを手に入れた。
 女神が召喚し、聖剣が認めた男はここに覚醒した。


 吹き飛ばされていた御剣は少しふらつきながら立ち上がり、俺の獄炎を片手で払った。
 御剣に纏わりついた白いオーラは手を振った風圧だけで、獄炎を完全に消し去ってしまった。




「ここに来て進化しやがったのか」


「イエス……彼のステータスにEPという項目が追加されています。効果は消費する事による全能力の上昇。身体能力や魔力に加えスキル効果さえも効果を増大します」


「なるほど、それであのオーラは?」


「EPによって強化された体から出る、粒子と言ったところでしょうか。彼は今、身体能力が3倍、魔力が2倍まで跳ね上がっています」


 って事は平均ステータスは約九千。
 本物の化け物だな。


「雫、解析を頼む」


「了解しました。ご武運を」


 さて、どうすっかな。
 素の状態でも負けてるステータスが更に上がり、スキルまで強化されてると来たもんだ。
 はあ、負け筋濃厚だな。


 考える時間をくれる訳もなく、御剣は突っ込んでくる。
 はえっ。
 もう俺の目をもってしても消えたようにしか見えない。
 でもな、お前のは単なる移動に過ぎない。
 俺は読んで字のごとく、


「転移!」


 これが出来るんだ。
 上空千メートル付近から落下しながら考える。
 勝機はどこにあるんだ。


 御剣の力は天力、要するに天使の力だ。
 天使は下位の存在であっても人間のAランク冒険者並みの身体能力を持っている。
 じゃあ、なんで天使の上位互換の女神であるはずのフィーナのステータスがあれなんだ。
 あれくらいなら、少し強い天使が天力を使えば簡単にフィーナと互角の性能になるんじゃないのか?
 それは何かがおかしい気がする。
 アーカイブはフィーナに最低限必要なステータスは持たせているはずだ。
 つまりアーカイブはフィーナにはあの程度のステータスで十分だという結論を出した訳だ。
 考えて答えを出すのは嫌いじゃないが、もうすぐ地上だし、いっちょ種明かしでもしてみますか。


「雫、天力の解析はどれぐらい済んだ?」


「まだ30%程しか」


「これは俺の推測なんだが天力には弱点や反動、制限なんかがあるんじゃないのか?」


「全く、若様の思考回路は全知の私でも理解不能ですね。正解です、天力にはリミットが存在します。ずっと鑑定していれば解る事ですが彼のEPが少しずつ減って行っています。このままいけば14分程で天力はそこを尽きます」


「14分だな。助かった」


「いえ、これが私の勤めですので」


 地面が見えてくると御剣が俺を見上げていた。
 絶対の直感は健在って事だな。
 俺も渋ってる場合じゃ無いようだ。


「完封」


 何となく分かる、一度発動した天力は封印したとしてもゲージの使用は止められない、あれはスキルというよりも、体力、MP、攻撃力、防御力、敏捷性、魔力値なんかに近い七番目のステータスだ。
 完封では止められない。
 だから俺は絶対の直感を封印した。


 出来る限り、新スキルを御剣に覚えさせて解析したかったんだけどな。
 仕方ないか、負けるとこをフィーナに見せるのは絶対にごめんだ。


「天歩!」


「天歩!」


 同時に発動したスキルは両方同じ物。
 俺は落下速度に加えて空を蹴る事で更に加速し、御剣に突っ込む。
 だが、天力を纏った御剣の天歩は落下の速度を加えた俺のスキルよりも圧倒的に早かった。


「聖剣技:超新星爆発ハイパーエクスプロージョンノヴァ!」


「クソが! 断罪の一撃!!」


 断罪の一撃は神と魔王を裁くために与えられた、ある種最強のスキルの一つだ。
 その効果は罪人に対しての圧倒的な特攻。
 そして、その有無を決めるのは俺の思考だ。


 だからこそ、かもしれない……御剣に俺の一撃は全く効果が無かった。


 御剣の剣が一閃した直後に起こる爆風に俺は完全に捕らえられ、俺を吹き飛ばした。


 それでも俺が無傷で立っているのは、結界に守られたからではない。
 俺の絶対危機回避が発動したからだ。
 だからこそ次は無い。
 俺は立ち上がり、剣を持ち直した。


 速度とパワーは完全に負けている。
 なら、瞬発で負ける事だけはならない。


 剣と弓を持ち変える。


 弓技:ドライブショット
 忍術:武器分身
 分身の矢


 一本の弓は空中で分裂するように4本に数を増した。
 俺は矢のインパクトと同時に御剣の後ろに転移し、知力斬:麻痺の茨、を放つ。


 だが、御剣は4本の矢を一刀で弾き落とし、俺の剣を見てから躱した。
 直感が消えた事で反応速度は鈍っているが、気が付きさえすれば、その身体能力で簡単に避けられてしまう。
 俺の剣を避けた御剣は、矢を打ち落とした聖剣を手元に引き戻すついでに茨も切り裂いて行った。


「はっ」


 強めに聖剣を振るだけで、とてつもない暴風に見舞われる。
 結界魔法を上から張って、防御魔法で元から張られている結界を強化して、ギリギリ耐えきった。
 また吹き飛ばされたけど。


「雫、あと何分だ?」


「あと12分です」


 ははは、今ので二分しか稼げてねえのかよ。
 絶対危機回避っていう切り札も切らされた。
 完封もずっと使ってる。
 そもそも最初からあいつの直感を封印しておけば、こんな事にはならなかった。
 敗因は明白、自業自得だ。
 あいつの身体能力は三倍まで上がってる。
 そりゃあもう生物の枠を超えてる、兵器だ。
 スキルも何も使わずに……ただの、なんの変哲もない、当たってすらいない一刀の、その風圧すらもあらがう事が出来なかった。




 ――負けちまいそうだぜ、全く。

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