道化の勇者、レベル1でも活躍したい
囚われの姫
神剣ディザスター。俺はこの武器を選択した。
真価は触れている対象にしか効果はなく、ヘブンディザスターはすぐに元の神剣クラウドに戻ってしまった。
昴は神剣ヘブンの方を選択し、俺はディザスターを選んだ。
それにしても、あんな練習で切り札をあんなに切らされるとは。勇者の能力をほぼ全て持っていかれた。
しかし、余談になるが『パンドラの門』は『実影の門』と違い、死を無効にする効果は付与されていなかったらしい。
昴は今度殴っておこうと思う。
「それでは勇者様、今回手に入れた魔道具を見せて頂けますか?」
俺達勇者は例外なくアイテムボックスを持っているので報酬となった魔道具はそこに入っているのだろう。
事実、俺達はみんな手ぶらだ。
第一王女の言葉に従い俺達は門で手に入れた道具を手に出現させる。
真田昴 神剣・ヘブン EX
黒峰麻霧 神剣・ディザスター EX
坂嶺美沙音 聖剣・契 S
篠目麻耶 創成の魔法杖 S
相良豹麻 爆裂の聖盾 S
四ノ宮宮根 並列加速鏡 S
まあ、なかなかヤバイ物のオンパレードだ。ランクEXというのはこの世界に自然に存在しない限界突破の品だし、他のSランクってのも『実影の門』で出せる最高ランクだしな。
アルネス様の『サーチ』によると、ヘブンには吸収。ディザスターには分解の能力が備わっているらしい。
聖剣・契は契約対象の量によって攻撃力や特殊能力が限界無く上昇する効果がある。
創成の魔法杖は名前の通り、魔法を作成、発動する効果があり、それは空気中の魔力の消費で行う事が合出来る。
四ノ宮が『刻印』でやってた事を再現できる訳だ。まあ普通に考えて強力過ぎるよな。
爆裂の聖盾は防具ではなく、兵器だ。盾から炎系統の最上魔法『グレン・レイ』が予備動作無しで発動する。消費魔力も0だ。
並列加速鏡は単純に並列処理数と思考速度を倍にする。四ノ宮につける事でチート性能になる事は簡単に予想できるだろう。
「素晴らしい品々です」
姫様が引き攣った顔でそんな事を言っている。俺は心の中で同意した。
今日はこれで解散のようだ。
まだ昼過ぎだったので、俺はいつものように書庫に引きこもる。
「おはようございます!」
すると当然の事のようにそこにはルーシィが居た。そう言えば結局親善試合での目的は何だったのだろうか。
まあ、俺が完璧に監視していたからこの女には何もさせなかったがな。
「もう昼過ぎですよ?」
「私は先ほど起きたばかりです」
さいですか……。
思ったよりニート的な生活をしているようで。
「時にマキリ様、ステータスは他人に見せる事が可能であると知っていますか?」
「ああ、それなら本で読んだ事がある」
ステータスは開示する事が出来る。この機能は偽装が不可能な為そこそこ使われると聞く。
主に取り調べで。
「私のステータスを見て頂けませんか?」
「何故に?」
「見ればわかります」
「まあ、いいけど」
「ありがとうございます」
礼を述べる彼女の声は、その笑顔と裏腹に震えていた。
俺は、直ぐにその理由を知る事になる。
★
ルーシィ・メラトニアLV3
種族 人間
職業 王女
状態 不治の呪い 猛毒 愚鈍 麻痺 弱体 自動治癒
スキル
剣術
魔法
固有スキル
精霊の瞳
★
「状態……」
状態というパラメータは通常の状態ではない場合に出現するパラメータだ。
つまり、彼女は同時に様々な呪いに毒されているという事だ。
「私の衰弱具合を考えるともう長くはないようです」
「そうか……」
ここで、俺が取り乱しても何も解決しない。自ら開示したパラメータは偽装不可能だ。
ならば、これが事実であり、彼女にはこれを俺に開示する理由があるはずだ。
「なので勉強会は今日が最後です」
「そうか……」
「私はこの時間が楽しかった」
「俺もだよ」
「嬉しいです」
なら、なんでそんなに悲しそうな顔をしてるんだよ。
「マキリ様。ありがとうございました」
「ちょっと待て!」
俺は何をしている。こんな事をしてどうなる。引き留めて何をしたい。
「教えてくれ。なんで俺にそれを話した」
「さあ、何故でしょうか?」
「呪いの内容を教えろ」
「不治の呪いはマイナスの状態異常を解除する事が出来ない呪いです」
「誰がやった」
「魔王の一体です」
「なんでそんな事をする必要がある」
「解りません。この王城に現れた魔王は兵士を数十人と殺し、私にこの呪いをかけて行きました」
「そいつの名前は」
「魔王デューザ」
「俺にはお前を助ける理由がない」
「はい。事実、今現在の戦力で魔王デューサの発見・討伐は不可能でしょう」
何を考えている? 助ける方法を考えている。
理由がない。 必要か?
助けるメリットがない。 必要か?
俺には助けられない。 ならもっと計算しろ。
どうして、俺はルーシィを助けたいと思っている。
「私はマキリ様が何時か魔王を倒すと信じています」
「お前はそれまで生きていれるのか?」
「私が生きている必要はありませんよ。戦力を整え勝てる時に勝てばそれでいいのです。私の命など消耗品の一つでしかありませんから。人間一人の命にそれほどの価値はありません」
「お前は生きたくないのか?」
「私が生きる方法はありませんから」
「そんな事はどうでもいい! お前は生きたくないのか!?」
何を言っているんだ俺は。どうせ何も出来ないくせに。そんな事を聞いても意味は無い。
「私の命に価値はありません」
なんでお前はそんなに笑ってるんだよ。
「貴方が私を想ってくれるだけで幸せですから」
なんで、俺はこの女を助けたいと思ってるんだよ。
本気でルーシィは生きる事を諦めている。今の俺には魔王を倒す以外の解決策が見つからない。だから、助ける事は出来ない。
四ノ宮の『再生』、あれじゃ時間稼ぎにしかならないし一緒に記憶も飛んでいく。それは嫌だ。
幻想召喚で無理矢理解除する。何を召喚すればいいかわからない。
夜獄に連れて行く。あそこの結界なら呪いを解除できる可能性がある。出来ない可能性が高い。
「決めたよ。俺の目的はお前に生きたいと言わせる事だ」
「え?」
「だから、少しだけ待っていてくれ」
空の移動で転移する。彼女の命は残り一日だ。
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