戦闘狂の迷宮攻略 〜早熟と模倣でお前のスキルは俺のもの〜

水色の山葵

72



「ここは私たちに任せてもらおうかしらね」


「じゃな。妾の魔術の実験台になってもらおうか」


「我が前に立つ者は腐り果てるであろう」


 オリビア、ティエル、ウィリアムは俺を先に行かせるために雑魚の処理を引き受けてもらった。そのせいで翔とは本気でやり合っちまったが、それも楽しかったから有りとしよう。


 アメリカもフランスも僕の戦力把握と一ノ瀬家の実情を知りたがっていたみたいだけど、どうやらそれを待っている暇はないみたいだ。
 幾つかの和室を抜けた奥。翔君を倒して先に進んだ所に会ったのは地下への入り口だった。


「って、早いわねミスターワン」


「ぜえ、ぜえ、妾たちもおるぞ。魔術師に走らせるとはなんたる拷問か」


「貴様は体力を鍛えた方がよいぞ」


「黙っておれ筋肉だるま。妾はお主のようになるのは死んでも御免じゃ」


 どうやらこの家の元々の兵士、要するに雑魚共と戦っていた三人も合流した。


「って、なんだこれ」


 地下への入り口に現れたのは紫色の煙だった。
 ああ、知ってるよこれ。面倒な奴だ。


「貴様らが侵入者か。全く兵士共は何をしておるのか」


 現れたのは蝙蝠の羽と羊の角を持った人間と似通った何か。それを俺は知っている。


 ああ間違いなくこれは、悪魔とかいう奴らだ。それが数十匹、部屋を埋め尽くす様に、更に部屋を囲むように出現した。


「ああ、面倒くさいわね。ちょっとだけ本気見せてあげようかしら」


 オリビアはそう言ってスキル名を口にした。


「ドラゴンフォーム」


 オリビアの身体が肥大化していく。大きく強靭に、羽と角を生やし爪が鋭利に伸び、牙が尖っていく。
 正しくその姿を形容するのであれば『ドラゴン』と、そう言う他無いだろう。
 そしてその大きさはこの屋敷を軽く超える。


 天井を突き破り、夜空が俺たちを覗く。その部屋を中心に屋敷が崩壊していく。敷居も、門も、玄関も全て関係なく、見境なく破壊していく。


 もう更地だよ。明日一般人の人見たらビックリするよ。


「仕方ない。また我らで時間を稼ぐか。貴様は先に行け。ここは我らで食い止めよう」


「まあ仕方あるまいて。妾は顎で使われるのは御免じゃがこれも任務じゃからの」


「お前らかっこいい感じに言ってるけど、ただの雑用だから。けど任せた!!」


 影分身+影空間移動。
 それは影でできた分身体を創り出し、その影分身と位置を入れ替える事の出来るスキルである。
 要するに影分身が一体でも抜けれれば俺も抜けれるってことだ。


「聞き捨てならん言葉が聞こえたのじゃが!」


「ぬう。言い返せんところが更に腹立たしい」


「あ、じゃあな!」


 オリビアのドラゴンフォームに乗じて影分身を走らせれば簡単に抜けられた。
 さっさと行こうか。
 入れ替えて、影分身たちを消す。地下への入り口は階段になっていてそれを駆け下りていく。


 かなり長い通路に出た。しゃらくせえ、こんなとこちまちま攻略してる暇ねえぞ。
 生命感知で寧を見つけ出す。そこに向かって、さあ行こうか。


「天照」


 それは全てを切り裂く一刀にして天剣流の奥義。
 寧までの道のりを切り裂き、そこにできた道を進んでいく。


「見つけたぞ、寧」


「徹君」


 そこに居たのは最初に見た時に着ていた巫女装束に身を包む寧だった。
 それと同時に知らねえ女と爺がいる。


 いや、それ雅花蓮さんだから。忘れないでね。


「で、テメェらは俺のパートナーに何してくれようとしてんだ?」


「誰だお主は?」


「世界一位。不明、樋口徹」


 そう雅花蓮が口を開く。


「ああ、君がそれか。噂は聞いている。しかし人の家に勝手に入ってくるのは感心しないな」


「そうかい。まあ、どうでもいいけどな」


 二本の短剣を取り出す。漆黒の短剣と白銀に輝く小太刀。
 それが俺を支えてきた最強の装備だ。


「なるほど。まあ、別に戦ってもよいのだがね。まあ、儂の所まで来れたらだがね」


 そう言うと爺いは腕を掲げた。そこに目立つのは中指にはめられた指輪だろう。青色っぽいの宝石が埋め込まれているようだが、見た事のあるどれとも合致しない。正体不明の石。
 そしてそれが強く輝き始めた。


