異世界に召喚されたのでさっさと問題を解決してから

水色の山葵

十八話 大魔王一家



 家に帰るとノルから客が来ていると報告を受けた。
 こうなって来ると大体の予想は付く。
 まず俺の家を知っている人物である事。
 家を知っている人物は最近知り合った商人、俺に家を売った不動産屋……それから、考えたくはないがこの世界に関してだけ言えば全知であるアーカイブの関係者。
 そして対応しているのがアリルという事で魔王関係者を疑ったが、誰だったとしてもノルには対応できないのでアリルが対応している事はヒントにはならない。


 心して客間の扉を開けた。
 そこに居たのは総勢六名の見知らない男女だった。
 6人ね……予想つくわこれ。


「大魔王様!」


 最初に反応したのはレティだ。
 当然だが俺にはどれが大魔王なのかわからない。
 から片っ端から鑑定していく。
 全員のステータス値は基本的に三千付近だが、一人だけやばい奴がいる。
 オールステータス三十。
 偽装か?
 それとも力を自ら弱めている?
 もしかしたらステータスなど関係ないような絶対的な力を有しているのかもしれない。
 だが、何となく雰囲気で確信できる大魔王はコイツだ。


「やあレティ、元気してた?」


「お久しぶりでございます」


 やっぱりコイツであってるっぽいな。


「それで本日はどのようなご用件で」


「まあまずは座りなよ」


 いや、俺の家なんだが。
 それとあんたの仲間の魔王は皆立ってるんだが。
 客間は広くて一応全員座れるはずなんだが。
 なにか警戒……してるのか?


 俺達三人が椅子に座ると魔王は話始める。


「それじゃあ要件一ね。シル君ってどれ?」


「俺だよ。大魔王さん」


 きっつ殺気きっつ。
 魔王全員千歳以上の老体の癖して目が怖すぎるんだが。
 強制的に胆力で平常心に戻されなかったら失神してるぞ。


「君がシル君か、まあまあだね」


 やはりスキル欄の鑑定の文字は見間違いじゃないか。
 隠密はどこに行ったのか……
 俺以外にもこの技能を使用できる奴がいるんだな。
 是非とも算出方法を聞きたい。


「俺になんの御用で?」


「顔見せかな。アーカイブには接触したんでしょ? それならこっちの勢力も説明しとかないと」


「まあ少し会話して、俺の能力を底上げして貰ったぐらいだけどな」


「能力の底上げか後で僕もしようか」


「お前ら簡単に俺の能力弄り過ぎじゃね?」


「まあ概念がシステムだからね、完璧なんて無いんだから調整できるパラメータ量が多い君の能力は多数の改善余地がある。まあアーカイブも僕もシステムの拡張までしか出来ないだろうけど」


「そ、そうか……」


 魔王マジやべぇ。
 アーカイブと同じ事、しかも一度アーカイブがアップグレードしたシステムを更に機能拡張できるってどういう事だよ。
 もしかして魔王ってインテリ?


「それで要件二つ目なんだけど君、僕と一戦やらない?」


 違ったーー!!
 魔王めっちゃ武闘派だったーー!


「まあ、いいけど」


「それじゃあグラネテス、頼むよ」


「畏まりました魔王様」


 グラネテスと呼ばれた女悪魔は何かしら詠唱を始める。
 一度だけこの世界の魔法詠唱を見た事があるが、神とか精霊とかの言葉が多様されていた。
 そしてグラネテスという悪魔が用いている詠唱はそんな、俺に紛い物と思わせたこの世界の意味不明な詠唱とは何かが違った。


「我ここに森羅万象の一を指す。空間と時間を超越せし時空は、次元となり空間を震わせる。〈次元門〉」


 魔法名が門のクセに俺達は入る入らないの選択肢の余儀なく別の世界に飛ばされた。
 恐らく、宇宙空間で宇宙船の外装が崩れると宇宙に引っ張られる現象に近いだろう。
 何かしらの引力によって門に吸われた、この解釈が正しいように思う。


 その空間は薄い緑色の空間だった。
 女神と対話した世界の狭間は白い空間だったが、ここは緑色だ。
 次元の狭間とでも呼ぼうか。
 まあ魔王とか名乗ってんなら黒くしろよとも思うが、何かしらの法則が働いていると考えるべきだよな。


