異世界に召喚されたのでさっさと問題を解決してから

水色の山葵

十二話 対面



 魔王城の中は、なんというかおしゃれだった。
 置かれた装飾品がなんか輝いてる。
 レッドカーペットなんてリアルで初めて見たぞ。


「止まれ」


 この城で飛びぬけて強い5人のうちの1人、もう見つかっちまったか。
 まあ殴り込みだ。
 全員ボコボコにして情報を吐かせる。
 かなりデカイが、デカいってのはスピードがねえって言ってるようなもんだ。


「何だよ?」


「何者だ?」


「俺? 侵入者。 ジェットバースト!」


 暴風魔法で一気に吹き飛ばす。
 後方の壁にぶち当たった大男。
 気絶はしていないようだが、かなり戦闘不能だ。
 弱すぎる。
 なんだコイツ、戦闘向きじゃないとかあんのか?
 あのガタイでそれは無いか。
 その時、俺の危機察知鳴り響く。


「おい、何処を見ている」


「なっ!」


 大男が後ろに居た。
 視点が高速で回った。
 どうやら殴り飛ばされたようだ。
 痛みは無いが、なんか酔いそう。
 全状態異常耐性が聞いてるのか直ぐに気持ち悪さは引いた。
 吹き飛ばされたが、立ち上がる障害は何もない。
 鑑定くらいは必要だったな。
 種族名、スライム。
 なるほど。
 スキルにも擬態やら分裂やらそれらしいもんが並んでやがる。
 レベルは大体二百五十。
 平均ステータスはちょい。
 思ったより弱いな。
 ハイパーモンキーの方がレベルは低いが、コイツより強そうだ。
 やっぱりあそこの環境はなんかおかしいな。
 今はコイツか。
 種が割れちまえば警戒する事も無い。
 ターゲット、これで見失わない。
 スキルに斬撃衝撃無効がある。
 そのせいでさっきの暴風魔法の効果が薄かったのだろう。
 通用するのは魔法のみ。
 だが、魔法系の耐性を持ってない時点で役不足だ。


「ヘルファイヤ!」


 黒い炎は大男の形をしたスライムに突き進む。
 スライムは予想していたのかさっきと同じ様に分裂し、分身を盾にしてで逃げる。
 それを見逃すほどお人よしじゃねえ。


「転移! スラッシュ・改!」


 転移でスライムの後ろに回り込む。
 ヘルファイヤエンチャントの剣で切り付ける。
 スラッシュは剣の付属スキル、剣技・改の効果で剣を使ったことの無い人間でも、理想の動きを出来る。
 横一線に切り裂かれたスライムはこと切れた。


 時間はまだあるだろうが出来る限り急ぐべきだ。
 だが、5人全員がコイツみたいにめんどくさい能力を持ってると時間が惜しいな。
 今の一戦でも結構レベルアップしたし、魔王の所に突っ込むか。


「転移!」


 マップ内なら転移は使える。


「貴様何者だ」


 魔王発見。
 外的要因のボスクラスなのは間違いない。
 種族名魔王
 年齢は千歳越え。
 レベル五百十一。
 平均ステータスは十万弱。
 スキルは数えきれねえ。
 まともにやりあえば負ける。
 が、負ける気はねえぞ。
 それと、ヤバい美少女だ。
 ゴスロリで、背が小っちゃくて出るとこは出てる。
 止めろ俺、俺はシルフィーナ一筋だってんだ。
 胆力、胆力、胆力、よし。


「こんばんわ、魔王様。何者かと問われると、不法侵入者ですと言うしか無くなりますね。あーでも話し合いが出来たらなって考えての行動ですんで」


「何を戯けた事を言っておる。この私の寝室に押し入った罪、身体で払え。ディストラクションノヴァ」


「俺に魔法を撃ってくるなんて言い度胸だ。ディスペル」


 破壊の爆発は俺の鼻先を僅かに掠る程度まで膨張したところで消え去った。
 あぶねえ。
 体力がゼロにならない限り、俺の肉体は再生するので肉体的には無傷だ。
 だが、体力の数値だけを見るなら、鼻先をかすっただけで一割以上削られた。
 威力だけ見れば俺の使えるどの魔法よりも強力だ。


「貴様、中々やるではないか」


「あんたと戦ってる暇はねえんだ。それよりアーカイブに行く方法を知らないか?」


「人間、何故そのことを知っている?」


「俺の嫁さんがそいつに攫われちまってさ。今助けに行こうと思ってたんだけど、なんか結界があるみたいで転移出来ねんだ」


「確かにアーカイブには球体上に結界が貼られている。それを開ける方法も私は知っている。だが貴様にそれを教えて何かいいことがあるのかい?」


「あんた等だって、結界を開きたいんだろ? だから円周上に陣取ってるんだ。なら俺が結界を開けちまうかもしれねえだろ」


「ははは。それは違うぞ小僧、私たちは引きこもってしまったアーカイブが出てくるのを待っておるんだ。だが、出てこないならそれでもいい、物量に任せてこの世界を頂くだけだからな」


「そうか。でもちょっとおかしいな。その口ぶりだと、引きこもったアーカイブを強引に引っ張りだす事が出来ないって言ってるように聞こえるぜ」


 こいつらの目的はこの世界の世界征服。
 理由は解らないが、十中八九そうだろう。
 そしてアーカイブを取れないから物量に任せていると言っている。
 ならアーカイブの持つ何かがあればもっと簡単に世界征服か、その先に待つ目標を達成できる。
 アーカイブは世界の権限をある程度持っているようだし、コイツ等の狙いはそれか?
 だが、それならやはり結界を破って欲しいはずだ。
 こいつ等にアーカイブを取らせる気は毛頭ないが、シルフィーナを救うにはこいつ等から結界の解除方法を聞き出す必要がある。


「貴様、私を舐めているのか?」


 鋭い眼光が俺を貫く。
 試すような目。
 だが、何故だろうか俺は全くその目を怖いと思わなかった。
 胆力か全状態異常耐性のおかげか?


「俺が結界を解除してやるから解き方を教えろよ」


「ふっはは。まあいいだろう。ついて来い」


 そう言うと魔王は扉の方に向き直った。
 扉を開けると歩いて行く。
 俺もそれについて行くように部屋を出た。


「魔王様? 名前教えてくれよ。俺はシルだ」


「レティじゃ」


 あれ、本当に本名教えてくれた。
 全く信用されてねえのかと思ったが、全くでは無いのか?


「それじゃあレティ様、今どこに向かってんのか教えて貰ってもいい?」


「ん? 会議室。私が説明するより家臣が説明した方が絶対だから。それに私よくわかんないし」


 まじかよ。
 なんだ、そのなんちゃって魔王。
 まあ、強さで魔王を決めてるなら納得ではあるか。
 どうやら会議室とやらに着いたようだ。
 レティが1つの扉の前で止まった。


「実はな人間、私の副官の中に念話という特殊技能を持つ奴がいるんだが、うちの四天王のスライムがやられたらしいのだ。やったのは貴様か?」


 う、ばれてやがった。


「ああ、俺が殺した」


「ん、殺した? そうかそうか、それは凄いの」


 なんで笑ってんだ?
 まあ魔王だしサイコパスが平常なのか?


「まあ入るがよい」


 そう言ってレティは扉の横に控えた。
 一歩前に踏み出してドアノブを回す。
 開いた扉の先には、なぜかさっきの大男スライムがいた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品