異世界に召喚されたのでさっさと問題を解決してから

水色の山葵

十三話 平和への道



「あははは! うちの最高戦力の一角はそう簡単に死んだりせんぞ」


 前に立ったスライムの大男に驚いていると後ろからレティの笑い声が聞こえてきた。
 完全に狙ってやがったなあいつ。
 だが、確かに切り裂いたはずだ。
 斬撃無効があると言っても俺の剣は永続的なヘルファイヤエンチャントがかけられている。
 それに属性のエンチャントも忘れずにしてあった。
 魔法付与に関しては、複合魔法を付与していたんだぞ。
 なんで生きてんだよ。


 まさか……


「擬態って壁や床にも化けられるのか?」


「正解だ」


 スライムが答えた。
 声がかなり高い事を除けば普通のデカイおっさんだ。
 剥げてるが。
 スライムの声帯って高い声しか出ないのか?
 まあいいか。


「注意力が少し足りなかったようだな」


 うるせえ。
 タタっ斬られたクセに調子に乗りやがって。
 レベルアップしてたから倒したと思っちまったんだよ。
 システムを組む時に訓練でもレベルが上がる様にって設定したのが裏目に出たな。
 分裂されるとターゲットの効果も切れるし。


 レティが笑いながら俺に席に付けと促してくる。
 言われんでも座るわ。
 長いテーブルには既に何人か座っていた。
 恐らく最初に感知したレベルの飛びぬけて高い5人だろう。
 人数も間違いないようだ。


「もうなんでもいいから、さっさと結界の中に入る方法か結界事態を消失させる方法を教えてくれ」


「そういえば、そんな話だったな」


「忘れてんじゃねえよ」


「すまんすまん。だが、シルが私を笑わせすぎるのが悪い」


「一々掘り返さなくていいから。早く教えてくれ」


「そうだな。アリル、説明してやってくれ」


 アリルと呼ばれたメガネの奴が話始める。
 一言で言うなら優秀な美人秘書だな。
 肌が紫色の事を除けば普通に人間だ。
 鑑定結果は種族デーモンとなった。
 悪魔なのか?
 悪魔って確か外的要因じゃないよな。
 だが、鑑定結果は外的要因だと告げている。
 次元の狭間の向こうの悪魔って事か?


「はい、魔王様。では人間、よく聞くように」


「ああ。頼む」


「あの結界は絶対に外部からは崩せない。内部からアーカイブのシステムに直接解除の信号を発信させなければ解除は出来ない」


「何だと……」


「まだ話は終わっていない。確かに物理的魔法的に無敵の結界だが、一部分だけ穴を開けなければならないという制約を背負っている。その穴からの出入りは可能だ」


 じゃあなんでそこから進軍しねえんだ。


「ではそこから攻めればいいんじゃ無いか、と思っているんだろ? 違うんだよシル、そこには強力な神獣が居てな、私たち魔王総出で倒そうとしたが傷一つ付ける事は出来なかった。だから結界に入る条件はその魔物の排除、並びに封印と言ったところか」


「魔王様の言う通りです。出入り口を守っている魔物はフェンリル、首輪で繋がれていますのでその場所から動く事はありません。ですが、そのために気を引いている間に侵入などの方法も取る事が出来ません」


 フェンリルか。
 俺の切り札を使えば突破できるか?
 だが少々危険か。
 もう少しレベルが欲しい。


「そのフェンリルって奴は魔法は使うのか?」


「いえ、観測した情報には魔法の類は使わないとなっています。単純に魔王様方に魔法を使う必要を感じなかったという可能性もありますが」


「なっ! 私はそんなに弱くはない」


 魔王でも傷のつけられないフェンリルか。
 何か種がありそうだな。
 鑑定してみれば何か解るかもしれないか。


「取り敢えず、話は分かった。俺をそこに案内してくれないか?」


「うむ。私が案内しよう」


「困ります魔王様、まだお仕事があるんですから」


「それはアリルが代わりにやっておけ」


「無茶を言わないでください」


「上司の命令だ四の五の言わずやーれ!」


「はい…………」


 あの魔王、やっぱなんちゃって魔王だ。


「それじゃあ行くぞシル、取り敢えずこの城の屋上に転移してくれ。そこから飛んで行く」


「なあ魔王、最後に聞かせてくれ。何でこの世界に攻めてきたんだ?」


「私達にはあちらの世界が合わなかった。私達には居場所が無かったんだ。だから一部の上位個体である魔王とその家臣の住処を求めてこの世界にやって来た」


「ならアーカイブを狙う必要は無いんじゃないのか? お前らは立派な城を七つも持ってるじゃないか」


「そうだ。正直な話、世界征服なんてする理由は無い。だがアーカイブは放置できないんだ、アイツらは私達の生活の邪魔をするから」


「なら、お互い不干渉であればお前らも躍起になって侵略しなくてもいいのか?」


「そうだな。世界という奴は外部の者を排除する習性がある。私達はそれをさせないために戦っている。侵略してアーカイブを引きずり出そうとしているんだ。あのフェンリルに勝つ事は諦めたがな。それにアーカイブがあの中で何をしているかも不明だ。そんな状態が私たちは不安なんだよ。人間たちには迷惑をかけている。だが!私たちは他の何を犠牲にしても幸せを手に入れる」
