「シル君、ここなら何をしても壊れない。存分に力を使っていいよ」


「解った。ルールは?」


「そうだね、僕が飽きるまで?」


「まあ、それでいいか」


 スキルは使える。
 転移は、世界とか次元を超えなければこの空間内では使用可能。
 他のスキルも不便があるようには思えない。
 重力や酸素濃度もあまり変化していないな。
 次元の狭間にしては気体もあるし重力もあるのは、ちょっと理解しがたいが。
 後で聞こ。


「それじゃあ、俺から行くぜ!!」


 奥義フルエンチャント。
 奥義ファイブ・デットリー・シン。
 同時発動で俺にバフ七つと大魔王にデバフ五つを付与。
 普通なら発狂死レベルのデバフだが、やっぱり涼しい顔で澄ましてやがる。
 だとしてもアイツのステータスは今のところ三十。
 鑑定をかけ続けて動きを見る。
 大魔王のスキルは文字化けしてるのが多くて、かなり不気味だが予想は付く。
 世界の狭間で貰った言語理解だ。
 恐らく俺の知識の中で一番近い言葉に変換されるのだろう。
 つまりあいつのスキル名は俺の知っている概念では表せない物が多く含まれる訳だ。
 まあ解析さえできればその限りでは無い。


「取り敢えず物理攻撃も試すか」


 転移からの一刀。


 見えない壁のような物に弾かれた。


 結界か?
 いや俺の使う結界魔法とは明確に何かが違う。
 それに弾かれたというよりは力の入り具合が逆転した感じだ。


 さっさと転移で距離を取る。
 強いのは理解できる。
 だが、筋肉ダルマのパワーとかそんな次元じゃない気がする。


『適応完了。鑑定結果を表示します』


〈物力魔法〉


 読めなかった文字が読めるようになった。
 適切な文字に検索が変換したのか?
 だが、名前が解っても理解できねえ。
 つまりどんな魔法なんだ。


「その程度かな? シル君」


「そんなわけねえだろ!」


 完封!
 取り敢えず解らねえなら封じる!
 もう一度転移からの一刀だ。


「だからそんなワンパターン決まる訳……!?」


「どうやらさっきの結界は発動しないようだな」


「立体交差!」


 な!
 今度は刃があいつをすり抜けやがった。


「君は僕をなんだと思ってるのかな? 大魔王なんていうのは名称に過ぎないよ、僕たちが世界を渡って来たという事実を見逃しては無いかな?」


 大魔王が羽織っていたマントの内を見せるように広げた。
 そこから覗くのは拳大の球体…………手榴弾かよ!?


「転移!!」


「あ、外したか」


「てかなんで懐で爆発したお前が無傷なんだよ」


「立体は交差する。あー君が使った霊化に近い現象かな。でも文字通り次元が違うから君の霊化ともチャンネルが違うよ」


「チートじゃねえかよ」


「相手の能力を封印しちゃう君が言う事?」


『適応完了。鑑定結果を表示します』


〈空間魔法〉


 まあ、レアスキルだ。
 俺の糧とさせて貰おう。
 他にも貰える手札は見せてもらうぜ!


 次元魔法を封印しなければ結界に阻まれるが、空間魔法を封印しなければ攻撃がすり抜ける。
 物理的な攻撃に関してだから暗黒魔法は通るっぽいんだけどな。
 耐性スキルもかなり持ってるし。
 効果は薄いよな。


 なら完封を連続で使う。


「ヘルファイヤスモーク」


 まずは灰煙で身を隠し。
 一気に大魔法でくらわす。


「風の二番」


 煙が吹き飛ばされた?
 今度はどのスキルだ?
 風系統の魔法を持っているのか。


 まあいい時間稼ぎは十分だ。
 それに立体交差は物理干渉されない代わりに自分も干渉できないはず。
 ならば、魔法を使ったこの瞬間だけは……


「ヘルフレイム・イーター!」


 赤黒い獣は大魔王に食らいつく。
 更に完封を切り替えて、空間魔法を封印する。


「あっと、またか。しょうがないねゲート!」


 黒い炎の獣が掻き消える。
 そしてその反応が俺の真後ろに現れた。
 危機察知を攻撃察知が危険を知らせる。
 だが、避けきれねえ。


 その瞬間……絶対危機回避が発動した。




「よし、此処までにしておこうか」


 どうやら俺のスキルを看破していた為の手合わせであったらいし。
 しかもアイツ開始地点から一歩も動いてねえ。
 大魔王はこの世界の常識と違い過ぎる。
 まあレアスキルも手に入ったし良しとしよう。
 俺が使いこなせるかは別として。


「それじゃあ機能拡張するね」


 いつの間にか家に戻っていた場所でいつの間にか大魔王に額を触れられ、案の定俺は気絶した。

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