道化の勇者、レベル1でも活躍したい

水色の山葵

万能と数多



「次は僕の番だね」


 真田はそう言って中央へ移動する。








 ◇◇










「真田昴。よろしくお願いします」


 僕の相手はこの細身の男性のようだ。自信に満ちた目からは敗北を考えていないような、純粋な力を感じた。


「数多の勇者。ルーツ・ケルフェイン。さっきは補欠が失礼したね」


「補欠?」


「ああ、彼らは僕の補欠なんだ」


「それは、一体どういう意味ですか?」


「ん? 言った通りだよ。僕の身体は一つしかないから僕が悩まされる案件は少ないほうがいいだろう? 彼らは僕じゃ無くても出来る仕事をやってくれる補欠って事さ」


 どうやら、この男の自信は彼の成功率の高さから来るもののようだ。確かに、成功は人を成長させる。それは僕もそう思う。けれどそれは、失敗しない方がいいって意味じゃない。どうやら、この人はそれが理解出来ていないようだ。


「それで、数多の勇者は何ができるんですか?」


「全てさ! 僕のスキルは過去最高数の23個、他の人類との圧倒的な差は数値として証明されてるって訳だ」


 ああ、僕は幸運に恵まれているらしい。こんな事なら麻霧と無理矢理勝負をしたのは無駄になるかもしれないな。こんな所にこんなレアアイテムが転がってるなんて。


「どうした? 僕のスキル数を聞いて不安になったか? だけど、それは仕方のない事だ。君は当然の反応をしているだけで何も恥じる必要はないよ」


「いいえ。ただ、貴方程特殊な人を僕は見た事が無かったので」


「それはそうだろう。なんせ僕は世界初で世界一だからね」


 世界初? 笑わせるな、それは天才にだけ許される特権だ。断じて、貴様のような雑魚が名乗っていい称号じゃない。


「まあ、お喋りもこの辺にしようか。そろそろ始めよう」


「そうですね」


 始めようと言った割に構えたりはしない。武器も取り出さない。奴も僕も素手だ。多分、スキルを使うにあたって武器が必要ないのだろう。


「炎雷の魔弾」


 ご丁寧に何をするか教えてくれるようだ。最初の他国の勇者のスキルに雷の性質を加えたスキルか魔法って事だろう。
 更にご丁寧な事に指で撃ち抜く方向を指定してくれている。そんなのは放たれる前に避けられる。


「ファイヤランス」


 今度は巨大な炎の槍が出現する。投擲する仕草と共に高速で突っ込んでくる。しかし、さっきの魔弾ほど速度は出ていない。避ける。


「アイスランス」


 次は氷の槍か。威力はさっきより落ちてるし速度は同じだ。避けるの苦労はしない。


「『飛翔』!」


 本体が加速して突っ込んでくる。ジャンプ力アップってとこか。


「『空脚』!」


 回し蹴り。しかも密度の高い風を纏っている。避けても風で吹き飛ばされる。両腕でガード。
 膝をつく事無く、持ちこたえた。


「そらそら、ずっと受け身のまま居るつもりかい!?」


 またもジャンプ力アップで加速して、僕に拳が届く距離まで詰められる。ジャブ、ジャブ、フック、ストレート。急にプロボクサーみたいな動きに変化する。これもスキルか。


「『次元箱』! 来い! ミスリルの剣!」


 突如として白銀の剣が握られた。あれで切られたらさすがに死ぬ。僕もアイテムボックスから剣を取り出す。それで受けてみたが、手に伝わる感覚が痛みだった。武器の性能も段値だが、何より今度は動きが歴戦の剣士の動きに変わっている。


 武術系スキル。多分、剣術。


「まだまだ! 来いシェルシールド!」


 空いた手には盾を装備した。剣は辛うじて受け止めているけど、そうすると盾で殴られた。ふらつく視界を戻そうとするが、目前に迫る脚が見えた。


「『空脚』!」


 今度はガードが間に合わなかった。モロに食らって吹っ飛ばされる。








 ◇◇








 何で遊んでるんだよあいつは。あいつ絶対性格悪いわ。確かに模倣の効果を知らなければあれが真実だろう。どうせ、スキルをコピーする為に全部のスキルを使わせようとか思ってるんだろ。相手は『数多』の勇者らしいし。


「麻霧さん、昴君は大丈夫でしょうか?」


 どうやら、何度も攻撃を受ける真田を見て篠目は心配になったらしい。


「棄権させるか?」


 四ノ宮、あんたもか。独身の癖に母性とか出せるんですね。


「いや、真田にも何か考えがあるのかもしれん。まだ様子を見よう」


 相良さえも真田の勝利を疑っているらしい。まあ、ボコボコ殴られてるあいつが悪い。


「おい、どうせ……」


「黙ってみてなさい。昴君は負けないから」


 あ、はい。なんでもないです。同じ学校だった事も関係しているのだろうか、坂嶺だけは真田の勝利を疑ってはいないようだ。


「ま、危なくなったら俺の不動盾で割り込めばいいだけだ」


「ああ、私の再生なら死んでも元に戻る」


 家の勇者チート過ぎてヤバイ。
 とか考えてると、また吹っ飛ばされやがったよ。なんか手の平で転がされてる感がイライラする。どうせ、俺らや相手の顔見て内心ほくそえんでるに決まってる。


「昴! 遊んでないでさっさと決めろ!」


 少し熱くなってしまったな。これ以降はクールに行こう。俺が急に叫んだ事で昴や数多の勇者も俺に向き直る。けど、両方とも鼻で笑いやがった。うぜえ。いや、クールだクール。落ち着け。


