道化の勇者、レベル1でも活躍したい

水色の山葵

アイテムと国宝と



「我が国は勇者一同は既に実戦を行うだけの戦闘能力があると判断しました」


 現在、俺達勇者は第一王女の管理となっている。理由としては、国王が残り数年で王位を退く自分よりも、次の王女が勇者との関係を築いていく方がいいと判断した事。そして何よりも、第一王女の固有スキルが『サーチ』だった事にある。このスキルは言わば詳細鑑定と言い換える事の出来るスキルで、詳細物質鑑定と詳細生物鑑定を併せ持つ。


 その上で王女は言っている、俺達は既に戦力となり得ていると。まあ、あの親善試合を見れば誰だってそう思うだろう。


「しかし、実戦と言っても何をしろと?」


 相良の質問に待ってましたとばかりに第一王女アルネスが目的物を話す。


「この国には大陸中から集められた様々なアーティファクトが存在します。今回はそのアーティファクトを使って勇者様方の強化を予定しています」


 それは実戦ではないのでは? と思うが、まだ話は終わっていないらしい。


「今回使用するアーティファクトは『実影の門』と呼ばれるもので、幻覚のダンジョンに勇者様方を送り込みます。ですが『実影の門』は通常のダンジョンとは違う使用者に適した難易度のダンジョンを作成します。そして挑戦者はダンジョン内のアイテムを1つだけ持ち帰る事が出来るのです」


 更に詳しく王女から実影の門の効果を聞く。まず、このアーティファクトは挑戦者が強者であればあるほどに難易度と内部のアイテムのランクが変化する。つまり、強い物が入ればそれだけレアアイテムを手に入れる可能性が上がるのだ。今回の目的だが、そこから勇者の武器として相応しい道具を持ち帰る事のようだ。


 次に同時使用人数だが、挑戦者は同時に二人までしか挑戦できない。その場合でも一人一つの条件は変更されず、二つのアイテムを持ち帰る事が出来る。内部構造や罠の類いも挑戦者の強さによって変化する。この強さの基準だが、どうもレベルではないらしい。S~Fまでで挑戦者の総合評価が下される。どういう仕組みかは不明。そもそもアーティファクトってのが構造も製造方法も動力も作成者も不明な謎物質だ。多分神とやらが関与してるんだろう。神が関係するあらゆる事は俺が今考えても仕方ないので割愛する。最後に一番重要な事だが、最初の実戦にこのアーティファクトが選ばれた理由として死ぬ危険が存在しないのだ。ダンジョン内は基本的に幻覚空間で持ち帰った物だけが現実化する。たとえ、ダンジョン内で死亡したとしても、それは幻覚の死亡と置き換わり扉の外に出されるだけで傷も元に戻るらしい。


「という事で『実影の門』をご用意しました」


 最初に召喚された部屋に呼び出れたのだが、王女の後ろには存在感のある扉が立っている。通常、扉は部屋を区切る為にあるのだが、この扉は扉単体で存在している。どこでも扉だ。


「『刻印』」


 まじまじと見ていた四ノ宮が急にスキルを発動した。扉に刻印を付与するつもりらしい。だが、そう簡単にも行かないようで四ノ宮の舌打ちが聞こえた。


「どうやらかなり強力なプロテクトが掛かっている。まあ、それが無くても解析不能なせいで支配は不可能だが」


「てか、何しようとしたんですか?」


 流石に四ノ宮の行動は突拍子が無さすぎて無視はできなかった。


「刻印で支配権を奪い取れば持ち帰るなんて非効率な事をしなくとも吐き出させられるのではないかと思ってね」


 確かにそれが出来るのなら最適だ。しかし、躊躇なくやるかそれ。壊れたらどうするつもりなんだよ。


「四ノ宮様、さすがに国宝にスキルを発動させるのは遠慮していただけると……」


 アルネスも流石に今の行動を容認は出来ないようだ。当たり前だ。


「分かった。もうしない」


「ありがとうございます。それでは勇者様方には二人一組のペアになっていただけますか?」


 確かに一人が六回行くより二人が三回言った方が効率的だ。
 で、別れた結果。四ノ宮、相良ペア。篠目、坂嶺ペア。俺、真田ペア。


 うん。別に組みたかったわけじゃないんだよ。けど、真田の奴に強引にやられた。


「それでは順番を決めましょう」


「僕たちは最後でいいよ」


「私達は何番目でも構わないわよね」


「はい。構いませんよ」


「それじゃあ俺達が最初に行くか」


「異存無い」


 2人が扉に入っていく。これってもしかしなくても待つのか?


