異世界に召喚されたのでさっさと問題を解決してから

水色の山葵

二十話 扱かれる



 雫は武闘大会までの期間が一週間という状況を当然の様に持っていた。
 そうして、なぜか俺は修行をする破目にあっていた。
 場所は空間魔法によって作った、破壊不可のトレーニングルームだ。
 相手はフィーナとレティ。
 大魔王の知識によって鑑定が昇格し、超鑑定になった事でシルフィーナの情報も見れるようになっていた。
 全てのステータスが四千五百で統一されており、スキル欄には魔王等と同じ様に読む事が出来ない情報が幾つかある。
 ステータス上レティと並んでいるように見えるが、年齢は二百歳と若めである。
 正直、感覚が麻痺して来た。
 胆力が無ければ俺の精神が潰れていたであろう、情報だった。
 魔王の奴らは全員千歳越えてるし、関係ないよな。


 知力斬はヘルファイヤの様に予め決められた現象を起こす魔法と違い、知識として持っている現象をその場で選択し、斬撃に乗せるスキルだった。
 考えた通りの斬撃が出るんだから完全にチートである。
 規模に比例してMPを消費するが、そこまで痛くも無いだろう。
 どう考えても武闘大会にでる大半は転生者だから、それ用に対策する必要があるよな。
 って事でレベル上げだ。
 この世界で最強クラスのレベルを持つ魔王と女神に協力してもらいレベルを上げる。
 八百長でもレベルは多分上がるが、既に年単位のアドバンテージを持っている他の転生者には技量も必要だと雫に言われ、ガチ戦闘である。
 一応双方にかかっている結界が破れた方が負けのルールで二対一だ。
 勿論なぜか、一は俺の方だ。


「マジ死ぬって!!」


『若様、魔法が来ます。避けて下さい』


 雫のスキル制御によって、俺の察知系スキルが効果を増し、俺にどんな攻撃が何処から来ているのかも見極める事が出来る。
 それでも、避けられない攻撃はある訳で。


「転移!」


 すぐさま、避けられない事を悟った俺は転移先を雫に任せ安全な場所に避難する。
 転移魔法は万能の様にも見えるが、連続で使うには一秒ほどの再使用時間が存在する。
 そして、二人はそれを知っている。


「マジックバインド」


「フラッシュリング」


 二人の選択はほぼ同じ、拘束の魔法。
 レティのマジックバインドは半透明の蔦に絡まれた瞬間、魔法が使用できなくなる。
 フィーナのフラッシュリングは光輪に縛られ、身動きと視界が完全に封じられる。仮に縛られた状態で転移したとしても、フラッシュリングも一緒に転移してしまい、光で動きを止められてしまう。
 そして、回避系のスキルで二人の魔法を両方ともかわす事は不可能。
 なら、打ち砕くまで。


「知力斬!」


 俺がイメージしたのは巨大な氷。
 剣先からものすごい勢いで飛び出していく大きな氷は、二つの魔法ごと大気を凍り付かせる。
 更に振動を現象としてイメージし、氷ごと魔法を砕いた。


「まあ、それでも私の勝ちではあるがな」


「シルに足りないのは対応力かな」


 何時の間にか、両脇に立っていた二人は。
 手のひらをこちらに向けていつでも魔法を撃てるように準備していた。
 焦る俺は転移するチャンスを完全に見逃した。


「セイクリッドソード」


「暗黒剣」


 二本の魔法の剣によって、俺の結界は粉々になった。
 魔法に気を取られ過ぎて、そもそものスピードが倍以上違う事を忘れてたのが敗因だろうか。
 魔法で距離を詰めたようには思えないし。
 もしかしたら、俺が出した氷を足場にしてたのかもな。






「お疲れ様でした、ご主人」


「ああ、ボロ負けしたよノル」


「善戦したと思いますよ」


「そうですよシルさん。相手がおかしかっただけですよ」


「アリルよ、それは私の事を言っておるのか?」


「当たり前じゃ無いですか。魔王様」


「私はそんなに強くしたつもりは無いぞ……」


「そんな事より私疲れちゃったんだけど」


「そうだなフィーナ。今日は家に帰るか」








 空間を元に戻すと空は暗くなっていた。
 その日はそのままお開きとなった。








「ノル、少しだけ二人で話をしないか?」


 食事を終え、部屋に戻ろうとしていたノルを引き留めた。
 他の奴らはもう戻っているので、リビングに居るのは俺とノルだけだった。


「何でしょうか? ご主人」


「その、何だ。これ、受け取ってくれないか?」


 細工師の職業を獲得し、大魔王の知識から手に入れた次元の知識から霊体のチャンネルを割り出し、その状態をこの次元のチャンネルに合わせる事が出来るイヤリング。
 それを説明しながらノルに渡した。


「ご主人、ありがとうございます。ですが申し訳ありません。必要ありません」


「理由を聞いてもいいか?」


「私がこの世界で触れ合いたいと思える人は、このイヤリングが無くとも、触れ合い、笑いあえる人だからです。ご主人、いつまでも私を……囲っていて下さいね」


 その言葉は酷く衝撃的な物ではあったんだけど。
 すごく嬉しく思えたんだ。


「ああ、任せろ! 先に言っておくぜ、俺独占欲が強いからな! お前は俺だけの大切な人なんだ」


「はいご主人!」


 初めて見たノルの笑顔は、この世の全てを豊かにするような笑みだった。
 俺はこの笑顔を一生忘れる事は無いだろう。










「それで? シルは何をしているのかな~?」


「え? いやちゃんとノルの事を考えてだな……」


「それなら直接魔法付与をすればいいんじゃ無いの?」


『正解です』


「こら、黙ってろ雫」


「シールー? また女の子をたぶらかそうとしたわね?」


「違うんだフィーナあああ!」


 フィーナが放った電撃の魔法は手加減されていたそうだが、俺の気絶を誘う程度には強力だったと述べて置こうと思う。


「アヴァヴぁー!!」

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