異世界に召喚されたのでさっさと問題を解決してから

水色の山葵

二十一話 祭りの開始



 武闘大会がが始まった。
 トーナメント形式で試合は行われ、本選に残れるのは14名のようだ。
 そこに教会と国軍からのシード2人が加わり計16名でのトーナメントが王都の闘技場で行われる。


 勿論俺は本選出場を決めた。
 四回勝てば優勝だ。
 本選初戦の相手はいきなりシードである王国騎士団長だ。
 名前はルークというらしい。
 隆起した筋肉と剛腕には威圧感を覚えるが、それより観客の声援が全部騎士団長を応援しているのがつらい。
 フィーナたちも観客席にいるはずだが、こうも多いとどこに居るのかは解らない。
 サッカーの試合を見に行った事を思い出す。
 出る側に回るのは初めてだが。
 それにどうもこの騎士団長は転生者じゃ無いようだし。
 鑑定でも魔王の半分もステータスを持っていない。
 正直負ける要素は無い。


「君、そんなに硬くならなくてもいい。私の肩を借りる程度に考えていい」


 観客の声援で掻き消えたせいで全く聞こえなかったが、何か返したほうがいいのか。
 試合前の一言って何いえばいいんだよ。
 適当に。


「かかってこい」


「ほう……」


 試合のゴング代わりに撃たれた魔法弾が花火のような光景を生んだ。
 試合開始だ。


 相手のスペックは前衛後衛可能な魔法戦士。
 そのうえでステータスは一千弱。
 脅威になるようには思えない。
 懸念があるとすれば経験と技量。


「ハイスピード」


 スキルか魔法か、どちらにしろ速度をあげ一気に距離を詰める騎士団長。
 上段に振りかぶった剣から推測し、俺は受けるために横向きに剣を置いた。


 だが衝撃が手に伝わる事は無く、衝撃が走ったのは順番に横腹、背中、頭。
 横蹴りを食らった俺は吹き飛ばされ、一気に会場の端の壁に激突した。
 要するに今のはフェイントだ。
 恐らくは、非常に単純な。


『ですが、彼の攻撃力であるならば若様にダメージを負わせることは不可能です』


 装備した全知のピアスから雫の声が聞こえる。
 魔法剣と同じ物で両方に雫の意思が宿っている。
 2人いる訳では無く、コントローラーが二つある感じだ。
 剣が喋ると問題になりそうだったので作った。
 魔法的イヤホンだ。


「ウィンドサイズ」


 騎士団長の声が聞こえた瞬間、砂埃を巻き上げながら数本の風の刃が迫って来た。


「ディスペル」


 魔法が直撃する寸前に魔法を消し、立ち上がる。
 砂埃の奥から迫って来る人影を目で追った。
 そして色が見えた時、それが本人ではなく、土人形である事が解った。
 またフェイントだ。
 土人形に影を作らせ、自分は別の方向から攻撃し、相手の虚を突く。
 うまいとしか言いようがない。
 それでも地力は俺の方がある。


「転移」


 舞台の端から一気に上空へ転移する。
 落下の過程で騎士団長を見つけ出す。
 土人形、ゴーレムの横方向からハイスピードを解き、隠密行動のスキルを発動させた騎士団長は目立たないように壁伝いに俺のいた場所に近づこうとしていた。
 ま、これで決着だが。


「知力斬」


 今回イメージしたのは麻痺の茨だ。
 茨にまとわりつかれた騎士団長は鎧の薄い部分から茨に侵入され、麻痺状態になった。
 大の字に倒れ、うめき声をあげる騎士団長に見事に着地した俺が剣を突き付ければ。


「降参だ」


 試合終了となる。
 出場者に貼られた結界を破る事が勝利条件なのだが、降参も有効である。


「シル選手二回戦進出」


 審判のような男が試合の終わりを告げた。
 騎士団長が負けた事で観客は黙るのかと思いきや、一層テンションを上げ、そこらじゅうで俺の名前が叫ばれている。
 正直恥ずかしいのでやめてほしい。