 僕は鑑定を使う。へぇ、ソロモンの指輪ね。ならそれがあの悪魔を呼び出しているアイテムか。


「出でよ我が最強の悪魔」


 そこに現れれた悪魔の数は51体。ソロモンの悪魔の数は72体。一体は瓶詰め中。上で暴れてるのが20体くらいだった。
 要するに残り全部か。というかあのアイテムダンジョン産か? あのお爺さん攻略者なのだろうか。


「まあどうでもいいか。行くよ」
「ああ、準備オーケーだ」


「独り言かね? まあ、中々面白いんじゃないかね」


「三分だ」


「何の話だ?」


 千切り起動。まずは一体。


「なっ!!」


 剣術10、体術10、武術10、回避10、命中10、身体操作10、縦横無尽10、心眼10、魔力容量10。
 別にお前らが弱いとは言わないぜ。


 けど、僕らに勝てる理由にはならないってだけの話。


 天狐。
 空を蹴って進む、トルネードファング。回転しながら噛み千切る様にその皮膚にダメージを与えていく。
 その剣には無効化魔法とブレイブオーラ、そして覚えたてだが地獄属性ヘルエンチャントも付いている。
 さあ、俺の全霊を見せようか。


 寧の力。
 剛腕剛力、疾風迅雷、疾風怒濤、明鏡止水、鏡花水月。
 フルエンチャント。そして、


「ぶち抜くぜ!」


 天剣流奥義、天照!!!!


「それがここまでの通路を切り裂いた力か!!?」


 心眼を使えば視覚に頼る必要はなく、視覚に頼らないという事は他の全ての感覚が強化されるという事だ。
 魔力感知に生命感知、ついでに聴覚で、お前らの位置は手に取るようにわかるぜ。


『ギザマ、ワレは蠅の王にして魔王ナリ』


「きめぇ!」


 月剣流、三日月。
 四枚に下ろした巨大な蠅を後目に突き進む。
 超加速リミットアクセル先読みの魔眼フーチャービジョン起動。
 月剣流、明暗めいあん


 二刀の劔は攻撃と防御を司る。
 月剣流、朧。


 その身体は空気に溶け込むように消えていく。
 現れ、消えを繰り返す。


 そして俺が姿を見せる度に、悪魔が一体死んでいく。


「一気に行こうか!!」


 天剣流、天舞。
 回転しながら斬撃を放ち、その全ての威力は弱まるが天照を乗せる事によって一刀を廻す度に斬撃が敵へ飛んでいく。
 天剣流、天邪鬼。
 それはタイミングをずらす技。決まったタイミングのない不可視の刃にそれを防ぐ装甲がない悪魔は死滅するしかない。


 三重展開トリプルマジック雷炎竜巻ライトニングフレイム


 配置した三つの竜巻は悪魔どもを飲み込んでいく。
 火炎線レーザーそれを竜巻の中心に配置し寧と花蓮のいる方向以外に無作為に発射する。


 残り9体。


『聞こうか人間の勇者。我が名はバアル。貴様の名は?』


「悪いが時間が無いんでな!」


 シャドウドライブ+ダブルドライブ。
 超加速から一気に加速する。


『ほう、威勢が良いな小僧』


 地面が盛り上がる。蔓のような物が生えて来て俺を縛り付けるように絡まってくる。


『その蔦は魔力も効かず、物理的に振り払う事も出来ぬ』


「あっそ。じゃあその主導権貰うわ」


 他化自在天たけじざいてん、それは他者の能力を奪い自分の能力へと変化させるスキル。
 蔓は奴の手を離れ、俺の指示するようにバアル自信へと襲い掛かった。


『なんだと。しかしこの程度で我が!』


「おせえ!」


 トリプルウェーブスラッシュ+天照。
 空属性を込めた三つの斬撃がバアルへと襲い掛かる。中に入っているのはブレイブオーラだ。
 悪魔って位だ。効くんじゃないか?