 魔王の城から少し離れた場所に確かにフェンリルが居た。
 かなりデカいな。
 四足歩行のクセに高さが俺の三倍近くある。
 毛並みは緑色に発光しててなんか恰好いい。
 さて、鑑定結果は。
 種族神獣。
 レベル九千九百九十九。
 ステータスは九十九万九千九百九十九。
 スキルは無し。


 うっわ守備力も999999だ。
 そりゃ魔王の一撃も通らねーわ。
 完全に故意で作り上げたって感じの生物だろありゃ。
 アーカイブの最後の砦か。
 でも、こん位で諦める訳にはいかねーな。


「それじゃあ魔王行ってくる。お前は帰っていいぞ」


「なっ! 待て貴様、正気か!?」


 飛行の魔法を解除して、フェンリルに向けて突っ走る。
 遮蔽物の無いフィールドだ。
 見つからないように素通りするのは不可能。
 なら真正面からツッコむだけだ。
 さっきのスライム戦で手に入れたスキルポイントで必要なスキルは獲得した。
 後は迷わずツッコむだけ。
 胆力、頼んだぜ!


「霊化発動!」


 これで俺に物理干渉できるのは幽霊か霊感スキルを持つ奴だけだ。
 鑑定によればあいつにスキルは存在しない。
 素通りさせてもらう。
 お前を倒してやってもいいが、機能停止して魔王と愉快な仲間たちに侵入されても厄介だ。
 お前を倒さずに通り抜ける。
 これが俺の答えだ!


 フェンリルは俺が透明化する瞬間を確認したのか、俺の走る場所を予測して爪で攻撃してくる。
 カンストしたスピードは確かに脅威だし、事実見えねえ。
 だが俺にその攻撃が当たる事は、ねえ!


 フェンリルの一撃は空を切り、俺は結界内への侵入を成功させた。




 そこには大きな洞窟があった。
 中に入ると、円になる様に下り階段が作られている。
 降りるしかないよな。
 ここにシルフィーナがいるかもしれないんだ。
 やっと会える。
 居なかったとしてもアーカイブなら居場所を知っている筈だ。
 階段を下りきると異様な雰囲気の空間に出た。
 肌寒い。
 大きさは体育館ぐらいだろうか。


「kisaマは、テンセイ者だな? 何故我らに会いに来た?」


 少しずつ自然な声色になって行く機械的な音が聞こえた。
 危機察知にもマップにも何も表示されていない。


「シルフィーナを貰いに来た。俺の居た世界では嫁さんの親御さんに挨拶に来るのは常識だからな」


「シルフィーナ?人間的意思の事か。あの物は分解する予定だ。渡す事は出来ない」


「どうしてシルフィーナを分解する必要がある!」


「あの存在は不可侵の物でなければ務まらない、シルフィーナは人間と関わり過ぎた」


「だからって、テメーにそれを決める権利はねえだろうが!!」


「あれはアーカイブが作った。作った物を分解して部品とするだけだ。逆にどんな問題があるんだ?」


 ここだ。
 やっと交渉のテーブルに着いた。


「あるさ。シルフィーナの生殺権を持っているお前らは俺に多少の譲渡を頼むことが出来る。俺の力があれば、外的要因の件がかたずけられる」


「説明を要求する」


「例えば俺はさっき外的要因の上位個体、魔王と話してきたんだがな、魔王はお互い不干渉を約束するなら攻撃は止めると言っていた。そのチャンスを生かすのか不意にするのかはお前次第だ。それに異世界人を排除するためにほかの異世界人を呼ぶまでしちまったんだ、もう戦争する必要もねーだろ」


「確かに。納得した。シルフィーナは君に預けよう」


「ずいぶん簡単に納得するじゃねーか」


「構わない。世界へのダメージが収まるのならば少しの移住くらいは認めよう。君が言った通り大量に異世界人を転生させてしまったしな。我らとて不可侵ならばそれでいい。足りなかったのは仲介役だったのだな……。我らが歩み寄ろうと、彼らが歩みよって来ようとも、どちらも信用しないだろう。だが君の言葉なら信用できる。彼らもそう感じるのではないだろうか」


「そうだな。魔王も絶対納得させる」


「我らとの連絡役も必要な事だし、シルフィーナは君に預けてもいいかね?」


「任せろ。責任もって嫁にする」


「それじゃあこの水晶に手を当ててくれ」


 声がした直ぐ後に部屋の中心に水晶が出現した。


「これは?」


「君のシステムをアップデートしよう。シルフィーナは我らにとっても貴重な存在だ。こんな言い方は君は嫌いだと思うが、この世に一つしかない大切な資源なんだ。失う訳にはいかない。君にはもっと強くなってもらう」


「ああ、了解した。もうシルフィーナを絶対に泣かせたりしねえ」


「期待している」


 俺は水晶に触れた。
 そして意識を失った。


 目覚めたのは自室のベットの上だった。
 横にはシルフィーナの横顔があった。

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