 麻痺毒を俺の魔法で治療し、手を貸して騎士団長を立ち上がらせた。


「正直ここまで強いとは思わなかったよシル殿」


「たいしたことはしてません」


「因みに君が途中で使ったのは転移魔法か?」


「まあ、そうですね」


 俺の仲間の事以外は隠す気も無いので素直に話す。
 転移ぐらいなら知られても大した情報じゃない。


「優秀な魔導士なのだな」


「剣も使えますよ」


「ふむ、そのようだ」


 舞台に長居する気も無いのでさっさと舞台を降りる。
 女神転移のスキルでフィーナの近くへ転移した。


「お疲れ様、シル」


「流石ですご主人」


「当然と言えば当然じゃ」


「すいませんシル様、これでも魔王様は褒めているのです」


 なんとなく次も頑張ろうと思った。










 俺以外に二回戦を突破した7人の中には教会のシード枠の白銀の鎧の聖騎士と、ギルド長の姿も見えた。
 ギルド長は絶対強い。
 確信はある。
 あの人は完封一つじゃ相手出来ない。
 てかギルド長はシードじゃ無いんだな。


 まあ順当に言っても当たるのは次の次なので、今は対戦相手の事を確認しよう。
 イケメン、高身長、細身、金髪、碧眼、美形。
 なんというか、恐らくは偽装系の能力を持った別の姿の奴なんじゃないかと思う。
 かなりやっかむ見た目ではあるが、俺もそうしようとは思わない。
 それが次の対戦相手だ。
 一回戦は単純な剣の打ち合いで勝利していた。
 相手の女性は舞台から降りる時に下唇を思いきり噛んでいたのが印象的だった。




「君が僕の相手?」


 イケメンが話しかけて来る。
 ルール的に話しかける必要は無いのだが、ファンサービスという奴だろうか。
 Sランク冒険者も大変なようだ。


「初出場でここまでくるなんてすごいね。ま、ここまでだけど」


 俺も何か挑発するような事を返したほうがいいのだろうか。


「お前の化けの皮を剝がしてやるよ」


「は? キレそう」


 試合開始の魔法弾が撃ちあがった。


 あいつ最強は〈最強の幻影〉。
 最強というのは対抗策が無いという事だ。
 魔眼だろうが千里眼だろうがあいつの幻影を無効化する事は出来ない。
 要するに、偽の試合映像を観客に見せる事も可能という事だ。
 一回戦の彼女もそうされたのだろう。
 その間は対戦相手に対しても幻影で自分の位置が解らないようにしている。
 そうする事で試合結界を観測できるのは俺達に結界を張った術師だけになる。
 それも降参で試合を終えればいい話だし、隙を見て幻影の中に閉じ込められている相手の結界を壊せばいい。
 幻影で武器は持ち込み放題なのだから。
 使用禁止の使い捨て魔法スクロールなんかも持ち込めるだろう。
 ちなみに魔法の剣や鎧の類は使用可となっている。
 冒険者には二つ名的に武具が持ち上げられる事があり、見栄えも意識するこの祭りではそれを禁止には出来ないらしい。


 まあ、そんな事俺には関係ない話だ。
 対抗策が無いのは幻影に対して、であってスキルへの細工は可能だ。


「完封」


 その一言で試合は終了した。
 幻影の中から出てきたのは、黒髪、低身長、デブ、ブサメンの男。
 それと持ち込み禁止のマジックバック。


「カリバーン選手……? 反則、負けにより、シル選手準決勝進出!!」


 カリバーンとかいう男に浴びせられる罵詈雑言で試合の幕は下りた。
 大丈夫、その能力が有ればまたやり直せるはず……傷ついた心以外は。
 ホントにごめん。


 俺はギルド長との戦いに備える事にした。

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