「一回にどれくらい時間が掛かるんですか?」


 篠目も気になったらしく、第一王女に問う。


「大体30分といった所でしょうか。ダンジョン内部は大きな広間のような空間になっていて、そこに挑戦者と同じくらいの強さの魔物が出現します。それを倒せば終了となるので、ダンジョンと言うより闘技場に近いです」


「では持ち帰る魔道具と言うのはどこで手に入れるんですか?」


「ボスを倒すと自動的に魔道具が数十と出現します。それを一つ持ち帰れるわけですね」


「なるほど」


 そう言って篠目は顎に手を置く。その説明を聞いて悩んでいるのは俺と王女以外の全員だ。


 この魔道具の特性はつまりボス戦が前提な訳だ。一体から数体のボスが出現し、それを倒す事で武器やらのアイテムを入手する。探索しなくてもいい分楽なような気もするが、逆に強敵感が上がってるような気もする。


 相良と四ノ宮が扉に入って数分。扉が開いた。


 それは、たった数分でボスモンスターを倒したか敗北した事を意味する。そして、扉から出て来た二人は余裕の笑みを浮かべ、手には何かを持っていた。


「規格外……」


 王女が驚愕を浮かべ、譫言のようにつぶやいた。ただこの場合、彼女の反応は正しいだろう。俺だってびっくりだわ。なんで強さで難易度が変化してんのに数分で終わるんだよ。だけど、こいつ等に対する大体の疑問はこいつ等だからで解決するしかないんだよなー。


「私達はSランク判定だったらしいが、言うほど強い敵ではなかったぞ」


「素晴らしいです! S判定はこの扉を使った数百人の内にも数例しかありません。最高値でしかもこの短時間で攻略されたのは紛れもなく初です!」


 もうほんとツッこむのがめんどくさい。


「今度は私達ね!」


「はい、頑張りましょう!」


 篠目と坂嶺が扉に入っていく。


「麻霧、何分で終わると思う?」


「そうだな。10分ってとこか」


「不正解」


「なんでそんなに自信があんだよ」


「彼女達の能力は相性がいいからね。それに、美沙音は特別だから」


「彼女自慢なら他の奴にしてくれ」


「いいや、事実さ。答えを言おう。30秒だ」


 昴がそう言うのとほぼ同時に扉が開いた。


「ほらね」


 だとしてもアイテム選択時間があるんじゃねえのかよ!


「ただいまー」


「少し疲れました」


 勇者って何でもあり過ぎるんだよなー。


「昴君、次頑張ってね」


「もちろん」


「ま、麻霧さん。頑張ってください」


「ああ、行ってくる」


 大きな扉が目前に迫る。重量感が凄い。何かしら力強さを感じる……気がする。今からするのは戦いで殺し合いだ。それは、幻影だからいいとかそういう話じゃないと思う。けど、それを言い出すとゲームで撃ち殺した相手プレイヤーはどうなんだって話になる。リアリティの問題で、ならこのファンタジーで俺は嫌悪するのだろうか。熊を殺した時は深く考えなかった。単純に生存本能で殺した。今度は違う、今度は故意に自由に自分の為に殺す。はぁ。アホらしいな。元の世界でだって100年前は人を撃ち殺した事のある奴がごまんと居たはずだ。善悪は状況と主観で決定する。


「それじゃあ行くか」


 ただ、殺す。それ以上に現象を説明する必要はない。


「ちょっと待った!」


「おいこらてめぇ。俺の心境返せ」


「ん? 何が?」


「何でもねえよ。で、なんだよ?」


「王女様はダメだって言ってたけど、けどまあいいか」


 えっと、この人は何を言っているのでしょうか。


「はい。『真価』っと」


 黄金に輝いていた扉が一気にどす黒く変色した。鑑定してみよう。パンドラの扉、ランクEX。あ、こいつとち狂ってるわ。


「ちょっ、真田様! 一体何を!?」


 姫様の声が聞こえる。悲鳴に似た恐怖も混じった声。そりゃ、金色の国宝を黒く染められたら恐怖も混じるか。


「麻霧! 行くよ!!」


 俺は、扉の中に引っ張られていく。ああ、なんか最初に夜獄に落とされたときに似てるな。


「まあ、あいつらはしょうがないわよね。そう言う奴らよ」


「うむ。若い内はどれだけ枠を拡張できるかだしな」


「麻霧さんも真田さんも多分、精神年齢10歳くらいだと思います」


「変な事っていうのは一応才能だから、いいんじゃないか」


「「「「バカ(よ)(だな)(ですね)(だから)」」」」


「勇者様、一応国宝なんですけどーー!!」


 最後に聞こえた声は、勇者一同のあきれた声と第一王女アルネス・メラトニアの悲鳴だった。
 もう、ほんとなにこれ。

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