「そうね、きっと昴君は心配させて遊んでるんだろうね。昴君! 自覚あんの!?」


 坂嶺がどういう意図でその言葉をチョイスしたのかはわからないが、二人だけがわかる何かがあるのだろう。もしかしてこいつ等…… それに気が付いたのは俺だけではないようだ。異世界の勇者のニヤニヤが増殖する。


「な、なによあんたら」


「いいえ、昴さんと随分仲がいいのですね」


「そういう関係だったんだな」


「まあ何れバレる事だ、観念するしかないだろう」


「うっさいわね! いいでしょ別に!」


 篠目、四ノ宮、相良が三者三様に恋バナに食いつく女子みたいな事を言っている。それを横目に見ながら昴は吹っ切れたように笑っていた。てか坂嶺さん、最初の普通の女の子の雰囲気はどこ行ったし。ツンデレでキレ症とかキャラ濃っ。いや勇者とか言われてるし今更か。








 ◇◇








 どうやら心配を掛けたらしい。麻霧は僕が手を抜いてたのに気が付いているだろうな。美沙音は当然解っているだろうけど、どうやら僕の身体に傷が付く事を彼女は容認してくれないらしい。


「まだ立つのかい? 彼らの激励なんて何の力もない。立った所で結果は変わらないよ」


 服についた砂ぼこりをはたいて落とす。


「別に僕はこのままでも良かったんですけど。どうやら、彼女にはお気に召さなかったらしい」


「彼女? ああ、あの女の子は恋人だったのかい? そりゃ立たない訳にはいかないね。けど意味は無いよ」


 いやホントに。だけど、僕の身体の所有権は僕にはないから仕方ないね。


「だけど心配しなくていい。君がここで惨たらしく散って彼女からの愛が消えても、僕が彼女を満たしてあげるから」


 その言葉は予想外だった。まさか、この僕がここまで馬鹿にされるなんて。いや、そう仕向けたのは僕自身だ。それにキレるのは理不尽だ。けど、こいつは今なんて言った? 僕から美沙音を奪う? やっと見つけた可能性を奪うって?


「は?」


 自分でも驚くほどの殺気があふれている。


「ひゃっ」


 そんな声を上げてルーツは飛びのいた。殺気を感じ取るくらいの戦闘経験はあるらしい。


「サンダー『付与』!」


 ルーツの剣に雷属性が加わる。あんなので叩かれたら感電で即死だろう。


「えっと。ルーツ・ケルフェインだったか? 家の勇者は蘇生も出来るから精々足掻いて死んでくれ」


「調子にのるな!!」


 は、剣術のスキルはどうした。そんなへっぴり腰の大振りに当たる奴なんていないよ。でも僕は優しく寛大だから受けてあげよう。雷を纏ったミスリルの剣に手を添える。


無に帰す力スキルブレイク


 このスキルは触れた対象の持つスキル効果全てを無効化するという物だ。つまり雷属性は無効化される。だが、斬撃の速度には効果はない。手の平に剣が食い込む。血が滲むがそんな事はどうでもいい。


「それは、ハイガミのスキル!? 何故キサマがそれを使える!!」


「案外化けの皮が剝がれるのは早いんだね。『炎弾』」


 このスキルの独創性はさっき見た。だから、僕は温度を上昇させる。ミスリルの熱伝導率はそこそこ高いようで、すぐに持ち手の部分の温度が上昇し、持てない温度となる。


「あつっ」


 剣を手放した。


「『飛翔』」


 至近距離で一気に飛びつく。頭突きだ。これで無に帰す力スキルブレイクの条件達成。


「くそが! スキルが使えないだと!?」


 この男は誰かに実況でもしているのだろうか。ミスリルの剣を拾い上げる。僕のオリジナルスキル。真価。そのスキルはアイテムの能力を数倍に引き上げる。三段階のランク上昇だ。ミスリルの剣はAランクのアイテムだ。つまり、僕のスキルを掛ける事でランクはS++。ちなみにそんなランクのアイテムはこの世界に自然に存在しない。


 S++になった事で能力が変化する。もともとは魔力の馴染みが良くなる剣だったのだが、真価はもはや別物だ。


『ミスリルの剣』+3
S++ランク
効果:魔力伝導率150%
   超身体強化
   自己回復
   自己修復
   聖剣剣術
   カマイタチ


 もともとの効果は魔力伝導率120%のみだったのが、かなりの能力向上になったらしい。Fランクの針をCランクにした時は毒の効果が付いただけだったのに。流石に限界を超えた品なだけある。


「終わりだよ。『付与』雷・氷・炎・光。『聖剣剣術』『カマイタチ』『身体強化』『超身体強化』」


「ああああ、盾術!! 身体強化!! 炎魔法! 雷魔法! 氷魔法!!!! なんで発動しない!!」


 無慈悲に僕は最強の剣を振り下ろす。そこに力なんて籠っていない。切れ味と重力だけで真っ二つに出来るからだ。そもそも人を一人殺すのにこんな力はいらない。ナイフ一本で人は死ぬ。なのにこんな殺意が沸いて死体さえも消し去ってしまうような攻撃をしているのは、僕の希望を汚したからだ。もしも本気じゃ無かったとしても今更関係ない。


「グッバイ。次は道の隅を歩くといい」


「参った! 降参! やめてくれえええ!!!」


 鈍い音を一線に無様な懇願は聞こえなくなった。

「道化の勇者、レベル1でも活躍したい」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く