『な! この光は!!』


 それが奴の最期の言葉になる。
 さあ、縛り付けろ蔓!


 俺が命令した通りにその蔓は他の悪魔どもを拘束し始める。


『だが惜しいのは本当の強者を知らぬ若さ』


「なんだって?」


 蔓を伸ばすがその悪魔は容易く避けて見せた。


『我には先が見えるのだ』


「あっそ。種明かしなんてしなくても知ってるよ。もうそれは見たからな」


 未来視の魔眼フューチャービジョン→ユニークスキル、未来演算ラプラス


 未来を読んだ蔓は途端に悪魔に絡みつく。


『何故だ! 我が魔眼にそんな未来は写っておらんぞ!』


「当たり前だ。俺の方が先を知ってるんだからな」


 すると次は音が流れ始める。ピアノ、フルート、ヴァイオリン、まるで楽団が間近にいるような。


『この音には対象を催眠に落としやすくなる効果がある』


『そして私は色欲の悪魔。貴方はこれに逆らえない』


 そんな声が聞こえた気がした。


 途端、目の前の景色が変わる。


「徹君……」
「マイマスター……」


 現れたのは二人の女。それも見知った顔だ。
 寧とウィン。ただ普段と違う場所がある。衣服だ。彼等二人は局部を手で隠してはいるが、その身体は何も纏っては居らず。
 綺麗な肌と発育の良い肉体に嫌でも僕らは目を引き付けられる。


 いや、引き付けられてんのはお前だけだけどな。


「徹さん、愛しています」
「ずっと楽しい事、したい」


 どう考えても幻覚だろ。
 まあ、解ってるんだけどさ。


 女に見とれてねえでさっさと出るぞ。
 とか言ってウィンには見とれてるくせに。
 うるっせえな。
 っていうか多分今の僕ら左右の目がどっちも独立して動いてて凄い事になってるよ。
 うわ気持ち悪すぎだろ!


「ずっと私と一緒に居てください徹さん! 私なんでもしますから」
「マイマスターは私を一人にしませんよね? もう一人はいやです。寂しいんです。マスターにならこの下見せてもいいんですよ?」


「残念」


 それは不正解だ。
 寧さんは、そんな事は言わない。彼女は自分が隣に立てるようにとか言って頑張っちゃう人だから。
 ウィンは、そんな事は言わねえ。あいつはずっと一人でダンジョンを管理し、俺を主と言いながら俺を高めようとするような奴だから。


 マナコントロール+千切り=領域分解ワールドブレイク


『こんなにも早く抜けられるはずが!!』


「自分の能力で沈んじまえ」


 マインドミュージック
 ラストバインド
 人型の悪魔とライオンのような見た目の悪魔は深い眠りに落ちた。


『ではお次は私の番ですかな?』


「いや、もうお前ら飽きたわ」


 属性合成ザ・ワン
 勇者の証、地獄属性、空属性、神聖属性、無効化魔法、光属性、闇属性、元素魔法、魔力増強、魔闘。
 状態変化モード混沌カオス


「その一撃は大地を砕き、その一閃は空を割る」


 始めようか、王殺だ。


 その状態の特徴は一つだけ。俺の周りに漂う今まで見たどんな黒よりもどす黒い黒色。
 その状態でできる事も同じく一つだけ。
 触れた者の命を奪う。即死の接触キルタッチ


 さあ、地獄行きの鬼ごっこだ。ただし鬼はずっと俺だけどな。


 疾風迅雷。今の俺の速度についてこれるような相手はこの場に存在しない。
 1、2、3とどんどん悪魔が消えていく。


 どう見ても君の方が悪魔だけどね。
 うっせえな。知っとるわ。



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