道化の勇者、レベル1でも活躍したい

水色の山葵

思ったよりスキルが多い件



「それでは約束通りスキルを授けよう。じゃが、お主とはスキルを倍にするといい確約はしたが、どのようなスキルを授けるかと言った話はしていないな?」


 確かに俺が言ったのは数を倍にしてくれという要求であり、どんなスキルを五つ追加するかは決めれなかった。
 そこまで細かい要求の仕方は思いつかなかったし、綺麗にまとめた方が爺さんの逆鱗に触れる可能性が少なくなると思ったからだ。
 だが、基本スキルを見る限りはどんなスキルが加わったとしても俺にとってプラスとなる事に変わりはないだろう。


「それとお主勘違いをしておるよ。倍とはプラス5という意味では無い」


 うん? 基本スキルは5個。なら倍は基本スキルを5個プラスするって意味だろ。何が違うって言うんだ。
 いやまてよ!!?


「そうか。確かに基本スキルだけなら5個だが、もし上位スキルがあるなら……」


「そう、固有スキルもプラスされる」


「だけど、それなら俺にとっては喜ばしい事なんじゃないのか?」


「そうか? まあ今はよい。まずは基本スキルから選ぶとしよう」


 固有スキル。
 それが何を指す単語なのか解らないが普通に考えれば個で有するスキルという意味だろう。ならそれは一点物か、その基準を満たす極少数の人物だけが獲得可能なスキルなのだろう。
 それらを前提において、さっきの爺さんの言い方を踏まえると何となく爺さんが何をしたいのかが分かる。


「基本スキルは、身体強化、魔力操作、気配察知、治癒魔法、認識阻害としよう」


 基本スキルは内容を見る限りは普通の物と言っていい。別段弱い物を選ばされた気もしない。
 問題は固有スキル。


「次に固有じゃが、そもそもお主には3つ存在しておる。じゃから3つ追加じゃ。強制転移夜獄、レベルストップ、永続行動じゃな」


 やはりマイナス効果のスキルを付与するか。


「スキルの説明を要求したい」


「うむ。強制転移夜獄は夜の間だけ現れることから夜獄と呼ばれる一種の地獄に所有者を強制的に飛ばす効果がある。夜が終われば帰ってこれるがな。レベルストップはそのままレベルが1から上昇しない。永続行動は睡眠やエネルギー補充を後回しにする事が出来るスキルじゃ」


「永続行動以外はマイナス効果しかないんだが……」


「表裏一体という言葉を知らんのか? マイナスもプラスも同じ物じゃよ。それにお主に拒否する権利は無い。そうじゃろ?」


 いや、表裏一体ってそんな意味じゃねえよ?
 まあ、基本スキルを増やして貰ったのは確かだし、もとを正せば俺が招いた事だ。今更やっぱり止めるというのがこの爺さんに通るとはとてもじゃないが思えない。


「ならせめてレベルって言うのがどういった物なのかの説明くらいはして欲しいんだけど」


「よかろう。まずお主が行く世界の住人の全てはステータスという己の能力を可視化する術を持っている。
 その中で肉体能力を示した物がレベルである。
 レベルに上限は設定されておらんが、現状存在する最高レベル到達者はレベル21じゃ」


 21。俺がやっていたゲームでは勇者のレベルは99か100まで上げられる物が殆どだった。それを思い出してしまうと最高レベルが21というのは少なく思える。


「レベルを上昇させる手段だが。レベルは強さを示す指標だ、強くなれば上がる。レベル1につき肉体能力が1.5倍ほど上昇する。その違いは判るな?」


「解るよ。つまり1レベル上がるだけで俺のいた世界でいうアスリートの身体能力を越えられるって事だ」


「その通りじゃ。つまりレベル21だった人間のスペックは元の人間の4987倍されている事になるな」


 5千倍ってもうよく解らない。凄まじいという感想しか出てこない。


「だけど、俺はそれが上がらないんだよな」


 つまりはレベル1と2でもアスリートと一般人並みの身体能力の差が出るにも関わらず、俺はレベルを上げる事が出来ない訳だ。


「そうなるな。じゃが、それは考えの至らなかった自分を恨むがいい」


「そうする。それで、もう無いんですか? 基本でも固有でもないスキルは」


「まあ、そう考えるのが普通じゃな。あるぞ、お主だけが持っているオリジナルスキルが」


 オリジナルスキルか固有スキルと何が違うんだろうか。
 だが、レベルが上がらない以上は俺はスキル頼みで生きていくしかない訳だ。大丈夫、とは全く言えないな。


「じゃが、オリジナルスキルは授けられるような代物ではない。その個体が所有しているだけの完全な一点物のスキルじゃ。固有スキルであれば授ける事も出来たがオリジナルスキルはそうはいかない」


「ですけど、約束をたがえるつもりは無いんですよね?」


「無論じゃ。時にお主はお主がした最後の質問の内容を完全に覚えておるか?」


「当然覚えています。俺はこう言いました「俺のスキルを倍にして、少しだけ説明を貰う事は無理だろうか?」と」


「そう、そしてそこに同じ種類のスキルをその分倍にしろとはそもそも名言されていない」


 つまりはこのまま行くと、俺に適当な基本スキルが1つ追加されて終わりって事か。
 それは流石に見逃せない。


「だけど、爺さんはそう捕らえていたようにさっきの言葉やスキル選択からは伺えるが?」


「確かに儂は通常スキルを5から10に固有を3から6にした。じゃが、であれば基本を13にすると言った事も出来たのではないか。そう言いたいのじゃな?」


「そう、爺さんが始めたんだからそうするのが必然って物じゃ無いんですか?」


「じゃが、お主は言っていたでは無いか。主導権は儂にあると」


「確かに、だけど俺が言ってなければ俺のスキルをここまで好きに弄る事は出来なかった。違うだろうか?」


「教えてやったんだから譲渡しろと?」


「強制じゃない。別に何もせず、俺に被害があるスキルを好きにつけてもあんたは誰からも俺からも恨まれはしない。爺さんの好きなようにすればいい」


 まあ、ここで好きなようにされたら俺は詰みだけどな。
 だけどこの爺さんの役割である仲介役とは今決定している俺のような雑魚を勇者として異世界に送ってもいい様なものなのか。
 そしてこの爺さんはただただ俺に嫌がらせをして何の意味があるのか、俺にはその二つがどうしても分からなかった。
 俺は質問を逆手に取ってズルをした。
 けれどこの爺さんは俺が抗う事に腹を立てるような人柄では無いと俺は判断する。


「よかろう通常であればお主にオリジナルスキルは付与できない。じゃが儂という存在を定義しそれをお主にスキルとして授けるとしよう。スキル名は【時空神の加護】とでもしておこうか」


「オリジナルは無理なんじゃ無かったんですか?」


「これは要すると儂の加護じゃ。お主以外にやった事は無いし、やる未来も無い。じゃからこれはオリジナルスキルに分類される。儂から加護を授けられるのも才能と努力の結果じゃ」


「……効果を聞いても?」


「説明は技能版に乗せて置くので後で確認するといいだろう。人の言葉で説明するのは難しいのでな」


 時空神か、そうかもとは思っていたがこの爺さん神なのか?
 いや流石におかしいだろう、もしもこの爺さんが神だと仮定した場合、幾つもの矛盾点が生じる。少なくとも全知全能では無いし、時空と付くからには神と言っても何かしらの区別が成されている物と推測できる。


「神って一体……?」


「ただの隠居爺の娯楽遊戯じゃよ。では行ってこい、ここからは新たな人生じゃ」


 最後の基本スキルを獲得し、俺は意識を失った。

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